ダンジョン探索の時代は終わった。『ダンジョン崩し』がダンジョンお破壊(そうじ)時代の幕開けを告げる!
このタイトル名『ダンジョン崩し』からして、本作がどんな内容のゲームかはお分かりだろう。その名の通り、ダンジョンを崩す……言い方を変えれば、ダンジョンを壊すゲームである。
ダンジョンと言えば、モンスターや危険な罠といった仕掛けが待ち受ける場所だ。「監獄」「地下牢」というのが本来の意味だが、ことゲームにおいては迷宮、もしくは迷宮のような構造の空間との意味で使われる。
そのようなダンジョンはロールプレイングゲーム(RPG)、アクションアドベンチャーゲームにおいては事実上の定番スポット。そして、そこを舞台にした主な遊びと言えば、モンスターや罠といった困難を乗り越え、最深部にある出口や宝物を目指すというものだ。
だが、本作においては、最深部を目指すこと以外はすべて破壊である。現れるモンスターも、行く手を阻む壁や仕掛けも全部ぶっ壊しながら進む。それがすべて。
かくしてここに「ダンジョンお破壊(そうじ)ゲーム」が爆誕したのである。
商業作品化された名作フリーゲームの作者が送る、ダンジョンお破壊(そうじ)アクションゲーム
改めて本作『ダンジョン崩し』の基本情報をお伝えすると、2025年1月3日よりSteamで販売中のWindows PC向けタイトルである。
作者は吉田浩太郎氏。ハンドルネーム「UUE」名義で、自身のWEBサイトにてさまざまなフリーゲームを制作・公開してきたゲームクリエイターだ。
特に代表作のひとつで、30秒内に目的を果たすRPG『30秒勇者』は、2009年にPlayStation Portable(PSP)向けタイトル『勇者30』として商業作品化。2年後の2011年には続編『勇者30 SECOND』もPSP向けに発売されている。
本作『ダンジョン崩し』は、そんな吉田氏個人名義の作品にして初のSteam向け有償タイトルだ。
ゲームの内容は前述の通り、ダンジョンを破壊するゲームである。プレイヤーは「ダンジョン崩し」の異名を持つ魔女となり、「閉ざされたダンジョン」に捕らわれた冒険者たちの救助およびダンジョンの破壊に挑む。
ジャンルとしては、見下ろし視点で展開されるアクションゲームとなる。基本的にダンジョンの階層ごとに用意されたマップを全自動で発射される魔法で壊しながら進み、次の階層へと繋がる階段への到達を目指すというのが遊び方になる。ダンジョンRPGと同じ構成と言えば分かりやすいだろう。
ただ、ダンジョンRPGと異なり、各階層を構成する壁という壁を壊して壊しまくり、ついでに敵もせん滅しながら進めていくのが最大の特徴。探索の“た”の字もない、ゴリ押し上等なスタイルになっている(実際は階段を探す過程を踏むことになるのだが)。
とは言え、最初からゴリ押し上等な破壊ができる訳ではない。スタート時点の魔女は弱い。1個の壁を破壊するだけでもそこそこの時間を要してしまう。そのために取る策はただひとつ。ステータスアップだ。
ダンジョンの各階層には魔女のステータスを強化させるアイテムが配置されており、回収することで攻撃力や移動速度などを強化できるのだ。ただし、アイテムを回収するには壁を破壊したり、敵を倒した時に得られるお金(ゴールド)が必要になる。
そのため、壁を壊しながらお金を稼ぎ、一定量溜まったらアイテムを回収することを繰り返し、強化を図っていくのだ。ちなみにアイテムは宝箱を破壊しても入手でき、こちらはお金を支払う必要がない。また、アイテムは強化を重ねるたびに支払う金額が上がっていく。そのため、より強くしたいなら積極的に金を稼いで貯めることも必要になるというRPG的な行動も試されてくる。
RPG的なものでは「捕らわれた仲間」もいる。こちらもアイテム同様、助けるにはお金が必要で、支払うと破壊活動を手伝うメンバーとして参戦してくれる。仲間がいれば、攻撃の物量が増加するため破壊効率は大幅に上昇。この仲間をいかに沢山集められるかも、ダンジョンの破壊においては大きなカギとなる。
さらに破壊においてカギとなるのが制限時間。実は本作、延々と行動し続けることはできず、時間内に破壊活動を済ませなくてはならないのだ。仮にゼロになれば、ダンジョン内の警備システムが作動。強力な敵が現れ、そのままハチの巣にされてオサラバだ。
制限時間はダンジョン内にある警報システムを破壊、あるいは階段到達で増やせるが、前者は数に限りがあるほか、後者は階段到達時点の「ダンジョン破壊率」が低いとロクに回復できない。かと言ってじっくり丁寧に破壊しようとすれば制限時間が一気に減ってしまう。そんなジレンマを抱かせるシステムも組まれており、プレイヤーの行動指針に影響を与えてくる。
このように細々と戦術・戦略的な要素が組まれていて、やることは簡単ながら遊びの密度が非常に濃いゲームに仕上がっている。ある意味、『勇者30』(30秒勇者)に近い理念を継承したゲームデザインで、吉田氏らしさが滲み出た内容である。
さまざまなジャンルの要素を「崩す」のテーマを基にバランスよく配合!
