反射だけで戦い抜け。アクションゲームな戦闘システムが魅力の短編RPG『L/Right Reflection』
「反射」―光、電波などの波動が物に当たって跳ね返ることである。
ファンタジー、SFを題材にしたアニメ、ゲームなどの娯楽作品では英語表記の「リフレクト」、あるいは「リフレクター」なる名称を付けられ、相手の攻撃を受け止めて跳ね返す反撃技とされる傾向がある。
その特徴の通り、反射は相手の攻撃があって初めて成立する。
攻撃がなければ、ただのシールドでしかない。
中には攻撃判定を含んだ稀な例もあったりするが……それはさておき。
では、そんな反射以外の攻撃が全く使えないとしたら?
それしかない状態で敵と戦わなくてはいけないとしたら?
そんな”もしも”を具現化させたゲームが『L/Right Reflection』(ライトリフレクション)だ。
本作は以前、「制作途中フリーゲーム3選(2022年3月号)」にてピックアップしたタイトルのひとつ。2023年4月28日に完成版が「Steam」で公開された。価格は無料。5月13日からはフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」でも公開されている。
攻撃魔術が使えない少女は、反射の魔術で魔女の討伐を目指す
ジャンルとしてはロールプレイングゲーム(RPG)。主人公ルミスを操作し、本編の舞台となる「ラクシュの森」のマップを探索し、戦闘を主体とするイベントを攻略しながらストーリーを進めていくという内容である。
最終的な目標は魔女を倒し、その血液を手に入れること。
本作の主人公ルミスは非凡の才を持つ魔術師の少女。しかし彼女は、ある事件を機に攻撃魔術が使えない身になってしまった。
そんなある日、一緒に暮らす母親の頼みを受け、ルミスは外出するのだが、その隙を狙うように自宅に魔物が現れ、母親が襲われてしまう。
ルミスは唯一の特技である「反射」の魔術で魔物を退けるも、母親は深手を負い、傷は治せても体内に回った毒は除去できず、窮地に陥る。
そんな中、ルミスはどんな毒でも治す力がある「魔女の血液」のことを思い出し、「ラクシュの森」に棲む魔女の討伐に挑む……というのがオープニングのあらましとなる。
だが、件の魔女こと、火炎魔術と大剣による剣術の使い手でもある「アイファ」はかなりの強敵。反射と回復の魔術しか使えないルミスではとても太刀打ちできる相手ではない。そのため、森を探索しつつ、行動範囲を広げながら己の強化を図り、ゆくゆくはアイファとの真剣勝負に挑む……という目標を胸に進めていく感じだ。
そして、探索の過程では魔物との戦闘もランダムで発生する。ただ、前述の通りルミスは攻撃魔術が使えない。よって、魔物に対しては反射の魔術で繰り出してくる攻撃を跳ね返し、ダメージを与えていく形となる。
この見た目はRPG定番のコマンド選択型のようで、主人公の設定の都合により敵側のターンしか存在しないという戦闘システムが本作最大の特徴となっている。システムを詳しく掘り下げると、用意された4つのコマンドのうち、戦闘から離脱する「逃走」以外の3つを選ぶと、すぐさま敵のターン(という名の攻撃)が開始。
それと同時に画面中央に「マーカー」と称された領域が表示され、左側より敵の攻撃が魔法陣のような「スキルカーソル」として飛んでくる。この「スキルカーソル」がマーカーの上に重なった瞬間、ボタンを押すと反射魔術が発動。敵への反撃を行う。逆にボタンを押すのが遅れたり、早すぎると反撃失敗で、ルミスが大ダメージを受ける。また、ボタンを押すのがマーカーから多少ズレてもルミスがダメージを受けてしまう。一応、失敗時ほどの大ダメージにはならず、敵にも反撃を与えられるが、成功時に比べるとデメリットは大きめ。
このようにタイミングを見計らう操作が試される、リズムゲーム風の戦闘システムとなっている。それを物語るかのように、「スキルカーソル」にも異なる種類を用意。「打撃」「斬撃」「魔法攻撃」の3つがあり、それぞれ対応したキー(ボタン)を押さなければ反撃が成功しないようになっている。
これらはゲームの進展に合わせて段階的に解禁。最終的には3つすべてが入り混じる攻撃の反射が求められるようになる。また、コマンドでも基本となる「戦う」以外、「魔術」を選ぶと補助魔術を使ってから、「防御」を選ぶと敵の攻撃すべてを無効化させるバリアを展開してから敵のターンが始まるという違いがある。
これが何を意味するかは「MP」が回復するか否か。補助系の魔術を使う時にはMPを消費するのだが、それを回復するための消費型アイテムは本作には一切存在しない。回復にはマップ上に配置された「魔術師の庵」を調べる、あるいは「戦う」を選んで敵のターンを乗り越えるしかないのだ(実際は他にもあるのだが、割愛する)。
