ファンタジーフリゲRPG『星の王女さま』色鮮やかな星々を巡る、少女達の出会いと別れの物語

RPG,フリーゲーム

今回紹介するフリーゲームは、製作期間4年がかりの大作RPG『星の王女さま』です。制作者はhaco氏で、全編に渡る絵画のように美しい背景アートと、絵本風の世界観と物語が特徴です。本作では王女と呼ばれる少女達が星を渡る冒険を繰り広げますが、実は可愛らしい見た目に反して、戦闘や育成にも力を入れた骨太のRPGでもあります。

筆者はしばらく前からこの作品の完成を待ち望んでいて、デモ版の頃からゲームに触れさせて頂きました。そして今秋にリリースされた本編は、想像以上の魅力が詰まった作品でした。今回も作品の魅力を余すことなく紹介したいと思いますのでお付き合いください。

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サツキとマリナが旅する幻想的な世界

普通の女子高生「サツキ」は、不思議な夢で怪物ナイトメアに襲われたところを「マリナ」と名乗る少女に助けられます。マリナに着いていったサツキは、この世界が現世で亡くなった魂が辿り着く場所であり、サツキは大きな手術をしたことがきっかけで迷い込んでしまったことを知ります。

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ナイトメアの難を逃れたサツキだが、自分が死後の世界に来てしまった事を知る。

この世界には様々な王女の住む星が存在し、マリナもお菓子の星を統治する“星の王女”のひとりでした。その中の頂点に君臨する“月の女王”は特別な存在でしたが、新しい月の女王がその座に着くと、気に入らない王女達の星を奪い始めました。その暴虐非道ぶりを垣間知ったマリナは、星々を巡って王女の力を集め、月の女王へ挑もうとしていました。

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マリナが語る月の女王の歴史。彼女を止めるべく戦いを決意する。

不安な気持ちを払拭するため、サツキはマリナの旅に同行することを決意。ふたりの冒険が始まろうとしていました。

『星の王女さま』では詩的・哲学的なテキストで幻想的な世界観を表現し、ファンタジーとしての完成度を高めています。物語もドラマチックで、失われてしまったものや残された人々が抱える思いをプレイヤーに問いかけてきます。

本作は星々を旅するごとに多くの人々と出会います。途中でサツキ達に同行する他の星の王女達やマリナの協力してくれる人達など、個性豊かなメンツが冒険に華を添えてくれます。少女達のやりとりはコミカルなものも多くてプレイヤーを飽きさせません。

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色気の星の王女であるジャスミン。友人であるマリナを止めるために立ち塞がる。

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四季の星の王女のカグヤ。かつては先代の月の女王に仕えていた。

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パロディも盛りだくさん。中にはかなりきわどいネタも……。

一方、サツキは旅の中でこの世界の厳しさを目の当たりにします。月の女王との戦いで命を奪われた人々がいることや、寿命のないこの世界で心の闇に囚われたものはナイトメアと呼ばれる怪物へと変化してしまうこと。時に別れもあり、彼女達を多くの試練が待ち受けます。果たしてマリナが月の女王に勝てるのか、その運命はプレイヤーに委ねられているのです。

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ナイトメアになりたくない人々を宙へ送り届けるのも王女の役目。

緻密で美しいアートワークと遊びやすさを意識したゲームデザイン

本作の大きな見所は、作り込まれたアートワークにあります。手描きの背景イラストから始まり、イベント中の一枚絵、画面を動き回るドットで描かれたキャラクターやモンスター、派手な戦闘エフェクト、メニューなどのユーザーインターフェイスに至るまで、世界観を緻密に再現してあります。

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世界観を表現したアートワーク。色彩豊かで、見ているだけで楽しい。

ただ綺麗なだけでなく、イメージがしっかりと統一され、プレイを阻害しないよう快適性も保たれているのが本作の強み。そのおかげでプレイヤーを物語へ没入させてくれます。

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セーブ画面にはあらすじがサツキの日記風に書かれている。

また、本作のダンジョンマップは特殊な作りで、線で繋がれたエリアを移動しながら戦闘やアイテムの入手を繰り返していきます。戦闘を回避することも出来、プレイヤーのペースでゲームを進められます。

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ダンジョンには様々なものが存在する。困ったら一瞬で帰還も出来る。

可愛さと奥深さを兼ね備えたド派手なバトルシーン

本作の戦闘はターン制サイドビューバトル。可愛らしく動くキャラクター達に反し、戦闘はカスタマイズ性が高く、多くの戦術を駆使できるのが特徴です。彼女たちの主な攻撃手段は、武器での攻撃と「エーテル」による魔法、そして強力な大技を繰り出す「オーバードライブ」。それぞれの特性を活かすと、派手で奥深いバトルを繰り広げることが出来ます。

