ぶっ壊せトコロザワ!?衝撃の世界観と多彩なイベントで送る探索ADV『こちら、悪の組織Bag closure団』

アドベンチャー

その昔、埼玉県民は東京都民からそれはそれはひどい迫害を受けていた。
通行手形がないと東京に出入りすらできず、
手形を持っていない者は見つかると強制送還されるため、
埼玉県民は自分たちを解放してくれる救世主の出現を切に願っていた。

こんなあらすじと共に始まるのが、かの有名な埼玉県ディス漫画『翔んで埼玉』である。2018年には何を血迷ったか実写映画化されてしまった。傑作です。

そんな埼玉県をネタにしたゲームが2019年、なんてこった!
BOOTHで販売されていたのである!

その名も『こちら、悪の組織Bag closure団』。略して「バックロ団」。当もぐらゲームスでも紹介済みの『ヨルダケ』、『CONANNROOM』の作者じゃむさんっぽいど氏の個人サークル「バッタおいしい」制作によるアドベンチャーゲームだ。

この作品を今回、埼玉県民の筆者が紹介する!(小声)

4人の能力を駆使し、トコロザワのあちこちで犯罪三昧だ!

本作の舞台となるのは埼玉県……をモチーフにした架空の地。
「風の妖怪」こと、人間と似た姿の「シト」と呼ばれる生命体が生活を営む2つの島「トコロザワシティ」と「カゾ」。文化的で賑やかなトコロザワは、シトたちの栄えによって暮らしやすい土地になった。だが、繁栄の裏に影あり。貧富の差による差別の拡大、工場より続々発せられる有害な煙によって空が覆いつくされ、太陽の光が届かなくなるなど、様々な問題が起きていた。

そこで立ち上がったのが、4人のシトが所属するグループ「Bag closure団」。
生まれつきの童顔低身長を活かした子供のフリが得意な「ボス」。
メカの扱いとハッキング、閃光手りゅう弾の扱いに長けた紙袋青年「カスカベ」。
一見穏やかだが冷酷非道なサディスト格闘家美女「ランザン」。
超人的な運動神経と脚力を持った目つきの悪い女「サカド」。

彼ら4人が巻き起こすのはスリや窃盗、スパイ、施設爆破や脅迫、傷害などの悪行三昧の日々。かくして、トコロザワシティとカゾの未来をかけた大騒動が幕を開く……というのがオープニングのあらましである。

ところでトコロザワが繁栄した地なら、カゾはと気になったかもしれない。ズバリ、電気の通らない地下に広がるスラム街である。加須市民の皆さま、どうか寛大な心でお見逃しください。鯉のぼりアタックはお止めください。うどん早食い競争で「公正平等ゲーム」を持ちかけてみるのは一考の余地があるかもしれません。

とにもかくにも、ゲーム内容としては横スクロールスタイルの探索アドベンチャーゲーム。バックロ団の4人を交互に操作し、「ミッション」という名の”犯罪”を遂行していく。本編は複数の「chapter」で構成されており、基本的にトコロザワ内にある目的地(エリア)へ向かい、目標達成に挑んでいく形だ。

特徴としてはバックロ団の4人。ストーリー紹介の通り、それぞれが得意分野と固有の能力を所持。状況に応じてキャラクターを切り替え、仕掛けを解除したり、脅威を排除しながら進めていく形になる。電子ロックをハッキングする際はそれを専門とする「カスカベ」、狭い通路を通る場合は「ボス」……と言った具合だ。

また、ミッションの舞台となるエリアには警備員を始め、様々な脅威が行く手を阻む。これらに対しては「ランザン」の格闘攻撃、「サカド」の高速ダッシュなどの能力で対処する形だ。それらが象徴する通り、簡易的なアクション要素も実装。タイミングを見計らったり、ボタンを連打すると言った操作も求められるのだ。

無論、ダメージの概念もあり、警備員やトラップに触れるとダメージ。3回接触してしまうとゲームオーバーだ。また、エリア内には一部、クイックタイムイベント(QTE)もあり、これで操作を誤った場合もゲームオーバーになる。

それ以外では「公正平等ゲーム」での敗北がある。先ほど、カゾの話をした所で不意に名を出したが、何を隠そう本作の要素だ。ミッション終盤、そんな名が付けられた対戦ミニゲームのイベントが発生。相手との勝負になるのだ。

ミニゲームはchapterごとに異なるが、いずれも相手よりも多くのポイントを獲得した側が勝つルールだ。ただ、それぞれアクションゲーム的な操作や知力、戦略が試されるので容易ならざる作り。イタズラにガチャガチャ操作すれば、敗北を喫する。こんな山場なイベントもあり、意外にゲームオーバーの機会は多めなのである。(※中には「チェックポイント」が選択可能なケースもある。)

さらにセーブにもちょっとした特徴が。なんと有限式。「ツィキンラーメン」なる、なんだか”まんぷく”になれそうなラーメンを消費して行うのだ。

無論、使えばセーブできる回数は減る。なので、適切なタイミングを見計らって行わねば、やり直しの時に大きく巻き戻されてしまうことも。

横スクロール形式の点では『ヨルダケ』に近いが、一連の特徴が現す通り、本作はゲーム的な手応えを追求した作り。それも謎解きあり、アクションありとバラエティー豊かで、ネタ的な世界観とは裏腹の密度の濃さが際立つ内容に完成されている。

盛り沢山なイベントと驚きだらけのストーリー

ズバリ、本作の魅力もそこに集約される。多彩なイベントが矢継ぎ早に繰り広げられるので、プレイヤーを飽きさせない。しかも、ボリュームも大きい。平均クリア時間は約5時間以上。短編だった『ヨルダケ』、『CONANNROOM』をプレイされた人なら、思わず二度聞きしてしまう物量だ。