本作の魅力は、多彩なジャンルの要素をバランスよく配合した巧みなゲームシステムである。
前述の通り、本作を構成する要素やシステムは既存のジャンルを由来としている。例えば魔法が全自動で放たれる仕組みは、大量の敵が襲い来る中でどれだけ長い時間生き残れるかに挑む「サバイバー系」と称されるゲームのそれ。ちなみに操作もプレイヤーの分身たる魔女の移動と、魔法を放つ方向を狙い定めることの2つだけと、サバイバー系まんまになっている。
また、ダンジョンの破壊は基本的に内部を構成する壁、ブロックを魔法で除去していくのが基本となるが、これが採掘要素を持ったクラフト系ゲームとほぼ同じ。とりわけ、魔法の威力が不十分な序盤はチマチマとした破壊が基本になるのもあって、殊更に採掘要素のあるクラフト系ゲームを思わせる手触りになっている。
ほかにダンジョンの階層を進んで階段への到達を目指す流れはダンジョンRPG(もしくはローグライク)。さらに紹介が前後したが、本作は破壊の途中で体力が尽きて倒れたとしても、残機が残っていれば強化状態を引き継いで最初からやり直せる。逆に残機がゼロだとコンティニューはできず、そのままゲームオーバー。
この残機の概念と有限コンティニューも、昔のアーケード系ゲームを思わせるものになっている。極めつけに制限時間。これを引き伸ばしつつ破壊活動を長引かせる下りは、仕組みはまるで違えど『勇者30』(30秒勇者)である。
こんな複数のジャンルと作者の過去作に由来した要素で本作のシステムは成り立っているのだが、あまり寄せ集め感がなく、ダンジョンを崩すというテーマに沿ったまとまり方になっている。ひとつの遊びを実現させるため、各種要素が自然に結集したかのような仕上がりになっているのだ。
それもあって、遊び心地には本作特有の味がにじみ出ている。移動と狙いを付ける操作だけで破壊を繰り広げる部分は、確かにサバイバー系ゲームと変わりない。しかし、テーマの違いがオマージュ色を大幅に薄くしている。さながら、本作は「ブレイカー」を名乗る別ジャンルだと言い張る勢いも感じさせられるまとまり方なのである。
この辺の仕上がりが巧みであると同時に、『勇者30』(30秒勇者)に通じるセンスを感じさせる部分になっている。同じことはクリアまでに要する時間にも言え、最長でも30分以内と短め。しかし、システムの密度が濃いのと、ほんの少し辛みを含んだ難易度の設定も相まって、しっかりとした満足感を得られる内容に構成されている。
特に難易度は、力こそすべてなテーマとは裏腹の手ごたえに意表を突かれるだろう。というのも、コンティニュー無しでのプレイが極めて困難。強化状態の引き継ぎなしだと、途中でほぼ確実に行き詰まる調整になっているのだ。また、強化状態ありでも、階層が進むと壁の耐久度が高まったり、強力な敵が出現するようになるといった厳しい場面に直面することがある。
困難が立ちはだかる前にどれだけの準備ができるか?そのような後の展開を踏まえた戦略も試されるようになっていて、意外に一筋縄ではいかないバランスになっているのだ。それもあって、気軽に遊べるゲームと思って手を出すと、若干の火傷を負う可能性あり。作りとは裏腹のやり応えを持ち合わせているのだ。
その辺の手ごわさが際立って出ているのが、本編クリア後に解禁される「無限ダンジョン」。その名の通り、階層が無限に続くダンジョンで、どこまで潜れるかに挑むチャレンジモードだ。このモードには、ハイスコアの獲得に応じてアイテムや仲間キャラクターの初期レベルを上げられる「ボーナススター」なる永続強化要素があり、若干のローグライクっぽさを持った手触りにもなっている。
だが、それを用いても事前準備の戦略が試されたり、状況に応じて階段への到達を優先するといった判断が必要になってくる。時には永続強化優先するため、一部の階層に現れる「ワープポータル」よりダンジョンから撤退することを考えなくてはならないことも。
