序盤と終盤のギャップが際立つ、”ロックな”フリーACT『疾風戦記フォースギア』
あえて筆者自身のことを告白するならば。
私はカプコンより発売されているアクションゲーム『ロックマン』シリーズが好きな人間である。そんなロックマンは、2011年に起きた”とある出来事”をきっかけに、1本も新作が発売されなくなる氷河期に突入してしまった。
2020年の今になっては、シリーズ最新作の発売によって過去の出来事となったが、思い起こすだけでも、あの頃はシリーズ好きの人間にとっては地獄に等しかった。しかし、このままロックマンの灯が消えるのは認めないとばかりに、インディーゲーム界隈が奮起。多くの影響を受けた作品が発売されるユニークな時期でもあった。
当もぐらゲームスにもレビューが掲載されている『20XX』、『魔神少女』シリーズは、そんな時期に生まれて話題を呼んだ作品の一例と言える。
フリーゲーム界隈においても、カプコン自ら『STREET FIGHTER X MEGA MAN(ストリートファイター X ロックマン)』なるフリーゲームを公式に配布する出来事があったりしたが、個人制作でも数多くのタイトルが出た。
そのひとつ、『疾風戦記フォースギア』を今回、ピックアップしよう。PC(Windows)向けフリーゲームとして、2016年2月23日にお披露目された作品だ。ちなみに『ロックマンクラシックスコレクション』なる、旧作のコレクションパッケージ発売の2日前である。
武装少女の戦いを描いたアクションゲーム
西暦20XX年。科学技術の高度な発展は人々に豊かさを与える一方、それを悪用する者も生み出すに至った。ある日、謎の秘密結社「ダイアーク」を名乗る一団が街を襲撃したのである。
彼らの狙いは、「青島ミユキ」博士が開発した半永久機関「フォースエンジン」を手中に収めること。
そのために4体のロボットを街へと放ち、大混乱を引き起こした。
博士の娘「青島サチ」は、友人2人を連れてその攻撃を逃げ切り、自宅へと駆けこむのだが、早々にミユキはサチにあるものを強引に押し付けた。
それは彼女が開発した戦闘スーツ「フォースギア」。
本人の意思も関係なく無理矢理装着されたサチは、ミユキから街を襲う連中を軽くノシって来いと言われ、玄関から追い出されてしまう。かくして、無茶苦茶な流れでダイアークと戦うことになってしまったサチ。果たして街の運命は。
こんないかにもロックマンらしい設定と、力技な展開を描いたオープニングと共に本作は始まる。そんな本作のゲームジャンルは冒頭でロックマンの名を挙げた通りなので、何も言わないことにしよう。察しろ。
基本、自由に選べる4つのステージの中から1つを選び、攻略していく。各ステージのクリア条件は最後に現れるボスを倒す。ストーリー上の最終目標は「ダイアーク」の親玉をシバきあげることだ。うむ、実に露骨。
システム周りも「バスターガン」によるショット攻撃、ボスを倒すと得られる属性付きの「チップ」、それを弱点のボスに使うと大ダメージが与えられる相性など、概ねそのまんまである。溜め込んだエネルギーを放つ「チャージショット」もある。
ただ、使う度、専用のエネルギーゲージ(フォースエナジー)を消費するのがちょっとした違い。イタズラに使いすぎると、ここぞという時に決定打を放てなくなってしまうのである。
一応、敵が落とすエナジー回復アイテム、メニュー画面にストックされる使い切りの回復アイテムを拾ったり、使ったりすれば回復できるが、基本的に乱用は控えつつ、適切なタイミングを狙って使っていくのが基本戦術になっている。また、ボスに弱点となる属性で攻撃する際にもチャージ攻撃が無くてはならない。なので、仮にボスの所に行き着くまでの間、エナジーを使い切ってしまっていると、厳しい戦いを強いられることにもなる。
