たとえ、記憶の奥底に隠された真実がツラいものであったとしても『未解決事件は終わらせないといけないから』

アドベンチャー

推理。その言葉から連想される娯楽作品と言えば、探偵や刑事が主人公のミステリーだろう。ゲームであれば、アドベンチャーゲーム、ノベルゲームが真っ先に連想される。

そんなイメージがある中で、推理するパズルゲームと来たら、どんな内容を考えるだろうか。たぶん、セリフやメッセージといったテキストを正しく並び替え、真実に迫る感じのゲームを浮かべるかと思われる。

『未解決事件は終わらせないといけないから』は、まさにそんな感じのゲーム。
アドベンチャーゲームでもあり、推理を題材にしたパズルゲームでもある意欲作である。

作者は他人のスマートフォンをのぞき見し、謎を解くアドベンチャーゲーム『Replica』などで知られる韓国の個人ゲーム開発者・Somi氏。2024年1月18日にSteamでWindows PC向けに発売された。同年9月19日からはNintendo Switch版の販売も開始されている。

記憶から呼び起こされたバラバラの証言を整理し、真実に迫る推理パズル×アドベンチャー

2012年。公園で遊んでいた少女「犀華(せいか)」が行方不明になったとの通報があった。

警察は犀華の親族、目撃者などへの聞き込みと捜索を繰り返したのだが、最終的にこの事案は未解決事件として処理されることになった。この事件を担当したのが、当時、失踪課に所属していた清崎蒼警部。彼女は事件が未解決となった後に退職し、その無念と後悔を抱えながら実に12年もの年月が過ぎ去った。

そんな中、清崎の元にひとりの若い女性警察官が訪れてくる。その女性警察官は12年前、未解決とされた犀華失踪事件を完全な形で終わらせるため、清崎に協力を求めてきたという。かくして清崎は、12年前当時の親族、目撃者の証言を女性警察官と協力しながら思い出していく。だが、その内容の多くはウソに満ち溢れていた……。

そんなオープニングと共に始まる本作の内容は、冒頭で少し言及した通り、パズル要素を持ったアドベンチャーゲームとなる。プレイヤーは元警部の清崎が思い出した12年前の失踪事件関係者の証言(陳述)を読み、未解決事件を終わらせるための“真実”へと迫っていく。

遊び方としては、まず清崎が思い出した事件関係者の証言を読む。そして、その内容を精査し、違和感を覚える部分が確認されたら、正確な情報にするため、配置換えをしていく。違和感の具体例としては、証言は母親のものであるはずなのに、娘を孫娘と呼んでいたり、口調が明らかに子供が喋っているかのような感じだった場合などだ。

もし、こうした正確でない発言が確認されたら、証言ウィンドウ左にある顔アイコンをクリック。「孫娘と呼んでいるなら老齢の人物だ」「口調が子供っぽいなら、これはその年齢の人物だ」と正しいと思われる人物を選択して、証言をその人物のものとして配置換えするのだ。

なお、事件関係者の名は画面上部、左から右へと横並びに表示。そして、それぞれの人物の下に証言が続いていく構図となっている。旧TwitterことXのクライアントツールで、2024年現在は「X Pro」と改名された「TweetDeck」のようなレイアウトと言えば、使用経験のある人ならば想像しやすいかもしれない。

新たな証言を引き出す手順も、SNSと近い。証言の中に含まれるシャープ記号付きの用語こと、「ハッシュタグ」をクリックすればいい。

こうすることで、そのタグと繋がる証言がいくつか現れ、いずれかをクリックすることで内容を確認できる。中には「@(アットマーク)」が付けられた赤いものも存在するが、これは関係者を指していて、クリックすれば新たな人物が画面上部の一覧に現れて並ぶ。

また、証言には「赤」「黄色」「紫」の色も付けられていて、これらはそれぞれに指定された条件を解かないと中身を確認できない。

さらに証言には時系列が存在するのだが、思い出されるものの多くはバラバラになっている。よって、これを正しく並び替えることも必要になる。やり方は関係者の顔ウィンドウの左に薄く表示された上下の矢印アイコンを押すだけだ。

これで、証言が上下に移動する。そして、2つ以上の証言が正しい時系列で並べば、その上部に年月日付と時間が表示。その2つ以上の証言は連結したものになる。同時に「鍵のかけら」が手に入るのだ。

