衝撃のRPGツクールXP製サバイバル探索アクション『Overnight Mare』 悪魔を倒し、時に逃げ、目指すは異界からの脱出
20XX年8月20日。コテージ一件を貸し切り、高校の友人たちと共にキャンプ旅行へと来ていた時永沙希(ときなが さき)。
最終日のある夜、片思いしている幼馴染で同級生の新堂朝陽(しんどう あさひ)との仲を進展させるため、彼女は友人の倉科有里(くらしな ゆり)からおまじないを提案される。誘われるがまま、沙希は有里のおまじないを受けるが、しばらくして意識を失ってしまう。
気が付くと、周囲から人が居なくなっていた。
そして部屋から出て、静まり返ったコテージを探索していた最中、謎の怪物が出現。沙希は部屋を調べていた際に見つけた武器でこれを退け、コテージより脱出するのだが、その先には以前とは様子の変わったキャンプ場が広がっていた。
そして再び現れる、怪物こと「悪魔」。
一体、何が起きたのか。そして、姿を消した友人たちはどこに?
様々な疑問を残しながら、沙希はキャンプ場の奥へと向かう。
2018年1月4日、「フリーゲーム夢現」において配信を開始した『Overnight Mare(オーバーナイトメア)』は、「RPGツクールXP」で制作されたトップビュー(見下ろし視点)のサバイバルアクションゲームだ。配信以降も定期的に新機能の追加などのアップデートを行っており、2019年2月13日以降は「新装版」と称されたバージョンが提供されている。なお、ゲームデータのダウンロードが行えるのは「ふりーむ!」で、「フリーゲーム夢現」からは行えない形になっている。(※外部サイトへ移行する仕組み)
極限下で悪魔と対峙する、探索アクションゲーム
内容は主人公の沙希を操作し、襲い来る悪魔と戦ったり、時に逃げたりしながらキャンプ場を探索し、消えた友人たちの行方を追っていくというものだ。本編は章仕立て(チャプター形式)で進行。いくつかのストーリーイベントを経た末に行われるボス戦を乗り越えるとクリアになり、次の章が始まる仕組みになっている。
最終的な目標はキャンプ場も含んだ悪魔はびこる土地、またの名を「異界」からの脱出。そのためにプレイヤーは(少しネタバレになるが)合流できた友人、同じく異界へと連れてこられた人たちの力を得ながら、キャンプ場とその周辺の土地など探索していく形となる。もちろん、悪魔と対峙しながら……だ。なかなかにスケール大きめの内容になっている。
そんな悪魔たちとの戦いは、リアルタイムで行われる。いわゆるアクションアドベンチャー(兼RPG)方式で、トップビューのマップ上でキャラクターを動かしつつ、相手との距離を測りながら攻撃を展開していく形だ。
ただ、その際には”構え”の姿勢にならねばならない。沙希には「移動」、「構え」の2つの姿勢が用意されていて、本作はそれらを状況に応じて切り変え、立ち回っていくことを基本戦術にしている。
マップ探索、悪魔から逃げるのに集中する時は「移動」を、正面きって戦う時は「構え」を……という感じだ。このため、特に戦闘を仕掛ける際には、きちんと手順を踏まないと一方的な攻撃を受ける危険が付きまとう。切り替え自体はワンボタンなので簡単だが、少し慣れが必要。僅かながら現実味も含んだ、独特なものに仕上げられている。
武器も近接と遠距離の2種類があり、進行に応じて選べる数が増えていく。ただ、全体の比率は近接1の遠距離9。その関係で戦闘はほぼ、相手と距離を取りながら弾を撃ち、近づかれる前に仕留めるのが最適解になっている。
だが、本作はサバイバルアクションを謳う作品。全ての遠距離武器には弾数制限があるので、無限に撃ち続けるのは不可能だ。
さらに弾丸こと「矢」(※武器のほとんどは弓矢系になっている)も現地調達。売っている場所などはない。挙句、入手できる本数も少ないので、無駄撃ちも許されない。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるの精神でやったりすれば、待ち受けるは近接武器だけで戦う試練の道。これぞサバイバルと言うに相応しい、シビアさを全面に押し出した設定だ。
