伝統のショットに着目したゲームデザインと「攻撃は最大の防御」の理念光る縦STG『レイジングブラスターズ』
1980年代の夏、全国規模で開催されたゲーム大会「ハドソン全国キャラバン」で、競技用タイトルとして選出されたシューティングゲームに強く影響された作品を数多く輩出してきた個人ゲーム開発者のてらりん氏。
そんな氏が2019年にお披露目した『ジェミニアームズ / GeminiArms』(紹介記事)は、それまでスマートフォン向けにも展開されていた過去作から一転、パソコン(Windows)に特化した初の作品だった。
さらに同作は後発で、グラフィック周りを一新したNintendo Switch版も発売。これにより、家庭用ゲーム機へのデビューも果たした。
以降も『ジェミニアームズ』の前作『Missile Dancer(ミサイルダンサー)』(紹介記事)もNintendo Switch版が発売されるなど、その活動の場は以前にも増して広がっている。
そして2021年1月、最新作『レイジングブラスターズ』が発売された。本作も『ジェミニアームズ』同様、Window PC用タイトルとして最初は「Steam」でお披露目。後の同年7月、Nintendo Switch版が登場するに至っている。
本記事は後発のNintendo Switch版を軸に、その特徴を紹介する。
「ショット」の王道を突き詰めた縦スクロールシューティング
内容は縦スクロール型のシューティングゲーム。プレイヤーは自機である戦闘機を操縦し、襲い来る敵をショットで退けながら、最後に待ち構えるボスの撃破を目指す。ボスを撃破すればステージクリアになり、次のステージが開始。以降はその繰り返しという、シューティングゲームとしてはまさに王道の構成だ。
ゲームシステム面も王道。シューティングゲームの基本中の基本、ショット攻撃に焦点を当てた正統派の作りになっている。具体的にはメインとサブ、それぞれの武器(ウェポン)を併用して立ち回る感じだ。
ただし、メイン武器は終始固定。前方のみの直線状ショット、斜め後方をサポートするワイドショットの2種類を状況に応じて使い分けていく。切り替えはそれぞれ、対応するボタンを押すだけで即座に発射される仕様。特に切り替えに当たって間を挟むこともなく、直感的に使える設計になっている。
対照的にサブ武器は「ホーミング」、「ファイア」、「レーザー」、「ウェイブ」、「リング」の5種類があり、いずれも対応するアイテムを獲得して切り替える仕組みになっている。
さらにこれはメイン武器もだが、パワーアップの概念はない。そのため、ミスしても自機の性能が極端に低下し、攻略難易度が上昇することはない。裏を返せば、威力を上げた武器で強敵をなぎ倒していく快感には乏しいが、それを削ったなりに多彩なショットを使い分ける戦術性は相応。ショット攻撃の特徴を前面に出す方向性が示された設計だ。
その方向性はステージにも現れていて、沢山の敵が続々と現れては、撃つ手を休まさせぬ構成を徹底している。併せて背景も目にも止まらぬ速さでスクロールし、レースゲームのようなスピード感を演出。全てのステージが目まぐるしく、ギュンギュンな勢いで進行していくようになっている。そこに敵の大群を迎撃する間も挟まれ、疾走感と破壊の爽快感を同時に演出。まさに風のように空を飛び、蜂のように撃ち落とす独特の気持ちよさを突き詰めたものにまとめられているのだ。これもまた、シューティングゲームの王道に則った格好だ。舞台が宇宙なのに風のようにとはこれ如何に、とのツッコミは無しでお願いする。
他にゲームモードも本編の「アーケード」、3分間スコアアタックこと「キャラバン」の、『ジェミニアームズ』や『ミサイルダンサー』といった過去作に準拠したラインナップ。ただし、「アーケード」からはNintendo Switch版『ミサイルダンサー』同様、ステージセレクト機能が廃止。クリアに当たっては通しでプレイすることが必須となる。
