長編”方言学習”SRPG『Les Apprentis Sorciers ―レザプランティ・ソルシエ―』 魔法使いの双子属する住民連合と反社会的勢力の抗争劇

RPG,シミュレーション,フリーゲーム

いわゆる共通語・標準語とは異なる、特定地方のみ使われる語とされる「方言」。日本国内は語彙やアクセント、文法などの面において地方ごとの差が大きく、コミュニケーションのすれ違いが起こりやすいと言われる。そのためか、地方の方言について学ぶ教材が多く刊行されている。近年ではそれらの学習を目的としたスマートフォン・タブレット向けクイズゲームアプリも作られ、App Store、Google Playストアにて配信されていたりもする。

そんな方言学習教材とシミュレーションRPGが空前絶後のコラボレーションを実現!
……などと言ったら、どう思われるだろうか。
「なんでやねん!?」と、勢い任せに関西弁を発してしまうだろうか。

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とにもかくにも、今回紹介するのはそんな前代未聞かもしれない「SRPG Studio」製作品、その名も『Les Apprentis Sorciers ―レザプランティ・ソルシエ―』である。2019年2月10日より、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」にて公開されている。

なお、本作で学べる方言は北海道弁となっている。
何故、北海道弁なのか?
それについては後ほど改めて。

迅速な進軍と短所を踏まえた攻略が試される、伝統的SRPG

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ます最初にゲーム内容から紹介しよう。もう既に触れている通りだがシミュレーションRPG(以下、SRPG)、カーソルでユニット(駒)を移動させ、敵に戦闘を仕掛けるなりして、勝利条件の達成を目指すものだ。上より見下ろした視点のマップ、味方と敵の順に行動する「ターン制」など、基本の枠組みもジャンルのお約束を踏襲。また、素早さのステータスに応じて二回攻撃が発生する戦闘、武器の相性による命中率の変化、特殊な効果を及ぼす「スキル」など、某有名SRPG作品にちなんだシステム及び仕様も網羅している。これぞ”伝統的”と言える作りだ。(※ちなみにユニットの永久ロストはなく、復帰方式。)

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ただ、細かい部分は本作の世界観に基づいた差別化が図られている。
特に「スキル」はユニットごとの長所と短所(欠点特性)を強調するコンセプトでまとめられている。また、種類によっては専用の行動コマンドが表示・選択可能。施錠された扉を開けるものを始め、味方ユニットの保護、敵を捕まえてからの装備(武器類)はぎ取りなどの特殊な一手を下せる。また、短所に関連するものでは、取得経験値の減少、特定区域への移動ができないなどの制限もかかり、他のユニットと使い勝手も変わる。これも元は某有名SRPG作品にちなんだものだが、能力ごとの差が大きいため、各々の特徴を踏まえた運用が重要。やや戦術面での違いが現れた作りになっている。

また、本作は全編、迅速な進軍が要求される。それを促すのが疲労システム。特定のターンを超過すると、ユニットのステータスに下方修正がかかるのだ。

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発生ターンはユニットの精神値に基づいて変動し、低ければ早く、高ければ遅くなる。さらに疲労から8ターン経過後のステータスで「困憊」なるものもあり、さらなるステータスの下方修正が実施され、攻撃行動なども封じられて運用不能になってしまうのだ。

唯一、主人公の一人「ハンス」だけは疲労しないが、当人の能力値は低め、且つ序盤から中盤に限定して取得経験値が低くなる制約もあることから頼りにできない。疲労状態になろうが、ある程度成長させていれば敵に歯向かうのもできなくはないが、基本は攻めて、ハンスに頼らない戦術が大事。まさに全編、ターン制限との戦い。スリリングな展開を演出するシステムになっている。

他に後述するが、主人公達の境遇から軍資金は手に入りにくく、店で武器を購入する際は所持している額との相談が必須。全ユニット強制出撃(&一人でもユニットがやられたらゲームオーバーになる)のマップが度々あるため、満遍なく育てないと難易度が跳ね上がるなどの戦略の重要性を痛感させる設定・シチュエーションも。

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プレイ感こそ伝統的だが、攻略周りの味付けは本作特有のもの。それぞれのユニットを能力に応じて活躍させることに重きを置いた、「攻撃は最大の防御」を意識させるゲームバランスが特徴のSRPGに仕上げられている。

だが、本作最大の特徴及び魅力はそこにあらず。
ということで、おまっとさんでした。
方言学習要素と北海道弁である理由のご紹介だ。

方言+日本語表現学習と共に描かれる”任侠団体”との抗争

そもそも何故、数ある方言の中から北海道弁がチョイスされているのか。

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それは主人公二人、双子の魔法使い「ハンス」と「レナ」の設定にある。二人は北海道をモチーフにした島出身の魔法使いの双子で、バリバリの北海道弁で話すのだ。それも標準語をほとんど使うことなく。本作はそんな二人が標準語で話す本土の住民達と交流し、一つの大きな戦いを通して成長していく様子が描かれるストーリーとなっている。

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そのため、本土の住民が彼らの話す内容を理解できず困惑したり、時には主人公……具体的にはハンスが慌てふためく場面が度々挟まれる。そして、そのような場面になると、特徴的なジングルと共にクイズイベントが発生。表示される選択肢の中から、正しい一つを選ぶことになるのである。もちろん、制限時間付き。

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正解すればステータスアップのボーナスを獲得。不正解、時間切れだとボーナスなしでその後のストーリーが進行する。別に間違えるとゲームが進まない、ストーリーが分岐するみたい仕掛けはない。普通に知識が試されるだけのイベントだ。

