かわいくてやさしい世界観の横シューティング『わくわくダークライド』でも、ホントはヒツジの皮を被ったゴーストなの

シューティング,フリーゲーム

『わくわくダークライド』は、上のタイトル画面のスクリーンショットからも分かる通り、可愛いキャラクターたちと世界観が特徴の横スクロールシューティングゲームである。さらに言えば、ストーリーもすごく“やさしい”。

ずっと昔に誰も居なくなった大きなお屋敷で、お人形の「リッカ」と「ジェニー」、そしてたくさんのオバケたちは幸せに暮らしていました。

ところがある夜、お屋敷に黒っぽい「外来種(がいらいしゅ)」が現れます。外来種はお屋敷で暮らすオバケたちの心を支配し、彼らを凶暴化させてしまいました。しかも、屋敷最上階のオバケたちの王さま「ゴーストキング」まで外来種は支配してしまいます。

たまたま別館に居て助かったリッカ、ジェニーはみんなを正気に戻し、外来種におしおきをするため、彼らに立ち向かうのです。

まさに絵本のようなやさしさが滲み出た設定と世界観が特徴の内容である。ところがどっこい。やさしいのはガワだけ。中身……厳密に言うと、シューティングゲームとしての部分はやさしくもかわいくもない。

シューティングゲームに慣れた人も思わずヒヤリとしちゃうほど、歯応え十分の作品だ。
誰が呼んだか、こいつはまぎれもなくヒツジの皮を被ったオオカミ……いや、幽霊(ゴースト)だ!

基本は王道の横シューティング。でも、システム周りは個性派の極み!?

改めて本作『わくわくダークライド』の概要だが、2024年10月より「ふりーむ!」「フリーゲーム夢現」の2サイトで配信中のWindows PC向けフリーゲームだ。アクションゲームの制作ツールとして知られる「アクションゲームツクールMV」製のタイトルでもある。

ジャンルは前述の通り、横スクロールのシューティングゲーム。プレイヤーはリッカ、ジェニーの人形2体のいずれかを自機として操作し、屋敷内で暴れるオバケたちを正気に戻しながら、彼らをおかしくした元凶「外来種」へのおしおきを目指す。進行はステージクリア方式で、ステージごとのクリア条件も終盤に待ち構えるボスを倒すという、シューティングゲーム定番のものとなっている。

本編の流れと、ステージごとのクリア条件などからは王道シューティングゲームをイメージするだろう。実際、次々と現れるオバケたちを撃退しながらステージを進み、ボスと戦う流れはこれぞ王道シューティングゲームな感じだ。

ところが、システム周りに視点を移すと、特殊な要素が盛り沢山である。

ひとつにオバケの撃退などに用いる基本攻撃ことショット。リッカ、ジェニーの2体共通仕様として、デフォルトで4種類所持している。

そして、それらのショットはボタンごとに割り当てられている。以降はXboxコントローラ使用時の配置になるが、Aボタンに前方ショット、Bボタンに後方ショット、Xボタンに特殊ショット、そしてYボタンに照射ショットという感じである。本作はこれら4種類のショットを状況に応じて使い分け、襲い来るオバケたちと迎え撃ったりしていくのである。

さらにショットとオバケには「属性」が設定されている。これが2つ目の特殊な要素。ショットとオバケには「アカ(赤)」と「アオ(青)」の色で属性が設定されており、敵を同じ属性(色)のショットで倒すと「撃ち返し弾」が発生する。

「それってこちらにとって不利に働くものでは?」と思うかもしれないが、ここで3つ目の特殊な要素「シールド」のご紹介である。実は本作、ショット攻撃を実施していない時には、自動的にシールドが展開されるようになっている。このシールドはオレンジ以外の色の敵弾を防御してくれる。しかも、防御した敵弾はショット攻撃を強化させるのに必要な経験値アイテム「パワーアップチップ」へと変化。

そのパワーアップのチップは、撃ち返し弾を防御した時ほど大型のものをドロップする仕組みになっている。つまり、撃ち返し弾はショット攻撃を強くさせるチャンス。積極的に消していくことで、オバケたちとの戦いを有利に進めていけるようになるのだ。

言うまでもなく、シールドで防がずに当たってしまうとダメージになる。そして、ここで4つ目の特殊な要素「BREAK!!」の紹介だ。本作は体力ゲージ型のダメージ制を採用しており、敵本体に触れたり、被弾しても即ミスとはならない。

だが、注意が必要なのが体力ゲージと一緒に表示された顔アイコン。これがダメージ後の「BREAK!!」と表示されている状態で敵への接触や、被弾をしてしまうと、体力ゲージがたくさん残っていようが問答無用でミスになってしまう。

