次元の壁を飛び越える2D×3Dアクション『プロトリジゲン』

アクション,フリーゲーム

「縦」と「横」の2軸で表現されるのが平面の2Dで、「縦」と「横」に「奥行き」を足した3軸で表現されるのが立体の3D。コンピュータグラフィックスやゲームに少しでも馴染みがある人にとっては何を今さらというような話だろうが、今回紹介する作品はこれこそが肝心要なので、改めて頭の中に入れておいてほしい。

『プロトリジゲン』はテクナン氏の制作による、電子空間を舞台としたアクションアドベンチャーゲーム。2024年11月30日よりitch.ioにて公開されている。

2Dか3Dかだって?どっちも、だ!

本作『プロトリジゲン』の舞台は崩壊しつつある電子空間。そこで目覚めた記憶喪失の旅人を操作し、自身が何者なのかの手掛かりを求めて冒険を繰り広げることとなる。

本作は2Dの世界と3Dの世界を行き来しながら進んでいくことが最大の特徴となっている。次元間の移動はステージ中に浮かぶディスプレイの「裂け目」に触れることで行うことが可能だ。2Dの世界に移る際にはレトロゲームを思わせるチップチューン調のBGMに途切れることなく切り替わる点が心地よい。また、冒頭で述べたとおり3Dとは奥行きの概念を持つわけだが、2D空間上のボタンを押すと床が手前にせり出して3D空間上での足場になるというように、ふたつの次元の間で影響しあう要素も存在している。

ジャンプをし損ねて足場から落ちてしまったり、敵やノイズにぶつかってしまうと手前の地点からやり直しになる。いわゆる残機等のミスに関する制限は存在しておらず、何度でも繰り返し挑戦が可能だ。ゴールとなる「果て」にたどり着き、そこで[StageClear]シーケンスを実行することでステージクリアとなる。

2Dにも種類がある。メモリを切り替え電子空間を進め

ステージを進めていくと「メモリ」を入手することができる。最初のステージを突破することで入手するメモリは、2D空間においてサイドビューとトップビューを切り替えることが可能となる。縦と横しかない2Dの世界の中で、縦の軸を高低に向けるか平面に向けるかという、一口に2Dと言っても意外と意識の外にあるところをくすぐられる。

使用するメモリの切り替えは裂け目のそばにあるスロットから操作して行う。基本的には使い分けが重要となるが、一部にはサイドビューでもトップビューでも突破可能なエリアも存在しているので、そのような場面では自身はサイドビューとトップビューのどちらが得意なのか?ということを考えて選択していくと良いだろう。

更にステージを進めると、画面上にマウスカーソルを出現させ、マウス操作で画面上の仕掛けを動かすことができるメモリも登場する。一例としてパソコンのOSの画面で多々目にする「ウィンドウ」が登場するが、これをOS上での操作と同じ要領でドラックして動かすことが可能だ。時には道を阻むウィンドウを脇にどかし、また時にはウィンドウを足場として利用して先へと進んでいこう。

もうひとつの次元へ向けて

「第四の壁」という言葉がある。演劇や映画などで使われる、演者の居る舞台と観客席を隔てている見えない壁を表す概念である。劇の中の登場人物は観客からの視線や声を認識することはないまま、定められた物語に準じて動いていく。一方でストーリーベースのコンピュータゲームにおけるプレイヤーとは、コントローラを通じて画面の中の物語を動かす存在であり、観客であると同時に演者でもある、という性質を持ち合わせている。

本作の物語はこの第四の壁、すなわち2Dでも3Dでもないもうひとつの次元を強く意識したものとなっている。特にたびたび台詞を読み飛ばすことに言及されるなど物語に対しての素っ気なさが感じられたり、一部の人物は第四の壁の向こう側の存在であるプレイヤーのことを認識しているかのような態度を取る。その思惑は一体どこにあるのか?それを追うことが、歩みを進める動機のひとつになるはずだ。

プレイヤーキャラクターの旅人についても、記憶喪失という無個性であることでプレイヤーを投影させやすくし感情移入を促すという題目の器であるかと思いきや、プレイを進めているうちにプレイヤーと当人とで意識が剥離しているように感じ始めることになる。そこには定められた物語を紡ぐことへの確かな絶望と確かな希望が込められている。

画面の向こうから飛び越えて来るものは、きっと忘れがたい記憶を残すだろう。

[基本情報]
タイトル: プロトリジゲン
制作者:テクナン
クリア時間:  1時間~
対応OS: Windows , Macintosh 
価格: フリーウェア

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  • 真野 崇(@tacashi

    フリーゲームと共に四半世紀を生きるフリゲ馬鹿一代。
    フリーゲームのレビューブログ「自由遊戯黙示録」を経て、自身のフリゲ人生を集約した、フリーゲーム・同人ゲーム・インディーズゲームの年代記「自主制作ゲーム史論」を執筆。