つかめ「秘伝の書」!燃やせ脂肪!?ケモノキャラ勢揃いのお手軽SRPG『銀竜奥義伝』
「第54回崑崙(こんろん)州格闘大会」で見事、優勝を飾った少女メイメイ。
だが、それから1ヶ月後。
優勝に浮かれたメイメイは修行もろくにせず、ポテチを食べ、コーラを飲み、『ど●ぶつの森』を遊ぶという、絵に描いたような食っちゃ寝生活を送っていた。
そんな日々を続けたあまり、師匠のオウレンからふっくらしたんじゃないかと言われてしまうメイメイ。気になって体重を測ってみると案の定、10キロ太っていた。
さらにそんな中、武道を心得る少女リンが突如、メイメイが暮らす道場に来訪。
戦いたいとのリンの申し出を受けて、メイメイは勝負に挑むが……
玉砕。
そんなリンは「銀竜谷」の「超闘技場」へと向かう道すがら、力試しも兼ねて立ち寄ったとのこと。「超闘技場」では、最高位に認められた者だけに「秘伝の書」と言われる、秘伝の奥義が記された書物が手に入るという。その奥義は体内の気の流れをコントロールし、自己の体を思うがままに操れてしまうとか。
リンに敗北した悔しさ、そして「秘伝の書」の奥義を会得し、てっとり早く痩せたい思いが爆発したメイメイは、「超闘技場」に挑戦するため「銀竜谷」へと向かう。果たして、メイメイは闘技場の最高位に到達し、「秘伝の書」を入手できるのだろうか……。
2020年に世界的なヒットを記録したゲームの名も出てくるオープニングと共に始まる『銀竜奥義伝』は、2021年7月から8月にかけ開催された「第13回WOLF RPGエディターコンテスト」にて公開されたWindows PC用フリーゲーム。同コンテストでは、総合グランプリ1位に輝く結果を残した作品である。
また、8月23日からはフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」での公開も始まっている。
ひとりで3連戦を勝ち抜け!ヘックス型のSRPG
前述のストーリーを読んで字の如く、本作におけるプレイヤーことメイメイの目的はただひとつ。「超闘技場」の最高位に達し、「秘伝の書」を手に入れること。そして、奥義を会得して脂肪を燃焼させ、再び食っちゃね生活にもど……っちゃいけません。
ともあれ、そんな目的を胸に本編を進めていく形となる。
ジャンルはシミュレーションRPG(SRPG)。
ただ、一般的なSRPGとは大きく異なる作りをしている。まずひとつにプレイヤーが動かすユニット(駒)は主人公のメイメイただひとり。
SRPGと言えば、主人公以外にも多数の味方ユニットが登場し、戦いを共にするのが定番だが、本作にはメイメイ以外の仲間はひとりも登場しない。そのため、全ての戦闘をメイメイひとりで乗り越えていく形となる。行動順序も基本は「メイメイ⇒敵」で回るターン制であるが、プレイヤー側はひとりだけなのもあり、迅速に進行する作りになっている。
ふたつに戦闘の構成。3連戦(3ラウンド)形式になっている。
本編は「超闘技場」の「ランク戦」を勝ち抜いていくというもので、3ラウンド全ての戦闘を勝利できればクリアとなって、上位ランクへの挑戦が可能になる。逆に途中で体力がゼロになり、力尽きてしまうと失敗。再度、最初のラウンド1からやり直しになる。ランクは「D⇒C⇒B⇒A⇒S」の5段階で、最初は「D」からスタート。そこから勝ち進むたび「C⇒B」と上がり、挑戦範囲が広がっていくという仕組みだ。
なお、ランクはあくまでも進捗状況を指すもの。上位のランク挑戦で失敗しても、下のランクに落ちて振り出しから、といったペナルティが課せられたりはないのでご安心を。
また、ラウンドごとの勝利条件は敵を全滅させるだけと単純。反面、戦闘マップはマス目が六角形の「ヘックス型」で、的確な位置取りが試される作りになっている。
さらにランク戦では勝敗に構わず、経験値とお金が手に入る。前者はメイメイの強化及び技の習得、後者は装備品や消費アイテムの購入に用いる。
いずれもストーリーの舞台となる「銀竜谷」全体を表したメインメニュー画面から「道場」、「お店」を選択することによって実施可能だ。
ただ、強化は上昇させたいステータスを自由に選んで経験値を割りふるという少し独特、かつ自由度の高い形式。しかも、技の習得においても経験値が必要になるため、どちらに使うかでメイメイの強化具合も変わってくる。