再度、被弾しても無事に済む状態にするには「BREAK!!」から「RESILIENCE」(回復)、「MENTAL」(通常)へと状態が変化するのを待つ必要があるのだ。

要はダメージを受けると、しばらく無防備のピンチ状態になる。そして、一定時間が経つとピンチが解除されて元に戻るのである。これゆえ、アクションゲームなどにおけるダメージ制の先入観を持って挑むと、痛い目に合うシステムとなっている。

ほかに5つ目の特殊要素として「悪夢率」なるものも。画面上部中央に表示されたゲージで、溜まる度に第3の属性「クロ(黒)」の敵が現れるようになるという、プレイヤーの実力に応じた難易度変化を引き起こす要素となっている。要は「ランク」だ。

ただ、このゲージが中間に達したり、満タンになるとエクステンド(残機が増える)が発生するという、少し珍しい仕掛けも凝らされている。もうひとつ、パワーアップとボムにしてもアイテムを取れば即強化されるのではなく、チップ獲得で溜まっていく経験値ゲージが満タンに達するたびに上昇(増加)という特徴が。

ヒツジの皮を被ったゴーストたるゆえんは、この一連の紹介で概ね察せただろう。一見は王道の横スクロールシューティングゲーム。しかしてその正体は、非常にテクニカルな要素を持ちあわせた個性派シューティングゲームなのである。

時に撃ち!時に守る!戦術的な立ち回りが常に求められる、文字通りテクニカルなその作り

その魅力もとても分かりやすい。
「ヒツジの皮を被ったゴースト」を地で行く内容だ。

とりわけその魅力を最も表しているのがショット、属性、シールドの3要素。いずれもステージの攻略などにおいて大きな影響を及ぼす、自機のパワーアップと深く関連付くものだけに、ゲームプレイ全般のテクニカルっぷりを大いに引き立てる。

一番象徴的なのはシールド。これで敵弾、撃ち返し弾を意識的に防御していかないと、誇張抜きに自機が全然強くならない。一応、ステージ進行中には、パワーアップチップを大量に落とす敵も出現する。しかし、頻繁には出現しないので、パワーアップをこちら頼りにすれば、最大強化に達するまでの時間が大幅に遅くなってしまう。

紹介が遅れたが、本作のパワーアップはレベル制になっている。前述した経験値ゲージが満タンになるたびにレベルアップし、最大で5まで上昇する。そして、ゲージの源たる経験値を貯めるに当たっては、パワーアップチップの回収が必要不可欠。その回収機会をチップを大量に落とす敵から得ることだけに絞るようなことをすれば、どんなことになるかは想像に難くないはず。遅延に次ぐ遅延でぴえんである。

しかも、レベルが5に達すれば「パワーアップチップ」は「ボーナスチップ」へと変化。スコアのさらなる上昇に加え、強力な攻撃技「メガクラッシュ」こと「ボム」の経験値ゲージも貯まって、ゆくゆくは所持数も増える(最大は3つまで)。強化が遅れれば、ボムの使用機会も減ってしまうのだ。

こうもステージの攻略、広義的には難易度に影響を及ぼすのもあって、活用はほぼ避けられない要素となっている。しかも、シールドは攻撃をしない時に限って発動する仕組み。活用した戦い方をするとなれば、状況に応じて攻撃をしない(撃たない)ことも必要とされるのだ。

それがいかに個性的で、テクニカルな体験を演出するかは想像に難くないだろう。見た目以上に戦術性があり、ステージごとの展開や戦闘に変化を及ぼす要素に仕上げられているのだ。それは残るショット、属性も同様であり、目の前に現れた敵は即刻迎撃という直感的な対応を時に戒めるものとしても機能する。

中でもショットは方向(前後)の概念があるため、敵の出現位置に応じた使い分けはミスを抑え込むに当たってはすごく大事。Xボタンで放つ特殊ショット、Yボタンで放つ照射ショットにもそれぞれ最適な場面がステージ内に必ず存在するので、そこで使ったか否かで難しさも変わる。これらのショットがゲームスタート時点からすべて使え、ミスして失われないのも便利であると同時に、その4種類をきちんと使いこなすことに意義があるゲームであることを力強く訴える。

実は序盤のステージに限り、この一連の要素を意識しない普通のシューティングゲームとしての遊び方が通用したりする。だが、おそらくは中盤に差し掛かる辺りで維持できなくなるだろう。前述したようにパワーアップの遅れが問題として表面化してくるからだ。そして、次第にシールドを始めとする要素を使った立ち回りをするようになり、実はもっと効率的に進める方法があったことに気付いて後悔することになる。人によっては「マニュアルをよく読んでおいた方がよかった」となるかもしれない。

