俺の名はフォックス、ジェシー・フォックスだ。そしてこれが、”うろ覚え”ステルスアクション『UnMetal』。待たせたか?
1972年某月某日、連合国領空内に一機のソビエト連邦(ソ連)製軍用ヘリコプターが侵入。
これを視認した連合国軍は直ちに対空砲火を実施。
ヘリコプターは撃ち落とされ、その墜落現場にてパイロットの男が捕らえられた。
男は後にとある軍事基地へと移送。将校による尋問を受けることになった。
男の名はジェシー・フォックス。伝説の傭兵でもなければ、人体改造手術を施された忍者でも、英国紳士な少佐でも、はたまた最強の闘士でも、遊撃隊リーダーでもなんでもない、トヨタ製自動車を愛用する普通の民間人である。
『UnMetal』は『UnEpic』、『Ghost 1.0』といったユーモア満載のインディータイトルを手掛けてきたUnEpic Fran開発の新作。2021年4月に海外先行でPlayStation Vita版が発売。後の9月にPC(Steam、Epic Games Store)、Xbox One(Xbox Series X|S)版が発売された。海外ではNintendo Switch、PlayStation 4(PlayStation 5)版も同時期に発売されているが、本稿執筆時点でどちらも日本では未発売となっている。
なお、日本語には全機種版(海外版込み)で対応している。
また、決して某メタルの関連作品ではない。なぜなら”Un”Metalであるからだ。
だが、ゲームジャンルはステルスアクションゲームである。
別の言い方で、タクティカルエスピオナージ……これ以上は止そう。
「話せば長くなるが……これが俺が体験してきたことの全てだ。」
改めて具体的な内容紹介に入ると、本作は地面と木々しか見えない、2Dのふざけた見下ろし視点(※フォックス:談)で展開されるステルスアクションゲームだ。
プレイヤーは主人公フォックスを動かし、様々な任務(ミッション)を遂行しながら、投獄された軍事基地からの脱出を目指す。
ただし、この軍事基地というのは、前述の軍事基地とは別の軍事基地である。
どういうこっちゃだが、ここでストーリー紹介の続きに入ろう。
尋問を受けることになったフォックスは、なぜ自身がソ連製の軍用ヘリコプターに搭乗し、連合国領空内に現れたのかを語り始めた。
いわくフォックスはとある精鋭コマンドー部隊に濡れ衣を着せられ、投獄されたという。投獄されたのは謎の軍事秘密基地。フォックスはこの窮地を乗り越えるため、にわかな知識を総動員して独房から脱獄。そのまま様々な監視を潜り抜けながら、基地からの脱出を試みた……らしいのである。
伝聞的な表現で大よそ察せる通り、本編の舞台はフォックス当人が経験してきた記憶の中にある基地。そして、ストーリーもまた、フォックスの記憶を頼りに語られる。
言うなれば、全編が回想なのである。
そんな訳で、プレイヤーは追体験の形で脱出劇を進めていくことになる。進行は「チャプター」を順番に攻略していくというもので、課せられるミッションを全て完了させるとクリア。次のチャプターへと進む仕組みになっている。
また、チャプターごとに舞台となるマップは固定。チャプターをクリアし、次に進むと再訪はできなくなる(※チャプターセレクト経由での再プレイは可能)。ゆえに探索周りも限定的で、全体としてはステージクリア型のアクションゲームの色合いが濃い作りだ。
システム面はステルスアクションなだけに、敵に発見されると追撃される、警戒を解くにはどこかに身を隠して数秒待つといった定番のものを網羅。ただし、敵兵を殺すことはできない。殺すとゲームオーバーになってしまう。
そのため、敵を静める場合は背後から格闘攻撃を仕掛けたり、非殺傷系の武器で対処するのが基本。拳銃などの殺傷系の武器も用意されているが、これで”人間”を撃つと(※重要)相手は瀕死状態に陥り、放置するとゲームオーバーになってしまう。なので、もし撃ってしまった時は、手持ちの消費型回復アイテム「救急キット」で応急措置を施さねばならない。相手が敵でも、民間人のフォックスが殺すことは立派な犯罪なのだ。そんな独特な設定(制約)が凝らされており、風変わりな立ち回りが求められるようになっている。
なお、敵に気付かれず気絶させると「EXP」が手に入る。これが一定量に達すると、フォックスのレベルが上昇。移動速度を上げたり、体力を上げるといったスキル習得によるステータス強化が図れる。また、気絶させた敵をまさぐることによって、当人が所持するアイテムも入手できる。(※敵によっては何も所持していない場合あり)
アイテムはそのまま使うだけでなく、他のアイテムと組み合わせる「合成」も可能。これで武器を作り出したり、別のアイテムを生み出すようなことも求められてくる。時には、そのために必要なアイテムを探し出したり、色々組み合わせを実行してみるなど、アドベンチャーゲーム的な試行錯誤が必要とされるのもちょっとした特徴だ。
だが、それ以上にアドベンチャーゲームらしさを際立たせているのは選択肢である。本編では随所に選択肢が現れ、どれかを決める場面が用意されている。その時に選んだものによって敵の配置が変わったり、特殊なイベントが発生するのだ。
