汝、反則じみた潜伏技を駆使し、“逃げ上手”となれ―スリリングなローグライクステルスアクション『Mutable 50』

アクション,インディーゲーム

逃げることが上手くなりたいか?
「逃げるが勝ち」の楽しさと難しさをまとめて体験してみたくはないか?

そんな思いを抱いている方にこの『Mutable 50』をご紹介したい。本作はオープンソースフレームワーク「Siv3D(シブスリーディー)」で作られたWindows PC向けタイトル。2024年8月26日より、Steamで販売中となっている。

元々は「Siv3D」の企業スポンサー、バンダイナムコスタジオ主催の「バンダイナムコスタジオ杯 Siv3D ゲームジャム」で最優秀賞に輝いたローグライクステルスアクションゲーム『Mutant』。それをブラッシュアップさせた作品が、この『Mutable 50』である。

荒唐無稽な回避アクションで敵をやり過ごし、50階到達を目指すローグライクアクションゲーム

プレイヤーが挑むことはいたって単純。舞台となるダンジョンの最深部、50層への到達だ。

階層の構造は挑戦のたびに変化。そんな常に違った形になる階層で、どこかにある階段を探し、到達して降りることを繰り返すというのが主な流れとなる。ローグライクとしては、まさに定番とも言える構成だ。画面構成も見下ろし型(トップビュー)で、移動した通路や部屋が自動的に描かれていくオートマッピングのシステムも備わっている。

ただし、プレイヤーが1歩動くと敵も1歩動くというターン制は採用されておらず、敵も味方もリアルタイムで動く。そのため、見た目はローグライクだが、手触りは紛うことなきアクションゲームと、一致しない作りになっている。ただ、挑戦のたびに地形構造が変化したり、敵配置が変わるランダム要素は存在。そのため、イマドキの言葉を用いれば「ローグライト」に該当するゲームデザインとなっている。

作り自体はアクションゲームなのだが、本作が珍しいのはプレイヤーが攻撃手段を持たないこと。代わりに「スクう」なる、部屋や通路の壁に潜伏できるアクションを持っている。Xboxコントローラ使用時の操作になるが、RTボタンを押すと主人公の上下左右方向にマス目が表示。そのまま壁のある方向に方向キーを倒せば、中へと潜伏することができる。(逆に壁がない時は単純に1歩動くだけとなる)

本作はステルスアクションの通り、ダンジョンの階層に徘徊する敵は、プレイヤーの姿を捉えると追跡してくる。この追跡されている時に「スクう」を使って壁の中へと潜伏すれば、敵はプレイヤーの姿を見失って追跡を断念。やり過ごすことができるのだ。そんな荒唐無稽な回避を決められるのが最大の見所であり、本作独自のステルス戦術を演出するものになっている。特に狭い通路で挟み撃ちにされた時に最大の効果を発揮。文字通り、不可能を可能にする回避(やり過ごし)を決められるのだ。

なお、仮に敵の追跡を撒けず、体当たりされてしまうと「生存時間」が減少。「生存時間」とは制限時間であると同時に、プレイヤー自身の体力を指すもの。これがゼロになれば、ゲームオーバーとなってしまう。

生存時間は敵の体当たりを受けるのみならず、探索中も徐々に減っていく。「スクう」で壁の中に潜伏した時には3秒下がる(続けてスクうを使うと、さらに減る秒が増える)。ただ、敵の体当たりを受けるよりかは減少幅は小さい。よって本作では、なるべく敵の体当たりを受けないように立ち回ることが何よりも大事になってくる。

「敵は倒せないのか?」との疑問が浮かぶかもしれないが、敵自体は倒せる。ただし、プレイヤーは攻撃手段を持っていない。攻撃するには、ダンジョン内で攻撃用アイテムを獲得しなくてはならないのだ。

しかも、アイテムによる攻撃は基本、1回限り。使えば消失してしまう。また、持てるアイテムの数も10個まで。さらに何のアイテムが手に入るかは完全にランダム。種類も豊富なので、時と場合によっては攻撃用のアイテムが何ひとつ手に入らないことだって起こる。よって、攻撃は最後の手段とも言える位置づけ。基本的には「スクう」を使った潜伏やダッシュ移動を主要な戦術とし、さまざまな状況に対処していくのである。