「鍵のかけら」は6つ集まると「鍵」へと変化。鍵が手に入ると「黄色」の証言を解除可能になり、新たな情報を得られる。他の色の証言も明かされた情報を元にした推理クイズ(赤)、パスワード入力(紫)で解除可能だ。

このような手順を踏みながら、最終的には全ての証言を明らかにし、発言主と時系列を正しく並べ替えれば真実へたどり着ける。

これが本作の大まかな内容および遊び方で、まさにアドベンチャーゲーム(テキストアドベンチャーゲーム)でありながら、パズルゲームとも言える独特で不思議な作りになっている。無理矢理繋ぎ合わせれば、推理テキストパズルアドベンチャーゲームだろうか。

情報整理とともに少しずつ真実に迫っていく楽しさと、強力なフックを仕込んだ秀逸なストーリー

魅力も分かりやすく、推理テキストパズルとも言える不思議で新しいプレイ感にある。

証言を読み、その内容を精査して、使っている言葉や口調に違和感を覚える箇所があったら話者を変える、そして時系列を正しく並べ替えて流れを作っていく。この過程がアドベンチャーゲーム(ノベルゲーム)でありながら、パズルゲームでもあるかのような不思議な感覚を提供し、プレイヤーのストーリーに対する関心を強烈に抱かせてくる。

情報を整理・把握して、ロックされた証言を解除することに挑む推理ゲームとしての関門が用意されているのも、ゲーム全体に起伏を付ける要素として機能している。ただ証言を聞き、整理することに終始するだけなら、作業感が増してしまう。また、ストーリー上のキーテーマである事件の全体像や、事件関係者への理解も表面的なレベルで終わりかねない。

そのような課題を解決すると同時に、ゲームとストーリー、双方の面白味を高める要素としても適切で、自然な形に落とし込まれている。解除可能になるタイミングも待たせすぎず、かと言って早すぎもしないバランスで、非常に気を遣って調整されている感じだ。

チュートリアルを挟む序盤と、証言が僅かになってくる終盤を除けば、プレイヤーの思うがままに情報を集めていける自由度が担保されているのも面白い。

特に決まった流れはなく、どんどん証言を明らかにしていったり、発言主や時系列を整理した上で証言を少しずつ明かしていくのも、基本的にはプレイヤー次第なのだ。最終的には前述したように、終盤で真実に向けて集約するのだが、そこまでの過程はプレイヤーごとに違いが生まれる。なので、どんな順序で証言を集め、真相まで行き着いたのか話し合ってみるのも楽しかったりする。

周回プレイ時も同様で、以前とは異なる流れで解き明かす楽しみが味わえるので、もし興味があれば試してみていただきたいところだ(セーブデータを消さなくてはならないのがタマにキズだが)。周回時は事件の真相も把握してしまっているので、関係者たちの思いに関してもより深く理解すると同時に、色んな想像を掻き立てられるだろう。

そんなゲームシステムと攻略自由度の魅力をさらに引き立てるのが、本作の真骨頂とも言えるストーリー。未解決事件の真相を明らかにするという、大筋こそミステリーやサスペンス作品では定番の題材だが、随所で強烈なフックを仕込むなりして、所々でプレイヤーの興味を誘ってくる。中でも象徴的なのはゲーム開始間もなく明かされる元英語教師の証言。「行方不明になった犀華を誘拐したのは自分だ」と、警察に自首するのだ。

「え?犯人が自首しているのに、なんで未解決事件に?」となるのも無理はない。しかも、その後に衝撃の情報も彼から飛び出す。これには思わず「……は?」となるだろう。

では、この未解決事件はなんなのか?なぜ、犯人が分かっているのに解決した事件とされなかったのか。誰か、このような形にするためのウソの証言をしている黒幕がいるのか?

