魔王復活を目論む四天王とカレーを食べたい若者たちのすれ違い大激闘?異色の短編SRPG『カルテットログ』
何千年前に君臨した魔王。
勇者の伝説。
それらが全て人々の記憶から薄れていた時代。
魔王の元側近「四天王」は平和という名のぬるま湯に浸かった世界を地獄へと帰すべく、主たる魔王の復活準備を進めていた。
同じ頃、「先生」と呼ばれる人物に保護され、共同生活を送っていた4人の若者たちは、「カレー粉」なる貴重な香辛料で料理を作るため、必要な野菜を始めとする材料集めへと出かけようとしていた。
前後無関係がすぎる流れだが、こんな具合に本作『カルテットログ』は幕を開けるのである。とりあえず、強引に「カレー、いいですよね。」と付け加えておくべきなのか。
某コ●イチではロースカツカレーをよく注文します。(なんの話だ。)
RPGに寄ったシステム設計が特徴の短編SRPG
Windows PC用フリーゲームとして「ふりーむ!」で配信中の本作、『カルテットログ』は「WOLF RPGエディター」製のシミュレーションRPG(SRPG)だ。2D見下ろし視点(俯瞰視点)の戦闘マップを舞台に、カーソルでキャラクター(ユニット)に指示を与えて移動させたり、時に敵に戦闘を仕掛けたりしながら勝利条件の達成を目指す。
本編はアイテムの調達を始めとする事前準備ができる拠点「マイホーム」、エピソード本番の「外出先」(戦闘マップ)を交互にプレイしながら進めていく。戦闘マップにて勝利条件を達成するとクリアになり、イベントを挟んだ後に次のエピソードが開始。以降はその繰り返しとなる。SRPGとしては正統派の構成である。
システム面も戦闘マップでの進行は「味方(プレイヤーフェイズ)⇒敵(エネミーフェイズ)」の順番で動くターン制と、SRPGの王道に準拠。ただ、プレイヤーが動かせるユニットの数は4人で終始固定。それ以上増えることもない。
また、4人の行動順は「レモンバーム」(最年長の青年)⇒「ペパーミント」(緑髪の女性)⇒「クラリーセージ」(温厚な少年)⇒「ローズマリー」(最年少の少女)とゲーム側であらかじめ決められており、自由な順序で動かすことはできない。そのため、若干ながら制約による窮屈さを感じさせる遊び心地になっている。
なお、戦闘マップの勝利条件は全て「ボスユニットの討伐」で統一。
前述の「四天王」のひとりがマップの最奥に待機しており、これを目指し、各キャラクターを動かし、進めていくのが主な流れになる。
例によって、その合間には複数の敵ユニットも配置されており、敵ターンになるたびに移動し、こちらに近寄ってくる。そして、誰かしらに隣接すると戦闘が発生。
これもSRPGではお馴染みの流れだが、本作は戦闘システム自体がRPGそのものであるのが特徴になっている。厳密には敏捷性の高いキャラクターから順に行動する、コマンド選択型のシステム。身も蓋もなく言えば、制作ツール「WOLF RPGエディター」のデフォルト戦闘システムなのである。
しかも、この戦闘はどちらかが倒れるか、もしくは逃げるまで延々と続く。SRPGの戦闘と言えば、いわゆる先攻後攻形式……「仕掛けた側が1回攻撃⇒受けた側が1回攻撃(反撃)」というのが定石になっている。武器や素早さのステータスに応じて2回目の攻撃が発生することも、という細かい仕様の例とかはこの際置いておくとして。
本作はそれとは異なり、どちらかが倒れる、もしくは逃げるまで延々と続く紛うことなきRPGの戦闘システム。そのまんま過ぎるものになっているのである。
加えていくつかの独自要素も。ひとつに「逃走」のコマンド。戦闘開始前には「WOLF RPGエディター」のデフォルト戦闘システムらしく、「戦う」と「逃げる」の選択肢が出るのだが、この「逃げる」を選ぶと100%成功する。しかも、こちらから戦闘を仕掛けた時でも、敵から仕掛けられた時でも、だ。その気になれば、敵の攻撃行動すら拒否できてしまうのである。
とは言え、戦闘しなければ経験値やお金が手に入らず、キャラクターの成長、アイテムの購入がままならなくなるため、デメリットも相応。前述の通りマップのクリア条件もボスの討伐なので、どのみち戦うことは避けられない。あくまでも、次に紹介する戦術をベストな形で使いたい時に有用な手段、といった感じである。
