そのスキャンダルは罰に値する罪か?重い問いかけを残すストーリーが光るノベルゲーム『クリエイターズ・デスゲーム』
ある理由で集められ、特定の空間に隔離・幽閉された登場人物たちが、死を伴う危険なゲームに巻き込まれていく模様を描く「デスゲーム」。古くはSF小説から始まり、後に映画、漫画へと広がっていったこのジャンルの作品には、いくつかのタイプが存在する。
登場人物たちが純粋に既定人数に減るまで戦う純粋な殺し合い。主催者によって仕組まれたゲームに参加して最後まで勝ち抜いた者だけが生き残れる競技モノ。そして、ゲームを主催する者を出し抜くため、登場人物たちが協力してその裏をかいて全員生存を目指す、俗に「回避型」とも言われるもの。
その中でも特に漫画、アニメ、そしてゲームなどにおいて広く採用される傾向があるのは競技モノだろう。事実、競技モノはデスゲームの中でも人気のタイプとも言え、直近にも同様の題材を扱った『イカゲーム』という大ヒット作が生まれている。
今回紹介する『クリエイターズ・デスゲーム』も、タイプとしては競技モノに当たるノベルゲームだ。本作は2024年7月6日より、「ノベルゲームコレクション」にて配信中のWindows PC、ブラウザ向けフリーゲーム。
これまでに『メイドさんと繋がりたい』、『おじさんと遊ぼう』といった個性的なノベルゲームを手がけてきたゲーム作者・茶碗蒸し氏の作品である。
炎上必至のスキャンダルを抱えた6人のクリエイターによる、恐怖のゲームが幕を開ける
『クリエイターズ・デスゲーム』の名が表す通り、本作の登場人物は様々な創作活動に取り組むクリエイターたちだ。ある日、6名のクリエイターたちは【雨丸】という人物から新規マルチメディアミックス企画「断罪ノ炎プロジェクト」に参加するクリエイターとして指名され、商業施設や住宅街から離れたエリアにある建物に集められた。
【雨丸】とは、再生数1000万超えの大ヒット曲「終末オーバードーズ」の歌詞における世界観を共有した楽曲群「オーバードーズ・シリーズ」と、そのメディアミックス展開を大きな成功へと導いた凄腕の作曲家兼プロデューサーである。そんな【雨丸】が8年ぶりに新たなプロジェクトを立ち上げるとのことで、彼の依頼を受けた6人のクリエイターは意気揚々と参加を決断し、目的の建物へと集った。
しかし、そこに現れたのは「暗罪(あんざい)もえ」なる暴露系Vtuber。モニター越しに語るその者は、6人に【雨丸】を騙って依頼を送ったのは自分であること、そして集められた全員が抱えた「炎上スキャンダル」の証拠品をすべて揃えていると告げる。もし、それが世間にバレれたりすれば、クリエイター人生は即刻終了。
暗罪もえは、そのネタをフォロワー100万人のSNSアカウントへ投下することをチラつかせるが、それではエンタメとしてつまらないということで「断罪ゲーム」なるゲームの開催を宣言。
そのゲームで勝ち残った1人だけはスキャンダルの暴露をせず、無事に解放すると告げる。勝敗のカギを握るのは、参加者が建物に隠された炎上スキャンダルの証拠品を探し出せるか否か。
かくして、文字通りのクリエイター生命をかけたデスゲームが幕を開ける……というのがオープニングのあらましである。
具体的な本編の流れとしては、証拠品探しに挑む「探索デー」と、その翌日に実施される【暴露ターゲット】の罪を問う「断罪放送」の2つのパートを繰り返しながら進めていく形だ。「探索デー」の名称通り、ノベルゲームとしては、ほんのわずかながらアイテム探しの要素を取り入れた作りとなっている。
進行は序盤についてはほぼ1本道だが、途中から選択肢や探索時の行動に応じ、その後の展開が変化する分岐要素が出てくる。それらの仕掛けに直面したり、時には難しい決断を下しながら、この奇妙なデスゲームで少しでも長く生き残ることを目指す……というのが、本作においてプレイヤーに課せられる主な目的となる。
なお、登場するクリエイターは6名だが、プレイヤーが扮するクリエイターはゲーム制作者の「スズヤ」で固定されている。そのため、本編のストーリーは基本的にスズヤの視点から描かれていくものとなっている。
そのスキャンダルは罪か?罰は正義なのか?さまざまな考え方が生まれるストーリー
そして、本作の魅力にして、最も光る部分はほとんど明らかだがストーリーである。
特にユニークなのが、暴露ターゲットとされた人物に下される罰。それまでの輝かしいクリエイター人生が即刻終了するスキャンダルをネット上に投下されてしまうという、大変にえげつないものになっている。そして、投下されてしまった当人はインターネット上における【世間】からの徹底的な糾弾を受けることになり、その後……どうなるかは直接、本編でご覧いただきたい。大体、ご想像の通りだと思われるが。
ストーリー展開も序盤から中盤にかけての雰囲気の一変、「探索デー」を通して明らかになっていく各々のクリエイターが抱えるスキャンダルの内容の数々で、プレイヤーをクギ付けにさせる。中でもスキャンダルに関しては、その詳細を綴った証拠品に記された情報が非常に生々しく、現実味を感じさせるテキストも相まって強烈な印象を残す。
同時に抱えたスキャンダルの中には、「それは罪として問うものなのか?」と疑問を抱かせるものも。誰がそのようなスキャンダルを抱えているのかは見てのお楽しみだが、おそらく「罰は必要ないだろ……」となってしまうと思う。