なお、ゲームオーバーになると、最初の階層からやり直し……にはならない。

ローグライクと言えば、その種の厳しいペナルティが定番だが、本作はゲームオーバーになると謎の空間へと転送。その空間には3種類の階段が設けられており、その中の特定の階層から再開する階段を選べば、途中からの再開ができる。ちなみに1階から再開する階段、タイトル画面に戻る階段もあり、任意で選べるようになっている。

なので、選択によってはペナルティが緩和される。ただ、力尽きた階層からの再開はできず、所持していたアイテムもすべて失った状態から始まるので、その辺は要注意である。

他にアイテムの中には生存時間を回復するもの、最大値を上昇させるものも存在。ちなみに生存時間の回復は、敵を撃破でも可能。また、後者に関しては、存在する階層に到達すると、それを匂わす演出も挿入される。手にすれば、余裕を持った行動が可能になるので、積極的に取りに行くことをオススメする。

以上のようにゲーム全体のビジュアルは伝統的なローグライクを思わせるが、実態はステルス性の強いアクションゲーム。それも荒唐無稽な技で敵をやり過ごし、進めていくというユニークな戦術と、生存時間を始めとする各種システムが異彩を放つ作品に仕上げられている。

さまざまな戦術を編み出して危機を乗り越え、”逃げ上手”を極める!

この『Mutable 50』の面白いところ、それはズバリ“逃げ上手”を極める楽しさとスリルにある。

前述したように、本作でプレイヤーの分身となる主人公はアイテムが無ければ攻撃ができない。しかも、1回限りで、必ず入手できる保証もなし。よって、そこから導き出される戦術方針はただひとつとなる。“逃げ上手”になることだ。

特に壁に潜伏できる「スクう」の活用、ダッシュ移動は大変重要で、これらをいかにテキパキ使えるか否かが50階までへの到達と、生き残りのカギになってくる。そもそも、プレイヤーにとって最大の脅威となる敵の追跡が凄くしつこい。おまけに早い。距離を詰められれば、「スクう」による潜伏が間に合わなくなるほど、遠慮なくぶつかってくるのだ。

なので、いかに早く「スクう」を使うか判断できるかにかかってくる。この逃げ続けるための戦術を考えながら立ち回り続けるのが大変スリリングで、文字通り息つく暇を与えない体験を提供する。遊びとしては鬼ごっこだが、壁に潜伏でき、簡単に敵の追跡をやり過ごせるのが大変独特、かつ見た目の荒唐無稽さもあり、逃げ続けることの楽しさと快感に満ちた独特なものに仕上げられているのだ。

戦略性の高さも特筆に値する。例えば「スクう」は壁に潜伏するだけではない。場所によっては、通路をまたぐショートカット技としても使える。さすがに厚い壁の中をずっと動き続けてショートカットするのは、生存時間の減りが早まるデメリットもあって自滅行為でしかないが。しかし短距離なら、構造次第では安全に進むための策として機能する。

ゲームを始めて間もない頃は、やり過ごすための技としての印象が強い。ただ、何度かさまざまな地形を見るにしたがって、実は使い方次第で思わぬ活躍をする技としての印象が醸成されていくだろう。そんな一面が隠されていることからも、結構見所のあるアクションになっている。

ダンジョン内で手に入るアイテムもまた然り。実は複数のアイテムを組み合わせることで、凶悪な技を編み出せるのだ。分かりやすい例が磁石と画びょう。画びょうは直線状に投げ飛ばす攻撃用アイテム。磁石は地面に仕掛けるトラップで、引っかかった敵はその場から動けなくなる。しかも、1体のみならず、複数の敵を動けなくすることが可能。つまり、この状態で画びょうを使えば、動けなくなった敵を一網打尽にできてしまうのだ。

それによって、生存時間の大幅な回復まで図れるという、一石二鳥なボーナスまで得られる。こうした技を作れたり、時には力押しによる突貫を決められたりなど、幅広い戦術が試せる。