基本的に選択肢はフォックスが当時の出来事を思い出す展開になると同時に発生。「その時、敵は何人いたか?」、「どんな対応をしたか?」といった問いかけに答えるのだ。
その回答次第で難易度も変化。敵の数が分かりやすいが、ひとりなら突破が容易な反面、2人以上だと難しくなる。ゆえにスムーズに進めていきたい時は楽そうな方を、茨の道を通りたければ厳しい方を、という具合にプレイヤーの好みに応じた調整が限定的ながら実践可能になっている。なお、中にはゲーム側に影響を及ぼさない選択肢もある。だが、それも選ぶとストーリー展開があらぬ方向に転ぶなど、大きな変化が起きる仕掛けが凝らされている。時にはゲームオーバー一直線の罠もあるので、油断大敵だ。
『UnMetal』という題名、見下ろし視点の2Dスタイルを聞いて、歴戦の兵士であれば初期の某メタルのオマージュを連想するかもしれない。確かに見た目はそれに近い。というか、フォックス本人の容姿からして近すぎる。
だが、前述の通りにゲームシステム、ストーリー設定および構成は独自色濃い目。似ているようで全く違う、そして本作でしか味わえない唯一無二の体験が詰まった、非常に手の込んだ作品に仕上げられているのである。
ついでに言えば、ストーリーの作風も全く持って違う。
具体的な成分を紹介すれば、シリアス1割のユーモア9割である。
「それらの出来事は俺を困惑させ、様々な危機に陥れた。そして……」
そんな訳で本作の魅力はズバリ、ストーリーである。
繰り返しになるが、9割はユーモアで、シリアス成分は残る1割程度しかない。
全編において、プレイヤーに疑念を抱かせ、腹筋を刺激させる構成だ。
そもそも冒頭からして「お前を無実の罪で拘束する!」である。なんじゃそれ。
だが、まだこれは序の口、本編が始まると、流れるように珍妙な展開が相次ぎ、尋問中の将校(と体験するプレイヤー側)からのツッコミ祭りになる。最初のチャプター1に限定する形で、その珍妙な展開の数々をピックアップするならば。
トイレットペーパー入手のため、拳で便器を破壊したり。
兵士から眼帯とガラスの義眼を取り除いたり。
その行為に対して将校から問われることになっちゃったり。
どこもかしこも「マイク」という名の男しかいなかったり。
溝から触手、血まみれの槍、骨の腕が飛び出したり……などなど。
「真面目に考えたら負け」と言わんばかりの珍妙な展開が連発するのである。
そして、チャプター2以降になると、この傾向はエスカレート。
下水道で「ピラニア人間」との戦闘が始まったり。
チーズに扮して(!)殺人ネズミの追撃から逃げることになったり。
迷宮の主が現れてしまったり。
マジでホットなすんごいべっぴんさんとの出会いがあったり。
……って、失敬。
とにかく、「どうしてそうなる!?」と言いたくなるイベントが連続するのである。
念のためだが、これで全体のごく一部である。
他にもこのタクティカルで、エスピオナージで、ミリタリーな設定から逸脱しすぎにも限度があるネタが詰め込まれている。それらは初見で見て、体験してこそ強烈な印象を残すので、前述にて紹介したネタの一部にグッとくるものを感じたのなら、ぜひとも製品版をプレイして体験いただきたい。一生忘れ得ぬ潜入劇(および脱出劇)をお約束する。
各ネタは単に面白いだけでなく、プレイヤーのモチベーションを維持する要素として機能しているのも見事としか言い様がない。しかも、チャプターごとに固有のネタを設けるこだわりよう。何より特色たる選択肢による分岐システムのおかげで、一度クリアした後も再び、違う展開見たさに遊びたくなるリプレイ性を実現しているのが上手い。単に笑わせるためではなく、ゲームをより楽しく、退屈することなく遊んでもらう要素としてまとめ上げているのだ。その驚くべきこだわりには素直に感服させられる。
ひとつのステルスアクションゲームとしての完成度も傑出している。
特にチャプタークリアと関係するミッション、イベントのバリエーションが多彩。いずれもチャプターごとに固有のものが用意されているため、毎回刺激的な展開を楽しめる。それだけに攻略し甲斐も抜群で、クリア後の達成感と満足感も高いものになっている。
とりわけボス戦はその魅力が最も顕著に表れている部分だ。ステルスアクションゲーム、かつミリタリーな世界観から、対峙するボスは人間や兵器類が中心……と想像するかもしれない。実際その通りなのだが、これがゲーム進行と同時にどんどんおかしなものになっていく。どうおかしくなるのかは、前述の「ピラニア人間」が物語る通りである。気になればぜひ、突撃してみよう。きっと前代未聞の激闘をあなたは目撃する。
肝心のストーリーも前述のネタの数々もあって、終始先が読めない。そして、徐々に深刻さを増していく。フォックスに濡れ衣を着せた精鋭コマンドー部隊の正体は何なのか、彼らは基地で何を企んでいるのか。基地内に捕らわれた者たちが見てしまったものとは何なのか。全ての真相は例によって、本編で確かめていただきたい。終始、クギ付けになってしまうことを保証する。ただし、ストーリーを構成する成分がユーモア9割、シリアス1割であることは常に頭に入れておこう!
