冒険者を志す新入生の皆さん、『RPGスクール』へようこそ!なりたい職業を目指して自由な学生生活を送ろう!
うむ、これは明らかに『RPGツクール』製のロールプレイングゲーム(RPG)だ。
このタイトルから、そんな感じに考えたかもしれない。
もちろん、答えはその通りである。
『RPGツクールVX Ace』製のWindows PC用フリーゲームだ。
その内容もタイトル通り、「RPGスクール」と称された学校で学生生活を送っていくというもの。しかも、非常に多くの個性的なゲームシステムを実装しており、唯一無二の個性が滲み出た作品に完成されている。
ちなみに念のためだが、「RPGスクール」のRPGとは「Road Promise Group」の略称である。「Role Playing Game」ではないぞ。(ゲームジャンルは文字通りだが)
授業を受け、経験を積んで資格を取る!文字通りの学校RPG
本作でプレイヤーは冒険者養成学校「RPGスクール」の入学生のひとり「アレリス」(※名称、性別共に任意で変更可能)に扮し、1年間の学生生活を送っていくことになる。主な目標は「資格」の取得。
ゲーム開始時、プレイヤーはアレリスの希望職を選択する。選べるのは6種類で、いずれかひとつを選ぶと職業ごとの「資格」に沿った目標が設定される。いわゆる「単位」である。作中では「ポイント」と称されていて、1日ごとに行われる5科目の授業を受講すると、それぞれの授業に沿った固有のポイントを獲得できる。
この5教科のポイントを一定値まで貯めると「資格試験」への挑戦権が得られ、無事、合格できれば晴れて選んだ職業になれるのだ。
本編はまず、これを最初の目標に進めていくことになる。ということは、資格取得後には第二の目標がと言われればその通り。1年の総決算たる「卒業試験」での合格を目指すことになる。こちらは「資格」とは違い、挑戦するためにポイントを一定値まで貯める必要はないのだが、総決算なりに難易度は高く、残された時間を活用しながら準備を重ねていくことになる。この試験に合格すれば1年が終わり、卒業という名のゲームクリア。少しザックリだが、この2つのイベントを軸に1年間の学生生活が繰り広げられていく構成となっている。
なお、作中の1年間は日数に改めると60日間。その内、授業のある平日は40日、残る20日は休日(祝日)となっている。日ごとの進行と構成も異なり、平日は「授業」と「放課後」、休日は「授業」がない代わりに「午前」と「午後」に分けられている。
詳しく掘り下げると平日の「授業」は5科目の内の1科目を自由に選んで受講する。授業の受け方は単純に授業担当の先生に直接話しかけ、授業を受けるコマンドを選んで決定するだけだ。1日に受けられる授業は3回で、全てを終えると「放課後」へと移る。「放課後」は事実上の自由時間で学校内のほか、校外の中央都市「ティエナ」の各エリアへとメニュー画面を介して移動可能になる。
ここでは3つの行動の内の1つを取ると時間が経過する。3つの行動というのは同級生との交流、アルバイト、そして学生寮での就寝。このいずれかをこなすと1日は終了し、次の日が平日ならばまた「授業」と「放課後」の2つをこなす形になる。
「休日」だと「授業」はない。代わりに「放課後」に当たる自由行動が午前と午後の2つで可能になる感じだ。例によって、前述3つの行動を取ると時間が経過。
さらに休日専用の第4の選択肢として「ダンジョン探索」がある。文字通り郊外のダンジョンを探索するというものだ。ダンジョンへはプレイヤー単独のほか、同級生を誘ってパーティを編成して探索するという2つが選択可能。また、内部では別の同級生が探索していることもあり、話しかければその場でパーティに誘うこともできる。
もちろん、ダンジョン内では戦闘も発生。敵シンボルに接触すると戦闘画面に移行する。システム面は敏捷性の高い順から行動する伝統的なターン制のコマンド選択形式。ただ、本作にはレベルの概念がないため、勝利しても経験値は得られない。
代わりにランダムで何らかのステータスが上昇する仕組みになっている。キャラクターの成長は実地の経験(ダンジョン探索での戦闘)と「授業」の受講、そして同級生との交流(訓練、勉強など)を中心に行うのである。まさに学生生活をテーマにしたRPGらしいシステムであると同時に、経験値稼ぎなどの作業による手間が必要とされない遊びやすさが光るものになっている。
