ぬいぐるみのヒツジちゃん、謎の地下空間を征く。密度濃いめな無料短編アクション『Sheepy: A Short Adventure』
何かの文明があったと思しき遺構が広がる地下世界。
さまざまな廃棄物が積まれた場所に、ヒツジのぬいぐるみが捨てられていた。
そんなヒツジのぬいぐるみに突如、光が降り注ぎ、命が吹き込まれた。
そして、意志を持ったヒツジのぬいぐるみは、何かに導かれるかのように地下世界を歩み始めた。いったい、ヒツジのぬいぐるみはその果てに何を見るのか。
そんなオープニングと共に始まる『Sheepy: A Short Adventure』は、2024年2月6日よりPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」で無料配信中のWindows PC向けフリーゲーム。
フランス・パリ在住の個人開発者Thomas Lean氏と、チャンネル登録者数1,280万人(※2024年3月時点)を誇る音楽専門のYouTubeチャンネル「MrSuicideSheep」の共同開発によって誕生した作品である。
ヒツジのぬいぐるみになって、地下空間を進む短編アクションゲーム
ジャンルは横スクロールのアクションゲーム。主人公であるヒツジのぬいぐるみ(以下、ヒツジ)を操作し、何かの文明があったと思しき地下世界を進んでいくというのが主な内容となる。
ゲームデザイン周りは、俗に”雰囲気系”と称されるアクションゲームのものを踏襲。地続きの1本道構成でまとめられたステージ、罠などに一度でも接触すれば瞬時にやられてしまう一発アウト制、高速リトライ、残機制の非採用といった定番のものが採用されている。当もぐらゲームスで紹介しているゲームで例を挙げるなら『INSIDE』(紹介記事)、『Celeste』(紹介記事)、『System Purge』(紹介記事)と似たタイプのアクションゲームだ。
ただ、本編の流れは細かいブロックで分けられたステージを順に攻略していくのではなく、探索型アクションゲームを思わせる広いステージを進んでいく形になっている。章の概念もあり、ある場所まで到達すると、そのまま自動的に次の章へと移行するようにもなっている。
探索型アクションゲームを思わせるシステムもある。アクションのアップグレードだ。本編を進めていくと、特殊なイベントが発生し、それを乗り越えるとヒツジがパワーアップ。二段ジャンプを始めとする、新しいアクションが可能になるのだ。
その能力を使って難関を乗り越えるシチュエーションも用意されているほか、時には過ぎ去った場所まで戻り、新しいアクションを駆使して突破する展開も発生。まさに探索型アクションゲームの定番とも言える要素も仕込まれているのである。
だが、あくまでもそれは本編における一要素。全体としては雰囲気系のアクションゲームに沿った作りになっている。
そもそも一部を除き、探索型アクションゲーム定番の迷路のように入り組んだ場所はなく、基本的に前進していくのを心がければゲームが自然に進んでいくようになっている。Steamストアページには、本作が探索型アクションゲームであることを指すタグが設定されているのだが、前述したように全体を構成する一部に過ぎない。「探索型の要素を少し含んだ雰囲気系アクションゲーム」というのが正確なところだ。
なので、遊び心地そのものは雰囲気系のアクションゲームに近い。実際に遊んでみれば、そちらに寄ったアクションゲームであり、探索型の要素は”おまけ”なことを節々で実感させられるだろう。
雰囲気系と探索型の”美味しいところ”を凝縮した作りが映える!
なお「A Short Adventure」と冠されている通り、本作は短編。クリアまでに要する時間は大体、長くて1時間半。早くて50分以内となる。
それもあって、割と早く終わってしまうのだが、全体の密度は非常に濃く、物足りなさをほとんど感じさせない内容に仕上げられている。特に雰囲気系、探索型それぞれのアクションゲームの”美味しいところ”を抽出した構成が見事。それが本作の魅力となっている。
雰囲気系の”美味しいところ”とは何か。それはやはり、ゲームが進むたびに世界観、ストーリーに対する謎、関心が右肩上がりに増していく流れとその演出だろう。本作もその”美味しいところ”は抜かりなく押さえられている。
とりわけ「可愛いヒツジのぬいぐるみが冒険を繰り広げる」という設定とは裏腹の展開の数々には、くぎ付けになってしまうこと請け合いだ。Steamストアページにも記載されているイメージビジュアル、ヒツジの可愛い見た目もあって、プレイ当初はきっと「地下空間が舞台とは言え、ほのぼのした内容なんだろうな」と思うかもしれない。実際、始めて間もない頃はヒツジの可愛い動きもあって、そんな印象を抱かせる。ところが、最初に発生する「クマのぬいぐるみ」と出会うイベント以降、空気は著しく一変。その可愛さとは裏腹すぎる要素が地形、背景などに続々と登場して不穏さが増していくのだ。
どんなものが登場するかは見てのお楽しみだが、クマのぬいぐるみを退けた直後に色々思い知らされるだろう。「このゲーム、ほのぼのしていない!」と。それを乗り越えた後にも、人間と思しき”何か”を始め、ヒツジの可愛さに一致しないものが続々と登場し、最初に抱いた印象は消え去ってしまうはずだ。そして、いかなる結末に向かうのか気になり、どんどん進めたくなってしまうかもしれない。
