この物語はゲームオーバーにならずして語られず。異色の試みが光る探索ホラーADV『Chronicle of Grim Reapers』

アドベンチャー,フリーゲーム

“死神”の異名で知られる暗殺者「ジェイド」は、何者かに追われていた。その追撃を振り払うため、ジェイドは朽ち果てた屋敷へと逃げ込むが、それから間もなく扉にロックがかかり、内部に閉じ込められてしまった。

さらなる追撃の手が来ないうちに、ジェイドは屋敷から外部へと脱出するため、探索を始める。だが、そこにはジェイドの命を付け狙う数々の危険な罠が潜んでいた……。

直訳すれば「死神の物語」となる『Chronicle of Grim Reapers(クロニクル・オブ・グリムリーパーズ)』は、2024年11月より「ふりーむ!」「BOOTH」にて配信中のWindows、macOS、ブラウザ向けフリーゲームだ。

当もぐらゲームスでも、2022年掲載の今後のアップデートと完成が期待される、注目の制作途中フリーゲーム3選(2022年2月号)にてピックアップしたことのあるタイトル。当時はストーリーの途中までしか遊べない形だったが、2年以上の時を経てすべての要素が実装された完全版(完成版)が遊べるようになった。

改めて、その詳細な内容と見所を紹介していこう。

回避困難な初見殺し満載。それに引っかかることを前提とした探索アドベンチャーゲーム!?

ジャンルとしては、見下ろし視点(トップビュー)のマップを舞台に繰り広げられるアドベンチャーゲームとなる。プレイヤーは主人公のジェイドになって、舞台である朽ちかけた屋敷内部を探索しながらストーリーを進めていく。最終目標は屋敷からの脱出だ。

「RPGツクール」(RPGツクールMZ)製のタイトルで、システム周りおよびゲームデザインは、件のツールを使って作られた同ジャンルのゲーム定番のものになっている。具体的にはマップの移動と、そこに仕掛けられたパズルにトラップ、それらの解除などに必要なアイテムを探して使うといったものだ。また、トラップに引っかかると主人公が命を落とし、ゲームオーバーになってしまうルールも採用されている。

それもあって、“よくあるタイプの探索アドベンチャーゲーム”とも表せるのだが、本作には文字通り突出した特徴がある。それはトラップの多くが初見殺し全開で、すごくゲームオーバーになりやすいこと。

何気なしに物を調べたら剣が飛び出してきたり、上から“なにかが”襲い掛かってきたりなど、普通にプレイしていたら「そんなの気付くか!」と言いたくなってしまう初見殺しが容赦なく降りかかるのだ。当然、どのトラップも一度でも引っかかれば、問答無用でゲームオーバー。“死神”の異名を持つ暗殺者であろうと、容赦なくその命を奪うのだ。ちなみにゲームオーバーになれば、前回セーブしたところからやり直しである(※ただし、オプションで直前リトライを可能にする機能も用意されている)。

この時点だと陰湿なゲームとの印象を抱くかもしれないが、本作はこのゲームオーバーが起きて当たり前……むしろ、積極的にゲームオーバーになっていく必要のある作りをしている。というのも、本作のストーリーはゲームオーバーありきで語られる。

普通にプレイしていても、ストーリーにちなんだイベントは起きるが、主人公ジェイドの過去、なぜ追手に追われているのかといった背景についてはあまり知ることができない。それについて知り、理解を深めるならばゲームオーバーになるしかない。どういうことかと言えば、ゲームオーバーになることによって、その辺を語った回想イベントが発生する仕組みになっているからだ。

しかも、回想イベントはトラップごとに固有のものが発生する仕組み。そのため、同じトラップに引っかかり続けても、以前見たイベントが再生されるだけだ(※オプションでスキップする設定にもできる)。それとは別のイベントを見たいなら、他のトラップを探し出してゲームオーバーになるしかないのである。まさにゲームオーバーありきのゲームデザインにして、ストーリーになっている。