なお、ダンジョンでは戦闘の経験を積む以外にも「鉱石」を始めとする武器の作成に必要な素材、宝箱に隠されたアイテムなども集められる。さらに基本的に休日でダンジョンに行けるのは1回限り。午前と午後、連続していくのは不可能なので、戦闘の経験にせよ、アイテム集めにせよ、可能な限りやり切ることが重要だ。
このような日々を繰り返しながら本編は進んでいくようになっている。
また「学校行事」に「クエスト」なる1日全部がイベントに当てられた特別な日も存在。後者は資格を取得した後から挑めるようになるもので、「冒険者ギルド」なる施設で受領する。ただし、これは平日、休日を問わず設定されるため、場合によってはその日の授業が一切受けられなくなることもあるので注意が必要だ。
他に「放課後」限定の「アルバイト」ではミニゲームを通した資金稼ぎに挑戦できたり、同級生との交流を行うと相手の「好感度」が上昇するというシステムも。特に後者はどれだけ関係性を深めたかで1年の間に起きるイベント、エンディングの内容も変化する仕掛けもあるため、やり込み意欲も刺激させられるだろう。
長くなったが、一連の概略と特徴が物語る通り、本作は極めて個性的な作りをしたRPGになっている。本編の進行もまさに「学生生活」を体現した形で、本当に「RPGスクール」という学校に通う生徒になりきる体験が味わえるのだ。
1年間の過ごし方は様々!学生特有のシビアさも込めたゲームデザイン
本作の魅力はゲーム進行の圧倒的な自由度の高さだ。
厳密には学校行事に象徴される固定イベントが存在するため、大体の流れはほぼ決まっているのだが、自分なりのやり方で受講する科目、仲良くなりたい同級生を決められるのは、まさに学生生活特有の解放感がある。単位の修得、授業を自由に決められる点から大学や専門学校っぽさが滲み出ていることから、特にその頃に思い出の多い人なら、少し懐かしい心持ちで一連の展開を楽しめるかもしれない。現に1日の進行と共に発生する小さなイベントにも、その頃が脳裏を過ぎるものが揃っている。同級生が先んじて資格を習得してしまい、自分が取り残されて焦燥感に駆られるなど。なんでそんな苦々しい例を出したんだ、と言われたら、それが真っ先に浮かんできたからですよ、すみませんね!(涙)
謎の逆ギレはさておき、ゲームシステム全般の独自性の強さも魅力のひとつである。成長要素全般は最たるもので、授業と交流、実地経験の3つに絞り込んで分かりやすくするに限らず、日々の積み重ねで少しずつ強くなっていく、学習(勉強)の真髄というものを思い知らされる作りになっている。「放課後」や「休日」などの自由行動時、どれほどの自主学習や訓練を積んだかでその後の難易度が上下するバランス調整が施されているのもまた然り。その重要性を後々に思い知った人、具体的には社会人になった世代なら、良くも悪くもそのことを再認識させられると同時に、苦笑いしてしまうだろう。
ちなみに「放課後」にそのまま寮に戻って1日を終えると翌日、早寝して睡眠時間を沢山取った恩恵により、授業で得られるポイントが上昇するボーナス要素もある。そうです、睡眠はとても大事なのです。(力説)
それに加えてのシビアな資金管理である。主に親から独立した学生なら、自立するための資金をアルバイトを通して稼ぐのは必須だが、本作の主人公もそういう境遇のため、お金を集めるならばアルバイトに勤しむのが避けられない。
しかも、仕事を通して得られるお金は最初は少なく、経験を重ねて上手くなっていく内に増えていく仕組みである。ついでにダンジョンで得られたアイテムを売っても大した金にはならないし、何なら戦闘に勝ってもお金は手に入らない。結局は働かざる者食うべからず。その異様に厳しい設定と調整にもまた、良くも悪くも世代なら当時の思い出が蘇ると同時に世知辛さを痛感させられるかもしれない。
色々やり過ぎと言いたくなりもするが、本作は「RPGスクール」。学校が舞台のRPGなら、これもまた宿命なのである。そんならしさを極限にまで突き詰め、こだわった各種システムとバランスの調整具合は秀逸の一言。その名に反しない独自性の強さ、違和感のなさにはプレイするたびに感銘を受けるだろう。
ひとつのRPGとしてもレベル上げに代表される作業プレイが発生しない設計のためテンポがよく、無駄なくゲームが確実に進行しているという手応えに満ちているのが見事。戦闘では敵の体力が常に可視化されて表示、ダンジョン探索は脱出アイテムでいつでも離脱可能、そのマップ構成と規模も複雑になり過ぎず、水増ししすぎずの絶妙な塩梅でまとめられているといった、気を遣った作り込みの数々も目を見張るものがある。
