「ゲーム実況者に感謝したい」―『ネクロダンサー』制作者インタビュー
昨年末に、その独特な組み合わせとリズムに乗ってプレイする楽しさが話題になったPC向けゲーム『Crypt of the Necrodancer』。制作したのはカナダのバンクーバーを拠点にするインディゲーム・デベロッパーBrace Yourself Gamesだ。
もぐらゲームスによるレビューはこちら
中毒者続出。ローグライクRPGとリズムゲーを組み合わせた異端児『ネクロダンサー』が神ゲーな理由
もぐらゲームスでは、クリエイターのRyan Clark氏にメールインタビューという形で話を訊いてみた。
リズムに合わせて自分と敵が同時に動くというその独特なゲームデザインは、どういう想いから生まれたのか。また、現在進行形で盛り上がっている日本の実況をどう捉えているのか、など興味深い話が聞けたので是非読んでみて頂きたい。
実況が盛り上がることの意味
――『Crypt of the Necrodancer』(以下、『ネクロダンサー』)は既に10万本以上ダウンロードされているそうですね。凄い数字です。そしてこれまで様々な賞を獲得してきました。それだけ多くの人が『ネクロダンサー』を遊び、製品版を楽しみにしています。この状況をどのように捉えていますか?
- Ryan
- 僕らのとてもへんてこなゲームをこんなに多くの人たちが楽しんでくれていて、大変驚いています。このゲームデザインを考えた時、プレイした人たちがどう思うか、全く想像がつかなかったんですよ。だって、『ネクロダンサー』はあまりに奇妙でしたから。多くの人達が気に入ってくれて、ホッとしました。でも、僕らはまだ開発を終わらせるために頑張らなければいけません。まだ止まるわけにはいかないです!
――日本では、『ネクロダンサー』の実況動画がかなり人気になり、多くの人が視聴しています。例えば、この動画は20万回以上再生されています。
- Ryan
- テラゾーさん(@terazo)とpoezさん(@poez)の2人は僕の知るかぎり、日本で最初にネクロダンサーの実況動画をあげてくれた実況者でした。彼らには本当に感謝しています。僕は日本とその文化が大好きです。だからこそ、ネクロダンサーが日本で楽しんでもらえたらいいなと思っていました。2013年のTGS(東京ゲームショウ)に出展したのもそういう理由でした。これまでの人生で触れてきた日本のゲームやアニメ、食べ物、文化はどれも素晴らしかったです。ささやかでも、こういった形でお返しができるというのは嬉しいです。それも、日本でこのゲームを広めてくれているテラゾーさんとpoezさん、そしてゼフィールさん(@Xepheerr、テラゾー氏、poez氏と3名でネクロダンサーの大会ConDOR Japanを主催)たちのおかげです!
1月17日に日本のネクロダンサープレイヤー主催で開かれたタイムアタックレース「CoNDOR Japan」。ニコニコ生放送とTwitchで同時に放送され、Ryan氏も「このために早起きした」と言って観客として参加。制作者ならではのコメントも交えながら声援を送っていた。
――作ったゲームが実況されるというのは嬉しいものですか?
- Ryan
- 実況動画は素晴らしいです。僕らのようなゲーム開発者にとって心強い味方です。ゲームの存在を広めてくれるだけでなく、色々な人がプレイする様子も見ることができます。どういった部分がプレイヤーにとって楽しいか、そして嫌われるかが見えるようになって、僕らはゲームをより良くすることができる。特に、『ネクロダンサー』のような開発中のゲームにとっては本当に助かります。
開発が一段落したらSteamの積みゲーを遊びたい
――Ryanさんはこれまでどんなゲームを作ってきたのでしょうか。そして、ゲームを作り続けている原点は何だったのでしょうか。
- Ryan
- 6歳の時、父親がAppleⅡでBASICのプログラミングを教えてくれたことがきっかけです。2004年に自分でゲームを作る会社を立ち上げることにしました。Grubby Gamesっていう名前の会社で、そこでは7つのゲームを作りました。その後、Big Fish Gamesというデベロッパーに買収されて、2年位働いていたのですが、やっぱり独立してやりたくなったんですよね。そしてBrace Yourself Gamesを立ち上げました。
Big Fish Gamesで制作した『Professor Fizzwizzle』(2006)
――やっぱりインディでやりたいという想いが強かったんですね。
- Ryan
- 『Crypt of the Necrodancer』はBrace Yourself Gamesから出す最初の作品になります。数えてみると、制作したゲームは10本目、毎年サンフランシスコで開催されるIndie Games Festival(IGF)にノミネートされるゲームは4本目ということになります。ゲームをプレイすることも作ることも大好きです。『ネクロダンサー』を作りながら、ようやく自分が本当に幸せに感じられるゲームを作れていると実感しています!!こうやって自分の好きなことをして生計を立てることができて自分は本当に運が良いと思います。皆さんのご支援のおかげです。
――やはりゲームを作るだけでなく、遊ぶのも好きなんですね(笑)どんなゲームが好きですか?