本作の戦闘では、オンラインRPGではおなじみの“ヘイト”の概念があります。ヘイトとは敵から攻撃される対象の優先度合いを決める要素で、回復などの行動をとると敵から狙われやすくなります。

そのためキャラクターごとの役割が非常に重要で、ヘイトを稼いでダメージを引き受ける壁役や味方を回復する役を決めて立ち回るのが戦いの鍵となります。例えばマリナは防御力が高く壁役に向いており、ジャスミンは魔法よりも武器攻撃が強いなど、ひとりひとりに得意不得意があります。彼女たちの装備品やスキルを考えて付けていくことで、強敵との戦いでも頼れる仲間へと成長を遂げてくれます。

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一見難しそうなヘイトの概念も、ヘイトリングとして視覚化されているおかげで直感的に分かる。

育成においてスキルの存在は非常に重要。敵の攻撃に反撃する「カウンター」や、先制行動しやすくなる「さきがけ」などがあり、戦闘中に様々な効果をもたらしてくれます。スキルは付け替えが出来、状況に合わせて使い分けることも出来ます。

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スキルを取るたびにステータスも伸びていく。どう育てるかはプレイヤーの自由。

そして戦闘を更に盛り上げてくれるのが、強力無比な「オーバードライブ」です。行動するごとに溜めるオーバードライブゲージが最大になった時に使うことが出来、大ダメージを与える技や戦況を一変させる支援効果をもたらす技が発動します。

このオーバードライブには発動するチャンスがもうひとつあります。戦闘画面左上に表示されている大きな星型のゲージが満タンになるタイミングで行動すると、オーバードライブを自動で使う「シェアドライブ」が発動します。これは味方だけでなく敵側に機会を奪われることもあり、長期戦ほど戦いに緊張感が生まれます。相手の“先”を獲り合う読み合いも、本作の戦闘の醍醐味でもあります。

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カットインとともに発動する「シェアドライブ」。ピンチとチャンスが表裏一体なのが面白い。

他にも属性魔法を繰り出すたびに威力が強化される「フィールドエレメント」や、敵を行動不能にして一方的に行動できる「崩し」と「ブレイク」など、戦術性の高い要素が満載。育成次第では物理攻撃によるゴリ押しなども可能で、戦闘が難しいと思った人には戦闘難易度の変更も可能です。より強い敵と戦いたい人には、寄り道要素として討伐依頼やユニークモンスターとの戦いも用意されています。

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討伐依頼を果たせば報酬ももらえる。冒険の合間に挑んでみよう。

高い戦術性だけでなく、プレイヤーに合わせた遊び方を推奨してくれるのが『星の王女さま』の戦闘です。覚えることは少し多めですがじっくり挑めますので、自分だけのプレイスタイルを探してみるのが良いと思います。

創作の強い熱意がもたらすもの

『星の王女さま』はその見た目に目を奪われがちですが、現代のRPGのエッセンスを吟味し、丁寧さと大胆さを両立させている優れた作品です。試行錯誤しながら戦い、サツキやマリナとともに泣き笑いながらその旅路の果てに辿り着く頃には、ゲームをプレイすることでしか味わえない“思い出”が残ると思います。

フリーゲームとして配信されるソフトを追っていると、時折「個人で作る」範疇を遥かに超える作品と出会うことがあります。もぐらゲームスで今まで紹介した作品群もそうですが、制作者が作品に込めた思いの熱量が画面越しに伝わってくる事があります。こういった作品がより多くのプレイヤーを楽しませ、新たな快作を生むきっかけになっていっていけばと願っています。

タイトル 『星の王女さま』
制作者 haco(制作者様サイトはこちら)
対応OS Windows XP/Vista/7/8/10
プレイ時間 10~15時間程
価格 無料 ダウンロードはこちらから

https://www.freem.ne.jp/win/game/15944

  • ノンジャンル人生(@nongenre_zinsei

    普段からRPGの考察と『メイジの転生録』の話ばかりしている人です。2016年にはもぐらゲームスにて連載「フリーゲームをはじめよう。」を寄稿し、近年はVR・VTuberの記事なども執筆しました。noteでは「一期崎火雀」名義でゲーム関連のコラムを書いています。

    自身もRPGを制作中。

    note:一期崎火雀(ノンジャンル人生)