このほか、武器には探索や戦闘の過程で手に入れた「宝石」をセットすることで、攻撃力や射程の拡大などの強化を図れる機能も。敵の悪魔も倒す度に「魂」がお金のようにストックされていき、それを特定のポイントにおかれた「モニュメント」で贄として捧げれば(支払えば)、沙希のステータスを強化する特殊アイテムの購入もできる。
このようにアクションから戦闘スタイルに至るまでサバイバルを謳うなりのスリリングな遊び心地を持った作品に完成されている。そして、RPGツクール製という事前の印象を吹き飛ばす、本格的なアクションゲーム(アクションアドベンチャー)にもなっている。
それが本作最大の魅力だ。
RPGツクール製であることを忘れさせる、驚異の作り込み
特に操作性、戦闘周りの仕上がりが圧巻。これぞアクションゲームなプレイ感を実現している。移動も上下左右のみならず、斜め方向にも完全対応。移動速度もスピーディに加え、コマンド操作による高速移動、敵の攻撃に応じたワンボタンの緊急回避と言った特殊アクションまで用意されていて、上手く使いこなせば大胆な立ち回りも決められる。
もちろん、各種アクション(攻撃、姿勢切り替え)のレスポンスも素晴らしく、効果音の良さも相まって、単純に動かしているだけでも楽しいと感じられる手応えもある。さらには地形に応じて歩行音が変わるという、昨今の家庭用ゲーム機で発売されるアクションゲームを踏まえた演出も仕込むこだわりぶり。それもまた、動かす楽しさを引き立てる。
また、ツクールでアクションゲームを作るに当たっての難題……主にコマ飛びなどの誤差の発生を逆手に取る工夫が凝らされているのも秀逸。具体的には遠距離武器が推奨される戦闘で、距離を取ることによって接近時に起きやすい件の難題を最小限に抑え込み、駆け引きを表現しているのには逆転の発想とも言えるセンスを感じさせる。もちろん、近距離武器での戦いも僅かにコマ飛びが起きる所はあれど、違和感を抑えた駆け引きが表現されていて、細部まで調整して作り込んだことを察せる仕上がりになっている。
実質、RPG制作専門の『RPGツクール』でアクションゲームって無茶な……と、初見では思うだろう。同ツールで制作されたゲームを幾つか遊んだ経験のあるプレイヤーも、アクションゲームの細かい駆け引きが表現できるのかと、疑いの目で見てしまうかもしれない。
だが、手触りは紛うことなきアクションゲーム。軽快なレスポンスに縦横無尽に動き回れる仕組みも相まって、自作と錯覚するほどのものに仕上がっているのだ。「本当に?」と疑問は拭えないだろうが……言える事はただ1つだ。真相を知りたくば、すぐにでもゲームをダウンロードして遊ぶべし。オープニングイベントの後、移動が可能になった時、或いはその後の悪魔との戦闘を終えた時、ここまで記してきたことの意味を思い知らされるだろう。
単純にひとつのアクションゲームとしての完成度も高い。特にマップは非常に広く、且つ仕掛けのバリエーションが多彩で攻略し甲斐がある。ボス戦のほか、逃走にステルスなどのストーリーに応じたイベントも盛り沢山で、時々、プレイヤーをドキッとさせるホラーめいた展開をぶつけてきたりもして飽きさせない。
敵の悪魔も一発喰らうと致命傷となる攻撃を展開する凶悪系を始め、種類が豊富で、いずれも手ごわいメンツ揃い。時には無視して逃げるなど、これぞサバイバルな立ち回りが求められる場面が用意されているのも見事だ。
とは言え、基本は進んで倒すことが推奨されるバランス。強制的に戦闘となる場面も多く、後半はかなりアクションに寄っていたりする。
それでも、全体を通してプレイヤーを飽きさせないことに力を注いだ構成は圧巻で、マップスケールの大きさも相まって強烈なインパクトを放っている。チャプターに応じて舞台となる場所も変わり、その中に洋館というサバイ2バルなホラーの十八番が用意されているのも、色々”分かっている感”が滲み出ていて、特定の人はニヤニヤしてしまうこと必至。
