圧倒的な力を振るい、ひとりで敵を全滅させろ!デフレ全開のゲームデザインも見所の短編SRPG『1巡攻防』

シミュレーション,フリーゲーム

たったひとりで、大勢の敵を全滅させる。

この一文から何のゲームを連想するだろうか。それなりにゲームに精通している人なら、おそらくはかれこれ20年以上の歴史を誇り、数多の著名な作品とのコラボレーションで知られる、某一騎当千なゲームが脳裏をよぎるのではないかと思われる。

もしくはライトノベル、アニメ作品を連想するかもしれない。具体的には反則じみた力の持ち主が敵の大群、あるいは強敵を打倒する類のものだ。2024年現在もその手の題材を扱った作品は根強い人気があり、海外からも新作が誕生している昨今を思えば、むしろこっちの方が脳裏に浮かびやすいかと思う。

そんなイメージを浮かばせたところでご紹介するのが、Windows PC向けフリーゲーム『1巡攻防』。「ひとりで敵を全滅させる」をコンセプトに掲げ、制作されたターン制のシミュレーションRPG(SRPG)だ。

ご安心あれ、このユニットは3回まで行動可能だ。それを活かして全員、ぶっ倒せ!

ひとりだけで敵を全滅させるSRPGとはこれいかに……だが、読んで字のごとくである。
本作は1体だけのユニットを指揮して、敵軍との戦いに挑む「SRPG Studio」製のSRPGだ。

なお、敵軍はどれぐらい現れるのか、一部のマップを例に出せば19体。

これをたったひとりで全滅させることに挑むのが、本作『1巡攻防』の主な内容だ。

「無茶ぶりにも限度がある」「数の暴力にさらされるの確定やんけ」など、ツッコミの雨あられかもしれないが、ご安心あれ。指揮するユニットは……強い!

どう強いかは、1ターンのうちに3回まで行動可能な特徴が象徴する通り。また、周囲の敵を一斉に攻撃する、行動回数を消費せずに射程を伸ばして遠方の敵を攻撃可能にする、敵の攻撃を数回無効化させるガードを展開するといった、1行動に1度だけ使える強力なスキル(※一部スキルは行動回数を消費せず、使用回数が尽きるまで使える)を持っている。

所持している武器にも回数制限はないので、いくらでも使用可能。さらにはスキルとは別の敵の攻撃を無効化させるガードの展開、ワープ、遠距離攻撃を可能にするアイテムも用意されている。これらもスキル同様、1行動につき1度だけ使える仕組みだ。

そうも強力な性能を持ったユニットを指揮するので、大勢の敵を前にして絶望する必要はなし。むしろ、その力を駆使していとも容易く敵を仕留められる。しかも、敵の体力は基本的に1(※例外あり)。一度攻撃すれば、一瞬で消え去ってしまうほどにモロい。

そして、本作には確率の概念がないため、攻撃は絶対命中。
運悪く攻撃が外れ、組み立てていた戦略が崩れる心配もない。

このように一見、「そんな無茶な!?」と思わせて、実は十分対抗可能な戦術が網羅されており、コンセプト通りの「ひとりで敵を全滅させる」ことに挑む楽しさと快感が味わえるSRPGに仕上げられている。

なお、紹介が前後したが、本作で指揮するユニットは「戦士」「射手」の2人から選んで決める形となる。

「戦士」はAAAAAXE……失敬。斧をメイン武器とするユニットで、射程範囲は1。攻撃用スキルとして周囲8マス内にいる敵を攻撃する「囲繞斧」、特殊スキルとして3回の行動回数を消費せずに敵の攻撃を無効にさせるガードを2回分付与する「盾+〇」を所持している。いわゆるパワータイプのユニットだ。