ただ、問題の内容は非常に真面目且つ、挿入タイミングの唐突さもあって手応え十分、プレイヤーの焦りを誘うものになっている。さらに問題は北海道弁にちなんだものばかりではない。日本語の表現、音楽に関する問題も登場する。むしろ、そっちの方が多いぐらいで、随所でごく当たり前な表現の正しい使い方を問われるのだ。

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なので、北海道弁のみならず正しい日本語知識、音楽の基礎も学べる。
なんでそこまで網羅しているのか、と聞かれても「サッパリ分からん」(作者様に聞いてください)としか言い様がないのだが、こんな摩訶不思議な要素があるだけでもインパクトは抜群。プレイヤーに謎めいた体験と正しい知識を与える、衝撃的なイベントになっている。そもそも、SRPGをプレイしながら方言などが学べるというだけでも前代未聞すぎる。

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さらに学習ゲームらしく、方言について解説した注釈も充実。物量も多く、読み切るだけでも結構なボリュームだ。しかも、本編は順を追って新しい方言を解禁していく、”文字通りの”レベルデザインが徹底されているので、各種表現を緩やかなペースで学んでいける。常に用語集を読みながらのプレイを心がければ、エンディングを迎える頃には北海道弁の基礎をほぼ習得できてしまうのだ。個人差にもよるが。

おまけ的な意味合いも強いが、ちゃんと教材として完成され、主人公二人の設定を活かした作り込み具合には作者の力の入れようを感じること間違いなし。本作の圧倒的な個性の強さも一緒に感じてしまうだろう。

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そんなクイズと共に描かれるストーリーも大きな見所。自治体の有志によって結成された住民団体が、国の暗部を牛耳る反社会的勢力……という名の”巨大任侠団体”に戦いを挑むという内容になっている。

SRPGのストーリーと言えば、世界観がファンタジー系ならば国家間の戦争、魔物の軍勢との戦いが定番だ。だが、本作は世界観こそファンタジーながら、描かれるのはバリバリの民間抗争。ありそうでなかった、とても珍しい設定にして、対立構図となっている。肝心の内容も特に敵側の描写が濃く、カタギ(民間人)には絶対に手を出さないという信条、平均年齢の低い幹部勢の背景などには、ただの悪人とは思えない魅力に溢れている。彼らを統率する大ボスの”会長”も知略に富んだ人物として描かれており、大物感も抜群だ。

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それでありながら、全編シリアスでないのも面白い。そもそも主人公のハンスからしてグータラなダメ男。随所で妹のレナを怒らせるトラブルの数々を繰り広げる。敵側も幹部級はシリアスだが(※一部除く)、下っ端は愉快な面々揃い。想定外の攻撃に慌てふためいたり、猫ちゃんモフモフなやり取りを繰り広げるなど、思わず肩の力が抜けてしまう愉快さがある。

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そして、国内情勢を報じる新聞記事。ストーリーが進む度に挿入されるのだが、これが痛烈な社会風刺とあるあるネタ満載の内容。レイアウト、文体に至るまで実在の新聞っぽく仕上げられていて、ちゃんと元ネタを意識して作り込んだこだわりに溢れている。

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あちこちに仕込まれたパワーワード、現実のスキャンダルを皮肉った速報記事も見所。後者に関しては、かなり際どいネタを扱っているので、人によっては冷や汗をかいてしまうかもしれない。

こんな濃すぎるストーリーも北海道弁などの学習と一緒に楽しめる。
プレイすれば、恐らくほとんどの人がこんな感想を持ってしまうだろう。

至れり尽くせりにもほどがある!

唯一無二の”学習系&民間抗争SRPG”ここにあり

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ちなみに総ボリュームも膨大。マップ50以上、エンディングまで30~45時間以上という紛うことなき長編だ。さらに四種類の難易度、クイズ全問正解などの極めたいプレイヤー向けの要素も完備。二周目以降も楽しめる。

マップも個性付けがしっかりしているほか、素早い進軍が要求されるシステムの関係上、攻略所要時間は長くても1~2時間程度とホドホドで、テンポ良く進めていける。また、作中の音楽は全曲著名なクラシック音楽で構成。聞き慣れた楽曲で反社会的勢力との戦いに興じるのは異様な荘厳さがあり、強く印象に残る。

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他に演出も昭和時代のコント番組を意識したネタが随所に。ノーダメージ判定のたび、某”喉を自慢する番組”の鐘が鳴り響く演出も面白く、思わず身体がスッテンコロリのドンガラガッシャンだ。

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ユニットの個性を表現する都合でコンフィグの速度設定が不可能(※イベントスキップは可能)、カーソル音がキンキンしていて耳障り、経験値を二倍取得するスキルを持つユニットがエースになりがちなどの難点も散見されるが、出来は良好。長編ゆえにまとまった時間が必要となるが、それ相応の濃すぎる体験が詰まった、空前絶後の学習系SRPG。同ジャンル好きはもちろん、少し変わったストーリーも楽しみたければぜひ、プレイいただきたい大作だ。魔法使いの双子と共に反撃率100%の社会の闇に挑もう。北海道弁も学んじゃおう。

[基本情報]
タイトル:『Les Apprentis Sorciers ―レザプランティ・ソルシエ―』
制作者: TAK-HOK
クリア時間: 30~45時間
対応OS: PC(Windows)
価格: 無料

※ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/19511

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