1930年代のカートゥーンと1980年代のアクションゲームへの狂気に等しい愛情に溢れた大作『Cuphead』

アクション,インディーゲーム

毎年6月にアメリカ・ロサンゼルスにて開催される、世界最大のコンピュータゲーム見本市「Electronic Entertainment Expo(通称:E3)」。今から3年前の2014年、そんなE3で実施されたマイクロソフトのXboxプレスカンファレンスにおいて、大きな注目を集めたインディーゲームがあった。これより紹介するアクションゲーム『Cuphead』だ。

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カナダの独立系スタジオ「Studio MDHR」によって誕生した本作は、実に波乱万丈な経緯を辿ってきた。制作の始まりは2010年。当初は2014年のリリースに向け、マイクロソフトの提供するゲーム開発フレームワーク「XNA Framework」を利用する形で制作が進められていた。

しかし、2014年に「Unity」による制作に転換し、大規模な作り直しを決行。リリース予定も2015年へと延期された。その後、同年のE3にてトレイラーを公開、翌年にはプレイアブル出展を果たすが、デモを遊んだプレイヤーより、ゲーム内容の物足りなさを指摘されたことから、更なる充実化と拡張を目指すのを目的とした延期を実施。
同時にスタジオの設立者でリードデザイナーのChad&Jared Moldenhauer兄弟は仕事を辞め、週末の空き時間を利用する形で進めていた制作体制を日々専念する形に変更。家を抵当に入れて開発資金の捻出も行い、チームの規模を拡大させ、制作を推し進めていった。

そして迎えた2017年9月29日、日本も含めた全世界で本作はXbox One / PC用ソフトとしてリリースされるに至った。2010年の制作開始から単純計算して7年。まさに制作者が(文字通り)身を削る思いで生み出したゲームなのである。

こだわり抜いた手描きグラフィックが映える横スクロールアクション

その内容はシューティング要素の強い、ステージクリア型の横スクロールアクションゲーム。

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魔法の島「Inkwell Isle」。ここに暮らすCuphead、Mugmanの兄弟は祖父の言いつけを破って「Devil’s Casino」を訪れる。ゲームを始めた兄弟は連戦連勝を重ね、資金を増やしていくが、そこにカジノのオーナー「Devil」が現れ、次のゲームに勝てたらカジノにある金品は全部やる、だが負ければお前達の魂をいただくとの賭けを持ちかけられる。

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お金に目がくらんだCupheadはMugmanの忠告を無視し、そのままサイコロを振るのだが、結果としてゲームはDevilの勝利となり、負けてしまう。

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「お願い!魂を奪うのは勘弁して!なんでもするから!」と命乞いする兄弟。Devilはそんな二人にカジノから逃げた債務者達のリストを渡し、奴らの魂を回収してくれば見逃してやろうと提案する。かくして二人は取り立ての旅に出るのだった。

そんなパシリとなったCupheadとMugmanの兄弟を操作し、債務者をしばき倒して「魂(たま)」をぶっこ抜き、Devilから許しを請うのが最終目標だ。なんとも不穏だが、気にしてはならない。

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債務者の魂を奪うということで、本編はボス戦が全体の約8割を占める。基本的にワールドごとに用意されたステージの大半はボス戦で、各所で彼らとの一騎打ちに挑むことになる。

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迫りくる敵を倒しながらゴールを目指す「RUN&GUN」なる正統派のアクションステージもあるが、本作では全体の2割に過ぎない。その点でも、非常に独特な構成になっている。

そして、ここまでのスクリーンショットで明らかな通り、本作は背景からキャラクターに至るまで、1930年代のディズニー作品を髣髴とさせるカートゥーン調のグラフィックで描写されている。

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いや、むしろカートゥーンそのものだ。驚くべきことに各キャラクターの動きは1フレーム単位で手描き、手塗りによって表現されている。その為、一体一体が見せるリアクションは当時のアニメに忠実。文字通りの「動かせるアニメ」を実現しているのだ。

映像周りも当時のカートゥーンを忠実に再現するこだわりに満ちている。
1930年代のカートゥーンと言えば、映写機を用いて撮影されたフィルムを再生する形式が一般的であり、それによってフィルムを動かしている際の音が本編の映像に混じったり、フィルム側に付着したホコリが僅かに映し出されることがある。

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そんな当時特有の弊害をも本作は表現。「ジジジ…」という音が鳴り響いたり、映像の至る所で微かなシミが浮かんだりと、徹底して30年代のアニメらしさを突き詰めている。

これらの表現を見るだけでも、本作が何故、7年もの歳月を費やすことになったのかの理由を思い知ることになるだろう。キャラクターのバリエーションも多彩で、中でもボスは似通ったタイプが一切存在せず、ほぼ全てが段階的に形態変化を遂げる仕掛けを宿しているという点に制作者の狂気を垣間見るはずだ。

緻密な計算に基づいた、”理不尽”に適さない絶妙な高難易度

グラフィックに比類する魅力としてもう一つ、高い難易度がある。
発売当時より、本作は非常に難易度の高いゲームとして、様々なメディアでセンセーショナルな表現と共に伝えられてきた。「数秒足らずでゲームオーバー」、「ファミコン時代のク●ゲーそのもの」、「理不尽の連鎖」などなど。筆者もプレイ前はそれらの情報に目を通して、そんなに壮絶な難易度なのかと戦々恐々の思いだった。

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もし、これでクリアを断念するほどだったらどうすりゃいいのか。そんな戸惑いと共に蓋を開けてみると、そこにあったのはそれらの表現に適さない、緻密に調整された難易度だった。