- Ryan
- もちろん!もっと遊ぶことにも時間を使いたいんですけどね(笑)『ネクロダンサー』が一段落したら、Steamの積みゲーをプレイするのが楽しみでしょうがないんです!2人の息子がいるので、彼らの成長も楽しみです。一緒にゲームができる相手がいつでも側にいるってことですからね(笑)好きなのはやっぱりローグライクゲーム、そしてシミュレーションゲームです。お気に入りは、『Dwarf Fortress』です。日本のゲームだと、スマブラとかマリオカートも大好きですよ。マリオカート8は4歳の息子と遊んでます!
ローグライク世界創造ゲーム『Dwarf Fortress』(ドワーフの要塞)(無料)
――『ネクロダンサー』の開発はいつ頃から始めたのでしょうか。
- Ryan
- 2013年の1月にプロトタイプを作りました。その年のGDC(Game Developers Confference)にそれを持って行き、僕も名前を知っていたインディゲームの開発者たちににとにかく見てもらいました。反応がとても良くて、そして幸運にも一緒にゲーム作りに携わってくれる優秀な仲間が見つかってチームができました。2013年の春からはフルタイムで開発を始めました。2015年の早いうちにリリースできればと思っています。開発期間は約2年間ということになります。
――運良く集まったということですが、どんな経緯で集まったメンバーなのでしょうか。
- Ryan
- つながりです。例えば、ドット絵を描いてくれているTed Martensは、他のインディゲーム開発者たちに「誰かピクセルで絵を描いてくれる人はいないか」って聞いて回って紹介してもらいました。Tedはキャラクターとアニメーションの部分で本当に素晴らしい仕事をしてくれました。紹介してもらえて本当にラッキーでした!
- Ryan
- 音楽を作ったDanny Baranowskyは友人のAlec Holowkaの紹介でした。Alecは『Aquaria』、『Towerfall』、『Night in the Woods』といったインディゲームの開発に関わっていて、近くに住んでいたんです。Dannyが僕らのプロジェクトにピッタリなんじゃないかという話になって…ZONE1のLevel1の曲をまず作ってもらったんです。それはもう完璧でしたね。
リズムが最高で、しかも一度聴くと病みつきになるネクロダンサーのBGM。最初にプレイヤーが苦しめられる1面の一番最初の曲だ。
――開発の中で一番大変だったことは何ですか?
- Ryan
- 一番大変だったのは、プロトタイプを色々な人に見せて感想をどうやってもらおうかということ、そしてゲームをメンバーを集めることでした。一度、チームを作ってしまったら、もっとゲームが良くしていけると思えるんですよね。あとは一気に完成させるだけです!
――プロトタイプを作ってからチームを作るまで、ですね。その後も苦労したことはありますか?
- Ryan
- Steamでアーリーアクセス版をリリースしてから、非常に多くのフィードバックをコミュニティからもらうことになりました。フィードバックは本当に素晴らしく、ゲームを良くするためには役に立ったんですが、時には多すぎてパンクしそうでした。コミュニティに対応しながらゲーム開発も進める、そのバランスをとるのに苦労しました。
「フェアな」ローグライクを作りたくて
――次は、『ネクロダンサー』の独特なゲームデザインについてお話を聞こうと思います。もぐらゲームスでのレビュー記事にも書かせていただいたように、『ネクロダンサー』はローグライクとリズムゲームの見事な融合を実現しています。1+1=2ではなく3かそれ以上の面白さですよね。こういったアイデアはどこから思いついたのでしょうか?何かからインスピレーションを得たのですか?
