システムから戦闘スタイルなど多くを一新し、独自の個性を確立させた傑作探索型アクション続編『Axiom Verge 2』
アメリカ在住の個人開発者Thomas Happ(トーマス・ハップ)氏が約5年の歳月を費やし、完成させた探索型アクションゲーム『Axiom Verge(アクシオム・ヴァージ)』(紹介記事)。同作は個人制作としては規格外なボリューム、複雑怪奇な世界観とストーリー、そして『メトロイド』を始めとする往年の名作アクションゲームの良い所取りなゲームシステムで好評を博した。
そんな前作から6年が経過した2021年、続編『Axiom Verge 2』がお披露目された。
今回はNintendo Switch、PC(Epic Games Store)向けに日本を含む全世界で同時発売。前作では、後発のアップデートで実装された日本語テキストにも最初から対応している。
なお、海外ではPlayStation 4版も発売されているが、日本国内は執筆時点で未発売。SteamのPC版も前作とは対照的に未発売で、PlayStation 4版共々、後発となる模様だ。
システム、ストーリーの全てが一新された、新しい『Axiom Verge』
基本的な内容は前作と共通。広大なマップを進み、行く手を阻む敵を撃退しながらストーリーを進めていく探索型アクションゲームである。マップ内に隠されたアイテムを獲得するとプレイヤーの操る主人公が強化され、できることが増えたり、それに応じて行動範囲も広がるといったジャンルお馴染みの要素も前作から引き続き踏襲されている。
ただし、プレイヤーが操作する主人公は新しいキャラクターに変更された。今回の主人公は巨大企業グループ「グローブ3」創業者兼CEOの女性、インドラ・チョーダリー(以下インドラ)。
インドラは最近、「ハモンド社」と呼ばれる企業の株式の大部分と、子会社の数々を買収した。「ハモンド社」とは、若き科学者エリザベス・ハモンド博士の興した企業。博士は2007年に「アンシブル」なる超光速通信装置を開発し、世界に技術革新をもたらした。
だが、46年後の2053年、博士は南極の「ジョーンズ基地局」にて、調査チーム共々謎の失踪を遂げてしまう。その後、ハモンド社はCEO不在による経営危機に陥り、インドラによって買収されてしまったのである。
インドラは最大の競合相手の排除に成功し、「アンシブル」のプロトタイプを手中に収めた。だがある日、プロトタイプの電源を投入したところ、次のようなメッセージが送られてきた。
「娘と再会したいなら南極に来い。」
かくしてインドラは博士の失踪事件以降、放棄されていた「ジョーンズ基地局」へと降り立つ。本作のストーリーはこのような形で幕を開ける。
前作は異世界が舞台だったが、今回は現実世界が”一応の”舞台。一応、ということは途中から異世界に移るのかと考えるかもしれないが、概ねその通り。だが、経緯は割愛する。詳細はゲーム本編をプレイし、確かめていただきたい。
また、主人公の変更はゲーム部分にも何か変化を及ぼしているのか気になるところだが、結論から言えば大きく変わっている。象徴的なのは攻撃アクション全般。近接型になった。
Nintendo Switch版の例になるが、今回はAYXボタンそれぞれに装備類が割り当てられ、対応するボタンを押すと装備された武器で攻撃を展開する形式にシステム全般が改められている。そして、メイン武器は「ピッケル」及び「ブロンズアックス(斧)」。前作のような銃火器ではなくなったのである。
一応、遠距離武器自体はあるが、事実上のサブ武器。しかも、それというのが「ブーメラン」。連射の効かないものに改められている。このため、今回は敵に攻撃を加える際には近づいて直接当てるという、前作とは180度真逆の立ち回りが要求される。
その敵の行動パターン、性質も大きく変更されている。多くの敵が青黄赤のセンサーを展開しており、その先端に触れると黄色になってインドラの位置を探る追跡モードに、さらに接近すると赤になって攻撃モードに移行。こちらに襲い掛かってくるのだ。
この仕組みもあって、画面内に現れる敵の最大数も減少。戦闘も1対1の構図になりやすくなり、耐久度と攻撃力も高めに設定され、力押しが効きにくくなっている。何より、今回の遠距離武器は連射が効かない。ゆえに前作のように距離を取って攻撃して倒す戦術が通用しにくい。むしろ、それをやれば敵に気付かれ、追撃されることになってしまうのだ。
こうした作りに一新されているため、前作の経験は全く役立たない。経験者ほど面食らうだろう。しかもなんと、今回はボス戦もない。