他にも中盤以降、「共闘者」と呼ばれる仲間が参戦し、連携攻撃が可能になる要素も仕込まれていて、それも独特の遊び応えを演出。最終盤にも衝撃的な戦闘が。詳細は見てのお楽しみだが、人によっては二度見するほどビックリしてしまうだろう。
元々、RPGツクールで別ジャンルのゲームを作るというケースは結構あるので、本作が際立って珍しいという訳ではない。ただ、その作り込み具合は突き抜けており、操作感から誤差を抑え込む工夫に至るまで、尋常でない気合が込められている。意地でもアクションゲームを作り出すという、高い志が詰まっているのだ。
繰り返しになるが、少しでも気になるのなら、先も触れた序盤を触れ、そのまま悪魔との戦いに明け暮れて欲しい。気付いた頃には、最初のチャプターが終わっているぐらいにハマり込んでしまうはずだ。
驚異のボリュームで紡がれる、悪魔VS女学生の死闘
ゲーム部分の紹介にフォーカスしたが、ストーリーも非常に興味深い内容に仕上がっている。キャンプに来ていたら、急に悪魔たちがはびこる異界に来てしまったという序盤の時点で飛ばし気味だが、その後、どす黒い陰謀と悲劇が渦巻く驚きのイベントが連続。主人公の沙希にも意外な”特徴”があり、それが思わぬ形で一連の事態に絡んでくることになる。
さらにストーリーが進む度に現れる謎の少女にも意外な真相が隠されているのだが……これ以上はゲームをプレイし、確認いただきたい。特に終盤の”どんでん返し”も含んだ展開には、つい見入ってしまうはずだ。
ボリュームもメインストーリーだけで15~20時間以上と、やり応え抜群。しかも、クリア後にはより難しい難易度が解禁されるほか、沙希の幼馴染である朝陽を主人公にしたサイドストーリーも楽しめるようになる。
このサイドストーリーは2019年10月時点でも開発中の段階なのだが、沙希編とは全く異なるアクションが楽しめる”もう1つの新作”も同然な内容になっている。正直、沙希編だけでも相当なボリュームなのだが、それでも物足りないと感じたり、ストーリーをより深く楽しみたいのなら、ぜひ挑戦いただきたいところだ。
他にキャラクター周りは全てオリジナルというグラフィックも、1990年代初期のスーパーファミコンのアクションRPGを髣髴とさせる懐かしさがあるほか、音響面でも掛け声によるボイスが盛り込まれているなど、凝った仕上がり。
難易度も気軽に楽しめる「ビギナー」からサバイバルの真髄を味わえる「ハード」まで4種類が選べ、あらゆる嗜好のプレイヤーをサポート。クリア後にも先の隠しの難易度が条件達成に応じて追加。それが4つ(!)もあるというのにも驚きだ。
謎解き周りがやや入り組みすぎてたり、洋館以外のロケーションでは地形の構造が確認できる「マップ画面」がなくて探索がやや不便、「グラインド」なるノコギリで襲い来る敵が初見殺しすぎるなどの粗もあるが、ツクール製のアクションゲームとしては頭一つ抜けた完成度。盛り沢山のボリュームも相まって、濃すぎる体験を提供する。
基本、ホラー系に属する関係でその種の演出も多く、苦手な人には安易に薦められないが、まさに力作という表現が適した逸品。アクションゲーム好きのほか、ホラー作品好きならぜひ、遊んでみていただきたい。そして、RPGツクールの底力を体験しよう。
なお、本作をプレイするに当たってRTPのダウンロードは不要。
その点でも珍しい作品だったりします。
[基本情報]
タイトル:『Overnight Mare』
制作者: Ocea
クリア時間: 15~20時間(※時永沙希編)
対応OS: PC(Windows)
価格: 無料
備考: 出血・ホラー描写あり(※推奨年齢15歳以上)
ダウンロードはこちらから
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/16612
※フリーゲーム夢現(作品紹介のみ)
https://freegame-mugen.jp/action/game_6796.html