『A Bird Story』文字を一切使わずに紡がれる少年と鳥の物語。名作『To the Moon』の制作チームが贈る最新作
RPGツクール製のゲームというと日本国内で作られたものが大半を占めるが、海外でもツクールでゲームが作られている。その中でも名作と名高いのが『To the Moon』だ。
『To the Moon』はツクールを使った2Dアドベンチャーで、美しいグラフィックと音楽、そしてストーリーの描写が特徴だ。その制作を手がけたインディ・デベロッパーFreebird Gamesが2014年11月に新作『A bird Story』を公開した。両作品とも語るべきポイントが多いので、紹介したい。
圧倒的に美しい描写が連続する『To the Moon』
では、まず本題に入る前に『To the Moon』から簡単に紹介しよう。2011年にリリースされた本作は、アドベンチャーゲームだ。といっても謎解きはほとんど存在しない。物語の進行に沿ってたまに現れるパズルを解いていくだけなのだ。
物語は、死の床についている老人ジョニーの最後の願いを叶えるために、2人の医者が彼の記憶を辿っていくというもの。
ジョニーの願いは「月に行くこと」なのだが、主人公たちが持っている記憶を辿るための装置で、そもそもなぜ月に行きたいのかという理由をまず探さなければならない。プレイヤーは死期を迎えている現在から過去の場面へと次々と遡っていき、各場面でさらに昔へ行くためのキーとなるアイテムを見つけていく。アイテムは物を調べて手に入る場合と近くを通り過ぎると手に入る場合があるが、各場面で探索するマップが2,3個しかないので探しだすのはたやすい。
唯一、ゲームらしいのがこの画面。さらに過去に行くためにパズルを解いて装置を動作させなければならない。行と列ごとにパネルを裏返してキーとなるアイテムの絵を完成させる。
穏やかに眠るジョニーの過去は、ドラマチックとは言わないまでも、過去に行くにつれ次々と色々な事情が明らかになっていく。伏線が現れては回収されていく。
ジョニーの妻リヴァー。周りに散らばる大量の折り紙。2人の間に何があった?そもそもなぜジョニーは月にいきたい?
SSを見ていたければわかると思うが、グラフィックが非常に綺麗だ。ドット絵の一つ一つ、そして夜空や夕焼けなどの美しい風景。とにかく一つ一つのシーンが丁寧に描かれている。また、音楽も、とある題名のピアノ曲がゲーム内ではテーマに直結しているのだが、穏やかで心が洗われるような曲だ。
ツクール製のゲームというとフリーゲームのイメージだと思うが、このゲームはSteamにて有料販売されている。有料なのもうなずけるこだわりと完成度に仕上がっていることは間違いない。
ツクールを使った表現作品
さて、この作品、エンディングを無事に迎えたときに感じたのは、「これはゲームなのだろうか」ということ。パズルは確かにゲーム的だし、アイテムを集めるシーンもキャラを動かしながら探すことになるのだが、難易度があまりに低いのだ。パズルも正直に言ってしまうと、適当にボタンを押していてもなんとかなってしまう。徐々に謎解きが難しくなっていくようなレベルデザインもほとんど存在しない。また、このゲームにはゲームオーバーもない。
ストーリーの進行が何よりも優先されている印象を受けたのだ。小説を読み進めているとき、映画を見ている時に、一瞬巻き戻されることがありえないように、このゲームにおいてはストーリーの進行が第一にある。ゲームデザインは、その中にわずかに散りばめられ物語にプレイヤーを没入させ、楽しませるためのエッセンスにすぎない。
例えば、主人公である医者2人を動かしアイテムを集めること。これはプレイヤーが主人公の視点になりきるためにも必要な操作だ。パズルを解くことは、さらに過去に行くためにキーとなるアイテムを復元するというちょっとした障害を設定することで、パズルを解けたことによる達成感とタイムマシン的な過去への移動が合わさって心地良くなる。
パズルを解いて完成したアイテムだけを残しホワイトアウト。そして次の時代へ。時点と時点をつなぐアイテムが強調される。
そうした物語の展開を優先させた作品であるがゆえに、ストーリー自体はエンディングを見た後から振り返ると平凡ながら、その展開のさせ方、描写方法が非常に優れた作品だと思う。まさにプレイしているプロセス自体が楽しい。
『To the Moon』の進化系『A Bird Story』
2014年の11月に公開された新作『A Bird Story』(ある鳥の物語)は『To the Moon』の流れを引き継ぎ、美しいグラフィックと音楽が特徴ながら、さらに物語の描写に特化、極振りした作品だ。Steamの制作者コメントにも「インタラクティブなドット絵アニメーション」と書かれている。
描かれるのは、日常に退屈し、紙飛行機を飛ばしては空に想いを馳せる主人公の少年。学校の帰りに動物に襲われ羽に傷を負った小鳥を助ける。羽が治るまでは飛べない小鳥と少年が一緒に遊んだり、鳥を取り上げようとする大人たちから逃げる……といったストーリー。
その世界は夢のようなちょっと非現実な空間だ。学校と家の間にある森は街から連続しているし、ノートをちぎって張り合わせた飛行機で飛び回ったりと、現実にはありえない展開が時々現れる。
こうしたストーリーが展開されるのだが、このゲームの最大の特徴は「文字を一切使わずにストーリーが描かれる」ということ。制作者は、ツクールで作られた2Dの世界でいかにキャラクターの心情を描写し、そしてストーリーが語られるかに挑戦していると思われる。先ほど紹介したストーリーは筆者がプレイして読み取った物語を要約したものだ。プレイヤーごとに異なるかもしれない。ここに、「物語を解釈する」面白さが加わる。
最初に不思議な世界に迷い込むシーン。果たしてどう解釈するかはプレイヤー次第だ。
キャラクターの動きや表情、そして時々現れる吹き出しが感情表現になる。何を言っているのか、言葉を使わなくても分かってしまう。
また、今回はパズルすらない。各シーンでの少年の移動と鳥と遊ぶときに飛行機を飛ばすくらいでゲーム的な要素は皆無に近い。
肝心のストーリーは緩急があって、場面ごとにピッタリの音楽とともに非常にテンポよく進んでいく。ノベルゲームとも全く違う表現で描かれる物語。かなり平和なストーリーなのでもっと奇想天外なストーリーを期待しすぎると物足りないかもしれない。『To the Moon』からさらに「物語の解釈」が加わった本作。ぜひ、その物語の表現手法に注目して楽しんでいただきたい。
[基本情報]
タイトル A Bird Story
制作者 Freebird Games
クリア時間 1時間程度
対応OS等 Windows XP以降/OSX10.6.8以降(日本語対応)
価格 PC/Mac版 498円(2015年1月2日時点では、セール中のため373円)
ダウンロードはこちら
タイトル To the Moon
制作者 Freebird Games
クリア時間 2~3時間程度
対応OS等 Windows XP以降/OSX10.6.8以降(日本語版あり)
価格 Win版1,008円(2015年1月2日時点では、セール中のため504円)
ダウンロードはこちら
http://www.playism.jp/games/tothemoon/