そうも気になりすぎる情報が初っ端から出てくるのもあって、以降は真相解明に向けてエンジン全開になる。まさにプレイヤーを強烈に引き込ませるストーリーに仕上げられているのだ。そして、証言を明らかにしていくうち、意外な証言が明らかになったり、時にはウソも暴かれて情報は混迷を深めていく。そして、途中から情報は緩やかに整理されていき、終盤においてひとつの真実へとたどり着く。

なにが待っているかは当然(?)、見てのお楽しみだが、きっと本作のタイトル『未解決事件は終わらせないといけないから』に対して、「そういうことだったのか……」と大きな納得感を得るだろう。また、終盤にはエンディングが2つに分岐する仕掛けが設けられているのだが、このエンディングはぜひ、2つとも見てほしい。

種別としてはノーマル、ベストな感じなのだが、後者はノーマルを見ることによって、より深いものになる。同時に本作の『未解決事件は終わらせないといけないから』というタイトルに込められた重いテーマにも気付かされるはずだ。

むしろ、一通り終える頃にはこの邦題の秀逸さに唸りに唸ってしまうかもしれない。

未解決事件は……必ず終わらせなくてはならないものだから

ストーリーとゲーム部分の面白さを最大級にまで引き上げる、日本語翻訳の素晴らしさも本作の魅力のひとつだ。

それぞれの人物ごとの特徴、年齢設定を的確にとらえた翻訳がされているに加え、表現も自然なので違和感を覚えることがまったくない。孫娘の一例に象徴される言葉(単語)の意味にちなんだ推理要素もあるが、これも総じて納得感のある答えが設定されている。あまり首を傾げてしまう表現もなく、自然にまとまったその仕上がりには、思わず翻訳を担当された方への拍手を送りたくなってしまうだろう。

モノクロ調のドット絵で描かれたグラフィック、静かな音楽もストーリー全体の沈んだような雰囲気に絶妙にマッチ。演出も大人しい感じではあるものの、進展に応じて音楽の曲調が変化したり、女性警官と清崎の奇妙な会話が都度挿入されるなど、盛り上げ所はちゃんと押さえられている。だが、最もその真価が発揮されているのはエンディングだろう。どんなものかは繰り返しになるが、見てのお楽しみである。

ボリュームも全エンディングの確認込みでも2~3時間。難易度も総当たり攻略が通用する余地が設けられているため、そんなに高くない。ただ一部の推理で、少し厄介な計算を解くことになる展開には、少し煩わしさを感じてしまうかもしれない。

操作もPC版はマウス主体なので複雑さは皆無。証言の増加に伴い、縦の列が長くなりすぎる点についても画面右下に全体図の縮小ガイドを設け、そこからのショートカットを可能にするといった配慮が凝らされているのも有り難い。

しかし、時系列整理の際に用いる矢印アイコンの視認性の悪さはどうにかならなかったのかと思うばかりだ。黒よりのグレーで色付けされていることもあって、非常に見落としやすい。背景が真っ黒なことも視認性の悪さに拍車をかけている。

また、先ほど自由度が高いと称したが、それをいいことに時系列などをまったく整理せず、証言をお構いなしに開いていってしまうと、どこから手を付けていいか分からなくなるほど整理の難易度が上がる。情報量も膨大になるに加え、それで長期間中断してしまえば、再確認するだけでも膨大な時間を費やすことになる。

正直、この辺は完全にプレイヤー側の責任として返ってくるものなのだが、ある意味、こうした注意点を抱えたゲームでもあるので、気を付けていただきたい。時間が許すのなら、最後まで一気にやってしまうのがオススメだ。

他に細かい部分でゲーム開始のたび、クラゲの独白のオープニングが流れるのもちょっと煩わしい。スキップ可能とは言え、毎回流す必要があったのかというと、疑問に感じるところだ。

そんな一部の難点は気がかりながら、独自性の高いゲームデザインとストーリーは素晴らしく、全体としては傑作と言い切れる作品だ。

短編ながらも、大変密度の濃いストーリーと推理する楽しさが味わえるので、ミステリー好き、アドベンチャーゲーム好きはぜひ、プレイいただきたい。2012年から12年の長きに渡り、未解決とされてきた事件を2024年の今、ここで終わらせよう。……“終わらせる”のだ。絶対に。

[基本情報]
タイトル:『未解決事件は終わらせないといけないから』
作者:Somi
販売:PLAYISM(※Nintendo Switch版)
クリア時間:2~3時間
対応プラットフォーム:Windows、Nintendo Switch
価格(税込):800円(Steam)、990円(Nintendo Switch)

◇購入はこちら
・Steam

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