強化を繰り返し、魔王を倒せ!様々な攻略への欲求に応える新感覚”探索型”SRPG『Nash Upgrade』推参ッ!
「SRPG Studio」と言えば、伝統的なターン制シミュレーションRPG(SRPG)の作成に特化したツールだ。既に同ツールの発売から(2022年12月現時点で)7年以上の月日が経過したが、今もなお、個人、小規模チーム制作によるオリジナルのSRPGがフリー、有償の形で続々と誕生している。
また、異端の作品……独自のゲームシステム、表現技法を採り入れた意欲作も数多く誕生している。『NSStrategy』(紹介記事)、『NAROUファンタジー』(紹介記事)、『ビジラテリス』(紹介記事)、『RexColosseum』(紹介記事)といった、当もぐらゲームスで取り上げている4作は、その象徴的な一例と言っても過言ではないだろう。
昨今は『FortuneExplorer ~ミリィと不思議なダンジョン~』(紹介記事)なる、SRPGですらないランダムダンジョンRPG(ローグライク)も生まれちゃったりしたが。
いや、あれホントにどういうことなの……。(まだ困惑中)
とにもかくにも。
そんな「SRPG Studio」製の異端の作品にまた新たな1本が加わった。
それがこちらの『Nash Upgrade』である。
軟弱主人公を最強主人公に強化させ、魔王を倒せ!
本作『Nash Upgrade』にて、プレイヤーのすることは至極単純だ。主人公「ナッシュ」にカーソルで指示を与え、マップを進みながら、大ボスたる魔王「エンペラー」の討伐を目指す。
システム面も「プレイヤー⇒敵」の順序で行動するターン制、回数制限の課せられた武器など、SRPGの伝統を網羅している。それなのに異端の作品とは……と、この時点では思うかもしれない。確かに基本の仕組みは「SRPG Studio」の定型だ。
本作の異端とも言える特徴はそれ以外の部分にある。
それでは早速、ゲームを始めてみるとしよう。
開始間もなく、プレイヤーはナッシュを移動させ、マップを進むことになる。SRPGの基本に則り、カーソルでナッシュを選び、移動範囲が表示されたら、そのまま動かしたいマス目を決定しよう。
マス目を決定したら、そのままナッシュを待機だ。
すると断末魔の悲鳴と共にゲーム終了である。
「世界に!平和は!おとずれなぁい!!」
……ということで、お疲れ様でした。
思わず「は!?」となったかもしれない。だが、これは断じてウソにあらず。ナッシュを1歩動かした……というか、動かせないまま魔王討伐の旅は”THE END”なのである。
それでも疑わしいのなら、実際にゲームをダウンロードして始めてみればいい。本当に1歩も動けず、問答無用でゲーム終了となる。
「どういうことだよ!」「軟弱にもほどがある!」「どんなク●ゲーだ!」と、非難したくなるのも無理はないが、本作はここからが本番にして最大のキモとなる。
前述の通りナッシュは弱い。メチャクチャ弱い。ス●ランカー先生もビックリするほど弱い。むしろ、冗談抜きに彼を凌駕してしまっている。
今この時、(最弱主人公の)歴史は動いたのである。ギ●ス登録待ったなし。
こんな最弱主人公でどうやって魔王を倒せと言うのか!?