だが、ゲームの主催者たる暗罪もえは、いっさいの容赦をしない。そして、そのスキャンダルがインターネット上にばら撒かれた時、世間がいかなる反応を見せるのか。
それもまた、実際に見てのお楽しみだが、きっと大きな問いかけを残すと同時に、ひとつの戒めとなるだろう。人によっては軽いトラウマを植え付けることにもなるかもしれない。そのような難しい題材も扱った展開もあり、ストーリー全体に奥行きを与えている。
ちなみにゲームの主催者たる、暗罪もえにも、大きな問いかけを残す題材が込められている。
おそらく、こちらに関しては前述したスキャンダルを抱えたクリエイターとは違って、ある一点において拒絶反応を覚えるかもしれない。しかし、言っていることには説得力もあって、単純に否定することは難しい。なにより、その発言の中には現実に起きたある大事件を想起させる事柄も含まれているので、おそらくは前述したクリエイターとは全く別の形で考えを巡らせることになってしまうだろう。並行して、正体の生々しさにも注目である。
ほかにもスキャンダルには、罰を巡っての賛否が分かれるものがいくつか。中には「それは罰せられるのも仕方がない」となってしまうものもあるが、背景情報を踏まえて見てみると、「どこかで止められたのでは?」と考えさせられてしまうものが。
何より、本作に登場するクリエイターたちというのが大変に個性的で、憎めない一面を持っている。とりわけ、年齢の割にだらしない様を頻繁に見せる作曲家「リツキユウ」は突出していて、彼に冷たい態度をとる歌い手「綾斗」とのやり取りも相まって、人によっては忘れられなくなってしまうどころか、「もしもの未来」を想像してしまうかもしれない。
プレイヤーの扮する主人公スズヤも性格的には弱々しいのだが、そのおかげで問いかけにまつわるイベントがより一層際立つ効果を発揮している。
そして、彼自身もまたスキャンダルを抱えているのだが、これもこれで賛否が分かれるものになっている。例によって、どんなスキャンダルかは見てのお楽しみだが、きっと他のプレイヤーはどう思ったのか、意見を調べたくなってしまうはずだ。
一通り終えて思うのは、本作はインターネット、特にSNSが強い影響力を持つようになった世の中に対する問いかけと、想像力を働かせることの大切さを考えさせられるストーリーを描いているということだ。実際、本作を最後までやり通した後、多くの教訓を得ることになるだろう。
題材のユニークさ、キャラクターたちの個性が強く前面に出ているところもあるが、それほどまでに本作のストーリーは読み応えがあると同時に記憶に残る内容となっている。
特にスキャンダルについて、プレイヤーそれぞれで色んな考え方が生まれると思われるので、少しでも登場人物たちが抱えたものが何なのか気になれば、すぐにでも本作をダウンロードして体験いただきたいところだ。
ネット時代のクリエイターと、世間に対する多くの問いかけを残す力作
ストーリーに関しては、ボリュームもなかなかの規模で、すべての分岐パターンの把握を含めれば5時間近くを要することになる。よりよいエンディングを目指し、一直線でプレイした場合はその半分ぐらいになるかもしれない。
だが、ストーリー全体の見所が非常に多いのと、デスゲームらしい緊迫したムードが途中から付きまとうようになるので、一区切りが着いた頃には相当な充実感と読了感が得られるはずだ。
グラフィック、演出面も手の込んだ仕上がりである。特に演出に関しては、断罪放送時に暗罪もえのオープニングムービーが流れたり、デカデカとしたテロップが出るなど、バラエティ番組を強く意識した表現が光る。会話のやり取りに応じて効果音が流れる、カットインが挿入されるといったものも押さえられていて、各種イベントの臨場感を引き立てる。
ただ、緊迫した場での会話シーンでも気の抜ける効果音が流れるなど、若干、ミスマッチを感じさせる部分も。また、証拠品挑むに挑む「探索パート」は全回収が前提となった場面が大半を占め、中断可能な分岐ケースが少ないのも気になるところ。欲を言えば、分岐ケースがもう少しあればと思ってしまった。
ほかにクリエイターたちは個性的な分、好みの分かれる一面もあって人によっては嫌悪感を抱く場合もある。そして、ネタバレになるのでボカしながら言うと……エンディングは一部、気がかりな謎が残るようになっているので、留意いただければと思う(ちゃんと完結はします)。
ただ、そうした要素もあっての本作であり、一連のストーリーの面白さでもある。ユニークな題材を扱いつつも、プレイヤーそれぞれに深い問いかけを残すストーリーとその題材もあって、非常に見応えのある内容に仕上がっている本作。
一連の設定とストーリーに興味を抱いた人はもちろん、デスゲームを題材にしたノベルゲームが好きな人なら要チェックの力作だ。さあ……スキャンダルと向き合え。そして、是非を問え。
ちなみに本作は創作物総合マーケット「BOOTH」にて、おまけシナリオ付きの有償お布施版も販売されている。特にクリエイターたち6人のエピソードをもっと見たいという気持ちになったなら、こちらの購入がオススメだ。
[基本情報]
タイトル:『クリエイターズ・デスゲーム』
作者:茶碗蒸し
クリア時間:4~6時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格(税込):無料(※有料お布施版:500円)
◇ダウンロード・プレイはこちら
https://novelgame.jp/games/show/9978