小さな島の”いつもじゃない日”を描いたおはなしアドベンチャー『ちょっとび! ~ ココとゆめのたびびと ~』
動物のようで人間のような不思議な生き物「ちみっこ」が住む小さな村で、子供たち数人がかくれんぼを楽しむ日常風景を綴った箱庭短編アドベンチャーゲーム『ちょっとび!』。
当もぐらゲームスでも2019年5月4日に取り上げた同作だが、その続編兼パワーアップ版が2020年8月9日、颯爽と登場した。
その名も『ちょっとび! ~ ココとゆめのたびびと ~』。
前作同様、Windows PC用のフリーゲームとして創作物総合マーケット「BOOTH」と作者にわのこ氏の「pixivFANBOX」で公開されている。また、有料版も販売中だ。(※内容に関しては無料、有料共に差異はない)
小さな島の日常を覗く、ほのぼのアドベンチャーゲーム
元気な女の子「ココ」は、島のみんなと毎日楽しく暮らしていました。
そんなある日、島に「たびびと」がやってきました。
いつもの毎日に、ちょっとだけ”いつもじゃない日”がやってきたのです。
このようなオープニングと共に始まる今回は、かくれんぼをするだけのゲームではない。「おはなしアドベンチャー」なる、適度な探索要素を含んだアドベンチャーゲームへと大きく刷新されている。
ストーリー、舞台設定も前作と同じようで異なる。
登場人物たちは主人公の「ココ」、いたずらっ子の「ピーにゃん」を始め、数名のキャラクターが続投しているが、舞台となるのが「こっちじま」と呼ばれる小さな島で、森、灯台、海岸と言ったエリアや建造物が新たに追加。さらに登場人物たちが暮らす家の配置も変わり、マップ全体のスケールも拡張されるなど、ほぼ別物になっている。
言うならば、今作が本来の『ちょっとび!』と言ったところだ。実際に作者のにわのこ氏も自らのpixvFANBOXで「世界観自体が一新しているので、キャラクターが同じというだけで前作と相互性はありません。」と明言しており、前作を全く遊んだことのない人でも入っていける内容に仕上げられている。ただごく一部、前作にちなんだネタがあるので、あらかじめ遊んでおくと、より楽しめるかもしれない。そんな前作のダウンロードは「BOOTH」のこちらのページからどうぞ。
本題に戻りまして。ゲーム本編は島で暮らす住民と会話したり、都度発生するイベントをこなしながら進めていく形になる。ストーリー的な最終目標は明示されていないが、キーパーソンである旅人「ウール」にちなんだイベントを見届けるとエンディングとなる。そのために様々なイベントを発生させて攻略しては、本編の進展を示すキーアイテムを集めていく。
今回は会話、探索を通してアイテム(もちもの)が手に入る。このアイテムを特定の人物へ渡すのも可能で、その過程を踏んでイベントを進展させるという、アドベンチャーゲームらしい展開が繰り広げられるようになっている。
関連してアイテム用のメニューウィンドウも実装。ここでアイテムを選んで「見せる」のコマンドを決定すれば相手へと渡せる。ちなみにイベントの進展と無関係だった場合は、そのアイテムに対するキャラクターの反応(コメント)が返ってくる。
反応が返ってくると言えば、前作の売りでもあったマップ上の小物を調べるとココが個別のコメントを返す要素だが、これは今作でも健在。しかもマップの拡大、アイテムの登場でその物量は約2~3倍に。全てを調べ尽くすだけでもかなりの時間を要するボリュームだ。
関連して本編、メインストーリーのボリュームも短編から中編規模に拡大。イベントにもマップの探索、軽めの謎解きが新登場し、ゲーム的な遊び応えも強化されている。
そして、演出面でも会話ウィンドウにキャラクターの顔グラフィックが追加。表情も会話の内容に応じて変化するなど、細部にもこだわった仕上がりになっている。
前作もキャラクターのドット絵、小物に対する反応においてこだわりが光る内容だったが、今作はそこにさらなる見所をプラス。紛うことなき正統進化系にして、本来の『ちょっとび!』ここに在りと豪語するがごとし新作に完成されているのだ。
より深まったストーリーと見どころの増したゲーム部分
魅力は前作にも増して深まったストーリー全般。そして、「小さな日常を覗く」というコンセプトに沿ったアドベンチャーゲームとしての基本設計と遊び応えだ。
ストーリーは主にキャラクター、世界観全般の描写がより一層深まった。設定上仕方がないとは言え、前作はかくれんぼ参加者と非参加者との間で掘り下げ具合に差が出てしまっていた。今回は「島に旅人がやってきた」との大筋に沿い、島に暮らす一人ひとりの日常、関係性を描くことに徹したオムニバス形式の構成を取っているので、前作以上にその人となりを知れるようになっている。
前作の事前知識が必須となる描写を抑えているため、今回が初見のプレイヤーも気兼ねなく彼らの一挙一動を楽しめるのも嬉しいところ。個性付けが非常にしっかりしているので、ついつい話しかけたり、アイテムを渡した時の反応を見たくなってしまう。