「射手」は弓矢がメイン武器で、射程範囲も2~3と広い。しかし移動力は1で、戦士以上に動き回れない(※戦士は移動力2)。攻撃スキルは向きを選択して6マス攻撃を仕掛ける「雪蓮華矢」、特殊スキルで行動回数を消費せず射程を2増やす「集中」を所持。なお「集中」は、発動させるとその場から移動不可能になることに注意。全体としては、テクニカル系のユニットとなっている。

徹底したデフレ仕様が異彩を放つゲームデザインと、その恩恵による抜群の遊びやすさ

そんな強力なユニットで大群と戦う本作の魅力、それはデフレである。あまりにもコンセプトと相反する事柄だが、実際に本作、ゲーム内要素がもの凄くデフレしている。

なんと本作、(命中率の表示を除いて)戦闘において3桁どころか2桁以上の数値が出ない。基本的に1桁、1~9の数値内に収まるように設計されているのだ。

おかげで本作は、敵に与えるダメージの計算などが容易で、結果の予測が立てやすい。また、数値が小さいのもあり、足し算・引き算しか覚えられていない低年齢層にも優しいゲームデザインが確立されている。SRPG初心者にも嬉しい作りとも言える。

そして、数値が小さく収まっているからこそ、戦闘中に不測の事態も起きにくい。特にそれを象徴するのがユニットごとの移動力。敵も味方も数歩しか動けない程度の数値にされており、よほど接近しすぎない限りは袋たたきにされることがない。そういう状況の場合、ほぼ決まって予告される。

▲予告の一例

本編がある程度進むと、2回連続行動、長距離移動の敵ユニットも出てくるが、戦闘開始早々の1ターンのうちにプレイヤーの居る所まで急接近してくることはない。

これが何を意味するかというと、迎撃態勢を整えやすい。そして、初見殺しの一手を喰らう心配もない。また、本作には長距離攻撃を可能にするアイテムがあるのだが、プレイヤー専用で、敵は一切使ってこない。これもまた、初見殺しの心配を軽減させる配慮となっている。そのため、安心して敵を迎え撃てるのに加え、状況に応じた戦術を都度考えながら立ち回れる展開が続くのだ。

このバランスが見事で、SRPG特有の戦術・戦略を考える楽しさと、遊びやすさを両立させている。まさにデフレの強みが発揮されていて、ほどよくスリルを感じつつ、様々な状況に対処していくSRPGの“原液”とも言える味を堪能できるのだ。

デフレを意識したゲームデザイン自体は、某手ごわいシミュレーションを作り続けてきたゲーム会社が1990年代から2000年代まで、お家芸としてきたものだ。本作はある意味そのオマージュとも言え、件の会社が作るゲームが好きだった人ほど刺さる遊び心地となっている。

数値が小さいゆえ、戦闘がチマチマした展開になりがちで、正直、本作は戦闘全般に派手さはない。だが、その遊びやすさと考える楽しさには、「デフレって、素晴らしい!」となること請け合い。数値次第で遊び心地が変わる真髄を感じさせる作りになっているのだ。

また、1体のユニットで複数の敵を相手にする状況は、どことなく詰将棋っぽさを抱かせる側面もある。実際、本作には経験値とレベルの概念がないなど、それっぽさを高める仕様が存在するのだが、実は意外にも厳密な戦い方は要求されない。それを可能にしているのが前述したアイテムと、それを購入できる「休憩マップ」の存在。

本作はマップクリアのたびにお金(ゴールド)が手に入る。それを消費して、次のマップに進む前に挿入される「休憩マップ」で3種類のアイテムを買えるのだが、このアイテムの数に応じて柔軟な戦術が実践可能になるのだ。例えば遠距離の敵を攻撃する「ボム」があれば、現時点では近づけない上、ステータス的にも危険な敵をカンタンに撃退できるようになる。また、「ガード」のアイテムがあれば、防げる回数に応じた特攻戦術が実践可能。「転移石」は、危険な敵と距離を取る際に活躍してくれる。