その後悔が物語るように、せっかくこれほど特徴的な要素を持ちながら、チュートリアルがないのがもったいないのだが、ステージ構成と難易度の調整方針でそれを意識させる工夫を施しているので、おそらくは意図してやっているのだろう。

そんな訳で、もし本作にキャラクターと世界観が可愛い王道シューティングゲームとの先入観を持っているなら、ぜひそれを維持したまま本番を始めていただきたい。あえてマニュアルを読まずに。きっと、色んな意味で忘れられない体験という名の試練を受けることになるはずだ。

並行して、撃ちまくるだけに終始しない戦術性の高さ、それによって実現する特徴的な立ち回りに本作特有の遊び応えに、個性派たるゆえんを知ることになるだろう。

それもあって、本作はどちらかというとシューティングゲーム好きほど遊んでみていただきたい作品である。逆に可愛い世界観とキャラクターに釣られて遊ぶと、ほんのり火傷する恐れがあるので、ご注意いただきたい。

場合によってはゴーストがワーウルフに化ける、侮りがたき作品

……ということは、難易度もそれなりなのかと言うと、なかなかの歯応えとなっている。

本作には「NORMAL」「NOCTURNS」の2種類の難易度があって、前者が標準かつ易しい難易度となっている。だが、後半に差し掛かるとシューティングゲーム好きでも「ぬおっ!?」と声が出てしまうような、激しい戦いが繰り広げられる。シールドによる防御、ボムの活用を意識すれば多少、安定して立ち回れはするが、ある程度は戦術的に立ち回る必要が出るので、結構手に汗握る思いをしてしまうだろう。

▲一部ボスにも、「NOCTURNS」だと初めて見る形態が……?

「NOCTURNS」はシューティングゲーム熟練者向けである。この難易度では、ショットの属性と違う属性の敵を倒してしまうと、シールドで防げないオレンジの撃ち返し弾が発生するというペナルティが追加される。

また、攻撃も激しくなり、敵の数も増えるので、ノーマル以上に的確な立ち回りが必須になる。その激しさは「これぞテクニカル!」と言わんばかりに、本作の真価が発揮されたものになっているので、さらなる深淵を知りたいならチャレンジしてみていただきたい。ますますもって、本作に対して「ヒツジの皮を被ったゴースト」との認識を持つようになるかと思われる。いや、ゴーストじゃなくてワーウルフかもしれない。

ボリュームもステージ総数は7つと結構多い上、2種類の自機それぞれによる攻略と前述した「ノクターン」の攻略、そしてスコアアタックもあって、なかなかの密度となっている。1周は大体25~30分とそんなに長くないのだが、物足りなさは全然感じさせないだろう。なぜなら、どのステージも仕掛けに富んでいて、最後に待ち受けるボスも可愛さとは裏腹にクセのある攻撃を仕掛けてくるメンツ揃いゆえ。

ほかにグラフィックもキャラクターのドット絵などは非常に可愛らしく、ハロウィンを意識した愉し気な感じが前面に出ている。音楽もドタバタパニック的なテイストの楽曲中心で、世界観とキャラクターにマッチしている。逆に演出は大ボスを倒した時には仰々しい大爆発が起きたりなど、バリバリにシューティングゲームしていて、いい意味でうるさい感じに仕上がっている。

ただ、音楽も含めてデフォルト音量がやたらと小さいのは気になるところ。オプションによる設定もできないため、本体側のスピーカーで調整しなければならないのが少し煩わしい。それ以外ではボスの中に一部、露骨すぎる安全地帯があるのも少々気になる。救済を兼ねているのかもしれないが、それにしても隙が大きすぎる印象だ。

あとは「ノーマル」よりも少しだけ低い難易度もあれば……と思ってしまうところだろうか。それだけ見た目からは想像もつかない歯応えがよくも悪くもある。

そして、ゲームとしても軽い気持ちで楽しめる……と思いきや、戦術性の高い個性派の内容だ。そのため、再び繰り返すがキャラクターと世界観に惹かれて遊ぶに当たっては少し心の準備が必要。シューティングゲーム好きに関しては、システムや戦術性の面で独特な個性を持った仕上がりになっているので、少し変わったタイプの作品を遊んでみたいならぜひ、チャレンジいただきたい。可愛いオバケのキャラクターたちと、それが織り成す優しいストーリーとは裏腹の戦術的で骨太な戦いを堪能しよう。

そして、ヒツジの皮を被ったゴースト(時々ワーウルフ)たる意味を満喫せよ?!

[基本情報]
タイトル:『わくわくダークライド』
作者:doshiga
クリア時間:25~30分(1周)
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):無料

◇ダウンロードはこちら
・ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/33049

・フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/shooting/game_12912.html

  • シェループ(@shelloop

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