それだけでなく、特殊な条件達成でイラストが閲覧できるようになる「トロフィー」、ある手順を踏まないと辿り着けない隠しエリア、そして難易度選択機能と言ったサブイベント、やり込み要素も。特にトロフィーはコンプリートを目指す場合、入念な探索と情報収集が試されるため、かなりの歯応えを堪能できる。

難易度も3種類あり、最も高い「むずかしい」では「ツィキンラーメン」の最大所持数が1、体力の最大値が2の厳しい設定でchapterごとのミッションに挑む形になる。僅かな選択ミスが命取りになるので、プレイ中のスリルは常に最高潮。

まさに”至れり尽くせり”の極みな内容になっているのだ。
さらにchapterごとのミッション、エリア、対戦ミニゲームも固有のものを用意する個性付けを徹底。色使いが独特なドット絵で描かれた背景もインパクト抜群で、見ているだけでも楽しい。

そして、極め付け。ストーリーも濃い目である。世界観こそぶっ飛んでいるが、かつて文化的で明るい場所だったトコロザワを腐敗させた市長、その下に集う公的ガードマン派遣組織「ユニオン」に一矢報いるため、たった4人の悪の組織が暴れ回る、いわゆるディストピアモノ。地味に殺伐とした雰囲気も漂う内容になっている。

また、バックロ団の4人にも隠された過去があり、ゲームの進行に応じて掘り下げられていく。その中には不快な感情を煽るものもあり、彼らに若干の同情を抱いてしまうことも。素性不明な市長など、意味深な謎も散りばめられており、終盤には思わぬ形でそれが回収され、(半ば)ぶっ飛んだ結末を迎える。

台詞の量が膨大な所も、先のボリューム同様、作者の過去作をプレイされた経験があれば驚くところだ。このような埼玉県をネタにしたディストピアで彼らは何を成し遂げるのか。気になるのならぜひ、本編を確認いただきたい。ただ、念のためこれだけは言っておく。彼らはイタズラ好きな一面も持つ悪の組織だ。どういうことかはお察しのほどを。

ストーリーに関しては、ミッションと舞台となるエリアに合致した作りになっているのも細かい所ではあるが必見。こういう場所なら、こんな展開があるのだろう……という期待に応えつつ、安心させた所で”裏切る”構成には、一筋縄ではいかせまいとするこだわりを感じさせられること間違いなしだ。

それぞれのエリア、chapterにて登場するサブキャラクターも必見。バックロ団の4人が象徴する通りだが、いずれも埼玉県の市町村の名前が付けられている。埼玉県民なら、自分の地元がどうなっているのか期待しながらプレイして遊んでみるのも一興だ。

ただ、全部の市町村が登場する訳ではないのであしからず。

埼玉県民ならゾワゾワしちゃう怪作

一方で気になる箇所も。特にセーブは有限式ゆえ、使い所に迷って進め、ゲームオーバーになってしまった時の負担が非常に大きい。chapter終盤までノーセーブで通し、あと少しの所でしくじった時の脱力感は相当なものだ。

難易度「むずかしい」はさておき、他の難易度で遊ぶ場合は、選択肢が表示された場面の直前で必ずセーブすることを心がけることをおすすめする。こうすれば、極端な巻き戻しは防げる。ゲームとしても意図した警告になっているので、素直に応じよう。

また、会話シーンのテンポは率直に言って悪い。文字送り速度が遅め、かつ途中で読み送れないので若干ストレスが溜まる。早送り機能が備わっているのがせめてもの救いだが、途中の読み送りぐらいは対応しても良かったのでは、と思ってしまった。テンポに関しては、chapterクリアの度、タイトル画面へ強制的に戻されるのもやや不便。続けてプレイしたい人も踏まえ、進めるか終えるかの選択肢を用意しても良かったのではないだろうか。

他に操作はキーボード推奨なのだが、アクション的な操作もある点を踏まえるとゲームパッドへの完全対応を検討いただきたかったところだ。特にエンディング直前のイベントは素早い行動が試されるだけに、なおのこと非推奨が惜しまれる。もし、アップデートでの対応ができるのなら、検討いただきたい限りである。

あと埼玉県民的に凄く気になったのがそばの早食いゲームである。
そこ、うどんでは?(”加須うどん”で検索してみよう!)

最後に欠点と埼玉県的に引っかかった部分を連ねてしまったが、それでも遊び応え抜群、至れり尽くせりなアドベンチャーゲームであることは間違いない。
ストーリー的にもネタ満載、見所満載、そして埼玉県民、所沢と加須在住の方ならゾワゾワしちゃう内容。難易度も選べる設計なので、この世界観とゲーム内容に少しでも興味を抱いたなら、プレイしてみていただきたい力作だ。
さあ、ディストピアと化したトコロザワで悪行三昧としゃれこもう!

なお、BOOTHでは製品版のほか、chapter1のみを遊べる無料体験版も配信中だ。ゲームの手触りや雰囲気を先に確かめたい場合はそちらをどうぞ。

[基本情報]
タイトル:『こちら、悪の組織Bag closure団』
作者:バッタおいしい(じゃむさんっぽいど)
クリア時間:5~7時間半
対応OS:Windows
価格:¥1000(パッケージ・ダウンロード版共通)
備考:パッケージ版のみ特典ポストカード同梱、犯罪・暴力・出血表現あり

※購入はこちら(体験版ダウンロードも可能)
https://booth.pm/ja/items/1683399

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