Unity が切り拓くゲーム制作の可能性 ― Unite Japan 2014 レポート
4月7,8日、東京のお台場にあるホテル日航東京で「Unite Japan 2014」という1000人超が参加するイベントがUnity Japan主催で開催された。
この「Unite JAPAN 2014」は、Unityというゲームの開発エンジン(ツール)の開発者向けのイベントだ。2日間かけて、新たな発表や、Unityを使いこなすための様々な活用事例、具体的な活用テクニックなどをテーマに数々のセッションが開催された。
Unityが見せるゲーム制作の可能性について、「Unite」で語られたことを追いながら探ってみたい。
基調講演では、最新版であるUnity5.0の紹介があった。
膨大な開発予算をかけているゲームと遜色のない美麗な3Dグラフィックスに驚かされる。一方で、3Dのみならず、2Dゲームにも対応しており、今回のUniteでも2Dテキストアドベンチャーゲームの作成についてのセッションが開かれていた。
現在、Unityは「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」(スマホ)やもぐらゲームスでも取り上げた「BREAKS LP」(PC)など、大手ゲームメーカーから個人まで様々なジャンルのゲームに幅広く利用されている。
ゲームの開発環境としては、
・アセットストアでプロが作った高クオリティなツールが使える
・作ったゲームが色々なプラットフォームで動く
・ゲーム以外にも使える
といった特徴があり、今回のUniteでも強調されていたので紹介しよう。
アセットストアで高クオリティなツールが使える。Unity-chanも!
Unityにはアセットストアという機能があり、ゲーム内で使う様々なツールやコンテンツを「アセット」として共有することができる。ゲーム内のカメラワークから音、キャラクター、木などの物体まで様々なアセットがある。
「共有」はUnityのコンセプトの一つで、Uniteの冒頭で行われた基調講演でもUnite technologyのデイビッドCEOが強調して話していたポイントだ。
実際にゲームの制作で共有を行うことでどれだけの価値が実現するのか?
「UFPSカメラ」というアセットの例が取り上げられていた。
このUFPSカメラはBattleFieldシリーズのカメラワークを担当したエンジニアが3日で作り上げたカメラ視点のアセットだ。
20ドルで販売されており、誰でも買うことができる。全世界で5000人がダウンロードしているそうだ。3日×5000人分の時間が節約できたことになる。
プロでもゼロから作ると3日かかるものを、ストアを通じて共有することで世界中の誰でも一瞬で使えるようになる仕組みがこのアセットストアの最大の特徴だ。
また、Uniteではイベント当日4月7日から、Unityでそのまま使える公式キャラクター「Unity-chan」の無料配布するとの発表があった。
ゲームをつくるときには、キャラクターを作るのにもそれなりに手間がかかるがUnity-chanを使えばその手間も省ける、というわけだ。
既に多くの開発者がUnity-chanを使ったゲーム制作にとりかかっているようで、早くも利用する際のノウハウなどがネット上に現れ始めている。
公開されたUnityちゃん3Dデータを使ってアプリ版ドラクエっぽい物を作ってみる方法 – Mokosoft開発者ブログ
会場にはリアルUnity-chanも!
作ったゲームが色々なプラットフォームで動く
Unityで作成したゲームは、PC(Windows、Mac、Linux)だけでなく、iOSやAndroidなどのスマートフォン、各種ゲーム機(PS4、Wii U、Xbox One、PSVitaなど)Webブラウザ、にも対応している。
また、Oculus Riftに対応したバーチャル・リアリティ(VR)ゲームも作ることができる。
SCEのセッションでは、このプラットフォームの幅を広げるさらに2つの発表があった。
Playstation MobileへのUnity対応の発表があり、個人でもPSVitaとAndroid向けのゲームをUnityで開発して、販売することができるようになった。
Unity-chanをPSVitaで動かしている様子
また、現在、開発中のVRデバイス「Project Morpheus」もUnityに対応するということで、実機でのデモを日本初公開で行った。
各ハードウェアごとに違いはあるが、Unityという一つの統合された開発環境でゲームを作ることで、一つのゲームを複数のプラットフォームに対応させやすくなってきている。
ゲーム以外にも使える
今回のUniteでは、ゲーム以外の分野でのUnityの活用例についても、企業の展示会での活用や、広告、プロジェクションマッピングなど数々の事例が紹介されていた。
Unityは、ゲームのように音や動きなどに応じて映像を出力するツールとしても使える可能性を秘めている。
