無口な主人公とヘンな生き物たちが紡ぐ”ぎこちない”会話劇を楽しもう。説得ノベルゲーム『絨毯と炭酸水』

ノベルゲーム,フリーゲーム

無口な大学生「みすみね」。

ある日、彼は自室に敷かれている絨毯の上に炭酸水をこぼしてしまった。すると、なぜか絨毯の中へと身体が沈んでいき、気づけば謎の世界へと行き着いていた。

そこでヒヨコのような謎の生き物「白の戦士」と出会ったみすみねは、「世界の色を守るため、他の色の戦士たちを説得して連れてきて欲しい!」と頼まれる。だが、普段から口数の少ないみすみねにとって、説得など至難の業。

白の戦士は、そんなみすみねを支援するため、彼が愛飲している炭酸水に5種類の属性を付与する。これを色の戦士たちと会話している時に飲めば、状況に適した応対ができるという。かくして、ひと癖もふた癖もある色の戦士たちと、ぎこちない会話を繰り広げていくみすみね。無事、全員を説得できるのだろうか?

そもそも、全員説得できたところで元の世界に帰れるのか?

そんな摩訶不思議なオープニングと共に幕を開ける説得ノベルゲームが『絨毯と炭酸水』である。2024年2月1日より、フリーゲーム配信サイト「ノベルゲームコレクション」にて、ブラウザ版とWindows PC向けダウンロード版が公開中となっている。(また「BOOTH」では、「ノベルゲームコレクション」にはないmacOS版が公開中である)

会話が弾む炭酸水を飲み、戦士たちの説得に挑もう……?

オープニングの通りだが、本作にてプレイヤーのすることは単純明快。4人(匹?)の「色の戦士」たちを説得し、白の戦士のところへと連れていくことである。全員の説得に成功すれば、”だいたい”ゲームクリアとなる。なぜに”だいたい”かはお気になさらず。

具体的な流れを解説すると、基本的には会話パートと説得パートの2つを繰り返しながら進めていく形となる。ノベルゲームとしては定番の構成だが、説得パートの存在が本作の大きな見所にして特徴となっている。

文字通り会話相手たる「色の戦士」たちの説得に挑むのだが、その中で「炭酸水」を飲み、提示された質問に対しての回答や反応を返していくのである。もし、適切な返しができれば会話が進展。逆に間違えると相手の機嫌が悪くなり、ゲームオーバーになってしまう。

ただ、ゲームオーバーになっても、再び会話の最初から再開(リトライ)可能。以降のストーリーが悪化するペナルティもないので、気軽に何度でもチャレンジできる。

とは言え、説得の成功には最適な炭酸水を選ぶことが大事。解説が前後したが、説得パートの開始直前には、会話中に飲む炭酸水を5本選んで決めることになる。

炭酸水は「聞き流す(白:炭酸水)」「褒める(黄色:レモンソーダ)」「意見する(緑:メロンソーダ)」「肯定する(黒:コーラ)」「否定する(桃色:ストロベリーソーダ)」と、色に応じて異なる属性(回答)が設定されている。これらを飲むことで、みすみねは属性に沿った回答を実施するのである。

そして、飲んでしまった炭酸水は以降、注いだコップが空になって飲めなくなる。つまり、会話を重ねていくにつれ、飲める炭酸水の数が4本、3本、2本と減っていくのだ。

ゆえに説得の成否は、どの炭酸水を最終的に残すかにかかってくる。もし、最後に残った炭酸水が相手の機嫌を悪くするものだったりすれば、その後にどんな結末が待っているかは想像に難くないだろう。そんなカードゲームを思わせるシステムになっていて、炭酸水という名の手札を適切に管理する戦略も試されてくるのである。

なんだか手ごわそうな印象を抱くかもしれないが、説得の前には白の戦士などから相手がどんな受け答えを好み、嫌うかのヒントが挟まるので、指針は立てやすい。全くの手探りで挑むようなことはないので、安心して説得に取り組める設計だ。

このようにノベルゲームとしては少々稀な戦略性を持った作りで、不思議なストーリー展開および会話劇が楽しめる作品に仕上げられている。そもそも、人間とヒヨコのようなキャラクターが会話を繰り広げる時点で摩訶不思議の極みなのだが。

だんだん愛おしくなっていく無口な主人公と、豊富な会話パターンが光る

作中の魅力は、カードゲーム的な遊びを盛り込んだ説得パートである。

……と、ピックアップしたが、前述したように直前のヒントが優秀なのもあって、特徴ほどゲーム的な手応えはない。ちゃんとヒントに沿った炭酸水を選べば、ほぼミスなく説得を成功できる程度にゆるい難易度になっている。

説得中にも、みすみね自身が「ここはこの炭酸水だ」と誘導してくれるため、何を出せばいいのか困惑することもない。全体的にはカードゲームっぽい雰囲気を味わうことを意図しているバランスで、本格的なものを求めると、肩透かしを食らうだろう。

しかし、このバランスとペナルティのないゲームオーバーの仕組みもあって、色々試したくなる好奇心をくすぐる面白さがある。そして、その期待に応えるかのように会話パターンは豊富に用意されており、個々の反応を好き勝手に楽しめるのである。

