ランダムダンジョンRPG『イリスのゲーム』 危険に満ちた迷宮を征くは、現世に喚び戻されし魂達
フロアがランダム生成されるダンジョンを次々と攻略しながらアイテムを集めパーティを強化していくランダムダンジョンRPGは、根強いファンが存在するジャンルの一つだ。今回紹介するフリーゲーム『イリスのゲーム』もこの形式に沿った作品だが、さまざまな独自要素や歯応えのあるゲームバランスにより、スリリングな戦闘や探索を楽しめるのが魅力となっている。
魔王城の最奥を目指すダンジョン探索RPG
本作の舞台となるのは、魔王によって闇に囚われた国、アンドール王国。主人公のイリスは魔王の城で道半ばにして倒れた者達の魂を現世に喚び戻して仲間にし、迷宮と化した城の最奥を目指す。ゲームの流れとしてはイリスを含めた4人パーティを組み、ダンジョンを下層へと降りていくという形だ。最初に選べるのは6人のキャラクターのうち3人だけだが、最終的には全員を仲間にしてイリス以外のメンバーを自由に入れ替えられる。
階層ごとにランダム生成されたダンジョンでは素材アイテムや“Mana”を拾えるほか、敵を倒すことでもこれらを入手できる。探索の拠点では素材とManaを消費して装備品を作成でき、レベルアップもManaを消費して任意に行う仕組み。こうしてパーティの戦力を強化し、一定階層ごとに待ち受けるボスを撃破してさらに奥へと進んでいく。
通常攻撃もMPもなし。ミニマルなデザインと奥深い調整が光るバトル
本作の戦闘はターン制のコマンド選択型だが、さまざまな点で独自性の高いものとなっている。まず大きな特徴として、通常攻撃が存在しない。また戦闘用の消費アイテムも存在せず、攻撃や回復などはすべてスキルで行う形だ。さらに、MP・SPといったスキルを使用するためのリソースも存在しない。多くのスキルは使用後に再使用できるまでのターン(CT)が設定され、さらに一部のスキルは戦闘開始から使用可能になるまでのターン(WT)が設定されている。こうした制限もだが、スキル自体の調整やシナジーによっても使い分けが促進されるようなデザインになっている。
たとえば強力なアタッカーである「リンドリント」は、威力はそこそこだが攻撃と同時に自身の攻撃力を上げられる攻撃スキルや、被ダメージが上がる状態異常「恐怖」を付与できる攻撃スキルを使ってから、より威力の高い攻撃スキルを使う、といったコンボ的な立ち回りが可能。「恐怖」が付与された敵への与ダメージが上がるパッシブスキルも習得するためさらなるシナジーもある。もちろん「恐怖」は他のメンバーに付与してもらうといった連携もありだ。
スキルはレベルアップで増えるキャラクター固有のものを4つまで、「魔導書」の装備で使える共通のものを2つまでセットして利用する形。強力なスキルは得てしてCT/WTが長いこともあって、比較的扱いやすい初期習得のスキルにも最後まで採用の余地がある。たとえばバランス型のキャラクターである「グラム」の攻撃スキル「スラッシュ」はCT/WTがなく「連続で使うと威力が上がる」という特性もあるため、CT/WTが長いスキルとの併用で隙を埋めやすい。
こうしたスキルを駆使して戦う敵の調整も絶妙。本作では敏捷のステータスで決まる敵味方の行動順と敵の行動名が明示される仕組みで、これらを把握して対策を練ることが前提となっている印象だ。ザコ敵ですら状況に応じた行動やグループでの連携を取ってきて、油断すると思わぬ大ダメージを喰らってしまう。敵の概要やステータス、状態異常の有効度は戦闘中にも確認できるため、こうした情報も駆使して戦っていくのが面白い。
ボスに至っては、それぞれにコンセプトのある(ときにはちょっと意地悪な)ギミックが用意されており、これを読み解くことが攻略の鍵となる。パズルチックだが完全に解法決め打ちではなく、編成次第でさまざまなアプローチが考えられるバトルデザインに仕上がっていると感じさせられた。レベルアップは戦闘参加の有無と関係なくManaを消費して行えるので、パーティ編成も含めた試行錯誤がしやすいのも嬉しいところだ。
引くか進むか。リスクが緊張感を生み出すダンジョン探索