日常を描いた作品は、いかにキャラクターを魅力溢れる存在に仕立て上げられるかだが、前作を含めてこの『ちょっとび!』という作品はその醍醐味を完璧に押さえていて、どのキャラクターも強い印象を残す存在となっている。もう、見るからに面白そうな雰囲気をまとって、イベントで期待に違わぬやり取りと反応を見せてくれるので、ストーリー以上にキャラクターに焦点を当てた類の作品(具体的には4コマ漫画)が好きな人なら、心底たまらないひと時を味わえるはずだ。
前作経験者の視点としては、新たな一面を見せるキャラクターが何人かいるのも見所。特に前作では外野の位置付けだったアヒル2人の内の女の子「ペーコ」に関するイベントは要チェックだ。
また、アドベンチャーゲームとしての作りも申し分ない。特にあまりストーリー進行を急かされないのが秀逸。基本的にキャラクターたちとやり取りしながらマップを探索したり、アイテムを見つけてそれを渡すことの繰り返しなのだが、「次はこうしろ」や「ここへ向かって」などの指示、行動範囲の制限が発生しないので、自由気ままに進めていける。のんびり島を歩いたり、友達の家にお邪魔したり、小物を調べたり、遊具で遊んで時間を潰すなど、プレイヤーの思うがまま楽しめる作りになっているのだ。
公称ジャンル名と一緒に「小さな島の日常を覗く」と掲げられているが、まさにそのコンセプトに適した設計で、ストーリーもいいけど島の様子も眺めながら、ゆっくり楽しんで欲しいとの思いを感じさせられる作りになっている。指示や行動範囲制限が無いなりに入念な探索と情報収集が試されるのも、昔ながらのアドベンチャーゲームらしい遊び応えに富んでいてユニーク。
裏を返せば、長期間ゲームから離れてしまうと、次に何するか分からなくなりやすい難点もある。指示や制限を設けなかったなりに、進行時に右往左往しやすいのも、イベントを詰まらず追っていきたい時はストレス要因になる感じだ。せめて、メニュー画面側に「ToDoリスト」的なものがあれば、多少軽減できたかもしれないのだが、残念ながら未実装。
ただ、あえて廃したことで島の日常を覗く楽しさとのんびりとした雰囲気が作り出されているのも事実なので一長一短。そのような新しい粗も生まれてしまっているが、前作の物足りなかった部分はきちんと補強され、ゲーム的な手応えも向上。そして、キャラクター同士のやり取りや雰囲気を楽しむ作品としてのストーリー構成の刷新、イベントの増量によってさらに磨きがかかっており、前作経験者から未経験者双方を満足させるものになっている。
少しでもキャラクターたち、世界観に興味を抱いたのなら、前作の経験有無を問わず、ダウンロードして島に訪れてみていただきたい。主人公のココを始めとする愉快で可愛いキャラクターたちが楽しいひと時を提供してくれるはずだ。
ちょっぴり不思議な要素もプラスされたパワーアップ版
前作絡みの要素で、ボリュームアップしたココの反応も相変わらず楽しく、数の多さから余すことなく確かめたくなる魅力がある。調べた際の台詞が専用の吹き出しウィンドウで即座に表示されるようになるなど、地味ながら微調整が入り、テンポ良く一連の反応を楽しめるようになっているのもナイスな改善点だ。
そして、相も変わらず主人公のココは明るくてお茶目。ただ、自宅の2階からジャンプして飛び降りたり、ハイテンションに挨拶したりするアクティブな一面はちょっとばかり鳴りを潜めてしまっていて、前作経験者は若干の物足りなさを覚えるかもしれない。実を申しますと、筆者はそのひとりです。
さらにストーリーも基本、島の住民たちの日常を描くことに焦点を当てているためか、大筋の旅人「ウール」に関するイベントは少々アッサリ気味。ただ、終盤には世界観の不思議に迫る気になる展開も。エンディングも若干、不気味な展開が用意されているので、ほのぼのとした雰囲気に魅了されたなら少々、面食らうかもしれない。なお、今回もエンディング分岐はあり。件のウールが強く関わってくるので、もし全部を見る場合は時々、彼の様子を見に行ってみるといいかもしれない。
大分紹介が前後したが、件のウールを始め、新キャラクターも複数名登場。本筋への関わりは薄いのだが、個性の強さは既存のキャラクターたちと引けを取らないので、ぜひ一挙一動に注目してみて欲しい。
全体的に続編としても、アドベンチャーゲームとしても完成度は高く、ボリュームもゆっくりで5~6時間、早くても2~3時間と大幅に増え、申し分ない満足度が得られる本作。前作同様に集中力と精神力をフル活用するゲームで疲弊した時、癒されたいと思った時には迷わずプレイしてみて欲しい、こだわり尽くしの傑作だ。
好奇心旺盛な女の子と共に、のんびりとした雰囲気の島を巡りながら、日常の様子を眺めてみよう。時には「ピーにゃん」を始めとする友達とも遊んでみよう。
……あ、またやってしまった。
フォローしておくと、今回の彼はちょっとカッコイイぞっ。
[基本情報]
タイトル:『ちょっとび! ~ ココとゆめのたびびと ~』
作者:にわのこ
クリア時間:2~6時間
対応OS:Windows
価格:無料(※有料版は100円)
ダウンロードはこちら
※BOOTH
https://booth.pm/ja/items/2277197
※pixivFANBOX
https://niwanoco.fanbox.cc/posts/1239686