母のため、人類抹殺を目論む姉妹AIの物語。鮮烈なビジュアルと高い中毒性が光る探索ADV『天は長く地は久し』
はるか未来。
生産都市「ムラダーラ」で【ツモイ】と呼ばれる人工知能が製造された。
劣った人間を素材に造られた【ツモイ】はある日、【モモ】と【オク】と呼ばれる姉妹AIを自分のコアより生み出す。やがて生み出された姉妹は母の命を受け、街を支配し、住民の人間たちを虐殺し始めた。突然の事態に驚いた人間たちは人工知能を破壊しようと行動を起こすも、ムラダーラ全体を支配した彼女たちに全く歯が立たず、最終的にひとり残らず殺されてしまう。
街の外部に住まう人間たちは事態を受け、街ごと人工知能を封印する作戦を決行。防護壁が作動し、街は内側に閉じ込められるに至った。だが、その影響で街の全体には有害なナノマシンが充満。人間が足を踏み入れることも構わぬ環境へと変貌した。
それから20年の月日が流れるも、【モモ】と【オク】は、母【ツモイ】の願いを叶えるため、変わらず人類抹殺計画を推し進めていた。そして始まる、街からの脱出作戦。
果たして、その目論見は成就するのか、それとも……?
おぞましいオープニングと共に始まる『天は長く地は久し』は、2020年12月11日より「ゲームアツマール」にて公開中の無料のブラウザーゲーム。SF、時間制限、探索の3つをテーマとする、『RPGツクールMV』製アドベンチャーゲームである。
制限下でもがきつつ、行動範囲を広げる探索ADV
オープニングの通り、作中の主人公は人類抹殺を目論む人工知能の姉妹。そのひとり(?)【モモ】を操作し、舞台となる生産都市「ムラダーラ」からの脱出を目指す。
具体的には、脱出に必要な4つのアイテムの入手に挑む。流れとしては「本体コア」と称された拠点マップから、ムラダーラの街へと移動。そのまま【モモ】のデータを転送した「疑似体」を動かしてマップを進み、アイテムの捜索に取り組んでいく形だ。
だが、疑似体には問題点が。ひとつに重い(鈍い)!
疑似体は「本体コア」の無線通信と同期して稼働する仕様のため、その距離が離れた街の中では通信速度が低下。それが歩行速度という形で現れるのだ。現実のWi-Fi通信と同じ、と例えれば想像しやすいかもしれない。そのため、ゲーム開始間もない初期段階の歩行速度はとんでもなく遅い。走ることすらできないほどだ。
ふたつに活動時間に制限あり。
街中には有害(ただし主人公2人には無害)なナノマシンが充満しているのだが、その空気中の濃度が低いと活動時間が限定されてしまう。初期段階であれば、たったの10秒。スタート地点からほんの少ししか動けないのだ。
そして極め付け、耐久力皆無。
トラップなどに接触すれば一瞬で崩壊してしまう。
このような問題を抱えたもので街中を巡り、アイテム捜索に挑むことになる。「無茶言うな!」と叫びたくなるが、あくまでも最初の頃だけの話。一連の問題は疑似体へとデータを送る大元、「本体コア」の強化を図ることで解決できる。
本体コアこと拠点のマップには全部で12個の操作盤が設置されており、これに「生体ナノマシン結晶」、またの名で「ジェム(JEM)」を注ぎ込むことで、それぞれの操作盤に対応した性能の強化を行えるのだ。それと同時に疑似体の移動速度、活動時間、耐久力も上昇。徐々にではあるものの、広い範囲の探索が可能になっていくのである。
そのため、本作は拠点から街へ降りてジェム集めとアイテム探しに勤しみ、時間切れなどでコアへ帰還したら性能を強化し、再度街へ降りて作戦の続き、という過程を繰り返しながら進めるのが基本になる。いわゆる「トライ&エラー」をキモにした探索アドベンチャーゲームとなっているのだ。