アイテムも回復を始めとする消費系は、最大3つまでしか戦闘に持ち込めない制約があるので、なるべく効果的なものを選んで買うことが優先される。ステータスを上昇させる装備品も全体的に高価なため、残金との相談も重要だ。
ほかにも範囲攻撃、属性の概念とその相性によるダメージ量の変化といった戦術的な要素が存在。一連の特徴から明らかだが、本作は数多くの意欲的なシステムが盛り込まれており、一風変わった遊び心地を持つSRPGに完成されている。
さらに操作はマウス単体のみで完結、動かすユニットはひとりだけ、戦闘は主に敵の全滅に集中すればいいなどといった分かりやすさの滲み出た部分などから、”お手軽SRPG”とも称せる一面も持つ。それもあって、SRPGを普段遊ばない人にも門戸を開いた作品となっている。
遊びやすさとやり応えを両立した、秀逸な作り込み具合
本作の魅力は優れたゲームテンポと、間口が広くも手応えのある難易度の2つ。
テンポに関しては3連戦構成ながら、1戦辺りに要する時間が短い。1ラウンド辺り最短1~2分。最長でも5分以内には決着するという、短期決着型に徹している。それもあって、大変スピーディに進行する。
このスピード感に貢献しているのが戦闘ごとに登場する敵の総数。いずれも多くて4体。2桁を超えることがないため、敵の順番(ターン)が長く続いてプレイヤーに回ってくるまで待たされることがない。ほぼ一瞬で回ってくるのである。加えて、敵の行動決定までの過程も迅速。パパッと移動から攻撃といった一手を繰り出してくる。さすがに範囲攻撃などの技を繰り出す際は、その演出が挟まる都合で多少遅くなるが、決してテンポが阻害されるほどではない。長すぎず短すぎずの適切な加減に収まっているのだ。
それでいて見事なのが、しっかりとした手応えと攻略する(戦術を練る)楽しさを描いていること。どの敵も攻撃、技、移動の癖まで徹底した個性付けが図られていて、安易に突っ込めば返り討ちにされかねないほど、手ごわく設定されている。
また、プレイヤーの動かすユニットはひとりだけ、マス目はヘックス型といった各種システムに対する理解も試されてくる。特に重要なのはプレイヤーの行動直後に敵の行動へと移ること。本作の場合、ひとり動かした瞬間に敵の番が来るので、真横に待機させるという判断など下せば、確実に先制攻撃を受けてしまうのだ。複数体が相手の時はなおのことで、囲まれてタコ殴り。マス目がヘックス型、六角形だけに攻撃可能な範囲も広いため、酷ければ一気に体力を削られかねない。
それでも回復アイテムを持ち込めれば……といっても前述の通り3つまで。1つ使った後の補充も効かない。極めつけに3ラウンド共に終了時の体力、アイテムの状況は持ち越し。直前の戦闘で消耗しすぎれば、どうなるかはお察しである。
敵を全滅させるだけと、やることは単純なものの、このような仕組みと調整もあり、安易な力押しは通用しない。ゆえに状況をよく観察し、最適な一手を考えて行動に移していくことが何よりも重要。アイテムの活用など、持ち得る手段の限りを尽くすことも同様で、取っつきやすい作りとは裏腹に手応えのある難易度に調節されているのだ。
これに加え、SRPGが苦手な人を踏まえた仕様も多く実装。失敗しても経験値とお金が手に入るようにし、ステータスなどの強化を図った上での再挑戦が試せたり、難易度も「EASY」、「NORMAL」、「HARD」の3種類から選べるようになっている。
しかも難易度はゲーム中、いつでも変更可能。上げ下げによってエンディングが変化する類の要素も一切ないので、究極的には自分に合った難しさに調節して遊ぶのも良しなのだ。
調節せず挑んだ場合の難易度も理不尽さは一切なく、よく練られている。特に敵には決まった行動パターンが設定されているので、それを把握した上での戦術を取れば、被害を抑えながら立ち回れる。弱点に当たる属性の技で攻撃すれば大きなダメージも与えられるので、成長度合いと戦術次第では短期決着に持っていくことも夢ではない。
手応えは出しつつ、力で押し通せる余地を残し、上げ下げという最終手段も設ける。まさに初心者から熟練者まで手厚くフォローする施策で、どんな形でも楽しめる工夫を徹底しているのである。温めにまったり遊べるのみならず、厳しく本腰を入れながらも楽しめる。そうも細かく配慮された設計には、作者の難易度調整と間口を広くするこだわりの強さを実感させられるだろう。