また、アイテムには階段まで一気に連れていってくれる便利なものも存在。これを使わず温存し、厳しい場面で使ったり、或いは50階間近の階層で使って一気にクリアしてしまうようなこともできる。ただし、持てるアイテムに限りがあるため、強力なアイテムを発見した時に取捨選択のジレンマに襲われることも。

こんな具合にどの要素も様々な局面でプレイヤーの決断を問いつつ、その後の探索に変化を及ぼすのだ。これもあって、結構戦略性は高い。考えながら立ち回り続けるというのは誇張ではなく、本当にそのような行動を促す要素のオンパレードなのだ。

そして、色々な要素があるからこそ、経験を積むたびに大胆な行動が取れるようになったりと、動きが洗練されて逃げ上手になってくる。逆に言えば、逃げ続けることはアクションゲームのスキルが試されることを意味するため、レベルや強い装備で乗り越えるRPG的な攻略法は通用しにくい。その辺の実力と戦略勝負なところは、好みが分かれるだろう。

ただ、極めるほどに面白い逃げ方ができるようになる楽しさと快感は本作ならでは。その意味では、まさにステルスローグライクアクションとも言え、ジャンルに相応しいやり応えとスリルに秀でたゲームに完成されているのだ。

逃げ上手になれば、攻略時間を縮めることも極められる!小粒ながらやり応え十分の良作

なお、本編は構成的にはワンパターン。ひたすらに階段を探して到達し、下へ下へと潜る展開に終始する。アイテムなどが購入できる店はなく、ゲームオーバー時の謎の空間にも、階段と救済措置として置かれた数個のアイテムぐらいしかない。主人公と敵以外のキャラクターも登場せず。そもそも、ストーリー自体がない。

ただ、どんどん下の階層へと行くほど新しい敵が現れたり、景色や音楽が変わるといった変化はきちんと付けられている。また、途中で生存時間の最大値を上昇させるアイテムの獲得チャンスが到来するといった、小さなイベントも用意されている。

なので、単調さはほとんど感じさせないだろう。そもそも、どの階層も考えながら逃げ続けることに終始することから、ワンパターンさに気付かないかもしれない。それほど、熱中しやすい作りということでもある。

また、ボリュームは早ければ1周30~40分ほどでクリア可能。ただ、慣れない序盤はそれ以上の時間を要することになるだろう。しかも、本作は50階への到達を成し遂げたとしても完全なクリアとはならない。これが何を意味するかは、そこまで成し遂げた後の展開をご覧いただければと思う。「かなり遊べるじゃないか、このゲーム……!」と嬉しくなるかもしれない。

他に本作は階層の突破に費やした時間が記録されるため、タイムアタックのやり込みも楽しい。実際、効率重視でプレイすれば30分を切ることも可能なほど、検証し甲斐がある作りをしているので、その種のやり込みが好きな人なら挑んでみていただきたいところだ。

小粒なゲームだが、遊び応え十分、やり込みにも抜群の本作。ただ、中断セーブがない、一部階層の特殊エフェクト(特に吹雪)の主張が激しくて視認性に難が出ている、ゲームパッド操作のデフォルト配置に難ありといった気になる箇所もある。

その中でも中断セーブなしは、全体的なプレイ感を重くしてしまっているきらいがある。「今日は何階まで」といった緩やかな進め方ができないためだ。時間が記録されるシステムの関係もあるかもしれないが、可能であれば実装してくれればと思ってしまった。

また、ゲームパッドの操作に関してはデフォルトのボタン配置にも難がある。特に「スクう」はRTボタンの性質上、長押し時だと反応が遅れることがあるのが地味にストレス。この配置に関しては正直、かなり好みが分かれるだろう。

やや粗さを感じる部分もあるが、面白くて遊び甲斐のあるゲームなことに間違いはない。ステルスアクションゲームとしても、ローグライク系のゲームとしても独自の個性を持った作品に仕上げられている本作。双方のジャンルが好きな人には特にオススメの良作だ。タイムアタック系のやり込みが好きな人にもぜひ。逃げ上手になって50階を目指そう!

[基本情報]
タイトル:『Mutable 50』
作者:sashi
クリア時間:20分~1時間
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):120円

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