往年の名作への憧れほとばしる、”疑似”携帯ゲーム機風骨太RPG『Genealogy of the Brave』
1989年に発売された任天堂の携帯ゲーム機『ゲームボーイ』。同時発売タイトルは『スーパーマリオランド』、『ベースボール』、『アレイウェイ』、『役満』の計4タイトルで、以降も記録的なヒットを飛ばした『テトリス』を始め、アクションにパズル、テーブルといったジャンルのゲームが相次いで発売された。
そんな流れの中、初のロールプレイングゲーム(RPG)として登場したのが、スクウェア(現:スクウェア・エニックス)の『魔界塔士 Sa・Ga(サ・ガ)』だった。
同作は携帯ゲーム機向けに最適化された作りと独創的なゲームシステム、世界観とストーリーなどで好評を博し、制約のある携帯ゲーム機でも本格的なRPGを作れることを実証する形になった。後年には続編『Sa・Ga2 秘宝伝説』が発売され、サガは名実共にスクウェアを代表するシリーズ作へと成長する。
さらにこの『魔界塔士 Sa・Ga(サ・ガ)』の誕生と成功が、今や世界的な人気を誇る育成RPG、ポケモンこと『ポケットモンスター』の開発を後押しさせる形になったという話を同作の生みの親である田尻智氏は語っている。(※参考リンク)
2021年現在はNintendo Switchでも遊べるようになった『魔界塔士 Sa・Ga(サ・ガ)』を始めとする初期のサガシリーズ3作。
その3作の中でも、取り分け人気が高いのが続編の『Sa・Ga2 秘宝伝説』である。
そんな『Sa・Ga2 秘宝伝説』のようなゲームを作ってみたいとの憧れを胸に、ひとつのWindows PC用フリーゲームが制作され、2021年5月16日に公開された。
その名も『Genealogy of the Brave』、通称「ジニブレ」だ。
勇者と魔王の王道な物語を癖のあるシステムで紡ぐRPG
遥か悠久の昔。世界は強大な力を持つ魔王の脅威に晒されていた。
人間、獣人、アンドロイドの異なる種族からなる勇者たちは、彼の者の世界征服を阻止するために立ち上がり、辛くもこれに勝利。平和を勝ち取った。それから数百年の月日が流れたある日、魔王が復活したとの噂が世界中に広まる。
そして現れる、魔物たちの群れ。人々の暮らしは脅かされ、再び恐怖と不安が世界を包み込む。さらに「ヤーマン王国」では、魔王配下の魔物たちによって王女が誘拐される事件も起きる。
途方に暮れた国王は、勇者の末裔を城に召還。王女救出の命を下す。これを機として、勇者と魔王の戦いが再び幕を開けたのである。
ファンタジーの王道を地で行くオープニングと共に始まる本作は、トップビュー(見下ろし視点)で展開されるRPG。プレイヤーは勇者の末裔たちを操作し、世界各地の様々な土地や街、洞窟を始めとするダンジョンを巡りながら、復活した魔王の討伐を目指す。
『Sa・Ga2 秘宝伝説』に影響を受けた作品のため、システム周りは同作を強く意識。サガシリーズと言えば、経験値やレベルの概念が存在しないのが定番だが、本作もそれを踏襲。特定の武器、魔法を使い込んだり、敵からダメージを受けるなりして各種ステータスを上げ、強化を図っていく仕組みになっている。
厳密には人間種族はそのような形で強化を行う。
残る獣人、アンドロイドの場合は異なり、前者は敵を倒した際に手に入る「肉」を食べ、それによって魔物に変身することでステータス強化を実施。後者は複数の武器、防具類などを装備し、それぞれに設定された値を上乗せしながら強化を図っていく形になっている。なお、主人公と仲間3人の種族は固定。加入タイミングもストーリーの進行に応じて実施される方式。そのため、ゲームスタート時も1人で始まる。
ネタ元を知る人なら、「子供の旅立ちが1人で大丈夫?」と物申したくなるかもしれないが、上のスクリーンショットをご覧いただきたい。この通り、本作の主人公格に該当するキャラクターはベテランの風格とほのかな殺気を漂わせた人物だ。
1人でも何ら問題は無いことは察しただろう。ご安心いただきたい。
戦闘はランダムエンカウント形式で発生。進行は「すばやさ」のステータスが勝るキャラクターから行動していく、伝統的なターン制になっている。攻撃はあらかじめ装備された武器か魔法を選択・決定して実施。すなわち、武器か魔法が装備されていないと攻撃すらできない。さらに武器には耐久度も設定されているので、使い続けるといずれ壊れて消失する。これを踏まえて、戦闘では予備の武器も押さえておくことが求められる。