そして注目いただきたいのが、資格取得後に解禁される「クエスト」である。「クエスト」というと、ダンジョンに潜って指定のアイテムを取ってきたり、モンスターを狩ったりといった、いわゆるお使い的な内容を想像するかもしれない。
だが、本作は違う。一つひとつが独立した要素を持ったイベントになっている。武闘大会でトーナメント戦に挑んだり、村の防衛のため、ゲストキャラクターと共にモンスターの大群とシミュレーションRPG風のターン制バトルに身を投じるなど、このクエストでしか体験できない体験が詰まっているのである。プレイすれば、その凝りに凝った作りに驚かされること請け合い。ストーリーもクエストごとに独自のものが描かれ、中には異様に濃いキャラクターが登場するギャグ全開のものも用意されているので要注目だ。
学生生活を題材にした部分もさることながら、RPGとしての基本部分もこのように作り込まれている。全体のインパクトしては学生生活部分が勝ってしまうが、相応に丁寧さが際立っており、プレイすれば好感触を得られるはずだ。特に繰り返しになるが、クエストの作り込み具合は圧巻なので、余すことなく味わってみていただきたい!
やり込み要素の重さが気になれど、面白さは唯一無二の傑作
クエストの紹介で触れたストーリーも世界観、キャラクターの設定に至るまで細かく作り込まれている。特にキャラクター、授業を教える先生方は個性の強い面々揃いなので、印象に残ること請け合い。同級生もそれぞれ複雑な過去や境遇、運命を背負っているといった興味深い設定があり、それに関連するエピソードも豊富に用意されているので必見だ。
また、本編でも資格取得、卒業という目的と並行したエピソードが幾つか用意されている。このエピソードは特定の条件を達成しないと最後まで確かめられない制約が課せられている都合で若干、行動に縛りが生じてしまうのだが、内容的には色々興味深いものになっている。気になればぜひチャレンジいただきたい。
他にも可愛らしいキャラクターデザイン、ノート風にデザインされたメニュー画面といったグラフィック面の作り込み具合もなかなか。音楽も本作オリジナルの楽曲が満載。中でもタイトル画面の曲は、まさに学校が舞台のRPGであることを強く意識させられるものになっているので要チェックだ。
色々作り込まれている本作だが、エンディング分岐の量が30近くと非常に多く、コンプリートを目指すと結構な量の周回が必要とされるのは少し気になるところ。さらに周回時には複数のボーナスから1つを選べるのだが、一部、同級生との好感度上げを阻害する種類があったりなど、若干詰めの甘さが見受けられる。
1周に要する時間も5~7時間程度と、普通にクリアまで楽しむだけなら適量だが、やり込みを考慮するとかなり重い。好感度などのイベントの都合から早送りやスキップも難しいため、相当なモチベーションが無いと、達成は困難を極めるだろう。
自由な学生生活を送るというコンセプトやシステムを思えば、この豊富さは自然に思える所もある。だが、クリア後に解禁される「エンディングリスト」を見ると、どうしてもコンプリート欲は湧きやすい。なので、全て埋めたいとの思いを抱いた方は、相応の覚悟を持って挑むよう気を付けていただきたいところだ。念のためだが、無理に全達成する必要はない。できる範囲に留めておくことを筆者は強く推奨する次第だ。
そんな気になる所もあるが、総じて独自の魅力を持ったRPGであることには揺らぎがない。難点のあるやり込み要素全般も裏を返せば、特盛なボリュームで非常に長く楽しめる内容になっている。学生生活の酸いも甘いも綺麗に表現されたゲームシステムとバランス、そしてテンポの良さと凝ったクエストで大いに楽しませてくれる本作。
主にRPGにゲームシステムの面白さを求める人であれば、ぜひプレイいただきたい力作だ。難易度自体は控え目なので、このコンセプトに惹かれたというシンプルな動機を機に挑むもよし。色んなイベント満載の「RPGスクール」で、自分なりの学生生活を送ってみよう。
[基本情報]
タイトル:『RPGスクール』
作者:知内ひろ
クリア時間:5~7時間(1周)
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/24916
※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_9313.html