これもストック式のアイテムがあれば挽回可能だが、それでもエナジー残量に関しては気を遣うことが試される。こんな具合にアクション、システム周りは元ネタに準じつつも、戦術面に関しては計画的な運用と適切な判断を試す、独自のバランスを施した仕上がりになっている。
また、主人公サチの武器もショット攻撃のみならず。近接武器「レーザーブレード」と言ったものが複数用意されていて、対応するボタンを押せば、瞬時に持ち変えられる。
さらにレーザーブレード以外の武器は、ステージ内を探索して手に入れる。基本、どこもボスを倒すのが目標で、ひたすら前へと進んでいく展開が基本にはなるのだが、クリアした後にも「新しい武器を探し出す」目標が残るようになっているのだ。そして、この武器を手に入れるに当たっては、「パワーアップユニット」による新しいアクションの解禁も必須。それに必要な換金アイテム「エネルギークリスタル(Eクリスタル)」の回収が必要にもなり、クリア済みのステージを何度かプレイすることも求められるのだ。
一応、武器も新たなアクションも入手・解禁せずとも進めていけるが、相応に厳しさが増していく設計。安定して進めていくならば全要素解禁を模索することになり、同時にそれまでステージクリア型だったのが、徐々に探索型の流れに変わっていくのである。
元ネタにも探索要素強めのシリーズ作が一部あるが、解禁されるアクションが「2段ジャンプ」だったり、いかにもそれらしいものに寄っているので、手応えは地味に違う。こう言ったレベルデザイン周りにも独自性を出す工夫が凝らされていて、見た目は元と一緒でも、難しさのベクトルが違う、似てるようで似ていない手応えに富んだアクションゲームになっている。いい意味でギャップを感じさせられる出来なのだ。
ステージクリア型……と思ったら探索型な変わり様?
本作の魅力はそんなギャップが大きい構成である。序盤は紛うことなきネタ元通りのステージクリア型アクションだ。自由に選べる4つのステージの中から1つを選び、属性効果を付与する「チップ」を手に入れ、他の3つをクリアし、最終ステージへとカチコむ。
物騒な言い回しを用いたが、気にしてはならない。
ところが、その最終ステージで多くのプレイヤーは出鼻を挫かれることになる。今の状態だと乗り越えるのが難しい、厄介な壁に直面するのだ。
どんな壁かは直接見てのお楽しみだが、「特殊なアクションがないと安定して越えられないのでは?」と思うこと間違いなしのものである。実際、かなり精密な操作を試される場面になっていて厳しい。アクションなしでも行ける余地はあるのだが、仮にそこでミスすれば、ステージ最初からのやり直しを強いられるのだ。
そりゃ当然だろと思うかもしれないが、本ステージではその場に辿り着くまでの間に”ボスとの再戦イベント”が用意されている。最初からになれば、それもやり直し。(正直、難点と評されても止む無い程度の)大きな負担がかかるのだ。なので、何度かトライ&エラーを繰り返す度に、こんな風に思うようになる。
「安定して突破するための策を用いなければ」と。
そこからクリア済みのステージへ再訪し、パワーアップのために必要なEクリスタル、武器集めに奔走するプレイスタイルに。ステージクリア型の流れが探索型及びアクションRPGの流れになっていくのだ。
この初見の印象が覆るのが面白い。作者のプレイヤーに不意打ちを喰らわせようとする、(いい意味で)嫌らしいまとめ方になっている。それによる難易度の急激な変化も痛快。難所という名の高い壁を簡単に乗り越えられた時は最たる一例だ。
攻略時間の大幅短縮が見込めるようになるのも見所。実は本作に登場するステージ、最初に通過した場所へ戻ってくる展開が頻繁に起きる。”遠回り”させる構造になっているのだ。
裏を返せば、端折れる余地がある。それを可能にするのが件の「パワーアップユニット」。普通に攻略すれば、難所を潜り抜けねばならないのを丸ごと”無かったこと”にできてしまうのである。もちろん、それによって難易度も急下降。時には新たな武器が手に入る道へ辿り着くこともある。