持ち込めるアイテムの数には限りがあるものの、これらの存在もあって終始、チマチマとした展開にはなりにくい。むしろ、大胆な攻め方ができるのもあって、ほんの少しイケイケな気分も味わえるのだ。もちろん、そういうのが嫌ならば、あえて何も買わず、己の力だけで挑むもよし。そのような選択に応じた難易度の変化が出るため、1体のユニットだけで戦うその仕組みから想像される詰将棋感が薄いのである。

ちなみに難易度に関しては本作、「ノーマル」と「ハード」が選べるのだが、さすがに「ハード」だと若干の詰将棋感は出る。だが、それでもアイテムを駆使すれば多少の力押しが効くなど、ある程度の柔軟さは残している。数値が小さいなりの厳密さはあれど、極端なレベルまでは行かせない。そうした工夫も本作は徹底していて、攻める楽しさが味わえるようにされているのだ。

ここまでの通り、強いキャラで戦うコンセプトとしては裏腹のチマチマ感はある。だが、まさにSRPGというジャンルの“原液”を追求した作りは見事で、遊びやすさと手応えを両立させた作りに唸るはずだ。ある程度、直感に頼ったやり方でも楽しめる余地があるので、少しでも興味を抱いたならぜひお試しいただきたい。特にSRPG初心者なら、本作はその楽しさと遊び方の基礎を知るきっかけの一作になってくれるだろう。

SRPGというジャンルの“原液”を堪能できる、ゲーム部分勝負の潔さが光る良作

SRPGの“原液”とコンセプト追求の関係もあり、本作はシステム以外の部分はかなりアッサリとしている。例えばストーリーは存在しない。ひたすらにマップを攻略していくことに徹する内容だ。

そして、ここまでのスクリーンショットを見れば一目瞭然の通り、グラフィックも簡素。SRPGお馴染みの緑豊かな草原、砂漠などの自然やレンガ造りの城内といった人工建造物の類は影も形もない。表示されるのは薄紫と紫の2色で彩られたタイルだけ。いかに本作がコンセプトの追求に徹して作られているかが分かるビジュアルだ。ちなみに音楽も、基本的にその場の雰囲気を盛り上げることに徹した楽曲中心だ。

また、純粋な難点も少しある。中でもマップの視認性だが、カーソルがタイルの色と同化しやすいのは気になる。

そして、ユニット移動後に表示されるコマンドのひとつ、「待機」のテキスト部分。まるで選択できないよう、黒めの灰色で書かれているのには疑問を抱くところだ。この色では選べないコマンドだと誤解を招くのではないだろうか。他にマップのサイズは最初から最後まで固定で、敵配置以外で変化を感じにくいのもちょっと寂しく感じるところだ。逆に広くすれば、テンポが悪くなっていた可能性もあり得るので難しいところではある。

そんなゲーム部分重視な作風は、人によっては賛否が分かれるが、そう振り切ったなりの優れた完成度を誇る。また、本作は短編SRPGで、1周はだいたい20~30分程度と、空いた時間にサクッと遊べる設計になっている。

ただ、1周目で選ばなかったユニットを選んでの2周目、難易度「ハード」への挑戦、そして1周クリア後に解禁される“なにか”と、やり込み要素は豊富。さらにSRPGとしては珍しいノーダメージクリアへの挑戦、最小ターン数攻略などもあるので、工夫次第では色んな楽しみ方が可能だ。

まさにSRPGの戦略・戦術性の醍醐味と、それを存分に堪能できる原液のような味わいに満ちた作品。SRPG初心者も熟練者も、この純粋なゲームとしての面白さに振り切った作りと、ひとりで複数の敵を倒す楽しさと快感を味わってみていただきたい。

戦い方はチマチマしているが、強いキャラクターになって力を振るう快感はバッチリだ。ちょっぴり変わった「俺って強い」を味わってみよう。

[基本情報]
タイトル:『1巡攻防』
作者:5OSR
クリア時間:20~30分(1周)
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):無料

◇ダウンロードはこちら
・ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/32898

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

    Webサイト:box sentence