暗闇と恐怖と美の短編ホラーアドベンチャーゲーム『アルマの檻』私の兄はどこにいますか
主人公「アルマ」は、画家である兄と共に大きな館で暮らしていた。
ある日、アルマは夜更けの時間帯に館の自室で目覚める。アルマは外で画家として働く兄の帰りを待っていたのだが、眠気に襲われ、そのまま寝てしまったらしい。だが、目が覚めた今の時間帯でも、兄が館に帰ってきたと思しき気配を感じられない。
不思議に思ったアルマは自室を出て、館のどこかに居るであろう兄を探し始める。しかし、その行く手にはカギのかかった扉や不思議な仕掛けの数々が。そして、大広間に飾られた兄の作品はなぜか黒く塗り潰されてしまっている。
いったい、これは何を意味するのか。
そして、兄はどこへ……?そもそも、館に帰ってきているのだろうか?
そんな不思議なオープニングと共に幕を開ける『アルマの檻』は、「RPGツクールMZ」を用いて制作されたWindows、macOS向けフリーゲーム。PCゲーム販売・配信サイト「itch.io」にて、2024年9月26日より日本語版と英語版の2バージョンが配信されている。
闇に覆われた夜更けの館で、画家の兄を探す探索ホラーアドベンチャー
内容としては、マップ探索の要素を持ったホラーアドベンチャーゲームとなる。プレイヤーは主人公のアルマを操作し、舞台となる館の部屋などを調査。その行く手を阻む仕掛けを解除したり、カギのかかった扉を開けながら、館のどこかにいる兄を見つけ出すことに挑む。
探索型アドベンチャーゲームとしての作りは定番寄り。一定の順序に沿って設けられた仕掛けを解いて行動範囲を広げつつ、ストーリーを進めていくのが基本の進め方となっている。館のマップの規模はそこまで大きくない。むしろ、エントランスと大広間を除くほとんどが狭い部屋で、移動および調べる範囲が大幅に絞り込まれた構造である。
また、時間帯が時間帯ということもあって、どこもかしこも闇に覆われている。明るいのはアルマの周囲だけで、それぞれの部屋にどんなものが置かれているのか、詳しく調べたい場合は対象に直接近づいて把握する必要がある。「電気を点けるか、燭台のロウソクを灯せばいいのでは?」と思うかもしれないが、そんなものは館に存在しない。頼りになる灯りは、アルマが持っている小さなロウソク1本だけだ。
そのように意図して視認性を落としたビジュアルを採用していることから、さながら「闇の探索型アドベンチャーゲーム」とも称せる作りである。少し前、「闇のアクションゲーム」と称した作品を当もぐらゲームスで紹介したことがあったが、概ねあれに近い感じである。ただ、前述の通り、本作には燭台も電気(電灯)も存在しないので、どうあがいてもアルマ以外の場所を明るくすることはできないが。(しかし……?)
ほかに本編の最終目標は兄を探し出すことだが、過程で大広間にある黒く塗りつぶされた絵画を元通りにすることにも取り組む形となる。絵画を元に戻す方法は「銘板」を手に入れ、絵画にはめ込むこと。
そのため、進め方には「館を探索⇒銘板を入手⇒大広間に向かう⇒探索に戻って別の銘板を探す」という一定のローテーションが組まれている。
大広間の絵画も事実上のチェックポイントに当たることから、非常にはっきりとした道筋を立てたマップデザインになっているのも、暗闇に覆われている部分と並ぶ、本作の特徴のひとつである。
闇に覆われながらも遊びやすさが担保された作りと、“美”を題材としたストーリー
本作の魅力は、視認性の面で難のあるビジュアルでありながら、非常にテンポよく進めていけるという、いい意味でミスマッチな遊び心地だ。
具体的にはマップデザイン、謎解き全般の工夫の上手さがあって、そのようなテンポの良さが実現している。
マップデザインについては、前述したローテーションの組まれた構成が特に光っている。大広間という、探索の区切りに当たるエリア兼目的地が明示されているので、終始、何を目指して探索を進めていけばいいかの指針がブレにくい。飾られた絵画に関しても、現在の進捗状況を指すガイドの役割を兼ねているため、今、プレイヤーがどこまで進められたかを随時、把握できる。
そして、マップ自体の規模が小さく、狭いからこそ、仮に行き先が分からなくなっても、行動可能な範囲を徹底して調べ尽くす「しらみ潰し」の攻略が効きやすい。このような探索時の行き詰まりなどを極力抑え込む工夫が、ストーリー設定とも絡めて違和感のない形でまとまっており、快適な探索を実現させているのだ。
