フリーゲーム長編RPG『PUPPET WILL』。フリゲ×教養が生み出した、今の時代が求める王道RPG

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今回紹介する『PUPPET WILL』は医学生であるMed.y.m氏が制作した長編RPGだ。本作の特徴を一言で表すことは難しいが、あえていえばこれまでに多くのフリゲRPGを楽しんできたプレイヤーからも高い評価を得ている作品だ。更にいえば本作は全体的に整った完成度を持つ作品なので、普段は有料のRPGを楽しんでいるプレイヤーにもお勧めできる作品だ。

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本作のタイトルロゴ。右手にいる五人がこの物語の主人公達だ

「傀儡の意思」というテーマで描かれる戦争物語

物語はとある大陸に五つの国が共存していたが、その中の一国が大陸の統治をもくろみ他国へ戦争を仕掛けるところから始まる。主人公は戦争を仕掛ける側の国に仕えている剣士だが、人並み外れた戦力を見込まれて、王の右腕として色々な任務をこなしていた。ここまでの流れを聞いてみると、よくある戦争物語に感じるかもしれないが、本作では大陸の統治を目前にして主人公が突然国を追われることになる。そこで主人公は全てを失った個人として戦争に向き合うことになり、そこから本作のタイトルでもある「傀儡の意思」というテーマと共に、物語が繰り広げられていく。

RPGの重要な要素の1つに「シナリオ」がある。プレイヤーの中にはゲームをプレイする上で、映画や書籍のような質の高いシナリオを期待する人も少なくない。フリーゲームの中にも、プレイヤーを感動させるシナリオを秘めた物語は存在するが、本作もそんな中の1つに数えることができる物語だ。

本作のテーマは王道でありながらも、まるで現代社会の一面を風刺しているかのような内容が描かれている。更に物語や設定は細かいところまで作り込まれていて、リアリティがとても追求されている。そしてそれらを支える演出もよくできていて、特に後半は畳み掛けるように熱い展開が繰り広げられる。一言で表すのなら、まさに今の時代が求める王道RPGだ。

本作はオープニングの雰囲気もあり、一見するとダークなイメージを持たれがちだ。確かに全体的にはシリアスの要素が強めではあるが、その一方で所々にギャグやコメディも交えていて、王道で多くの人が楽しめるバランスの取れたシナリオが展開されていく。また作中で挟まれるキャラ同士の掛け合いも面白いので、ダークな要素を理由にプレイを控えている人がいるのなら、是非プレイしてみてほしい。

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主人公は自らの過去の過ちと向き合おうとしている

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冒険の中で主人公達の身にも様々な危険が降りかかる

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名の知れた実力者達にはそれぞれ異名が付けられている

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各国の首脳も物語に絡んでくる。中には首脳会談で一堂に会する場面も

「利便性を捨てる」試みから生まれたゲーム性

本来ゲームではRPGに限らず、プレイに支障が出るような要素は極力排除するのが定石だ。しかし本作では注意書きにもあるように、あえて「利便性を捨てた部分」がある。例えばRPGの街では、店や宿屋等といったゲームに必要な建物だけを置いて、極力コンパクトに仕上げることが有効な場合がある。本作ではそこをあえて変更して、大きい街はとにかく広く作られている。更に面識のない街の人には無闇に話しかけられなかったり、回復アイテムである薬が高値で売られていたり、通常の戦闘で遭遇する敵が強かったりしている。

しかしこれらは「リアリティの追求」のために行われたもので、結果的には失われた利便性以上のものが提供されている。先程触れたマップに関しても、まるで忠実に再現された世界を本当に冒険しているかのような、広さを生かした完成度と独自性の高いマップに仕上がっている。他方で「広いだけのマップ」にはならないような工夫もされていて、それがシームレスで敵から逃げることができる「エンカウントキャンセル」や、ランダムで落ちている「素材」といった要素だ。素材は色々な用途に使うことができるが、やろうと思えば敵とのエンカウントを無視して素材を集めることもできる。

また「利便性」という点では、本作では戦闘中に使用する技の演出も長めとなっているが、半オートで戦闘が進む場面が多いことや、演出自体の完成度の高さもあり、単調さを感じない演出に仕上がっている。作中の各シーンで使用される音楽の選曲や、効果音の選定が絶妙なこともそれらを支える重要な要素となっている。