またプレイ人数は1人から2人まで対応。さらに「デュアル」なる選択肢を用意。なんと1つのコントローラで2人プレイする(2つの機体を同時に動かす)という、前代未聞のスタイルで遊べてしまう。これは「アーケード」、「キャラバン」のどちらにも用意されており、いずれも1人プレイの時とは全く異なる、脳を鍛えているかのようなドッグファイトが味わえる。1人プレイの時の王道路線から脱却した手応えになるため、一風変わったシューティングゲームを欲している人の琴線も刺激する。あくまでもおまけの機能だが、こんな異質な遊び方も用意。王道重視と見せかけて、奇抜なことにも取り組んでいるのである。
とは言え、基本的には王道の色が強く現れた仕上がり。純粋にショットを撃ち、沢山の敵を撃ち落としていく気持ちよさと風のようにステージを駆け抜ける疾走感が際立った、懐かしさと新しさが交差する作品になっている。
先制攻撃と稼ぎこそ正義!絶妙かつ研ぎ澄まされた難易度
そんな本作の魅力は破壊の快感と疾走感もさることながら、「攻撃は最大の防御」を突き詰めた難易度の調整具合にある。前述の通り、本作ではどのステージにおいても沢山の敵が休む間もなく現れては、こちらに襲い掛かってくる。
沢山の敵が現れるということは、敵も相応に弾を撃ってくることを意味する。しかし、実は多くの敵は少しだけ間を挟んでから弾を撃ってくる。現れて即座に攻撃してくるような敵はあまりいないのだ。
つまり、こちらが先手を打てば相手の攻撃は無かったことにできる。まさに攻撃の行為そのものが防御、自機の守りに繋がるというバランスでまとめられているのである。
あくまでも雑魚敵に限ったことで、ステージ最後に登場するボスは耐久力の高さもあって例外。しかし、相手の攻撃前には必ず何らかの事前予告(表現及び演出)が挟まるなど、こちらが守る(避ける)瞬間が僅かでも生じるようにパターンを構築。被弾はプレイヤーの操作ミスであると納得できるよう、意地悪な初見殺しを廃することを徹底し、フェアなバランスを実現させている。
さらに守りの堅いボスに対しても、簡単にそれを崩せる弱点のサブ武器が設定。しかも、その武器の入手機会は戦闘中にも訪れるので、道中で獲得仕損じたミスも挽回できる。加えて、その武器が無くても倒すことは可能である余地も設定。どちらであっても、攻撃し続けることが大事であることを重視した作りになっているのだ。
こうした工夫が全編に渡って施されていて、シューティングゲームは撃ち込むことが解決策であるとの絶対的な正義を味わえるバランスが実現されている。まさに「攻撃は最大の防御」。そして、ショット(撃つ)ことによる戦いの優劣は、いかに引き金を早く引くかで決まるという、西部劇における「早撃ち」の理念が込められたような難易度を実現しているのだ。
実の所、この調整は作品の着想元たるキャラバン系シューティングゲームにも見られたもので、過去のてらりん氏の作品にもその傾向はあったのだが、今回はそれが特に色濃く、先制して撃つ優位性が表現されている。
そこに高いスコアを目指すことで、より強固な防御に繋がるよう調整されているのも面白い。本作も敵を連続して倒すと得点倍率が上昇する「チェイン」、雑魚敵が落とす「クリスタル」といった稼ぎ要素が豊富に用意され、それを狙うほど残機が増えやすくなる調整になっている。単に敵を倒していくだけだと、なかなか増えない設定が凝らされているのである。さながら「稼ぎは保険」といったところか。何だか若干の世知辛さが漂う表現になったが、実際にそれを狙うのが全ステージ攻略の安心材料にもなるのだ。そして、そのためには積極的に、かつ絶え間なく攻撃していくしかない。
この一貫した方向性の調整具合が本当に見事。その根底には過去、レーザーとミサイルという1つの武器に集約した戦術性、ゲームシステム構築に挑んだ『ジェミニアームズ』と『ミサイルダンサー』の経験も活きている感じで、文字通りの研ぎ澄まされたゲームバランスというものが実現されている印象だ。
また、稼ぎが防御(残機上昇)に繋がるだけに、ミスした時に受ける精神的なダメージも大きい。何せ、高スコア獲得に欠かせない「クリスタル」を全部消失してしまうからだ。こうしたペナルティを設定しているところにも、ショット(撃つこと)に特化した遊びのキモが滲み出ている。