謎解き全般の工夫もまた然り。怪しいところは露骨に光らせる、光らないところも怪しいものならデザイン的に目立たせるなど、気付きやすさに神経を尖らせている。仕掛けの中には暗号的なものも存在するが、その多くもきちんと調べていれば、すぐに答えに気付く塩梅の難易度で、そこまで頭を使うようなこともない。
こうした遊び心地にしているのも、暗闇に覆われた館の中を練り歩く恐怖、不可解なストーリーという2つを重点的に楽しんでもらう狙いからと言った具合で、総じて絶妙なバランス感覚が光る仕上がりとなっている。特にマップデザインと、ローテーションの組まれた構成の相乗効果は見事。取り組むにつれ、館の中を練り歩く恐怖と不可解なストーリーの真価に飲まれていくだろう。
そんな練り歩く恐怖と不可解なストーリーの2つも、演出と雰囲気作りなどでこだわりを感じさせられる仕上がりだ。とりわけ強い印象を残すのはストーリー。前述の通り、大筋としては館に帰ってきているはずの兄を探すはずが、大広間の黒く塗りつぶされた絵画の謎に巻き込まれていくというものになっている。
そして、探索を進めていくにつれ、次第にアルマを付け狙う“影”が現れるようになり、並行して画家として活動する兄の思いが次々と暴かれていく。やがては本編最大の謎たる、大広間の絵画は然るべき姿を取り戻すのだが……そこから何が明らかになるのかは、実際にその目で確かめていただきたい。
ネタバレに触れない程度に言うと、本作のストーリーは一通り体験することで“美”をテーマにしていることが分かるはずである。その言葉からは、なんとなく綺麗なものが想像されるかもしれないが、エンディングを迎えた頃にはきっと別の思いを抱いていると思われる。そして、画家という職業と、彼らが作り上げた絵画の歴史について、調べたくなる思いが人によっては生じるだろう。
実際にその知識を多少持った上でプレイしてみれば、ストーリーの奥底に込められた本当の恐怖を感じながら楽しめるはずだ。一旦、クリアしてからでも問題ない。興味があればぜひ、お試しを。作者の画家とその芸術に対する思いを知れるはずだ。
「兄さんは帰ってきているのでしょうか……」
本記事のタイトルの通り、ホラーアドベンチャーゲームとしては短編のため、エンディングまでに要する時間は1時間に満たない。それなりにスムーズに進めば、30分以内に終えられるだろう。
ただ、謎解きのバリエーション、展開に応じて変化する一部マップのグラフィックなど、変化を付ける工夫が万全なので、物足りなさはほとんど感じさせない。むしろ、ストーリーがなかなかに重いものを込めた内容に仕上がっているので、その辺への思いを馳せてみれば、人によっては忘れられないものとして記憶に刻み込まれるだろう。
グラフィックに関しては、キャラクターの歩行グラフィック、背景、そして大広間の絵画といったものがオリジナルであるのも見所。特に歩行グラフィックのアルマは、舞台設定と全体的な雰囲気とは裏腹な可愛さで強く印象に残る。
絵画も独特の美しさを醸し出した仕上がりで、中でも最後に明かされる1枚はその演出も含めて必見。具体的には色に注目してみていただきたい。その上で、なぜこんな演出なのかと想像を張り巡らせてみれば……これ以上は何も言いません。
ただ、グラフィックについては一部、小さな難点としてメッセージテキストに採用されたフォントがあり、時々、潰れて何の字か読めない時がある。
特にWindows 11環境の場合、これが生じやすいため、同じ環境でプレイされる場合は注意いただきたい(ちなみにWindows 10環境だとあまり生じない)。ただ、あくまでも一部の文字だけに起きる現象で、探索でその辺が支障になることはほぼないので、そこまで気にする必要はない。
それ以外でのプレイに支障をきたす難点などはない。強いて言うなら、終盤付近に発生する某イベントが突破可能と勘違いしやすいところだろうか。もし、そこで違和感を覚えたのなら……「無理しない方が吉です」とだけ言っておくとする。
総じて完成度の高い短編作品で、中でもストーリーは非常に掘り下げ甲斐のある内容になっている。真夜中の館で、黒く塗りつぶされた絵画を元に戻していった先に何が待つのか。そこで語られるアルマと画家の兄との関係とは。ぜひ、一瞬たりとも見逃さずに楽しんでいただきたい。これぞ暗闇と恐怖と美の短編ホラーアドベンチャーゲームだ。
[基本情報]
タイトル:『アルマの檻』
作者:Mineo
クリア時間:20~30分
対応プラットフォーム:Windows、macOS
価格(税込):無料
◇ダウンロードはこちら
https://m1ne0h.itch.io/almathecaptive