JRPGの王道ここにあり!コンシューマ級の遊び応えと練り込まれたプレイアビリティを誇る長編大作『アスクギア』
コンシューマRPGのメインストリームがフル3Dのアクション型に寄っていく中、個人制作のRPGでは2Dのコマンド型が現在でも大きな存在感を示している。独自のシステムや2Dならではのグラフィック表現に凝った作品、制作期間をかけた長編作品なども生まれ続けているジャンルだ。
今回紹介する同人RPG『アスクギア』もそうした作品のひとつ。システムの完成度やフィールドマップの作り込み、漫画家のスバルイチ氏が手がけるキャラクターグラフィック、クリアまで想定プレイ時間30~40時間というボリュームなど、総じてプレイステーション1~2時代のコンシューマRPGに匹敵する作品に仕上がっている。
その一方で、プレイが冗長にならないようテンポやユーザビリティは現代的に整えられており、長編RPGとして中だるみせず最後まで熱中してプレイすることが可能。本記事ではそうしたプレイフィールを支える要素を中心に紹介していきたい。
ボーイ・ミーツ・ガールから始まり世界の真実へと至る“ド直球RPG”
本作の舞台は、扱う者に智慧と力を与えるという先史文明期のデバイス「アスクギア」の恩恵によって発展を遂げている国エリルミア。物語はある目的のためエリルミアを旅する少年ユアと、彼に「先生」と呼ばれる女性メモリアが、ある遺跡の最深部で眠っていた少女ミイナと出逢うことから始まる。
彼女のもつ不思議な力により、本来は先天的にアスクギアを扱うことができなかったユアがアスクギアの使い手「交信者」として覚醒。そしてこの出逢いをきっかけにユア達はミイナを狙う組織との戦いに身を投じることになり、やがてアスクギアやエリルミアそのものの謎へと迫っていく。
ボーイ・ミーツ・ガールから始まりスケールを増していくシナリオ、ファンタジーをベースとしつつSF的な要素も端々から覗く世界観、数々の出逢いと徐々に増えていく仲間達……などなど、いわゆるJRPGにおける王道を感じさせる内容だ。制作コンセプトとして“ド直球RPG”が掲げられており、物語もバトルもストレートに熱い展開が繰り広げられる。
“シチュエーションの多様化”により最後まで飽きさせないバトル
長編作品というのは、ある意味「飽き」との戦いである。RPGでプレイ時間の多くを占める戦闘においては新しいシステムの解放や、キャラクターやスキルといった要素の追加で変化を出していくというアプローチもあるが、数十時間級のゲームでシステムや要素を延々と増やしていくと、プレイヤーが処理できるキャパシティを越えてしまいかねない。
そこを絶妙にバランス取りしつつ多くの要素を使いこなす楽しみを追究した名作もあるが、本作はプレイヤーキャラクターが最大6人で各キャラクターが戦闘時に使うスキルの数もそれぞれ一桁程度と、プレイヤーが扱う戦闘の要素自体は比較的シンプル。その上で、敵が持つユニークな特殊能力の数々により、多様な戦闘シチュエーションを生み出すというアプローチを取っているのが大きな特徴だ。
ある特殊能力を持つ敵と最初に遭遇した際には解説が表示され、以後も戦闘中に解説を参照することが可能。本作独特の特殊能力も多いが、じっくり内容を把握しながら戦っていくことができる。戦闘時に操作するメンバーは3人で、パーティが4人以上の場合は控えと交代しながら戦う仕組み。物理アタッカーに魔力アタッカー、デバッファー、盾役といった役割が明確なメンバーの連携でさまざまな状況を切り抜けていく。
もちろん独自のシステムも充実。基本は敵味方が入り交じって順次行動するCTB方式だが、特徴的なのは攻撃における属性の扱いだ。攻撃スキルには炎・水・風の属性が設定されており、敵には弱点や耐性が設定されている。ここまではオーソドックスだが、「なら弱点属性で集中攻撃すればいいじゃん」とはならない仕掛けが用意されている。それが「EAの蓄積と解放」だ。
属性攻撃を仕掛けると、与えたダメージの半分に相当する量の「EA」という値が敵に蓄積される。そして3属性のEAが溜まったあとにさらに属性攻撃を仕掛けると「EA解放」となり、蓄積したEA分のダメージが上乗せされる仕組み。EAが通常より多く溜まるスキルや特殊能力によりEAの溜まりやすさが通常と違う敵、EA解放を行うことで状態変化を起こす敵なども居て、本作の戦術の要となっている。属性は基本的にキャラクターと対応しているため、パーティ編成の戦略もポイントだ。
