第9回ウディコンで発見!独自システムが光るフリゲ短編RPG2選『アンダーグラウンドヒーロー』『S-Witch♭』
毎年7月から8月にかけて開催されている、ゲーム制作ツール「WOLF RPGエディター」で制作されたフリーゲームのコンテスト「WOLF RPGエディターコンテスト(通称ウディコン)」。第9回目を迎えた今年も60作品を超える力作が集まった。毎回“RPGエディター”というツール名にとらわれない多彩なジャンルの作品が投稿されるイベントだが、今年もバラエティに富んだ作品が集結。もちろんRPGも多数投稿されており、独自の世界観に凝った作品やシステムを完全自作した作品など、作品ごとにさまざまな見どころが用意されている。
プレイヤーの趣味嗜好によって推し作品が大きく変わってくるのも醍醐味と言えるウディコン。そこで本稿ではシステム重視派かつバトルマニアを自認するRPGファンの筆者が、とくにハマった独自システム搭載の短編RPGを2作品ご紹介する。いずれも戦闘はコマンド選択型で、じっくり考えながら落ち着いてプレイできる作品。「フリゲRPGといえばやっぱり凝った戦闘システム!」という方はぜひ参考にしていただければ幸いだ。
多様な戦術要素のシナジーがアツい!『アンダーグラウンドヒーロー』
全4層からなる階層世界「アンダーヘイブン」の最上層へと向かい、かつての世界を滅ぼした存在「エル」を倒すのが目的のRPG。各階層はいくつかのエリアに分かれており、最後にはボスが待ち構えている。
地形や敵の傾向が異なるさまざまなエリアを踏破していく
戦闘はシンボルエンカウントのCTB方式で、状態異常の扱いを得意とする主人公、魔法アタッカーのドロシー、盾役のギルバート、物理アタッカーのミラという主な役割が明確な4人のパーティで戦う。各キャラクターはレベルアップで入手できる「GP」を消費し、キャラクターごとに用意された個性的なアクティブ・パッシブスキルを選んで習得していくことが可能。習得可能なスキルは最初からすべて確認することができ、自由度の高いキャラクター育成を行える。
「GP」を消費してスキルを習得。キャラクターの個性を引き出すようなスキルが用意されている
戦闘システムでユニークな点は、クリティカルはランダムで発生するが、攻撃後に判定されるのではなく「今攻撃すればクリティカルになる」というのが事前にわかること。クリティカルでは状態異常付与の成功率も上昇するほか、クリティカルで追加効果が発揮されるスキルなどもあり、チャンスを活かす戦術判断を楽しめる。また、敵の次の攻撃がクリティカルになる場合も事前にわかるので、危険予知という意味合いもある。
キャラクターの下にある「CRT」アイコンが点灯した際に攻撃するとクリティカルが発生。クリティカルで追加効果が発揮されるアクティブスキルや、クリティカルを条件に発動するパッシブスキルも用意されている
装備品の仕様もユニークで、装備品ごとに異なる最大4つのパラメーターが基本値からの割合で変動する。性能も「攻撃力と防御力が上がるが状態異常への耐性が下がる」などトレードオフが発生するものばかりで、後から手に入る装備品が一方的に強いということは全くない。状況や戦闘スタイルに応じた装備を模索していくのが悩ましくも楽しい作りとなっている。
装備品によるパラメーターの変化は割合ベースとなっている。どれもメリットとデメリットがあり“無難に強い”ものは存在しない
こうした要素により、装備品とアクティブスキル、パッシブスキルのシナジーを考えつつ戦略を立てていくのがバトルの醍醐味だ。主人公が敵に状態異常を付与し、状態異常になっている敵へのダメージが増加するパッシブスキルを備えたミラが攻撃、といったキャラクター間の連携も戦術の要となる。各階層には倒すのが必須ではないエキストラボスも存在しており、白熱のバトルを存分に堪能することができる。
さまざまな条件で発動する多彩なパッシブスキルでバトルを有利に進めていくのも醍醐味
ほかにも通常の防御力と防御した際のダメージ軽減率のパラメーターが別に存在したりと、なかなかに凝ったシステムが特徴。そのぶん要素が多く少々とっつきにくい印象も否めないが、筆者がプレイした感触としては最初はひとまず細かい点は気にしなくても問題ない。戦闘画面やメニュー画面ではその場に応じたヘルプを実際の画面に重ねて表示できるといった配慮もあるため、プレイしながら少しずつ把握していくとよいだろう。
状況に応じたヘルプを実際の画面に重ねて表示できる。コンフィグなども充実しておりユーザビリティは良好