例えば、UnityJapanの高橋啓次郎氏によるオーディオ・ビジュアル・アートのセッションでは、ライブの音楽やMCに合わせて映像を流す演出が紹介された。
楽曲に合わせて鳥の群れが変化する映像
Unityのゲーム以外への活用事例は公式サイトでも見ることができる。
Unity – Showcase – Gallery – Non-games
主婦が使えるUnity
Unityの新機能や活用事例についての講演が多い中で、異彩を放っていたのが4月8日に行われた「主婦でも出来る Unity」のセッションだ。このセッションは、講演者の近藤"GOROman"義仁氏と主婦氏が講演を行った。
Oculus Riftのエバンジェリストこと近藤"GOROman"義仁氏(主婦氏は顔出しNGとのことで写真は掲載せず)
GOROman氏からはUnityがいかにゲーム制作のハードルを下げる革命的な存在かという話があり、「ゲーム開発に使わないUnity」という実用的(?)なUnityの使い方を次々と紹介して、会場の笑いを誘っていた。
オフィスの引っ越しの際にUnityを使って引越し後のオフィスの空間を再現し、事前に物の絵配置などを決めた「引っ越しに使えるUnity」(ダッシュ機能あり)。
特撮などで使われる緑色のクロマキーを利用して3D空間に実写の人物などを入れこむ「絵コンテに使えるUnity」
デモの展示もしていた、OculusRiftとNovint Falconというアームのようなデイバスを使って初音ミクと握手ができるようにした「握手ができるUnity」。
そして後半からは、「主婦ゆに!」の紹介となった。
「主婦ゆに!」はTwitter上でGOROman氏が何気なくかけた応募に、月1回しかPCに触れたことがなかったミク好きの主婦氏が初音ミクを踊らせたいを作りたいということで手を上げて始まった企画だ。
始まったのが2013年12月。
以来、GOROman氏を始め多数の開発者のサポートがマンツーメン(複数形)で入り、3ヶ月間でOculusを使ったゲームまで作れるようになった主婦氏は2014年3月にこの企画を卒業し、一人立ち(?)した。
【主婦ゆに!】「もしも、プログラミング経験がない文系の主婦がUnityをはじめて1ヶ月でミクさんを出してダンスさせることができたら」 – Togetterまとめ
GOROMan氏がUnityを身近なシーンで活用した例と、主婦がUnityを使ってゲームを制作する企画の紹介の2本立てでいかにゲーム制作、特にVRゲームの制作が簡単になったかを伝えるセッションとなった。
何をしたらいいか分からない人たちへの架け橋となるUnityを目指して
Unityがエンジンとしてより高性能に、そしてより使いやすくなることで、これまでゲームを作りたくても作れなかった人たちに門戸が開かれてきている。
ゲーム制作の裾野を広げていくことをどう考えているのか、Unity Technologies本社のデイビッド・ヘルガーソンCEOは筆者の質問に答えてこう語った。
私たちは、ゲーム業界の大企業と個人の両方が使えるゲームの開発環境を作る、というかつては誰も信じなかったことにチャレンジし続けています。そして、アセットストアやオープンなコミュニティの整備などを進めてきました。常に自分たち自身に問いかけているのは、どうしたらゲームのアイデアとプロの技術をつなげることができるか、ということです。
確かに、統合的なゲームの開発環境として、Unityは年々進化を続けている。Unity5ではオーディオ関係の強化として、ミキサーをUnityに組み込んだことで音のコントロールが一気にやりやすくなった。
また、共有も加速させていこうという試みが見られる。Unity Japan独自の取組として、Unity関連の勉強会などのイベントを開催したい人、学びたい人とノウハウを持った人をつなぎ、その情報をまとめる「Unity県人会議」という企画を立ち上げている。
ヘルガーソンCEOはさらにこう続けた。
プレイヤーとクリエイターの間にいる、『ゲームを作って何かしたいが何をしていいか分からない』層に対するアプローチは非常に難しくて、多くの会社が試みては失敗しています。そう、バミューダトライアングルのようにね(笑)『試したい』という人と『作りたい』という人の間をうまく橋渡しをしていくことが重要だと思っています。
Unityの普及によって、ゲームを作りたい人がゲームを作りやすい環境が整ってきたと言っても過言ではない。今回のUniteで発表されたUnity-chanもキャラクターを作る手間のかかる作業を飛ばすまさに、アイデアと技術を繋ぐ取組だ。
筆者も「主婦ゆに!」の企画を見て、Unityを触り始めた。もぐらとUnity-chanが戦うゲームをつくろうか、どんなゲームをつくろうか、楽しみに考えながら勉強を進めている。
もぐらゲームスが目指す「誰もがゲームを楽しみ、つくる時代」にゲームの開発環境が誰にでも、簡単で便利に扱えるようになることは欠かせない。
今後も引き続きUnityに関する情報を掲載していきたい。