その戦術というのが、もうひとつの独自要素「包囲」。戦闘には基本、敵に隣接したキャラクター1人が参加する。だが、敵に隣接したキャラクターが他にもいれば、そのキャラクターも参加する。
つまるところ上下左右の四方向から囲めば、4人全員が参加できるのだ。
参加人数が多ければ戦闘中の選択肢が増えるため、必然的に難易度も下がる。特に「四天王」を相手にする際には有用な戦術だ。ただ、参加人数が多いと勝利時に得られる経験値が下がるなどのデメリットもある。
その得られる経験値にも独自仕様があり、戦闘中における1ターンごとの経験値に経過したターン数が乗算され、参加人数で除算されて算出されるようになっている。計算式で表せば「1ターンごとの経験値×ターン数÷戦闘参加人数」である。このため……というか、逆を言えば、戦闘を少ない人数で長引かせるほど、沢山の経験値が得られる。
しかも、本作には2ターンに渡って継続する、受けるダメージが4分の1になる「防御」のコマンドもあるため、意外と実現は容易。とは言え、最終的には持参した回復アイテムの数に左右されるため、欲をかきすぎればしっぺ返しを食らうのだが。
他にも独特の仕様は幾つかある。4人全員全滅でゲームオーバー……とならず、獲得した経験値とレベルを維持したまま「マイホーム」に撤退するだけの緩いペナルティ。マップ上の敵を離れた所から攻撃する「遠距離スキル」(※一定のレベル到達後に習得)。それで敵を倒した時に限って得られる経験値がゼロになるデメリットなど。
地味なところで、味方のユニットにも貫通設定がなく、移動を指示する際、合間に他のキャラクター、もしくは障害物を挟むとその直前で歩みを止めてしまう、なんて要素も。そのことから、動かす際にも仲間や障害物に当たらないよう迂回させねばならないのも、ちょっとした珍しさがある。
このように根っ子は王道のターン制SRPGなのだが、システム的にRPGへの依存具合が強く、遊び心地もそちらに寄った作品に仕上げられている。作者いわく(SRPGをほぼ遊んだことがないことによる勢いと感覚で作り上げた)「なんちゃってSRPG」なのだが、全体的には異色の言葉がこの上なく似合う作りである。
「勝てば良かろうなのだ!」を地で行く戦術自由度の高さ
そんな本作の魅力はプレイヤーの制御が効きやすい設計にある。
魅力というよりは特徴、異色な部分とも言い換えられるが。
具体的には戦闘に関する一連の特徴がそれを物語っている。
前述の通り、戦闘はどんな時でも逃走コマンドを選択すれば一発で拒否できる。「勝てそうにないから」「深手を負っているから」「他の仲間を揃えて袋叩きにしたいから」など、ワガママな理由(難癖?)を付け、勝負に挑むタイミングを自由に決められるのだ。
一般的なSRPGなら、戦闘を仕掛けるか否かはプレイヤーのターンの時に限って選択でき、敵のターンの時は相手に決定権が回るため、仕掛けられても拒否は不可能だ。そのまま相手に仕掛けられ、どんな結果が出るのかを見守るしかない。
それで無傷に終わって一安心したり、逆に深手を負って冷や汗をかいたりと、結果に一喜一憂するというのはSRPGというジャンルの醍醐味でもある。
本作はそれをプレイヤー側で拒否でき、ベストなタイミングに制御可能というだけでも、いかに異質な作りをしているのかが察せるだろう。しかも、逃走は戦闘途中でも有効で、敵に与えたダメージは逃走後も維持される。なので、そこから別の深手を負っていないキャラクターに代えて一気に押し倒したり、あと数発で倒せる瞬間まで削ってから育てたいキャラクターをぶつけ、経験値をガッポリ貰う……という戦術を取るのも容易。それらに限らず、他にもキャラクターを移動させて2人以上で攻める、遠距離攻撃で可能な限り体力を削って弱った所を図って突撃、というような手も下すのもある。
まさにプレイヤー側でどうとでもできてしまう、工夫の幅が広い作りになっているのである。特に仕組みの理解が深まった後、そのような戦術を取るようになってきて、段々と自らの卑怯さが露わになっていく。もちろん、そのまま真っ当に挑むのもありだが、卑怯な手を使えばもっと有利に事を運べる。あえてそんな「勝てばよかろうなのだ!」の考えに従うか、真っ当な勝負に挑むか。
その意味では本作、プレイヤーの性格が表れやすいSRPGと言えるかもしれない。