ストーリーは時折挟まれる回想シーンが印象的。それ以外のシナリオ要素は最小限だが、多くを語らずとも主人公の想いが徐々に明らかになっていき、ラストに向けて過去と現在が収束していく展開が秀逸だ。とくにラスボス戦のとある演出は圧巻で、少しでも多くのRPG好きにここまで到達して、物語とシステムメッセージが交わって魂を揺さぶる瞬間を体験してほしいと感じさせられた。
世界を滅ぼした災厄を倒しに行く道程――その合間に挟まれる、誰かと誰かが交わした約束の記憶
なお、作者による作品紹介では「リソース管理が重要」と謳われているが、実際のところは「通過したエリアに戻ることはできず、倒した敵が復活しない」仕様のため無限にザコを狩ってリソース稼ぎができない、という程度の縛りであって、ローグライクのようなガチガチのリソース管理が必要になることはまずない。難易度も複数用意されているので、気軽にプレイしてみてほしい。
【基本情報】
タイトル:『アンダーグラウンドヒーロー』
制作者:霜月六 氏
クリア時間:3時間前後
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから(第9回ウディコン エントリー番号63番)
http://www.silversecond.com/WolfRPGEditor/Contest/result09.shtml#63
魔術師二人組の連携バトルを独自システムで表現した『S-Witch♭』
突如魔物に襲われた街を舞台に、二人組の魔術師メグとレティの活躍を描くRPG。点と線で抽象化されたマップの各地でさまざまなイベントが発生し、ときには選択を行いながらストーリーが進行していく。
街の各所でイベントが発生。目的地を定めて進行していく
戦闘はマップ上で敵が居る場所へ移動すると発生。敵・味方が一斉に行動し、すべての行動には選択から発動までの行動時間が設定されている。行動時間はカウントダウン表示され、カウントが0になったキャラクターから行動する仕組みだ。
魔術も武具も扱える二人が前衛と後衛に分かれて戦うのが特徴で、後衛は魔術で攻撃を行い、前衛は後衛を守りつつ剣での攻撃など物理的なスキルで戦う。システム的には「敵は前衛だけを攻撃してくる」「前衛は攻撃対象を任意に選べず、次に攻撃してくる敵を自動的に狙う」という形で表現される。前衛、後衛は戦闘中に交代することが可能で、交代しながら強力な攻撃を行う連携技も、条件を満たすことで発動できる。
後衛も攻撃の要として重要だが、敵の攻撃を一手に引き受ける前衛は、よりテクニカルな立ち回りが要求されるのが本作最大のポイント。前衛のスキルには攻撃力のほかに「耐久力」「回避力」という値が設定されている。敵から攻撃を受けた際、その威力から選択中のスキルの耐久力を引いたものがダメージとなり、耐久力が威力を上回ればノーダメージで凌ぐことも可能。また、回避力が敵の攻撃に設定された「機動力」を上回れば攻撃回避となり、この場合もノーダメージでやり過ごせる。
敵の次の攻撃は、行動時間に加えて威力や機動力も開示されている。耐久力や回避力に重きを置いたスキルも用意されており、うまくタイミングを合わせることで完全防御や完全回避も可能というわけだ。行動時間が短いスキルで敵の隙を突きやすいメグ、威力と耐久力を兼ね備えたスキルで守りながら攻められるレティと、二人の戦闘スタイルの違いもポイント。交代も駆使しながら戦っていくという魔術師二人組の連携バトルをシステムで体感できるのが醍醐味だ。
前衛と後衛の連携がバトルの要。後衛だけが行える攻撃対象の指定なども駆使して戦術を組み立てていく
また本作には時刻の概念があり、移動やイベントで時間経過するほか戦闘後には残ったダメージに応じて休息に時間がかかる。街の状況は時間経過によっても変化していくため、より効率よく敵を倒すことが重要になる場面もあるだろう。発生したイベントやプレイヤーの選択により物語は変化し、マルチエンディングとなっている。1周自体は短めなので、「あの時こうしていたら」というifの追求も楽しめる作品だ。
時間経過やプレイヤーの行動によって展開が変化。重要な選択を迫られる場面も……
【基本情報】
タイトル:『S-Witch♭』
制作者:えるせ 氏
クリア時間:1時間
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから(第9回ウディコン エントリー番号17番)
http://www.silversecond.com/WolfRPGEditor/Contest/result09.shtml#17