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高い難易度であるのは間違いない。通常アクションステージの「RUN&GUN」、ボス戦共に初見でのクリアは困難と言ってもいいほど、激しい敵の猛攻が画面いっぱいに繰り広げられる。本作はダメージ制を採用しているので、一回喰らったところですぐにやられはしないのだが、それでも体力の最大値はたったの3。少しでも調子が崩れれば、一瞬で持っていかれる。

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だが、どんな場面においても「何が原因か分からずやられる」ということがない。ボスも含む敵の攻撃は、一貫して予備動作を行った末に実施されるので、それを察知して行動すれば、確実に回避できるようになっている。その予備動作から攻撃に移るまでの時間が短く、初見の時は直撃を浴びてしまいがちではあるのだが、逆に一度経験してしまえばそこまで。以降はそれに応じた対処ができるようになり、的確な立ち回りをしていける。
そうして、一つ一つの攻撃を経験するにつれ、ダメージを最小限に抑えての勝利も狙えるようになり、最終的にはノーダメージでの勝利を目指すことも可能だ。

まさに「トライ&エラー」による、プレイヤー自身の腕前が上達する醍醐味を堪能させられる調整でまとめられているのだ。なので、理不尽やク●ゲーと言った表現は微塵も適さない。
むしろ、非常に失礼千万であると断言しよう。

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それに救済&打開措置も豊富だ。「RUN&GUN」のステージで手に入る「コイン」で強化スキルを購入するシステムが搭載されており、これで体力の最大値を上げたり、一瞬だけ無敵になるアクションを繰り出せるようにするなど、有利な形で戦いを進めていけるようにもできる。

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また、基本攻撃のショットには拡散型、誘導型、チャージ型と言った複数の種類が用意されているのだが、これら別のショットに切り替えることで、それまで苦戦していたボスとの戦いがビックリするほどプレイヤー有利で進むようになったりもする。

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ゲームオーバーになった時にもプレイヤーがどこまでボスを追い詰めたかをを示す進捗率が表示されるので、モチベーションが殺がれにくい。
むしろ、「そこまで行ったなら…!」という気持ちにさせられるだろう。

筆者はアクションゲームには慣れている方なので、ここまでの批評は同ジャンルが苦手な人、遊んだ経験が無い人には逆に抵抗を覚える内容に映ってしまうのは否定できない。実際、ボスにせよ、「RUN&GUN」のステージにせよ、瞬時の判断と忍耐力が要求されるので、アクションゲーム初心者、苦手な人にはかなり骨の折れるバランスである。

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しかし、これだけは声高に言っておきたい。決して理不尽な難しさではない。計算された難しさである、と。少なくとも、80年代後期から90年代初期のアクションゲームをプレイし、クリアしてきたプレイヤーならば、本作の難易度には黄金期の再来を痛感させられるだろう。

いざ行かん、記憶に残る取り立ての旅へ

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実はボス戦では低い難易度を選べるのだが、それでボスを倒しただけではエンディングに辿りつけない為、最終的には通常難易度での攻略を余儀なくされる。この点からも、アクションゲーム初心者、苦手な人に門戸が開かれた作品でないのは明らかではある。

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しかし、「プレイヤーには「鑑賞」するのではなく遊び尽くして欲しかった」とリードデザイナーのChad&Jared Moldenhauer兄弟は語っている。

その信念を貫き通したバランス調整の方針には漢気を感じるし、それによって一体一体のボスがプレイヤーの記憶に深く根付くようになっているところには、5年後、10年後もプレイヤーから忘れられない作品を目指したという思いを汲み取ることができる。悪魔の許しを請う為の取り立ての旅というストーリーの設定も、よく考えてみるとこの難易度とマッチしている。

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ボス戦一体にかかる時間も2~3分程度なので遊び易く、操作感も良好(ただ、ダッシュボタンのデフォルト設定に難あり)、ジャズ調のノリノリな音楽など、他にも多くの魅力を本作は持つ。

人を選ぶ作品ではある。万人向けとは言えない。しかし、その完成度は指折りで、古き良き時代の緻密な調整が冴え渡るアクションゲームに仕上がっている。同ジャンルの好きなプレイヤーであれば、ぜひ、挑戦してみていただきたい一本だ。細部まで作り込まれたアクションと古き良き時代のカートゥーンへの思いを感じ取ってみよう。

そして、危険なギャンブルに軽々と乗ってしまうCupheadの無鉄砲ぶりと、弟Mugmanの慎重さも学んでみよう。きっと将来、何かの役に立つ……かどうかは分からない。

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なお最後になったが、本作は後発のアップデートで日本語に対応することが予告されている。もし、ストーリーもじっくり楽しみたいのなら、アップデートの実施まで待つのも一つの選択肢だが、本編は英語が分からなくても十分に楽しめるので、今すぐにでも遊びたいのなら、そのまま突撃してしまっても大丈夫だ。最終的にどちらを選ぶかは各自、お好みでどうぞ。

[基本情報]
タイトル:『Cuphead(カップヘッド)』
制作者:Studio MDHR
クリア時間:5~8時間(※やり込み要素のコンプリートを除く)
難易度:上級者向け(※アクションゲーム初心者、苦手とする人は要注意)
対応OS:Xbox One、PC(Windows)
価格:¥2350(Xbox One版)、¥1980(PC版)

購入はこちら
※Xbox One版
https://www.microsoft.com/ja-jp/store/p/cuphead/9njrx71m5x9p

※PC(Windows)版

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

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