これぞ純粋なまでにジャンルの原点徹底追求の調整具合。正統派で王道な見た目と遊びのイメージを裏切らない、普遍的な面白さと熱さを感じさせられるものになっている。主にシューティングゲームの撃つ快感、それによって敵を破壊し尽くす気持ちよさに魅了された経験と思い出が残る人ならば、本作のバランスと方向性は確実に刺さるはずだ。
もちろん、シューティングゲームを普段遊ばない人にも優しい。稼ぎを意識しないと厳しいのかと言われればそんなことは無く、クリア目的だけなら根気があれば十分。残機を失ってゲームオーバーになっても、コンティニューは幾らでも可能(無限)なのでご安心あれ。ただ、途中経過はセーブできず、前述の通り過去作にあったステージセレクト機能は廃止されている。基本的に毎回、通しプレイが必須となるので、そこはご注意を。
とは言え、1周に要する時間は長くて1時間程度なので、遊びやすさは申し分なしだ。
脳を鍛える(?)カオスな遊びも楽しめる良作
なお、難易度に関しては敵弾を避ける緊張感を求める上級者向けに「エキスパート」も用意。こちらでは敵を倒す度に撃ち返し弾が発生するため、他の「ノーマル」、「ハード」とは違ったスリルが味わえる。
これに例の「デュアル」を組み合わせれば、よりカオスな難しさにもできる。脳への負担も大きく、相応に鍛えられる……かもしれないので、覚悟があればお試しあれ。
また、3分間のスコアアタックに挑む「キャラバン」は、「アーケード」以上に破壊と「攻撃は最大の防御」を突き詰めたステージ構成、難易度調整が施されているのが見所。中でもステージの作りは終始、チェインが続くように設計されているので、ぜひ挑戦してみていただきたい。破壊し尽くすことの極致を味わえるはずだ。
ちなみにスコアランキングはオンラインに対応。「キャラバン」以外に「アーケード」のランキングもあり、その中には「デュアル」専用のものも用意されている。色々と驚きの数値が並んでいるので、興味があればチェックしてみて欲しい。
他に疾走感を重視したなりに音楽もノリがよく、自然に口ずさんでしまう楽曲が揃っている。さらにグラフィック面では今回、キャラクター性もプラスされ、オープニングとエンディングではパイロットのキャラクターが大きく表示される。特にエンディングでは難易度別に異なる一枚絵が見られるので、全種類を見たければ思いきって挑戦してみよう。
ごく一部に出現タイミングが分かりにくい雑魚敵がいたり、ステージの個性付けが若干弱い(仕掛けに乏しい)といった気になる箇所もそこそこにある。効果音も撃ち込み絡みは若干、金属音が目立ち過ぎているきらいがあり、もう少し小気味よく、耳触りのよい音にしてくれていればと思ってしまった。
だが、全体的には良作と迷いなく言い切れるシューティングゲームに完成されている。ショットに特化した正統派の作りと親しみやすさ、そして丁寧に調整され、「攻撃は最大の防御」という方向性が顕著に示されたゲームバランスが見事な本作。シューティングゲームが好きな人からあまりプレイしない人まで、強くお薦めできる1本だ。ジャンルの源流たる撃ち込む楽しさと気持ちよさを疾走感溢れるステージと共に味わってみよう。
[基本情報]
タイトル:『レイジングブラスターズ』
作者・発売元:TERARIN GAMES / レジスタ(Nintendo Switch版)
クリア時間:30分~1時間
対応プラットフォーム:Windows、Nintendo Switch
価格(税込):¥1,520(Steam)、¥1,990(Nintendo Switch)
CERO:A(全年齢対象)
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※PC(Steam)
※Nintendo Switch
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