その答えはとっても単純である。「強化」すればいいのだ。
本作はゲーム終了と共に拠点メニューへと強制移行する。
この中に「強化」というものが設けられている。
「強化」を選ぶと、全7つの強化項目(という名のアイテム)がリストアップ。このどれかにお金を支払うことにより、ナッシュの能力が上昇したり、マップに長居できるターン制限を増やるのだ。(※1ターンでいきなり終わってしまうのは、ゲームスタート時点のターン制限が1しかないことに由来している)
ちなみにお金はマップ上にある「赤い宝箱」にナッシュが待機すれば手に入る。宝箱専用のカギが必要になったり、”世界を救う者に与える覇者のあかし”を持っていなければダメみたいな制約もないので、入手は簡単だ。
そして、能力が上昇したらメニューの「終了」を選べば、再びスタート地点にナッシュが降臨。再びマップを進み、魔王を目指すのである。このように本作は「トライ&エラー」を前提にした作りで、動ける範囲内でお金を集め、それでナッシュを可能な限り強化しては再挑戦することを繰り返し、ゲームクリアという名の魔王討伐を目指すSRPGなのだ。
公式には”探索型”SRPGを名乗っている。7つの各種能力を強化することで、行動範囲が広がっていくのがそれを物語っている感じだ。また、本作に用意されたマップはたった1つ。それも非常に広く、あちこちに様々な敵、仕掛けが配置された構成になっている。
魔王はそんなマップの中央にある魔王城の玉座にいる。その場所までナッシュを導くのが最終的な目標という訳だ。しかし、いきなり城へと突入させるのは不可能。というのも、城の入口は4つの扉で閉ざされてしまっている。
この扉を開けるためには、マップの至る所で待ち構えている「四天王」を倒すしかない。そのため、ある程度動ける範囲が広がったら、次は四天王の討伐を目指すことになる。それを全て成し遂げることで、魔王へと挑めるようになるのである。
そのためにマップの至るところを動き回ったり、お金を稼いだりなど、色々なことに取り組んでいく。「同盟ユニット」に話しかけて仲間として迎え入れたり、武器を調達することもまた然りだ。ちなみにゲーム開始時点でナッシュは丸腰。武器は強化を図る拠点では手に入らない(購入できない)ので、基本的には現地調達である。
長々と綴ったが、要はお金を稼いで強化し、何度も再挑戦を繰り返して魔王を倒す!それが本作の主な内容だ。なお、再挑戦時は毎回スタート地点から始まるが、手に入れた武器、仲間にした同盟ユニット、倒した四天王などの進捗は維持される。いわゆるローグライクのような全リセットはないのでご安心いただきたい。もちろん、敵配置やマップの地形が変わったりすることもしないぞ。(しかし……?)
このゲームには欲望を刺激し続ける永久機関が存在する
そんな本作の魅力は、とてつもない中毒性である。
とにかく、1度始めてしまったら最後。止め時を失い、魔王討伐という名のゲームクリアを迎えるまで、延々遊び続けてしまうほど夢中になってしまう面白さがある。「ほんの少しだけ進めよう」という心持ちで始めても、「いや、やっぱりもうちょっと……」、「いや、もう少し……」と繰り返してしまいやすい。
その結果、気づいた時には1時間過ぎていた、なんてのもザラだ。(経験者は語る)
これほど高い中毒性を宿しているのは、探索型特有の「できることが増え、世界が広がっていく楽しさ」と、SRPG(というよりはRPG)の「ユニットを育てる楽しさ」が鬼に金棒な親和性を発揮していることにあるのだろう。
特に育成に関しては単純かつ、手間がかからないのが大きい。前述にて言及しなかったが、本作はボスの四天王も含め、マップ上の敵を倒しても経験値は一切手に入らない。育成はすべて拠点メニューの「強化」に集約されているのだ。
なので、敵を倒しながら経験値を地道に稼いでいくことは一切求められない。基本、宝箱を空けてお金を集めればそれで十分。恐ろしく手軽に強くできるのだ。
さらにお金も宝箱が至るところに配置されているため、非常に稼ぎやすい。そもそも、スタート地点にも3つ置かれているほどである。
さらに本作はターン制限を迎える以外に「撤退」のコマンドを選んでもゲームを終了できる(拠点メニューへと移れる)ようになっている。この時点でお分かりだろうか。そう、そのコマンドの活用次第ではスタート地点で荒稼ぎできてしまうのだ。
しかも、7つの強化の中には「獲得金プラス」なるゲーム終了時に得られるお金を増やすものもある。それを重点的に強化すれば、スタート地点での撤退を繰り返すだけで”ガッポリ”なのは想像に難くないだろう。
こうした手間を省く試みが成されているのもあって、延々とやり続けてしまう。さながら人間の欲望を刺激し続ける永久機関になっていると言っても過言ではない、驚くべき仕上がりなのだ。
加えて本作は攻略の自由度も高い。魔王城に突入するためには四天王を倒さなくてはならない、という条件こそ敷かれているが、彼らを倒す順番は基本的にプレイヤーが好きに決められる。どこからでも攻め込めるのだ。
