謎の港町を歩む果てに私立探偵は闇を知る。フィルムノワール風短編ADV『ブレスコントロールノワール』

アドベンチャー

ある新月の晩。古びたアパートに暮らす私立探偵「デヴィッド」のもとに一本の電話が入った。声の主は「ランドルフ・ケーン」。メディア業界で名の知れた大富豪である。

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ランドルフはデヴィッドに失踪した娘「フィリス」を探して欲しいと依頼した。直接会って打ち合わせをしたいとの申し出もあり、デヴィッドは真夜中に車を走らせ、ランドルフの待つ屋敷へと向かった。

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だがその道中、デヴィッドは交通事故を起こしてしまう。事故で負傷し、奇妙な会話を発する男を助けたデヴィッドは、苦しむ彼に水を与えるため、周辺を探索するのだが、いつの間にかに寂れた港町へと行き着いてしまう。

それと同時に巻き起こる、数多くの不可解な事件と奇妙な出来事の数々。
一体、この町の正体とは。

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1940~50年代後期、アメリカで制作された犯罪映画を指す言葉「フィルム・ノワール」のテイスト溢れるオープニングと共に始まる『ブレスコントロールノワール』(制作:NBK2 Games)は、2019年6月16日にフリーゲームとして公開された短編アドベンチャーゲーム。「RPGツクールMV」製の作品だ。ダウンロードはフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」、「フリーゲーム夢現」より行える。また、「RPGアツマール」においてブラウザ版も公開されている。

ストーリー重視、探索ごくわずかのアドベンチャーゲーム

本編は私立探偵「デヴィッド」を操作し、偶然迷い込んでしまった港町を探索しながら進めていく構成。特定のポイントに到達するとイベントが始まり、ストーリーが進んでいく仕組みになっている。最終目的は港町から脱出し、負傷した男を助け、依頼主ランドルフの待つ屋敷へと向かうこと。さらに彼の失踪した娘のフィリスを探し出すことも目的となる。

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そのことから脱出アドベンチャーを想像するかもしれないが、意外にも本編に謎解き要素はほとんど無い。基本的に街の中を歩き回り、ストーリーを進めていくことに終始する、純然たるアドベンチャーゲームになっている。一部、メニュー画面に用意された「NOTEBOOK」を参考に進めたり、指定の場所へと向かうイベントも用意されているが、いずれも特に頭は使わず、右往左往する心配もなく乗り越えられる低難易度。サラッと終えられる。

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そのため、脱出ゲーム及び探索アドベンチャー特有の難易度などを期待すると、肩透かしを喰らう。もちろん、アクション的な要素も無ければ、RPGツクール製特有の戦闘要素も皆無だ。本編でやるのはデヴィッドを動かし、港町にいる住民と会話したり、周辺に置かれた木箱などの物(オブジェクト)を調べる程度。それも全体の2割ほどで、残る8割をストーリーイベントが占める構成になっている。

そして、そのストーリーを最大の売りとしている。
シンプルに言うなら、複雑怪奇の極み。

複雑怪奇なストーリーと、その果てに待ち受けるおぞましい真実

大富豪の失踪した娘を探し出す調査の打ち合わせに向かっていたところ、一つの事故に巻き込まれ、そこから何故か謎の港町へと迷い込んでしまう。このオープニングの時点で、内容の不穏さは容易に察せるだろう。

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だが、これで序の口である。港町に迷い込んで以降、さらに理解の追いつかぬ展開が連続。怪奇現象めいた出来事が発生、謎の機械に拘束されて拷問を受ける、奇妙な昆虫(?)の標本を手にする、謎の組織の会合に出席するなどなど。さらにどういう訳かデヴィッドの幼少期へとタイムスリップし、サーカスを観覧したり、ある出来事を経て思いもしない人物と出会い、おぞましい真実に直面することになる。そして次第に一連の出来事がデヴィッドの素性に関係してくるようになり、そのまま戦慄の結末へとプレイヤーを誘うのである。

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関連性が曖昧な出来事が矢継ぎ早に繰り広げられるため、プレイ中は好き放題、且つ雑多に要素を注ぎ込んだストーリーという印象を抱くかもしれない。何がなんだか、理解も追いつかないだろう。だが、それが本作の真髄。そして、いずれの出来事もきちんと意義のあるものになっている。

