初期ライフとゲームデザイン ー『ケロブラスター』のすぐれた設計―『ケロブラスター』レビュー(poroLogue)

インディーゲーム

悩ましい初期ライフ問題

「ゲームの初期ライフをいくつにするか」という問題は、アクションゲームにおいて非常に悩ましい問題である。

ニコニコ動画でも一躍人気となった『I wanna be the guy』などの「即死ゲー」と呼ばれる上級者上等のアクションゲームであれば、初期ライフどころか、最後まで一度でもミスしたら即アウト、というデザインでも妥当な印象を受けるだろう。
しかし、プレイヤー層を上級者に絞ったものではなく、一般的なアクションゲームとなると、ミスをしても猶予のあるデザインにしなければならないことが多いのではないかと思う。プレイヤーの習熟度によっては、序盤のゲームを継続することが困難になってしまうからだ。

このように悩ましいゲームの初期ライフだが、『3』という数字が採用されることも多い。まず思い出してほしいのは、『洞窟物語』の初期ライフが「3」だったこと。ほかのゲームなら、往年の名作『ゼルダの伝説』シリーズの主なタイトルもそうだろう。考えてみると、アクションゲームの初期ライフには「3」が多い気がしないだろうか?

ここで後世の作品群に大きな影響を与えた、ある古典的アクションゲームの話をしよう。

そのゲームの開発会議にて、あるとき、まさに主人公キャラクターの初期ライフをどうするかという点で、開発者間で意見が割れていたという。なかなか良いアイデアの出ないなか、ふと会議室に備えつけられたTVをつけると、野球の試合がおこなわれていた。そのとき、ちょうどピッチャーが3振していたのだ。そこで開発者達は、誰とはなしに顔を見合わせた。だれしもが「これだ」と思ったのだろう。

かくして、そのアクションゲームは、まずはじめに「3回だけ失敗できるデザイン」となった。それ以来の多くのアクションゲームの初期ライフは、150年以上の歴史をもつ「野球」というゲームのデザインに習っている、といっても過言ではないのだ!

・・・というエピソードは、筆者がいま作った嘘である。

ただ、野球という150年以上の歴史あるゲームにおいて、3回だけ失敗できるデザインが取り入れられていることは、ある意味で示唆的ではないだろうか。

なぜ『ケロブラスター』の初期ライフは「2」なのか?

さて、そこで『ケロブラスター』である。『ケロブラスター』の初期ライフは「3」ではなく、「2」だ。

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『ケロブラスター』のステージ1。初期ライフは2となっている。

たとえば、初期のライフが「3」であれば、3回の失敗でアウトとなる。その場合は、1回ダメージを受けても「まだ予備のライフがある」という余裕がもてる。いっぽう、ライフが「2」というのは、一度ダメージを受けるとライフが1となってしまい、次にダメージを受けると、残機ロスとなってしまう。これは猶予が少なく感じるかもしれない。筆者がプレイした際には、ライフが「3」のときとくらべ、数字が1つちがうだけで緊張感があった。

実際、なにも考えずにゲームを開始すると、意外と最初のステージでもあっけなくやられてしまうことがある。しかし、敵の動きを観察したり、工夫をすると、かんたんに乗り越えられるようになっている。このデザインには、まず最初のステージでは「1つ1つの場面を、考えてのりこえる」という意識付けを持ってほしい、という製作側の思いがあるのではないか、と思った。
これが、『ケロブラスター』の初期ライフが「2」である理由だと個人的には思う。

『ケロブラスター』のすぐれたゲームデザイン

『ケロブラスター』は、このほかにもゲームのデザイン全体がとても優れている。本作のデザインについては、ゲームライターである小野憲史さんの記事にて書かれているので、ぜひ読んでみてほしい。

「洞窟物語」クリエイター新作「ケロブラスター」は優しさのアクションゲーム

デザインで目を惹いた部分としては、特に、レベルデザイン・教育のデザインだ。私の感じた部分は、たとえば、ステージ2の3マップ目。

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ステージ2の3マップ目に切り替わってすぐ。泥沼にうまってしまったカエル。

画面を移動すると、すぐ目のまえに泥沼がある。とくに意識をしていなかったプレイヤーは、ここでほぼ泥沼に落ちるだろう。そこで、沼に入ると「移動・ジャンプがしにくくなる」ということがわかる。

また、ステージ4で氷を燃やすところもそうだろう。

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下のブロックを燃やすと、上のブロックが落ちてきて、ライフを失ってしまう。

この位置で氷を燃やすと、氷を溶かすことはできるが、押しつぶされライフを全て失い、残機が減ってしまう。これに気が付かなかったプレイヤーは痛手を受けてしまうが、ここであえて痛い目を見せることで、次から気をつけさせよう、という意図と取ることも出来る。さきほどの沼に加え、開発をした人が、どういった思いで作ったのかが伝わってくるシーンだ。

『ケロブラスター』はゲームのデザインにとても配慮されていて、隙がない。全体的にとてもバランスの取れた作品となっている。こういった作品が生まれてくることを、今後も楽しみにしたい。

 

[タイトル]
Kero Blaster

[ソフトウェアタイプ]
シェアウェア
windows 720円
iOS版 500円

[対応OS等]
Windows,iOS

日本語版、英語版

[ダウンロード]
PC版

Playism

iOS版

 

[制作者」
開発室Pixel

[プレイ時間]
2~3時間

  • poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。