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メニュー画面では色々な操作や情報の確認ができる

半オートで戦闘が進む「追撃」を駆使した戦闘

RPGである以上は、肝心のゲームの難易度を気にする人もいると思う。本作の注意書きには難易度は高めと書かれているが、ゲーム中にいつでも難易度を変更することが出来るシステムが搭載されているので、少しでも難しいと感じたらすぐに難易度を変更することができる。とはいえNORMALであれば十分にクリアまで楽しむことのできる難易度だ。

戦闘システムとしては、サイドビュー形式のターン制の戦闘となっていて、攻略するためには戦略性が求められるものとなっている。具体的にはスキル使用時に消費する「AP」と、行動後に半オートで再び行動する「追撃」という要素が鍵を握る。本作ではAPを切らすと一気に全滅のリスクが高まるので、定期的に回復しなければいけない。しかし追撃を成功させれば攻撃と同時にAPを回復することができるので、効率よく敵にダメージを与えることができる。とはいえAPの回復にはコストがかからないので、危なくなったら追撃よりも回復を優先させることが大切だ。

また本作では戦闘が終わる度にAPが回復する代わりに、戦闘以外では回復等のスキルを使用できない設定になっている。そのためいかにHPの高い状態で戦闘を終わらせられるかが鍵を握る。この駆け引きが面白く、ダンジョンでは常に連戦を意識させられることになる。とはいえアイテムの使用はできるので、どうしてもHPの回復が必要になった場合は、アイテムを使って回復できる。

また戦闘以外の面では、リアリティの追求によって難易度が上がっている部分がある一方で、寧ろ逆にリアリティの追求によって難易度が下がっている部分もある。それは素材を合成して作ったアイテムを売る方が、敵を倒すよりも安全に効率よくお金を稼げるところだ。これによって全体の難易度が絶妙なバランスになっているので、もしお金に困ることがあったら試してみてほしい。

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戦闘はサイドビュー形式のターン制を採用している

荒んだ世界に華を添える様々な作り込み

本作ではやり込み要素も非常に多く、作者曰くプレイ時間は20時間程度とのことだが、サブイベントの回収などを含めた完全なクリアを目指そうと思うと、プレイ時間はその倍くらいはかかる。他方でやり込み要素を無理にこなさなくても本編のバランスには支障がないので、本編だけを楽しみたいプレイヤーには優しい作りになっている。

またバージョンアップによる改良も目覚ましく、中でも人によっては重要視するであろうキャラクターのグラフィックも、リリース後のバージョンアップによって改善された。リリースしたばかりの頃は、一部の仲間のグラフィックには自作ではない素材が使われていたが、現在では仲間のグラフィックは全員自作に差し替えられていて、いっそう独自性が強まっている。

最後に本作のテーマである「傀儡の意思」の意味を改めて書くと、これは他でもない自分の意思を持たない主人公のことを表している。しかしRPGは世界中を自由に冒険することが醍醐味の一つなので、RPGと傀儡の意思はある意味で相反する要素といえる。しかし本作はそういったRPGでは扱いが難しいテーマにあえて真っ向から挑んだ作品で、作者曰くそれはどうしても描きたかったテーマだったとのことだ。

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クエストは本格的なものからお気軽なものまで。後半には物語の主要人物が依頼主になることも

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本作の世界では新聞報道がなされているが、情報操作がされていることもある

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討論会に参加して交渉に成功すると、主人公達の意見を反映してもらえる

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本作では三種類のギルドが登場するが、その内の一つでは商談を持ちかけることができる

確かな教養に裏打ちされた作品

作者であるMed.y.m氏は、現在本作とも世界観が繋がっている『LITTLE ANCIENT』の制作を進めている。他方で医学生としての顔も覗かせていて、「ゲーム制作」と「医学」という異色の組み合わせが本作の良さにも繋がっている。そういう意味では作者の持つ確かな教養に裏打ちされたフリゲRPGといえるので、興味があったら是非プレイしてみてほしい。

[基本情報]
タイトル『PUPPET WILL』
制作者 Med.y.m(制作者様サイトはこちら)
クリア時間 20~40時間
対応OS Windows XP/Vista/7/8
価格 無料

ダウンロードはこちらから
http://www.freem.ne.jp/win/game/11217

  • きゅあ

    主にフリーゲームの王道RPGやインディーゲームのJRPGに関心があり、プレイだけでなく作り手としても活動している。