もう一つ特徴的なシステムが「アクセラレイト」。戦闘中、攻撃を行うことで減少していく「FP」という値が0になると発動待機状態となり、この状態で攻撃を行うと自動で発動する。発動中は発動したキャラクターの攻撃力が上昇するほか、あらかじめセットした複数の効果が発生する。この効果はダンジョン等で入手できる「ネコバッジ」によりカスタマイズでき、強力な効果ほどFPの初期値が増加してアクセラレイトは起こしにくくなるという仕組み。とはいえFPの初期値に応じて上昇する攻撃力も増えるため、発動しやすくするか、強力な効果を得るかといったカスタマイズも練り甲斐がある。
さらにアクセラレイト発動中に1回だけ、任意のタイミングで敵の行動に割り込む「ディレクト」を使用可能。行動する直前の敵に割り込みをかけて攻撃すると行動を1回分遅らせることができ、さらにそこで追い打ちをかけるとクリティカルとなりダメージが増加と、使いこなせば非常に強力なシステムだ。
こうしたシステムを駆使して、ユニークな強敵の数々と戦っていくのが本作の醍醐味。ポイントはEA解放、アクセラレイトともに意識せずとも自動で発動することで、ガチガチに戦術を詰めなくても自然と大ダメージを出せたりチャンスがやってきたりと戦闘状況に緩急がつく。その上で、タイミングを調整したりディレクトを活用したりと自分なりの立ち回りを考えるのも面白い。スキルも数が多くないぶん一つ一つが特徴的でスキル同士のシナジーなどもあり、間口は広く、突き詰めると奥深いバトルであると言えるだろう。
“RPG哲学”を感じる練り込まれたプレイアビリティ
長編RPGのプレイにおいて、煩雑になりがちなルーチンワークを極力廃しているのも本作の特徴だ。例えば回復などの消費アイテムについて基本的なものはアイテム支給制を採用しており、街などの支給スポットで残り個数に関わらず決まった数まで補充できる。細々としたアイテムの残数に気を遣う必要がなく、また支給数はそれほど多くないためダンジョンではリソース管理の戦略が生まれてくる。
ダンジョンでのエンカウントの仕組みも独特だ。本作はシンボルエンカウント方式で、ザコ敵のシンボルが停止し接触判定がなくなる「エンカウントキャンセル」を一定時間発動可能。その一方でもし敵シンボルと接触し戦闘が始まった場合は基本的に逃走は不可能となっている。
逃走不可能というと一見ストレスフルに感じるかもしれないが、エンカウントを避ける手段が十分に用意された上であれば「捕まった時くらいは戦うか」と納得もいくというもの。世の中にはRPGでザコ戦をとことん避けて進むことに喜びを見出す人種が居るが(筆者もその一人である)、そんな人でも敵に捕まった時は戦っていくことで、ほどほどにレベルも上がっていく、といった具合だ。
さらに、ダンジョンにはシンボルの色と大きさでザコ敵とは区別される賞金首的なモンスターが居て、倒すと支給アイテムのグレードアップなどに使える「アルターパーツ」を入手できる。エンカウントシンボルの色と形で通常の敵とは区別されており、避けやすいザコと、積極的に戦うことにメリットがある強敵を織り交ぜることで、ダンジョン探索においてもプレイの緩急が意識されている印象だ。
ほかにも、経験値やレベルは個別に存在せずパーティで一元化など、ちょっと珍しいがよく考えると確かに合理的と感じる仕様が散りばめられている。もちろん本作が採用した仕様が唯一の正解ではないが、確実に言えるのはコンセプトレベルから細部まで、「何となく」「慣習だから」で実装されていると感じる要素が全くないということだ。RPGのさまざまな要素を分析し、「自分ならこう作る」というRPG哲学のようなものが感じられる。
ボリュームと密度の両面で完成度の高い大作
ここまでシステム面を中心に紹介してきたが、キャラクターやシナリオも大きな見どころ。懐の広い風流人でありつつ指揮官としての強かさも併せ持つ姫騎士エスティアなど、立ち位置も抱える想いも異なる6人のキャラクター達がある重大局面に向けて集結していく展開が胸を打つ。数々の謎と伏線が集束して迎えるクライマックスも圧巻だ。戦闘時のSDキャラによるアニメーション、掛け声や勝利台詞といったボイスなど演出面も凝っており、ボリュームと密度の両面で完成度の高い作品となっている。
JRPGの名作の数々が生み出されたプレステ初期の長編作品に匹敵する遊び応えと、現代の作品らしい遊びやすさを兼ね備えた『アスクギア』。RPGが好きな人、とくに大作をじっくりプレイしたいという方に心からお勧めしたい作品だ。
[基本情報]
タイトル:アスクギア
制作者:稲穂スタジオ
クリア時間:30~40時間ほど(公称)
対応OS:Windows
価格:ダウンロード販売 2,484円など(無料体験版あり)
『アスクギア』作品公式サイト
http://www.inahostudio.x0.com/askgear/