また、ストーリー上では人間を虐殺したとの設定はあれど、本編に戦闘要素はない。道中、探索を邪魔するメイドロボなる敵は登場するが、逃げて対処することが中心。基本はマップを動き回ってジェムを集め、色んな所を巡ることに特化するので、遊びとしては素潜りによるお宝集めをするに近い感覚になっている。
操作も移動以外のことはほぼ求められないため、ゲームデザイン的にもシンプルな設計だ。
圧倒的な探索の中毒性、そして鮮烈なグラフィックと世界観
本作の魅力は一連のシステムによって演出された探索の楽しさ、中毒性の高さである。
最初はスタート地点から僅かしか動くことの叶わない疑似体が、性能強化と同時に広い範囲を受けるようになるという、明確な成長が示される設計なので、とにかくマップを歩んでいくのが楽しい。もっと先へ、どんどん先へと、時間を忘れて延々と繰り返してしまう中毒性と面白さに秀でている。
特に強化と関連する「ジェム」の回収がその魅力を際立たせている感じだ。ジェムは基本的に回収できるのは1回限り。拠点へと戻って、再び街へ降りたとしても、回収済みのジェムはマップ上から完全に消え失せるようになっている。さらなるジェムを手に入れたいのなら新たな道順を辿るか、もしくは探索範囲を広げるしかない。そのために性能を強化するしかない。究極的にはもっと高価なジェムが見つけられるほどの力を得るしかない。
そんな動機付けを促す要素として見事に機能しているのだ。これもあって、探索範囲を広げられた時の嬉しさもひとしお。何せ、新たなジェムを回収し、さらなる強化を図るチャンスが到来するのだ。ウキウキ状態になるのも無理はない。
回収の行為自体は疑似体で直接触れるだけと、まさに単純の極みなのだが、成果がハッキリしているのもあって単調になりにくく、楽しんで取り組んでしまう。この辺の構造は、いわゆる「ドットイート」と称されるアイテムの全回収を目指すアクションゲームに近いものがあり、それを探索アドベンチャーの形へと落とし込んだという点で、なかなか興味深い仕上がりとなっている。時間制限ありの探索というネタ自体は真新しいものではないが、本作はその楽しさを引き立てる工夫が優れており、独特な面白さと中毒性が演出されている。
また、実は強化した性能は1からやり直すことも可能。ある程度進めると、その機能を使った強化の組み直しも試され、その過程で一時的にジェムの回収量を上昇させるという、今後を見据えた一手も打てるのだ。
そう言った攻略も実践できるなど、あらゆる面においてプレイヤーの欲求をコントロールするのが巧い。あれこれ試したくなる面白さに富んでいるのである。実際に体験すれば、本当に時間をグイグイ吸われ、マップを歩み続けたく、色んな強化パターンを試したくなるので、ぜひ一度触れてみて欲しい。怖いぐらい没頭してしまうはずだ。
また、舞台となるムラダーラのマップも罠あり、前述のメイドロボが邪魔してきたりと、細かく入り組んだ作りになっていて探索し甲斐がある。ある程度進むと、スタート地点を変える転送装置(ワープポイント)が使用可能になったり、性能強化と同時に通れるようになる近道があったりと、繰り返しプレイの負担を軽減する配慮、強化の利点を訴えるポイントが凝らされているのも秀逸だ。探索に重点を置いたゲームだからこそのこだわりが滲み出ている。
そして、ここまでのスクリーンショットの通りだが、グラフィックも圧巻。緑を基調とした禍々しく、どこか懐かしい香りをも漂わせた独自のビジュアルを実現している。キャラクターのドット絵、マップ上の風景も大半がオリジナル。さらにエリアも工場、地下水道、駅などバリエーション豊かで、全部が緑に染まっているので、異様な雰囲気を醸し出している。変貌を遂げた各地の模様を眺める楽しみもあり、それがまた探索を進める動機を促す要素として機能しているのも面白い。インパクトに限らず、ゲームとしての楽しみも引き立てるその工夫には、本作に込められた並々ならぬ気合を実感させられるはずだ。