厳密には強制イベントとしてのボス戦がごく一部に限定され、残りは全て中ボスという扱いになった。なので、今回は倒さず無視しても何ら問題ない存在になっている。もちろん、倒せば相応の特典が得られるのだが、その判断はプレイヤー任せ。こんな思い切った変更も行われ、前作とは一風変わった展開が繰り広げられるようになっている。
もうひとつ、新要素では「ブリーチ」がある。前作に引き続き、今回もインドラが通れない狭い通路を通って、スイッチを押すといった活躍をしてくれる「リモコンドリル」(小型ドローン、今回は「ダムー」という名称)がゲームを進めると使えるようになるのだが、これでしか潜入できない裏マップが新たに登場。内部を通過してインドラでは辿り着けない場所に移動し、その先の仕掛けを解除するといった展開が都度挟まるようになっている。
同じく前作から登場する、地形や敵に変化を与える「バグ」も「ハッキング」(正式名称「ムシュフス」)として一新。周囲にエネルギーフィールドを展開し、その領域に収まった対象に何らかの操作、異常を加える形式に改められている。
他に前作は基本、自力で道筋を切り開いていく昔ながらの探索型アクションゲームに則った構成だったが、今回は目的地の座標を教えてくれるのに加えて、マップ画面にそれが記される形式に。
さらに「アポカリプス・ノード」と呼ばれるアイテムを入手すると「スキルポイント」を獲得でき、各種ステータスに割り当ててインドラの強化を図る成長システムも搭載されている。それとは別のパワーアップ系のアイテムにも新種を多数追加。
少し端折った所もあるが、この概略を見るだけでも前作とは全くの別物であるのが分かるはずだ。どちらかというと前作は『メトロイド』の色が濃い、オマージュ作品だった。対し、今回の続編はその色が大きく薄められている。
言うならば、『Axiom Verge』という探索型アクションゲーム。
実質、完全新作同然の内容であり、独自の個性を確立した作品になっているのである。
前作の経験が活きない、刺激的な本編とその挑戦的な制作姿勢
その魅力も明瞭。前作とは別物すぎる作りの全てだ。
中でも敵との戦闘は、前作経験者ほど勝手の違いに戸惑うこと確実。敵の執拗な追撃、受けるダメージの大きさもインパクト十分で、一度経験すれば進んで倒しにいく気持ちが(いい意味で)失せる。そして、積極的に戦闘はしかけずに切り抜けるという、前作とは全く違う立ち回りをする自らに気付くと同時に驚かされるだろう。
もちろん、ゲームが進むと装備の充実と同時に積極的な攻めが可能になる。しかし前述の通り、今回は銃火器系の武器がない。唯一、残された遠距離武器たるブーメランは連射が効かないし、(若干のネタバレになるが)パワーアップしてもそうならない。そのため、立ち回りは今回特有のスタイルになるのが不可避。新しいものに向き合う、初心に還った姿勢で挑むことが試されるのである。
筆者は前作の経験者だが、その視点から見て、まさかこんなに変えてしまうとは、というのが初回プレイ時に抱いた感想だった。同時に続編としては非常に大胆なことをしているとも感じさせられた。
好評を博した前作の楽しかった部分の多くを捨てているからだ。
その意図するところは個人の憶測になるが、お約束に捉われないことへのこだわり、前作の『メトロイド』色の強い内容からの脱却があったのだろう。特に後者は戦闘スタイル、マップ構成などに踏襲した部分が多々あり、オマージュ作品の印象は強かった。地形や敵に異常(バグ)を引き起こし、活路を開く独自要素もあったが、オマージュの陰に隠されていた感じは否めない。その面をより強調させるためにも、ゲームデザインを一新する。同時に前作経験者も新鮮な気持ちで遊べ、初心者も抵抗なく楽しめる作りにする。
それらの想いが今回の作りに反映されたとなれば「なるほど」と思えるし、前作の成功と『メトロイド』を元にした安定感のある作りに捉われず、甘えない姿勢に感銘を受ける次第だ。
実際、今回は経験者視点でも終始新しくて刺激的な展開が連続する。言うまでもない。戦闘シーンは立ち回りからして別物だし、構成面でも今回はボス戦が一部を除いてないほか、「ブリーチ」なる裏マップを介した場面もあったりと、まるで違う”波”が描かれているからだ。嫌でも新しさを抱かせる。そして、前作未経験の初心者にも遊びやすい。経験が活きる部分が皆無だからだ。
ついでに言うと、ストーリーも前作のプレイ経験及び知識は必要なし。完全に独立した内容である。一応、関連を匂わせる要素もあるが、知っていればニヤリとできる程度。初プレイの人も難なく追っていける作りだ。