このモードはあくまでもチャレンジということで、挑むか挑まないかはプレイヤーの判断に委ねられているのだが、プレイすれば本作のゲームシステムの巧みさと難易度の侮りがたさをより深く知ることができる。同時に手軽に遊べること第一に作られたゲームではないという本気も実感できるだろう。
少々長く語ってしまったが、それだけ本作はゲームシステム周りが考え抜かれているということである。この既視感を抱かせつつも、新しいものを感じさせる手触りには傑出したものがあるので、少しでも関心を抱いたのなら実際に遊んでみていただきたい。
特に『勇者30』のプレイ経験があるならば、同作に極めて近い懐かしくも新しい遊び心地に若干の感動すら覚えるはずだ。
コンティニュー前提の調整は賛否が分かれるも、確かな遊び応えとやり込み甲斐を持った良作
ただ、完成度の高さの裏で賛否の分かれる部分や調整に疑問符の付く箇所も。
とりわけコンティニューによる強化引き継ぎがなければ、クリアがほぼ不可能という点は、ノーコンティニューでのプレイを許容しないという押し付け感があり、人によっては強烈なフラストレーションを覚えるかもしれない。
最もそこが顕在化しているのが永続強化要素のない「閉ざされたダンジョン」。何か上手い人なりの突破口みたいなものを設けても良かったのではと思ってしまった次第だ。とはいえ、それはそれでプレイ時間を極端に短くするデメリットもあることから、設けようにもその余地がない事情があったのかもしれないが。
「無限ダンジョン」も、永続強化要素「ボーナススター」がハイスコアを更新しないと獲得できなという仕組みが地味に厄介。それすなわち、限界に近い高スコアを出したら、以降はそれを超えるものを出さない限りスターを獲得できなくなってしまうのだ。結果、永続強化も頭打ちという事態になってしまう。
対策として、ごくまれに現れる「ワープポータル」を潜ればスコアが2倍に加算される措置はあるものの、正直、これなら普通に稼いだスコアを経験値代わりに用いる仕組みの方が分かりやすかったのではと思ってしまったところである。ほかに「無限ダンジョン」に関しては、19階以降になると壁の硬さがインフレの一途を辿るというのも、ゲーム本来の醍醐味たる破壊の快感を損ねる調整になってしまっていて疑問符が付くところである。
このような課題を残してしまっているのが、もったいないところではある。ただ、本作は発売後もアップデートを続けているため、今後、何かしらメスが入る可能性はある。もし、メスが入るとなれば「無限ダンジョン」の19階以降の難易度の上げ方は若干、本作の魅力を損ねている節があるので、何か大きな変更が入ることに期待したいところだ。
もったいない部分を列挙してしまったが、それでもゲーム全体の完成度と遊び応えは本物だ。グラフィックも全編、デザインが簡略化されたドット絵で描写されているが、演出の派手さもあって地味さは一切感じさせない。特に本作の根幹たる破壊の表現はやりすぎと言わんばかりに派手かつ豪快で、見ているだけでも楽しい。質感があって重々しい破壊音もリラックス効果を醸し出すほどに心地よい。
ボリューム的には小粒ながら、遊び応えとやり込み甲斐は申し分ない良作。探索ではなくて破壊をキモとした、懐かしくも新しいダンジョンお破壊(そうじ)に取り組んでみよう。細かいことは考えなくていい。やることはただひとつ。壊せ!
[基本情報]
タイトル:『ダンジョン崩し』
作者:吉田浩太郎(UUE)
クリア時間:30分(閉ざされたダンジョン)、2~5時間(無限ダンジョン)
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):350円
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・Steam