それもあって、本作に登場するステージ……特に序盤4ステージは、1回のクリアで全容が掴めない程度に入り組んでいる。終盤の壁にぶち当たることで、今までステージクリア型と見ていた風景が様変わりする、刺激的な展開が楽しめるのだ。
正直、文章で紹介してもピンと来ないかもしれない。むしろ、見た目に引っ張られて元ネタ通りの流れを想起するかもしれない。だが、実際にプレイすれば、明らかに違うことが分かる。そして、思い知らされるのだ。最初と最後のギャップの大きさに。
まさに似ているようで似ていない手応え。
オマージュ作品ながら、独自の手応えを持ったアクションゲームに仕上がっている。
また、ボスの強さもそんな違いを象徴する部分。強敵は設定通り強敵にする調整が施されていて、弱点の属性を突く戦い方であっても苦戦は避けられない。何より、チャージ攻撃という名の決定打が有限式だ。一応、エネルギー切れを避ける手段はあれど、残量を意識して使っていかなければならないだけに、元ネタと同じ感覚で挑んだりすればしっぺ返しを食らう。
この点でも本作のネタ元との違いを大いに感じさせられるはずだ。
粗削りながらも、独自の遊び心地を持つオマージュ作
とは言え、ボスは攻撃前の予備動作に乏しく、意図しないダメージを受けやすくされているのは気になる。特に「ルビーナイト」は、その動作がないことによるランダム性を不必要に高めていて、非常に戦いにくい。予備動作を付けるのが難しいのなら、攻撃速度を落として回避の余裕を作る、何かしら音を鳴らすなりの工夫を凝らし、ランダム性を抑えて欲しかったところだ。他のボスは及第点に収まっているだけに勿体ない。
パワーアップを整えるのを促す最終ステージも、せめてボスの再戦後にチェックポイントぐらいは置いても良かった。しかも、ここで再戦するボスが件の「ルビーナイト」なので、不必要に嫌らしさが滲み出てしまっていて厳しい。
他にショット時の打ち込み感、爆発演出の物足りなさ、件の2段ジャンプを始めとする「パワーアップユニット」を購入するのに必要なEクリスタルがやや多めな所も気がかりだ。Eクリスタルに関しては稼ぎポイントがある分、面倒臭さはある程度緩和されているものの、もう少し必要金額は落としても良かったように筆者は感じた次第だ。
そんな具合に気になった点を列挙してしまったが、ステージクリア型のようで探索型のようにも見えるステージ構成や壁にぶつかってからの景色の変わり方はユニークで面白い。ストーリーもノリは軽めで、メタ要素も満載の内容ながら、決める時は決めるヒーロー作品のツボも押さえた堅実な仕上がりになっている。
また、ボリュームも本編のステージは短めながら、先の探索型風の展開で奥行きが表現されているほか、特別な高難易度ステージが8つ用意されているので、極め甲斐は十分だ。高難易度ステージは、明らかに元ネタ外からの作品を模したステージが用意されているのもちょっとした見所である。(おまけに音楽までそれっぽいという徹底ぶり)
粗削りな所はあるが、元ネタへの敬意と違う遊び心地を表現する工夫はバッチリで、遊び応え十分のアクションゲームに完成されている。元ネタを知る人も、アクションゲーム好きも体験してみて欲しい侮りがたき1本だ。2020年現在では旧作に属するが、その独特な味わいは色褪せない。
さらに2020年には続編『疾風戦記フォースギア2』もリリースされた。
劇的進化を遂げた内容になっているのだが、続きはこの後の同作の記事にて。
[基本情報]
タイトル:『疾風戦記フォースギア』
制作者: Master.typeX
クリア時間: 1時間半~2時間(※本編)
対応OS: Windows
価格: 無料
ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/11264