特にその真相を”端的に”示したエンディングには、「そういうことか!」と内心叫んでしまうだろう。また、エンディングでは”とある実在の人物二人”の名が表示される。一人は犯罪系の映画を幾つか観たことのあるなら、ピンとくるかもしれない。もう一人は恐らく、年齢的に60代以上でなければ分からない……だろう。

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何故、実在人物の名が出るのか?それは本作のストーリー設定に強く関係しているからである。そして、その二人を調べることが(恐らくは)本作の締め括りになる。大体を調べ終えることによって、本作『ブレスコントロールノワール』の”あらまし”が分かるのだ。

これ以降は実際に本編を全てやり通してご覧いただきたい。
エンディングで明かされる真実共々、言葉に表しがたい闇を味わうだろう。
核心とは別に、フィルムノワール作品を観たり、読んだりしたことのある人にとっても、本作のストーリーが細かいお約束を押さえて作られていることにニヤリとしてしまうはずだ。デヴィッドの成り行きに関しては特に「ああ……」となるだろう。

ただ一つ、注意いただきたいことがある。調べ始めた際、深みに入らぬよう。
実の所、先の二人を調べていくその先には、思わず目をそむけたくなる”画像”が待ち受けている。端的に言って、重篤なトラウマを与えかねない代物だ。下手すれば、その日眠れなくなるだけでなく、身体的な異常すら及ぼしかねない。

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筆者は本作の真意を知りたいがあまり深みに入り、結果、見てはいけないものを目にしてしまった。本作が描き、伝えたかったことはこれかと腑に落ちたものの……逆に調べるのではなかった、触り程度にしておくべきだったと後悔するオチになった。

繰り返しになるが、もし調べるならば深追いしすぎぬようご注意を。
それでも知りたいなら止めはしないが、自己責任でお願いいただきたい。

重厚なテキストとモノクロ調グラフィックも光る野心作

ストーリーに関してはテキストも大きな見所。文学的な表現が多分に含まれた、小説同然の重厚なテイスト溢れるものになっている。フォントもそれを強く意識したものが採用されており、いい意味でゲームらしくない雰囲気を醸し出している。海外文学(単行本、文庫共に)を読んだ経験があるのなら、特に本作全体に漂う”空気の違い”を感じることだろう。また、作者のセンス、フィルムノワールを題材にした作品を作り上げるという確固たるこだわりも感じさせられるかもしれない。

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▲筆者は『郵便配達は二度ベルを鳴らす』が脳裏を過ぎった。

そのほか、ここまでのスクリーンショットの通り、全編モノクロ調のグラフィックもインパクト十分。ただ、キャラクター・背景全般のドット絵が強く主張されている関係で視認性には難あり。特に次のマップへと続く道、障害物、建物の扉は非常に分かりにくく、常にどこが通れて通れないのかで、しらみ潰しの作業が求められてしまう。このスタイル採用により、フィルムノワール作品らしさは申し分なく出ているが……犠牲にしている箇所は問題ありで、できればもう少し快適にプレイできる工夫をこらしていただきたかったところだ。なにも矢印を表示しろとまでは言わないが、せめて周囲に繋がりを意識させる物を置いたり、サインを付けるなり、手段はあったように思う。

また、テキストも表現こそ圧倒的ながら、改行ポイントまで小説の手法をなぞっているので、読みにくく感じることが時々あるのも気になる箇所である。

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そうも快適性の面に難は見受けられるが、1940~50年代のフィルムノワール作品を意識した雰囲気作り、複雑怪奇且つおぞましいストーリーと重厚なテキストは圧巻で、強烈な印象を残す短編アドベンチャーゲームに仕上がっている。犯罪映画が題材の関係で、作中には思わずドン引きするような暴力、性的表現もテキストで詳細に解説されるため、対象年齢は(推定)17歳以上推奨と非常に人を選ぶ。ある程度の覚悟ができたら、ぜひ挑んでいただきたい力作だ。このおぞましい港町の闇をそのまま受け取ってみよう。

そして、プレイするに当たってはぜひ、ヘッドホンの装着を。
音響面にもこだわり満載なのです。

[基本情報]
タイトル:『ブレスコントロールノワール』
制作者: NBK2 GAMES
クリア時間: 2~2時間半
対応OS: PC(Windows)
価格: 無料
備考:対象年齢15~17歳以上(※過度な暴力、性表現あり)

ダウンロードはこちらから
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/20416

※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_8005.html

※RPGアツマール(ブラウザ版)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm11227

  • シェループ(@shelloop

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