さらに同盟ユニットも1人を除き、すべて加入させる必要もなければ、魔王城突入時に彼らの支援を受ける必要もない。ナッシュの単騎突撃もアリなのである。もちろん、そのためには徹底的な強化が必須になる上、相応の手間も生じるが、決してクリアできないほどでもない。もし、やっぱり単騎突撃は厳しいとなっても、同盟ユニットが数名加入済みなら、「集合」コマンドを使えばナッシュの近くへと瞬時に呼び寄せる手も使える。
こうした”なんでもあり”な作りもあり、攻略面ではプレイヤーごとの性格が顕著に現れる。そして、色々試せるからこそ、魔王討伐を達成した後も別の方法を求めて、周回プレイを始めたくなりやすい。合計ターン数などの成績も魔王討伐後に表示されるので、もっと縮めたいという気持ちが沸き上がった時もまた然りである。
作者のせんし:おとこ氏いわく、本作のゲームシステムは、海外製のフリーゲームにしてアクションゲーム『Johnny Upgrade』に着想を得たものとのことで、特にお金で強化する下りはほとんどそのままである。それをSRPGの枠組みへと翻案し、ジャンル特有の戦術・戦略性、ユニット育成、そして探索という要素が加わったことで、類を見ない中毒性とやり込み甲斐を持つ作品へと昇華させている。
同時にSRPGの新境地も開拓している感じだ。全体的に戦術・戦略性の面はほどほど、育成寄りだが、トライ&エラーを前提にしたシステムとの融合により、ありそうでなかった面白さが実現している。特にSRPGに育成の面白さを求める人ほど、本作は強烈に琴線を刺激するはずである。この一連の魅力に関心を抱いたのなら、多くは言わない。すぐにでも始めるのだ。
きっと、”沼”にハマっちゃうだろう。
新感覚の言葉に偽りなし。短編ゆえの遊びやすさも光る意欲作!
システム面ではオープンワールド形式のSRPGという、一種の可能性を提示しているのも見所だ。オープンワールドと言っても、そんなに広い訳でもないし、その種のマップで複数の勢力が争うSRPGというのは過去に存在している。
ただ、その面白さをコンパクトかつ、分かりやすく伝える作りになっている所には、SRPGにおけるこの形式の可能性を考えさせられる。若干、某国民的RPGの初代が連想されるゲームデザインになっているのも大変面白く、純粋にこの作りそのものが気になる人も1回でいいので確かめていただきたい限りだ。
他に本作はシステム重視なためか、ストーリーはほぼおまけ。ただ、村を開放したり、四天王を倒すと会話イベントが発生し、世界観の一端が判明するなど、最低限の設定は図られている。しかし、正直なところ……この世界観は人によっては強烈に引っ掛かるかもしれない。あまり多くは言えないが、なんというか……その……ほ、ほのかに”エロス”が漂うと言いましょうか。まあ、直接的な描写はないが、若干「えぇ……」となるアイテムが存在するので、苦手な人は念のためご用心とだけ記しておきたい。
ボリュームも平均1~2時間程度と短めだが、物足りなさは一切感じさせない。そもそも、攻略の自由度が高いので、遊び方次第ではその倍の時間を費やしてしまうこともある。また、この短さだからこそ、周回プレイに挑戦しやすいという強みもある。実際、延々と遊び続けてしまう魅力があるのを思えば(それを直に体験すれば)、この物量は適切だと思えるはずだ。
裏を返せば、1つのマップだけで繰り広げられる関係でビジュアル面での変化に乏しい、基本的にトライ&エラーの繰り返しと若干の単調さを抱かせる所もある。また、同盟ユニットは最低でも1人は加入させる必要があるなど、全編単騎突撃が厳しくされているのには、探索型という枠組みを考えると緩めてもいいのでは、と思えるところもある。
それでも完成度は非常に高く、SRPGとしても新たな可能性を感じさせる内容である。短編ゆえに長時間縛られることもほぼない(※ドツボにハマった時を除く)ので、SRPGは長編なので苦手……という人も安心。むしろ、そういう人ほど遊んでいただきたい1本だ。SRPG好きにも当然のようにお薦めしておく。紛うことなき新感覚なこのSRPG、見逃してはなりませぬぞ。
なお、本作は今後もアップデートでマップの追加などが検討されている。本稿執筆時点では、拠点を経由するたびに仕掛けが変化する、僅かながらローグライクっぽい要素を持った第2のマップが追加されている。
本編に限らず、ゲームとしても進化し続けるナッシュの活躍を今後も見逃すな!
[基本情報]
タイトル:『Nash Upgrade』
作者:せんし:おとこ
クリア時間:1~2時間以上
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちら
◇ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/29388
◇フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/simulation/game_10630.html