- Ryan
- 実は偶然なんですよ。「フェアな」ローグライクを作りたくて『Spelunky』のような考える時間を短くするために速いペースで進んでいくゲームを作ろうとしていました。
スペランカーをリスペクトしたローグライクアクションゲーム『Spelunky』(2013)
- Ryan
- ローグライクの特徴になるターン制を無くそうとは考えていなかったので、その2つのアイデアを組み合わせることにしたんです。ターンが物凄く短いゲームを作ってみました。試しに遊んでみたら、まるで音楽のビートを刻んでいる感覚になって……。そこで、マイケル・ジャクソンの「スリラー」をかけながらゲームを遊んでみたら、かなり楽しかった(笑)
――それが、BGMのビートに合わせて動くという今のゲームデザインの原型になったわけですね!!先程もおっしゃっていた「フェアな」ローグライクゲームを作ることが『ネクロダンサー』の目的にあるとHPでも紹介しています。この点についてもう少し詳しく教えてください。
- Ryan
- ローグライクゲームではプレイヤースキルこそ一番大事だということですね。僕は『ネクロダンサー』を、スキルがあって知識がある人ならば、毎回勝てるようなフェアなゲームにしたいと思っています。今のところ、この点は実現できていて、かなり近づいてきていると思います。例えば、色々選べるキャラの中で「Bard」のキャラを使った場合、『ネクロダンサー』が得意なプレイヤーならほとんど負けることはないはずです。
Bardは「ビートに関係なく動ける」という特徴のあるキャラクター。じっくり考えながらプレイできる。
- Ryan
- もし、やられたとしたらそれは実力不足でミスをしたからでしょう。僕は、プレイヤーの実力に100%依存するゲームはとても楽しいと思っています。やられた時には何かミスをしたからだと分かる。ゲーム以外でもそうですよね。そのミスが将来起きないようにどうやって防ぐかを考えるのはプレイヤーです。このゲームデザインによって、他のローグライクゲームをプレイするときに、理不尽な設計でやられてしまって感じるイライラを減らせるのではないかと思っています。
――そのまさにイライラする要素として、ローグライクの宿命であるランダム性があります。マップや敵、アイテムなどは毎回違うわけです。ランダム性が特徴でありながらプレイヤーをイライラさせないようにするバランス調整は非常に難しかったのではないかと思いますが。
- Ryan
- そう、このバランスがネクロダンサーの一番の肝です。色々なキャラを用意したのもそのためなんですよ。主人公の「Cadence」は、誰がプレイしても攻略が難しいキャラクターです。そういう意味では非常にフェアですね。
主人公のCadence。非常にオーソドックスなキャラなので特徴はない。
- Ryan
- 他のキャラクターは簡単だったり、難しかったりとかなりバリエーションに富んでいます。色々なプレイヤーの「ああいうキャラを使ってみたい!」という声を満たせるように様々なキャラクターを用意しました。プレイヤーからは、ゲームの難易度をもっと易しくしてほしい、難しくしてほしいという両方の声があったので、ノーマルモードとは別にハードコアモード(※)を実装しました。ハードコアモードは難しすぎると感じている人も多いようですね。
※ハードコアモード:初期HPでのスタート。しかも全てのステージをクリアするまで、一度でも死んだらゲームオーバーになる
ハロウィンやクリスマスイベントなどに合わせたアップデートも行っており、ユーザーを楽しませようという姿勢が現れている。
――プレイヤーからのフィードバックが大きかったということですね。
- Ryan
- ゲーム実況の話に戻りますが、色々な人のプレイを見ることができて、大いにバランス調整の参考になりました。これまで山のようにバランス調整を加えてきましたが、それは実況者の皆さんのおかげです!
大好きな国の人たちが楽しんでくれていて嬉しい
――そして、気になる今後の予定について聞いていきたいと思います。製品版はそろそろですか?
- Ryan
- 2015年の早いうちには出したいと思っています。あと2,3ヶ月以内に出せるといいのですが!
――楽しみですね。プレイ感としては、とにかく操作が非常にシンプルなので、PS4やタブレットPC、スマホ向けにもいいのではないかと思いますが、予定はあるのでしょうか?
- Ryan
- いずれできたらいいですね。ただ、今はSteamで発売するPC版に100%集中しています。
――日本語版の予定はあるのでしょうか。
- Ryan
- 英語版を出してからにはなりますが、日本語にローカライズされたバージョンも出そうとは思っています。そして、日本で既にこのゲームをプレイしてくれている皆さんに出来る限りの感謝をお伝えしたいと思っています。日本のプレイヤーの皆さんにもしっかりサポートしていきたいですね。ネクロダンサーが日本でも人気があるということを聞いて本当に驚きました。日本のファンなので、本当にワクワクしています。
――最後に日本の皆さんにメッセージをお願いします。
- Ryan
- 「ありがとうございました!」(※)
- Ryan
- 僕らのゲームを遊んでくれて、そして実況や紹介をしてくれて、ありがとうございます。僕と妻は、新婚旅行で東京に1週間遊びにいきました。それだけ日本のことが大好きで、そんな大好きな国の人たちが僕らが作るゲームを楽しんでくれていて嬉しいです。本当にありがとうございます。そして、Cadenceを使ったSpeedRunで僕のハイスコア(3:15)を抜けるなら、ぜひ見せてほしい!
- Ryan
- 「がんばってね!」(※)
※この2つのメッセージはRyanの英文での回答中、日本語(平仮名)でメッセージとして書いてくれたものです。
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