そのため、MPを極力保ちたいなら「戦う」コマンドを選んで真っ向から反射に挑まなければならない。「防御」も敵の攻撃すべてを無効化させる一方、反射は一切できないという制約がある。ダメージを与えて倒すなら、「戦う」か「魔術」のいずれかを選ぶしかないのである。
そのような特徴的な要素と制約もあり、テクニック無くして勝利はあらずと強く意味付けている。他にルミスのレベルは前述の「魔術師の庵」で戦闘時に手に入る「神受石の欠片」を用いて上げるのだが、上昇するのは体力(HP)と魔力(MP)だけ。防御力は対象外以前に概念そのものがない。防具などの装備品も言わずもがなだ。
マップの探索、イベントの進展に応じて進むといった部分はRPGの定番を踏襲している。逆に戦闘システムは独自性重視で、各種仕様の関係もあってリズムゲーム、もしくはアクションゲームそのもの。成長要素も最小限にするなど、プレイヤーの反射技術という名の瞬発力と判断力が問われる、奇抜な遊び心地と手ごわさを持った作品に完成されている。
カギとなるのは”反射”神経。まさにアクションゲーム
本作の魅力は、ここまで紹介してきた戦闘システムに集約される。
率直に言って、本作はこの存在もあって、半ばアクションゲームとなっている。一連の仕様はリズムゲームを思わせるが、実際に遊ぶと、むしろアクションゲームの印象が強い。楽曲のリズムに合わせる必要がないのは言うまでもなく、失敗時の反動がワリとデカい。全部の攻撃の反射に失敗すれば、1ターンでゲームオーバーになることすらあり得るのだ。
また、「スキルカーソル」の飛んでくるパターンも豊富。直線状に留まらず、円を描いてきたり、フェイントを仕掛けてきたり、時にはまるでマシンガンのごとく連射してくることもある。
どんなパターンであれ、やることはマーカーに重なる瞬間を狙ってキー(ボタン)を押すことなのだが、いざ挑んでみるとこれがまた一筋縄ではいかない。とりわけ、初めて見るパターンに遭遇した時は、どう飛んでくるのかが全然分からないので、大抵反射に失敗し、酷いとゲームオーバーになってしまうこともある。
これに加え、本作はレベルアップによる強化ができるのは体力と魔力だけ。どんなにレベルを上げようともルミスが打たれ強くなることはない。
つまるところ、反射失敗時に受けるダメージは本編序盤から終盤まで共通なのだ。唯一、変わるのは防御力を強化させるといった補助系の魔術が加わるかぐらい。
こうした仕様もあって、アクションゲーム色が濃い。RPGなのに敵の攻撃パターンを読む、タイミングを見計らうなど、随所でアクションゲームの手法が試されては、その攻略に一喜一憂するという尖ったシステムに完成されているのだ。
この種の相手の攻撃パターンを読んで対処する類のRPGは、一般的に著名な例がいくつか存在する。だが、本作は成長要素周りを制限したことにより、かなりのアクションゲーム感が出ている。色んな軌跡を描いては飛んでくる「スキルカーソル」のパターンもそれを物語っていて、最もパターンが複雑化する中盤終わり以降になれば、嫌でもアクションゲームを遊んでいるかのような気持ちになるだろう。
相応に難易度も高く、中盤終わりから終盤は相当なリトライを繰り返すことが避けられない。ただ、初見殺しによる敗北を確実に回避できるという特筆すべき見所がある。それが「防御」だ。前述にて紹介したが、このコマンドを選べば敵の攻撃を完全に防ぐことができる。しかし、反射はできないため、1ターンを消費することになる。
逆に言えば、これで「スキルカーソル」のパターンを安全に確かめられる。また、「防御」コマンドには野球で言うところの「敬遠」の役割もある。
つまり、苦手な攻撃が来る時は「防御」で見送る手も使えるのだ。このため、本作で「初見殺しだ!」と感じることがあったら、それはプレイヤーの判断ミスということである。「防御」を使えば、パターンが分かるからだ。それなのに一発勝負に出て、ゲームオーバーになって「ムキーッ!」となる。もはやそれが何を意味するのかは書くまでもない。
そうした戦術を設けることで、初見殺しから生じる理不尽を抑え込んでいるのだ。おかげで実力勝負の場が完成されていて、それが厄介な攻撃を仕掛けてくる強敵を打ち倒した時の快感を引き立てている。
「魔術」と魔力(MP)回復の仕組みも、戦略を練る面白さとアクションゲームな手応えを際立たせる魅力がある。
特に面白いのが、防御力上昇や「スキルカーソル」の速度低下などの補助効果を与える魔術の消費MP。いずれも4と小さいのだが、3ターンで解除されてしまう。
前述の通り、MPは「戦う」を選んでターンが終わった時、1だけ回復する。つまり、補助系の魔術を使ってから「戦う」を選んでも、使った分をすべて補充することはできない。残る2のMPは、補助なしの実力で補充しなければならないのだ。