また、装備欄には最大8つまでの武器、防具、魔法、アイテムを装備可能。武器、魔法、アイテムは装備するだけ戦術の幅が広がることを意味するほか、ステータス強化のされ方も変わってくるため、それを踏まえた選択と判断が重要だ。
ほかに本編進行も序盤はストーリーの流れに沿う形となるが、それを乗り越えた後はプレイヤーの気持ちの赴くがまま進行可能。パーティメンバーが4人集結した後はさらに自由な行動が可能になり、危険な場所へも容易に行けてしまう。この設計を踏まえてかストーリーも最小限の内容に留め、過剰な行動制限を抑える配慮を徹底。
全体としては『Sa・Ga2 秘宝伝説』のオマージュに徹し、ある程度の差異も施す、懐かしさと手ごわさが入り交じる独特なRPGに完成されている。
ここまでのスクリーンショットの通り、画面構成も携帯ゲーム機風のフレームで囲ったものにデザイン。しかも、フルスクリーンに非対応に加え、十字キーを除く各種ボタンをマウスでクリックすれば、それぞれに当てられた動作をする仕掛けも凝らした設計だ。
ちなみに同梱されている説明書(PDFファイル)もこんな感じである。
本編に限らず、このようなゲーム以外の箇所にも”当時らしさ”を追求した姿勢には、あの頃の雰囲気を持ったゲームを作るという確固たるこだわりを実感させられるだろう。
あの頃らしい手応えと、今の時代らしい遊びやすさの両立
本作の魅力は往年のRPGらしさを追求しつつ、遊びやすさにこだわった作りである。取り分け秀逸なのは、緩やかに自由度を高めていく段階形式を徹底した本編構成。前述の通り、序盤は主人公の一人旅で、行動可能な範囲は大幅に限定される。
そこを乗り越えて1人目の仲間が加入すると、そこそこ広範囲に移動可能な場所へと舞台が移行し、好きなダンジョンから攻略を進めていけるようになる。そうして1人、また1人と仲間が加入し、4人全員が揃うと、現在地からより遠くの場所へと行けるようになると同時に「船」が解禁。以降、舞台となる世界全体への移動が可能になり、色んな街やダンジョン、果ては危険地帯まで容易に行けるようになるのだ。
そこから先の攻略はほぼプレイヤー任せ。厳密にはひとつの目的を果たすべく、行動していくのだが(さらにこれでも足を踏み入れられない場所がある)、ストーリー的な進行ルートの固定も何もないので、どこからでも攻略可能。まさに自由な冒険が楽しめるのである。
このゲームの基本に慣れさせつつ、自由度を上昇させていく流れが凄く自然に作られており、戸惑いなく本編の進行と攻略に集中できるようになっているのが見事。それでいて、往年のRPGらしく凶悪な敵が蔓延る危険地帯を設けてプレイヤーを貶める罠も用意。遊びやすく、取っ付きやすくしながら、牙は削らないという狙い澄ました設計が図られていて、良くも悪くも楽しく絶望的な冒険が繰り広げられるようにまとめられているのだ。
さらに素晴らしいのが、”詰み”を徹底的に防止する配慮が凝らされていること。
件の罠の存在もあり、本作の戦闘は雑魚敵との戦いでも油断すれば全滅しかねないバランスになっている。だが、全滅してもペナルティは無い。以前、寝泊まりした宿屋に戻されるだけ。戦闘を通して得られたお金、強化されたステータスも維持。良心的な仕様になっているのだ。武器の耐久度もそのままな点で見ると、完璧に良心的とは言い難いが、このおかげで全滅しても(プレイヤーが受ける)精神的なダメージは小さい。さらにあえて危険地帯へと乗り込んで、強力な魔物の肉を手に入れたり、宝物を回収するのも容易だ。もちろん、無茶な突貫なりの報いは受けやすくなるが、乗り越えた後のリターンは相応。
こうした”緩さ”も残していて、高い難易度とは裏腹に気軽な気持ちで遊べるのである。これに限らず、セーブもほぼ好きなタイミング、しかも対応するボタンを押せば即実施可能。さらにフレームに用意された「リセットボタン」と併用すればセーブからのロードも瞬時に行える。他に一度でも踏み入れた街へとワープする専用アイテムも用意されているので(※回数有限のため都度、購入の必要あり)、世界各地へと自由に移動できるようになった後に街への訪問を繰り返して全部終えれば、あとはどこからでも世界各地を訪問し放題。どう進めていくかもプレイヤーの自由だ。