それでいて、続編としての進化を忘れていないのも見事。目的地が指示されるようになって進行が行き詰まりにくくなった探索面、敵の出現総数を絞り込んだことによる難易度の安定化、視認性が向上したマップ画面は最たる部分だ。特に目的地の指示は便利なだけでなく、プレイヤーを(いい意味で)ハメるように作られているのが素晴らしい。詳細はプレイしてのお楽しみだが、決して救済措置として導入した訳ではない作りに唸らされるはずだ。目に見えるものだけを信じてはいけない。
マップも今回は自然豊かな土地など、明るく開けたエリアが多く登場し、薄暗くて陰気な雰囲気が取っ払われているのも見所。対照的に裏マップの「ブリーチ」はドット感全開のグラフィックで、異次元の世界らしさを描いているのが面白い。音楽もここに限り、チップチューン調の楽曲に変更されるという演出も見逃せない。
他に操作性の良さ、質感十分の効果音、リトライの早さといった個所は変更もなくそのまま。敵を倒した際の独特な爆発演出も健在なので、ちょっとした安心感を覚えるだろう。
こうした続編らしい進化もちゃんと感じさせてくれる。それでいて、ゲームプレイ周りは大きく変え、新しい体験の提供に徹するという面白さ。本当に今時、こうも大胆に変えた続編も珍しい。いい意味で挑戦的で、恐れ知らずの続編に仕上がっているのだ。
相応に賛否が分かれるのも否定しないが、この前作経験者も振り回される新鮮味の強さは唯一無二。プレイすれば、今回はオマージュでも何でもない、『Axiom Verge』という独立した作品を遊んでいる確かな手応えを得られるはずだ。
独自の個性を確立した傑作探索型アクションがここに
ボリュームも初回時は10~12時間以上という前作に匹敵する密度。隠されたアイテムの全回収、マップの踏破、タイムアタック(及びスピードランモード)といったやり込み要素もお約束のように備わっており、2周目以降も楽しく遊べる。
ストーリーも見所満載の内容。特に中盤に起きるイベントには、思わずクギ付けになるはずだ。また、前作は日本語テキストの翻訳に難があったが、今回は大きく改善。キャラクター同士のやり取りなどを自然に追える仕上がりになっている。
ただ、専門用語の多さや背景周りの複雑さは前作と変わらず。全容把握には相応の労力が試されるので注意いただきたい。裏を返せば、考察好きのプレイヤーには垂涎モノの仕上がり。前作のような補足メモも沢山あるので、至福のひと時を堪能できるだろう。
別物に変わったなりの難点も相応にある。中でも(事実上の)ボス戦廃止は寂しい。全体的に盛り上がり所が減ってしまった感じが否めない。一新された戦闘も近接武器のリーチが短く、ダメージを受けやすい調整なのが気になる。もう数ドットほどリーチを長くし、ノーダメージ撃破を狙えるバランスにしてくれればと思ってしまった。
ストーリーも内容は興味深い反面、前作のようにオープニングストーリーがゲーム開始時に流れず、いきなり南極の場面から始まるのは不親切。その所為で、インドラがなぜ南極にやってきたかが分かないまま進んでしまう。タイトル画面で数秒待つと流れるのだが、こうではなく、普通にゲームスタート時に流す形式にして欲しかったところだ。
今回特有の粗も色々あれど、全体的な完成度は盤石。相変わらず個人制作とは思えぬ密度と、挑戦的な制作姿勢が炸裂した傑作探索型アクションゲームに完成されている。前述の通り全てが一新されているので、未経験者に入りやすく、経験者も新鮮な刺激を感じながら遊べる作りは格別。謎多き南極へと降り立ち、隠された真相に迫ろう。
そして、独自性を高めた新たな探索アクションの数々を味わい尽くそう!
[基本情報]
タイトル:『Axiom Verge 2』
発売・開発元:Thomas Happ Games
クリア時間:10~12時間
対応プラットフォーム:Nintendo Switch、Windows
価格(税込):¥1,999(Nintendo Switch)、¥1,980(Epic Games Store)
IARC:12歳以上対象(軽度の罵り表現あり)
購入はこちら
※Nintendo Switch
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000026129.html
※Epic Games Store
https://www.epicgames.com/store/ja/p/axiom-verge-2