ダンジョン探索ではボスの階層まで到達すると以後はそこから開始可能になるため、まずはそれを目指して攻略していくことになる。その前にザコ戦で全滅してしまうと、Manaを半分失って拠点に戻されてしまう。とはいえManaの半分と素材アイテムは残るので、全く無駄になるということはない。レベルを上げて装備を整え、さらに先の階層まで到達を目指す……というサイクルで攻略を進めていくことができる。
エンカウント方式はシンボルエンカウントで、敵は一度こちらを認識すると、かなり執拗に追い掛けてくる。エンカウントしたら基本的には逃走不可能で、戦闘中のスキル以外の回復手段は移動中の自然回復のみ。この回復量はあまり多くなく、さらに戦闘不能は回復しない。また、セーブは拠点およびボスの階層でのみ可能となっている。
こうした要素と、“探索の障害”に留まらず本気でこちらを全滅させに来るザコ敵が合わさって、ときにはパーティ壊滅寸前の状態で敵シンボルから逃げ回るというシチュエーションも発生する。とはいえ本作の敵シンボルの挙動はローグライクRPGのように「こちらが一歩動くと敵も一歩動く」方式なので、アクション的な操作の腕は必要ない。
ダンジョンには戦闘不能も含めてHPを全回復できる「ヒールスポット」やManaの損失なしにダンジョンから脱出できる「ポータル」がランダムに存在するので、これらの活用もポイントだ。もちろん、本当に必要なときに都合よく見つかるとは限らないのだが……。
また、探索を続けているとザコ敵が強くなっていく。ボスの階層が近付くとどうしてもそこまで駆け抜けたくなるが、とはいえ帰還できるときにしなければ思わぬ強敵に全滅のリスクも。パーティの状況に関わらず、引くか進むかの判断は問われ続けることになるだろう。
このように緊張感のあるダンジョン探索だが、MPや消費アイテムの概念が存在しない分、探索続行の可否を判断する指標となるリソースはHPに集約されている。意志決定の基準は「生き延びられそうか」とシンプルで、ヒールスポット到達により一発逆転を狙えるのも面白いところだ。
追憶の積み重ねで紡がれていくダークファンタジー群像劇
本作ではひたすら階層を降りていくダンジョン探索時はもちろん、ボス戦前などでも会話イベントの類は発生しない。拠点では仲間と会話できるが雑談程度で、キャラクターの深い背景まで伺い知ることは難しい。では本作はダンジョン探索と戦闘に特化した、シナリオ要素は薄いゲームなのか?というと決してそうではない。本作のシナリオは拠点の奥にある「追憶の間」にほぼ集約されている。
追憶の間では、レベルアップ時に取得できるアイテム「記憶のかけら」を消費することで、ノベル形式で語られる各キャラクターの記憶の一端を少しずつ垣間見ることができる。スマホゲームなどでもよく見かけるタイプのサイドストーリー……のようでいて、実はこれこそがストーリー本編だ。
“追憶”を読み進めることで、各キャラクターが魔王城で倒れるまでの道筋が見えてくるだけでなく、一見して関係あるようには見えなかったキャラクター達の間接的、直接的な繋がりや、王国が闇に囚われるに至った背景、さらには王国の歴史の裏に潜む神秘が徐々に明らかになっていく。
さまざまな立場からの視点が絡み合って紡ぎ出される群像劇を読み解いていくのが醍醐味であり、またそれぞれのキャラクターの、単純な善悪では計れない複雑な人物像が浮かび上がってくるのも趣深い。一方で追憶の閲覧は任意なので、読むタイミングも、読むかどうかすらもプレイヤーのスタイルで自由に決められる。
本作の公称プレイ時間は8〜12時間程度。ボリュームとしては中編といったところだが、常に緊張感のあるダンジョン攻略に好きなタイミングで読み進められるシナリオと、プレイの密度はなかなかに濃厚だ。
難易度は比較的高めだが、難易度設定を本作元来の「ADVANCE」と、それに比べて戦闘時の被ダメージが半減する「BASIC」から選択できる。BASICでも敵自体が弱体化されるわけではないので、本作の練り込まれたバトルデザインは十分に体験可能。とっつきやすいが深掘りするとダークファンタジーとして味わい深いシナリオも相まって、幅広いプレイヤーにお勧めできる完成度の高い作品に仕上がっている。ダンジョン探索RPGが好きならぜひプレイしてみてほしい。
[基本情報]
タイトル:イリスのゲーム
制作者:KEN氏
公称プレイ時間:8〜12時間
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/22583