それほど訴求力が高い展開が盛り沢山なので、もし、これからプレイするならば事前情報は一切調べず、そのまま始めてみていただきたい。きっと最後までぶっ通しで遊びたくなってしまうはずだ。同時に雰囲気系アクションゲームとしてのツボを見事に押さえた仕上がりに、その種のタイトルを複数遊んでいる人なら唸ってしまうかもしれない。
もうひとつの探索型アクションゲームの”美味しいところ”は、新しいアクションを駆使して行動範囲を広げたり、難関を突破する楽しさだ。本編全体としては限定されているのだが、機動力がどんどん上がっていくヒツジの姿、「新アクションを使いこなして乗り越えろ!」と言わんばかりのシチュエーションにはニヤニヤしてしまうはずだ。
筆者個人の感想になるが、ちゃんと探索型”アクションゲーム”をしたシチュエーションとして仕上げられているのに大変な好印象を抱いた。手に入れたアクションの特徴をつかんで自分のものにするなどの、探索型の始祖とされる某作品の一番面白い体験がしっかりと盛り込まれていたからだ。「これこそまさしくアクションゲーム」と言わんばかりの作りには、某作品を知る人に限らず、アクションゲーム好きも思わず嬉しくなってしまうだろう。
その作りと関連する部分で、”起伏”がちゃんと描かれているのも素晴らしい。おかげでアクションゲームとしての遊び応えもあり、終始、楽々と進めていけるバランスになっていない。かと言って、シビアな操作が要求される場面は少なめで、難易度が突出しないよう抑えられている。それが大変絶妙で、雰囲気系と探索型の”美味しいところ”を重ね合わせたまとめ方になっている。率直に言って芸術的と言えるほどのまとまり具合で、本作の並々ならぬこだわりと作り込み具合を実感するはずだ。
このように全体としては短いのだが、内容の充実度合いが凄く、高い満足度を得られるものに仕上げられている。「なんだかアッサリ終えられそう」と、短編としての作りへの印象(先入観)を持ったのなら、ぜひとも騙されたと思って試してみて欲しい。
きっと「センスの塊」というものを全編にわたって見せつけられるだろう。
短くも壮大な冒険が楽しめる珠玉の一作
雰囲気系としての特徴を持っているのもあって、グラフィックと音楽も手の込んだ仕上がりである。特にグラフィック、ヒツジの可愛らしいアニメーションは、人によっては思わず「キュン」となってしまうほど。実際にぬいぐるみとして発売されたりしないだろうか、と現物化を願う気持ちも呼び起こすかもしれない。音楽も荘厳かつ、幻想的な楽曲が揃っていて、各シチュエーションを大いに引き立てる。
ちなみに本作、音楽専門のYouTubeチャンネルが関わったタイトルなことから、サウンドトラック動画もゲームの配信開始と合わせて投稿されている。有料になるが、ダウンロードコンテンツとしてのサウンドトラックも販売中だ。もし、お気に召したり、ゲームを遊び通して「無料とは畏れ多い!」との感情を抱いたのなら買ってみるのも一興だ。
ただ、グラフィックは地下空間が舞台なこともあって、薄暗さを強調気味で、一部、視認性の悪い部分も見受けられる。つかまれる場所が見えにくいとか、足場の端がどこなのかが分かりにくいといったのが一例だ。残念ながらオプションには明るさ設定の項目がなく、よく観察して対処するしかないのが惜しまれるところである。
操作に関してもレスポンス、キー配置は良好でストレスはほぼ感じさせないのだが、ゲームパッド操作時における振動がいささか強調気味。かなり豪快に揺れるので、テーブルの上などに置いたりせずにプレイすることをおすすめする。
他にも道中ではエレベーターの仕掛けが都度登場するのだが、その起動方法が初見時は分かりにくいのも気になる箇所として挙げられる(※スイッチの上で下を長押しすればいい)。とは言え、全体としてプレイに深刻な支障を与える類のものはないので、そこが幸いだ。
ちなみにテキストも日本語未対応で、随所に世界観を物語るメッセージも用意されているのだが、読めないと行き詰まるような場面はほとんどないのでご安心あれ。メッセージ自体も短く、翻訳しやすいので、内容が気になれば訳しながら遊んでみるのもいいだろう。
そんな訳で、本作はアクションゲーム好きはもちろん、雰囲気に惹かれたプレイヤーにも迷わずお薦めできる良作である。探索型としての内容を期待すると物足りなさを覚えるかもしれないが、その”美味しいところ”はちゃんとある。
雰囲気系としても「右に同じく」である。可愛いヒツジのぬいぐるみを操作し、不穏さと驚きに満ちた地下空間の冒険に出てみよう。
そして、その果てにある壮大な運命(?)を目撃するのだ!
[基本情報]
タイトル:『Sheepy: A Short Adventure』
開発:MrSuicideSheep
クリア時間:50分~1時間半
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):無料
備考:Steam Deck非対応
◇ダウンロードはこちら
・Steam