この塩梅が絶妙で、最終的な勝利はプレイヤーの実力にかかってくるというシステム全体の特徴を強固なものにしている。どんなに便利な魔術を使おうとも、最終的には己の実力が勝敗のカギ。そして、これから襲い来る攻撃の嵐を的確に対処できるかも戦術と戦略次第。
その辺りはまさにRPGとしての特性が発揮されており、全体的な難易度の個性的な調整具合が表現されているのだ。アクションゲームの色が濃いなりに、どうしても実力が試される。だが、理不尽はRPGの戦略によって最小限に防げる。
そして、その戦略はアクションゲーム側の働きによって安定するが、すべてはプレイヤーの実力にかかってくる。双方の特徴が存分に活かされたバランスであり、ひと口に難しいとは言い切れない奥行きが表現されているのだ。
長々と綴ったが、そんな具合に本作の戦闘システムには様々な工夫が見られ、アクションゲームとRPG双方の面白い部分が絶妙に融合されたものに仕上がっている。見た目はリズムゲームのようだが、やればやるほどにアクションゲーム感が出る。そして、ほんのりRPGの要素が効いたユニークな姿が浮かび上がってくる。
それでも難易度は高く、終盤は本当に実力無くして乗り越えられないぐらい厳しい戦闘が設けられている。ただ、RPG由来の戦術と戦略を活かし、己の成長を信じればいつかは突破できる。限りある手段を用い、決死に戦うルミスにその身を重ね、没頭してしまう面白さもあるので、この一連の仕組みに興味があるならば、ぜひ挑んでみていただきたいところだ。
反射魔術を極めることは己の実力を高めることと同義なり
ただ、戦闘システムが凝っている反面、マップ探索はパズルを始めとする謎解き系の仕掛けがほとんどないなど、アッサリ目。隠された「神受石の欠片」を発見したり、「魔術書」を見つける要素はあるが、どれも寄り道すればすぐに発見できてしまう。戦闘が総じて難易度高めなのを踏まえ、探索は割り切った感じのまとめ方で、これ自体は理に適っているが、欲を言えば、簡単なパズルや迷路ぐらいはあっても良かったように思えた。
また、本作はキーボード、ゲームパッド双方の操作に対応しているが、後者の戦闘でのボタン配置が少し難がある。(Xboxコントローラ時)「打撃」がBボタン、「斬撃」がLBボタン、「魔法攻撃」がRBボタンなのだが、正直、斬撃と魔法攻撃はその特徴上、どちらが対応しているかで混乱しやすい。
それぞれのスキルカーソルに色が付いていることから、ここは打撃がYボタン、斬撃がXボタン、魔法攻撃がBボタンで良かったように思える。
幸い、本作はキーコンフィングがあるので、前述の設定に切り替えることは可能。もし、デフォルトの操作に違和感を覚えたのなら、設定を変更して試してみるといいかもしれない。(筆者はその設定にした結果、大幅に安定するようになった)
他に少し気になったところでグラフィック。本作はUnityで制作されているため、光の表現が用いられている。だが、暗い所は暗くし過ぎの印象が否めない。時々、どこが道なのか分からない場面もあったため、オプションに明るさ設定があっても……と思った次第だ。ただ、グラフィック自体の完成度は非常に高い。
特にキャラクターの立ち絵はLive2Dを採用しているため、ぬるぬる動く。また、ダメージ差分が用意されているのも必見。エフェクト周りも派手で、特にボスを倒した時の演出は強敵を撃破した確かな手応えと達成感を引き立てる。マップも終盤にはストーリーの展開と絡んだ大変印象的な場面が用意されているので、そちらも注目である。
ボリュームは規模としては短編に当たるため、大体2~3時間ほど。ただ、Steam版には実績があり、それをコンプリートするとなれば10時間近く費やすことになるかもしれない。人によっては5時間ほどだろうか。なぜそこまで差があるのかは冒頭に答えがあるとだけ言っておこう。そう、アレは……できてしまうのだ。だが、やるなら己が十分成長しきってからにしよう。かの葦名の民もそう申している。
全体的に瞬発力と判断力が攻略のカギになるため、アクションゲームやリズムゲームが苦手な人には勧めにくい側面がある。
逆にそれらが大好きな人のほか、対戦格闘ゲームのジャストガードを狙う駆け引きを好む人には刺さりやすい作りだ。この一連のシステムと工夫に関心を持ったなら、ぜひ挑戦いただきたい力作だ。アクションゲームであり、RPGでもある戦闘システムが生み出す、唯一無二のスリルと達成感を味わってみよう。
ただし、相手の出方を読まずに挑むのだけには用心を。
その末に待つのは……「惑えば、敗れる」だ。(※注:仕様です)
[基本情報]
タイトル:『L/Right Reflection』
開発:Atelier Never
クリア時間:3~4時間(※実績コンプ:5~10時間)
対応プラットフォーム:PC(Windows)
価格:無料
◇ダウンロードはこちら
・Steam