この手の往年の名作RPGを意識した、いわゆる”昔風RPG"では不便さも再現されやすい。使いにくいメニュー画面、全滅時のペナルティの大きさと本編復帰までの遅さ、ノロノロとした戦闘テンポなどが一例だ。昔風だから欠かせない、という狙いもあるのかもしれないが単純に難点として機能する関係から、余計なこだわりと見なされやすい。
実の所、本作もメニュー画面にはその点が出ていて、アイテム最大所持数の少なさ(※装備類込みで20個まで)、「整頓」のコマンドを実施しないとゴチャゴチャしてしまうなど、作りに難がある。ただ、それ以外は不便さを感じさせない配慮を徹底しており、往年のRPGらしい手応えと今のRPGらしい遊びやすさを味わえる、バランスの取れたまとまり方になっている。
見た目に違わぬ難易度の高さは確かにある。だが、全部が全部そうというわけではなく、遊びやすさは独自のものを追求。さらに携帯ゲーム機のフレームを表示する画面構成ならではの便利な機能も備え、携帯ゲーム機のゲームを遊んでいる感覚を疑似的に表現しているのが大変ユニークだ。
こういった特色もあって、懐かしさに惹かれて遊んだ人ほどいい意味で裏切られる。同時にただの『Sa・Ga2 秘宝伝説』のオマージュ作では終わらない、独特の魅力を持ち合わせた作品に完成されていることも感じ取れるはずだ。
ターゲットとしては、オマージュ元の世代を狙っている感じだが、全く知らない世代でもひとつの昔風RPGとして十分に遊び耐え得る仕上がり。なので、昔風は厳しそうという印象を抱いている人ほど、ぜひプレイしてみていただきたい。その意外な遊びやすさにのめり込んでしまうと同時に、オマージュ元への関心も刺激させられるだろう。
過ぎ去りし時の記憶を呼び覚ます、刺激満載の力作
ここまでのスクリーンショットが象徴する通り、グラフィックもゲームボーイらしさにこだわっている。音楽も「2音+ドラム1音」の当時を意識した制約を元に作曲。ただ、いわゆる”ピコピコ”な感じは皆無で、単純に制約を施した普通の楽曲な点には人によってはモヤモヤとした感情を抱くかもしれない。
全体のボリュームは結構大きい。普通に進めるだけでも10~15時間は要する。早くても10時間ギリギリ。また、攻略自由度の高さや強化方針を自由に決められることから2周目以降も新鮮な気持ちで楽しめる。何からの縛りを設けてプレイするやり込みにも対応しているので、極め甲斐のあるRPGを欲している人も相応の満足感が得られるはずだ。
他にストーリーも勇者と魔王の戦いという、これ以上ないぐらいの王道の内容。ドラマティックで衝撃的な展開などは控え目なのだが、台詞回しがどこか愉快な感じになっているのが面白い。中でも本編最大の強敵として登場する「四天王」は、やられた際の断末魔の叫びに注目である。人によっては思わず脱力、もしくは吹いてしまうかもしれない。
アイテム所持数の少なさに象徴される不便な箇所、敵の先制頻度の高さなど、悪い意味で往年のRPGらしい所や若干、首を傾げる調整も散見されるが、オマージュ作品としても単体の作品としても非常によく出来ている本作。この見た目に1990年代の記憶が呼び覚まされた人はもちろん、手応えのあるRPGを求めている人もぜひプレイしてみていただきたい力作だ。フレームに用意されたボタンも活用しながら、魔王討伐の冒険に旅立とう。
[基本情報]
タイトル:『Genealogy of the Brave』
作者:Y+Y=M.H
クリア時間:10~15時間
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちら
※作者公式サイト
http://punk-peace.sakura.ne.jp/game/game.htm
※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_9496.html
※BOOTH(要:pixiv ID)
https://punk-peace.booth.pm/items/2968818