制御が効きやすいとは言え、難易度的に甘くないのもひとつの特徴。特に各マップで対峙する「四天王」は非常に手強く、4人をある程度育ててから攻めないと勝つのは難しい。道中に現れる雑魚敵にも特定のキャラクターが持つスキルを用いないと倒すのが困難な存在がいたり、致命傷同然の攻撃を仕掛けられることもあるので油断ならない。何より、各キャラクターのスキルはレベルを上げねば増えないし、遠距離攻撃だって最初から使える訳ではない。ゆえにこそ、多少卑怯な手を使ってでも育てることも重要。
制御が効きやすいのは確かだが、決して無計画かつその場凌ぎな戦術で勝てるバランスではない。そんなうまい話には裏がある設計が凝らされているのも秀逸で、ゲームバランス面でもこのシステム特有の手ごわさが表現されている。
制御が効きやすい、別の言い方でワガママし放題な作りで「SRPGとしての手応えはあるのか?」と思うかもしれないが、だいぶ変わっているとは言え、ちゃんとある。変わっているなりの珍しさも相応なので、この一連の特徴に興味を抱いたのであれば、ぜひお試しいただきたいところである。段々と「勝てばよかろうなのだ!」な考えに染まっていく過程は色んな意味で唯一無二だ。
ただ、プレイヤー側が色々な手を下せる反面、敵(雑魚敵)の戦術はひたすらにこちらを攻撃してくるだけ、ボスの四天王はその場から動かず待機しているだけなど、相手の戦術に翻弄される体験は無いに等しい。四方向から囲むと、その分の人数が戦闘に参加するシステムを敵が利用してくることもない。
なので、その種の体験を求めると肩透かしを食らいやすいため、ご注意いただきたい。正直、敵も囲って集団で襲ってくるみたいな要素があると面白かったのではと、(そこそこにSRPGを遊ぶ)筆者個人としては思うところもあったのだが。
立場の温度差が激しいストーリーも見所の意欲作
また、ゲームテンポはお世辞にも良好とは言い難い。
主にマップ進行が顕著で、演出的に無駄に感じるものが見受けられる。制作ツールがSRPGに特化していない事情もあるが、特にキャラクターのターンが回ってきた時、常に「○○のターン」と表示される演出は必要なかったように思える。
隣接すれば戦闘が発生する仕様もプレイヤー、敵を問わず強制的に発生し、「Battle Start!!」という演出を挟む都合から、テンポの悪化を招いている。これもツールの事情が関係しているかもしれないが、プレイヤーが隣接した時に関しては戦闘を開始するか否かを選べて良かったのではないのか、と思うところである。(一応、逃走コマンドによる拒否が代替を担ってはいるものの、そこに至るまで時間を要すのがもどかしい)
他に防御力などを上昇させる装備品の数が少なく、各々の性能を好みに調節するカスタマイズ的な楽しみが弱いのも気になる部分。
特にアクセサリー類はもう少し種類があって良かったかもしれない。
少し難点を抜粋してしまったが、逆を言えば1990年代のSRPGっぽい味わいがあるのは、世代によっては刺さるものがあるのも事実。
また、冒頭でも紹介したストーリーも独特な味わい深さがあって大変印象に残る。「カレー粉」を使った料理のため、材料集めを楽しむ若者4人と、彼らに密猟者と見なされて攻撃される四天王たちの構図は紛うことなきギャグ。
主人公勢と四天王勢とで台詞の文字フォントも使い分け、双方のギャップを表現しているのも演出的に面白くて必見だ。果たして若者たちは無事、「カレー粉」を使った料理を仕上げられるのか、四天王は魔王を蘇らせられるのか。その行く末は実際に本編を見て確かめていただきたい。きっと四天王たちへ同情の念を禁じ得なくなる……はず。
SRPGとしては短編のため、エンディングまではおよそ2~3時間ほど。少しテンポに食われている部分はあるが、独自のシステムと戦術の制御しやすさ、そして味わい深いストーリーもあって、確かな手応えと満足感を得られる内容にまとめられている。色んな意味で風変わりなSRPGと言える本作。SRPG好きに限らず、RPG好きもプレイしてみて欲しい意欲作だ。「カレー」を巡るユルい戦いの行く末を見届けよう。
諸々終えた後、カレーを作って食べるのも一興である。
最近のおすすめは「ZEPPIN」です。
[基本情報]
タイトル:『カルテットログ』
作者:CronusAria
クリア時間:2~3時間
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