それでも「NORMAL」は基準の難易度の割に高めで、都度、経験値稼ぎとステータス強化に時間を割くことになって本編の進行が鈍るのは賛否が分かれるところだが。4体の敵がその場から動かず、遠距離攻撃でじわじわメイメイを追い込んでくる「ランクA」のラウンド1のように、冗長気味な戦闘があるのも気になる部分ではある。
ただ、間口の広さと手応えを両立させたバランスは、一連の難点を些細なものにするほど見事な仕上がり。ユニットがひとりだけなど、シンプルさも際立つが、プレイすればそれゆえに表現できたSRPG特有の戦術・戦略を練る面白さ、育成の面白さというものがよく実感できる。前述の難易度とも被るが、主に熟練者ほどこの仕上がりには唸るものがあるので、少しでも興味を持ったのなら確かめていただきたい。
”お手軽”という言葉が、決して簡単であることと同義ではない事実を思い知るだろう。
既視感の凄いミニゲームとストーリーにも注目!見所満載の良作
SRPG部分の出来に焦点を当てたが、ストーリーも秀逸な仕上がり。格闘少女の成長を愉快なノリで描いた内容にまとまっている。
何気に涙腺を刺激する場面も所々用意されていて、中でも師匠のオウレンの過去に迫ったイベントは、グッとくるものになっているので必見だ。
だがこのオウレン、ドが付くほどのスケベジジイである。作中では思わず引くようなこともやらかすので、念のため(?)ご注意いただきたい。どんなことをやらかすのかは伏せるが、一応、年齢制限に引っ掛かりそうな類の直接的なものはないのでご安心を。何卒ご安心いただきたい。念押しで2回言わせてもらった。
ちなみに本作、百合ネタも押さえております。大事なことなので補足しました。
また、ここまでのスクリーンショットが物語る通りだがグラフィック、キャラクターデザインも非常に手の込んだ仕上がりとなっている。
中でも戦闘中にて、ミニキャラたちが見せる豊富なアニメパターンは圧巻。あまりの作り込み具合に度肝を抜かされること間違いなしだ。音楽も中華風の世界観を踏まえた、オリジナルの楽曲で構成するこだわりが光る仕上がり。演出周りも会話イベント、戦闘マップの技発動時のエフェクトまで、適度な派手さを追求したものに完成されている。
ボリューム面も1周約2~3時間、最も低い「EASY」であれば30分以内と、遊び方次第で短くも長くなる工夫が光る。さらにやり込み要素で各ランク戦の勝利までに要したターンの総数、敗北回数などを最小限に抑え、高得点を目指すスコアアタック機能も実装。
しかもなんとこの機能、オンラインにも対応。他のプレイヤーと競い合うといったことも楽しめてしまうのだ。執筆時点でのランキングは、上位陣のスコアが天文学的な数値に達している関係で、食い込むにも相当な修練が必須になってしまうのだが、我こそはという人はぜひ挑んでみていただきたい。
さらに「お店」には、「ツナの切り身」なるミニゲームも用意されている。これもなかなか遊び応えのあるものになっているので、興味があれば確かめていただきたい。
ちなみにどんなゲームか、端的に説明すると早撃ちである。
……あとはお察しください。
(題名先頭に「せ」を足し、「身」を「切」の前に移動させてはいけません。)
前述のように難易度周りに気になる箇所があるほか、イベントのスキップ機能がない、本編のランク戦を集中的に進めると、「道場」と「お店」で発生する任意イベントも同時に進んでしまい、途中から確認すると登場人物の関係性が発展した状態から始まってしまうといった気にかかる点もある。
しかしながら、SRPGとしての独自性と取っつきやすさ、その遊び応えは大変優れたものがあり、総じて良作と言い切れる出来になっている。
グラフィックや音楽と言った表現面、演出面の手の込みようも見事な本作。主にSRPGを普段あまり触れないという人にこそ遊んでみていただきたい1本である。もちろん、SRPG好きにもおすすめできる内容なのでぜひ。
また、キャラクターたちが物語る通り、いわゆる”ケモナー”の方々もぜひお試しくださいませ。きっと申し分ない”成分”を摂取できるはずです。保証します。
[基本情報]
タイトル:『銀竜奥義伝』
作者:しましま亭
クリア時間:30分~2時間(※難易度別に異なる)
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/26387