それこそが本作の真の魅力である。しかも、主人公のみすみね、色の戦士たち全てのキャラクターの個性付けがユニークなこともあって、どの会話も見ているだけで面白く、微笑ましい気持ちにさせてくれる。

とりわけ注目はみすみねだ。無口な主人公という設定を裏切らない、ぎこちない態度を示しては、説得相手の色の戦士たちを困惑させる。最初に説得の仕方を教えてくれる「白の戦士」もまた然りで、色んな意味で「大丈夫か、この主人公?」との不安と関心を呼び起こす。

そもそも、オープニングの絨毯に身体が沈んでいく際のリアクションもだいぶ変わっている。思わず「大丈夫か、この主人公……」と、プレイヤー側が困惑してしまうほどである。

そして、色々試していくうちに段々とこのキャラクターが可愛く感じられてくるのだ。元々の容姿も、どこか何を考えているか分からない感じがあるのだが、あれこれ試しているにつれ、それに妙な愛おしさを感じてくる。同時に、この奇妙なストーリーがどうオチをつけるのかに対する関心も高まってきて、先へと進む意欲も刺激されるのである。

なので、これから本作をプレイする方はぜひともみすみねにご注目いただきたいところだ。特に無口なタイプのキャラクターが好きな人なら、色んな意味で「これだよ、これ」な好印象を持ってしまうこと請け合いである。ただ、純粋にその個性を省いたキャラクターとしても好感が持てるキャラクターになっている。

それを引き立てるのがストーリーだ。色々摩訶不思議な始まり方をする本作のストーリーだが、何故か進めていくたび、みすみね唯一の友人の思い出がフラッシュバックする展開が起きる。

その友人はみすみねとは性格的にも正反対なのだが、お互いが深い友情で繋がっていることが少ない台詞と愉快なやり取りで語られていく。次第にその思い出は現在の2人へと繋がっていくのだが……これ以上は何も語れない。

ただ、より一層、みすみねに好感を持つと同時に、ちょっとした同情の念も湧いてしまうだろう。ラストに待つ展開もこの一連の雰囲気とは裏腹なものになっていて、そこから先のエンディングにもどこかほろ苦さが残る。並行して、本作のストーリーに込められた真のテーマについても気づかされると同時に、考え込んでしまうだろう。

テーマについては、実は色の戦士たちとの説得パートでも時折挟まれるのだが、なかなかに重く、様々な考えが脳裏を巡るものになっている。総じて緩いノリが全面に滲み出ている本作だが、語られる内容に着目してみると、単にそれだけじゃない深みに気付かされる。

なので、ぜひとも台詞の1つひとつにも注目しながら説得を始めとする展開を楽しんでみていただきたいところだ。きっとすべてが終わった頃には、単にキャラクターが個性的なだけで終わらない、深い作品としての印象と余韻が残ることだろう。

炭酸水は無口を治す……?不思議な味わいのノベルゲーム

なお、ストーリー全体のボリュームは大体1時間ほど。会話のパターンを好き勝手に楽しんだりすることを挟めば、2時間ぐらいになる。エンディングの分岐もあるが、前述したように説得パートのゲームオーバーは一切影響しないので、周回の必要はない。無口な主人公と変なキャラクターが織り成す不思議なストーリーを素直に堪能できる設計だ。

また、クリア後にはちょっとしたオマケ要素が解禁されるのだが、これも小ネタながら色々、試してみたくなる面白さがある。
欲を言えば、選択の幅が広ければ……と思ってしまったが、その辺りは勝手ながら、アップデートでヒッソリ追加されたりする展開を期待したいところである。

他に特筆に値する見所ではグラフィック、音楽があり、すべて本作オリジナル。特に音楽はこの不思議でゆるいストーリーと絶妙にマッチしていて、独特の空気感を表現している。みすみね自身もこの音楽のおかげで存在感を高めている部分があるので、その言動共々必見である。

好き勝手に色んな会話を楽しめる魅力はあれど、ヒントなしの手探りで楽しむスタイルの難易度もあれば、より魅力的な作品になったような印象も抱いたのだが、さすがにそれは欲張りが過ぎるとして。

全体的にはこの主人公を始めとする独特な雰囲気とキャラクター性にときめいたなら、ぜひプレイいただきたい作品である。そして、説得の成功という目的とは別に色んな炭酸水を選んでは、変化する会話を楽しんでみよう。無口な主人公の妙な可愛らしさと面白さに注目してみよう。

実際に炭酸水を近くに置き、飲みながらプレイするのもいいが、何かの拍子でパソコン本体などにかかったりしないようご注意を。

絨毯にこぼすのとは比べ物にならない悲劇を呼ぶぞ……。

[基本情報]
タイトル:『絨毯と炭酸水』
作者:さんろっく
クリア時間:1~2時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格(税込):無料

◇ダウンロード・プレイはこちら
・ノベルゲームコレクション
https://novelgame.jp/games/show/9319

・BOOTH(macOS版)
https://sunlock-369.booth.pm/items/5460133

  • シェループ(@shelloop

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