他にも選択肢による分岐とアイテムの合成システムは、古き良きコマンド選択型アドベンチャーゲームな手触りもあって、一部、様々なパターンを試してみるという総当たりプレイが発生するのも面白い。どれかを選べばゲームオーバー一直線になったり、特殊な行動を取って新しい選択肢を出現させるフラグ立てが試される所も非常にそれっぽい。ただ、裏を返せば初見殺しがすぎたり、リトライを繰り返すと作業染みた展開になってしまうのはタマにキズ。合成を通して完成させるアイテムも、その素材となるアイテムの回収で右往左往したり、行き詰まってテンポが悪化する所も若干の調整不足を感じさせられる。
ただ、そのような粗を補って余りあるほどにストーリーとユーモア全開なネタの数々、ステルスアクションとしての面白さが光る。それでいて、オマージュ元とは見事に似て非なるゲームとして完成されている。それはシステム周りだけでも理解できる部分だが、実際に本編を体験すれば、よりその印象は強固なものになる。ゆえに本作に某メタルのクローン、二番煎じなどという印象を持った人は、四の五言わずに遊んでみていただきたいところだ。ここまで豪語した意味がきっとよくわかる。そして、こう言いたくなるはずだ。
ジェシー・フォックスという男は信用できない!……と。
「俺たちは伝えなければならない。この奇妙で、ふざけた体験を―」
ゲーム以外の部分でグラフィック、音楽の完成度も高い。音楽は見た目の懐かしさとは裏腹に現代風の楽曲が中心なのだが、いずれも場面にマッチしていると同時に所々で笑いを誘ってくる。中でも要チェックなのはボス戦とその勝利後の演出だ。某メタルを知る兵士諸君であれば前者に対して「ギリギリすぎる!」となり、後者に対して「ゲームが違う!」となるだろう。
演出面では効果音も素晴らしく、格闘攻撃を決めた際の打撃音は痛快の極み。また、英語のみだが台詞はフルボイス。声優陣も某メタルを意識した演技をしていて、とりわけジェシー・フォックス役には本家の声優さんがやっているのでは、と錯覚するかもしれない。(※実際は別の声優さんがやっている)
また、日本語翻訳もユーモア成分をガッチリ掴んだキレキレなものになっている。前述にて紹介したが、どこかで聞き覚えのある台詞もあるので要チェック。
ボリュームも結構なもので本編クリアだけでも9~10時間。難易度も4段階用意されていて、チャプターごとに隠されたアイテムを探し出すアイテム収集などやり込み要素も揃っている。操作性も申し分なく、(ゲームパッド使用時における)右スティックの上下左右に好きな装備をセットし、指定の方向に倒せば瞬時に切り替えられる機能は快適の一言に尽きる。
タイトルからしてネタゲーっぽさもあるが、実は侮りがたい面白さと独自の魅力が満載の本作。ステルスアクションゲーム好きからそうでない人、某メタルを戦い抜いた歴戦の兵士たち、そしてトヨタ製自動車を愛する人にまで自信を持ってお薦めできる”よい扇子”な傑作だ。このどう見ても某傭兵にしか見えない民間人の話に耳を傾け、その荒唐無稽な脱出劇の全容を暴き出そう。
ピンチに陥った時は思い出すのだ。
追いこまれた狐はハイエナより凶暴であることを!
※注:所々引用が間違っているのは、”うろ覚え”ということでご容赦ください。
[基本情報]
タイトル:『UnMetal』
発売・開発元:UnEpic Fran(※販売:Versus Evil)
クリア時間:9~10時間
対応プラットフォーム:Windows、Xbox One、Xbox Series X|S
価格(税込):¥1,900(Steam)、¥2,350(Xbox)、¥1,880(Epic Games Store)
IARC:16歳以上対象(暴力・出血表現、性欲を持て余す類の表現あり)
購入はこちら
※PC(Steam)
※PC(Epic Games Store)
https://www.epicgames.com/store/ja/p/unmetal
※Xbox One(Xbox Series X|S)
https://www.xbox.com/ja-JP/games/store/unmetal/9P9KR2GN0BZ3