ビジュアルの強烈さが匂わす通りに世界観、ストーリーも異彩を放つ出来。始まり方こそおぞましいが、探索が進むにつれて街中の人間たちの闇が暴かれていく構成になっており、徐々に主人公たちと母である人工知能に共感してしまう衝撃の内容になっている。特に街中に散乱した白骨死体を調べた際に見られる「残留思念」の内容は、そんな思いを加速させるエグいものが満載。生体ナノマシンや疑似体など、設定面もSF全開、さらに少しだけファンタジー要素も散りばめられた独特なもので、強い印象を残す。
人類滅亡を目論むAI姉妹が辿る、残酷な運命を描いた展開の数々も見所。思わず胸を締め付けられる驚きの場面が連続するので、一瞬たりとも見逃さず注目いただきたい。
なお、今後のアップデートでさらなるエンディングの追加が予告されている。あえて追加まで待つのも手だが、執筆時点で見られるエンディングも十分に見所のあるものになっているので、先んじて確かめてみることをおすすめする。例によって、詳細は見てのお楽しみだ。
お願い。この姉妹を助けてあげて。人間を全員殺して。
ストーリーのボリュームもゆっくり進めて4~5時間ほどの中編規模。ただ、探索し甲斐のあるマップと高い中毒性もあって、密度は非常に濃い。また、街のあちこちに隠れた自立型お手伝いロボット「チマ」の回収、実績のコンプリートなど、やり込み要素も豊富で、それらも含めての攻略を目指せば、申し分ない手応えも得られる作りだ。
なお、実績コンプリートに関しては、強化性能のひとつに一部実績の獲得をできなくするものも紛れ込んでいるので、攻略時はご注意を。ゲーム中にも警告が出るが、この強化だけはやり直しの対象外にされているので、判断は慎重に。
他に音楽も子守唄風のボーカル曲中心で構成されており、主人公2人の親である【ツモイ】がどこかで見守っているかのような雰囲気を醸し出しているのも印象的。繰り返しプレイする性質上、耳に焼き付きやすいのもちょっとした魅力である。
総じて遊び応えよし、見た目も良しの優れた完成度を誇る本作だが、後者に関してはこだわりすぎた反動もあり、スペックの低いPCではコマ落ちが生じやすい。このためPCでのプレイが推奨される点も、スマートフォンなどで「ゲームアツマール」のゲームをよくプレイする人にはハードルを高く感じてしまうかもしれない。
また、この見た目が象徴する通りに目にも結構負担がかかる。ゲーム側に明るさの設定などもないので、もしプレイしてきつく感じた時はPC側の明るさ設定をいじる、或いは休憩を挟むようにするのがいいだろう。
ゲーム部分でも転送装置のポイントを決める画面の使いにくさ、メイドロボの執拗さなど、気になる箇所はある。特にメイドロボは発見されれば、ほぼ確実に倒される点で苛烈すぎるきらいがある。一応、対処用の能力も用意されてなくはないのだが(しかし、その能力を習得してしまうと……)、この性能を思うと配置数は抑えるなり、配慮して欲しかったところである。特に駅のマップ、入り口付近は1~2体程度で十分だったように筆者は感じた次第だ。追跡時の執拗さももう少し抑えていいように思える。
そんなこだわりの弊害みたいな難点もあるが、全体的には遊び応え、中毒性共に抜群の力作探索アドベンチャーゲームに仕上がっている。ゲームのみならず、世界観やストーリーも凝った仕上がりで、特にディストピアをテーマにした作品が好きな人にはたまらない要素が揃っている。ゲーム重視からストーリー重視の人まで、きちんとフォローしている本作。いずれかの要素に惹かれたのであれば、ぜひプレイいただきたい1本だ。愚かなる人類の惨殺を目指す姉妹の奮闘と、その運命を見届けよう。
[基本情報]
タイトル:『天は長く地は久し』
作者:11t
クリア時間:4~5時間
対応OS:Windows、macOS(※スマートフォン、タブレット非推奨)
価格:無料