そして、いちどゲームオーバーになれば、そのトラップは2回目以降、ラクラクに回避できるようになる。なぜなら、ゲームオーバーのたびに回避の手がかりになる答えギリギリのヒントが提示されるのだ。

初見殺しというのは、初回は回避するのが難しいが、一度でも経験してしまえば、そうでもなくなるというのが特色でもある。それに則る形で、同じ目には遭いにくくするための工夫が凝らされている。ゆえに難易度のバランス的にも陰湿さはそれほどない。むしろゲームオーバー前提の個性が現れた独自性の高いものに仕上げられている。

ゲームオーバー前提以外の特徴としては、2人目の主人公と分岐イベントがある。少しネタバレになってしまうが、ストーリーがある程度進むと不思議な少年がジェイドに同行。

以降、2人のどちらでストーリーを進めるかが選べる分岐イベントが起きたり、時には2人が協力し合う展開も発生するようになるのだ。

このような2人のキャラクターによる展開と選択に応じた分岐も、本作特有の遊びとストーリーを演出する要素になっている。ゲームオーバー前提の作りも異彩を放つものだが、それ以外にも意欲的な試みが満載。なかなかに盛りだくさんな内容に仕上げられている。

このストーリーの全容は、ゲームオーバーとならずに明かせず

本作の魅力は、ゲームオーバーの経験に応じて全容が明らかになっていく構成のストーリー

基本的には遭遇しないよう、気を付けなくてはならないゲームオーバー。それがストーリーを完全な形で理解するのに当たり、経験するのが避けられないというだけでも、本作の珍しさは相当なものだ。

それなりに歳を重ねたゲーム好きならば、人を選ぶ傑作として名高いカプコンのRPG『ブレスオブファイアV ドラゴンクォーター』(PlayStation 2)のシステムのひとつ、「SOL(Scenario OverLay、シナリオ・オーバーレイ)」が脳裏をよぎるかもしれない。仕組みそのものは全くの別物だが、ゲームオーバーによって真相が見えてくる下りには、若干それっぽいものがある。

途中、不思議な少年が同行するようになる展開にも、前述の作品を知る人なら既視感を覚えるだろう。ただ、主人公のジェイドはそれなりに成熟した大人であることから、本編で描かれる関係性諸々は異なっているが。

肝心のストーリーも登場人物を絞り込んでいるなりに、個々の人物像や関係性が深く掘り下げられている。特にジェイドに関しては、ゲームオーバーを通して明らかになる過去など、大変細かく描かれているのもあって、知れば知るほど愛着が湧いてくるようになっている。少年も、ジェイドを慕ったり、いざという時には勇気を見せる姿には心を打たれること請け合い。

これらの描写が徹底されているゆえ、とりわけ終盤からエンディングにかけての展開は非常に印象深いものになっている。すべてを終えた時には、きっと2人のことを忘れられなくなると同時に、それぞれに幸ある未来があることを強く願ってしまうだろう。ただ、人によってはそれなりに心を抉る展開でもあるため、念のためご注意のほどを。

そんなストーリーの展開に応じた、変化に富んだ探索周りの構成も本作における見所だ。特に少年が同行するようになってからは、2人で協力しながら乗り越えるイベントに分岐など、ジェイド単独で探索していた時以上に変化に富んだ展開が繰り広げられていく。探索アドベンチャーゲーム定番のパズルもバリエーション豊か。難易度も難しすぎず易しすぎずの塩梅でバランスが取れている。なかなか手がかりがつかめず、失敗を繰り返すとヒントメッセージや、怪しい所を光らせるスポット表示が出るようになっているのも良心的だ。

ストーリーの全容解明のキーになる初見殺しのトラップも、基本的に1度引っかかったら、2度も引っかかることはない作りに徹している。前述した答えスレスレなヒントが出るのはもちろん、アクションの操作技術が問われるタイプのものが少ないのも大きい。「少ない」の通り一部には存在するのだが、それも避け方はほぼ決まっている上、マップ上にサインが出る仕組みのため、アドリブ的な対応は求められない。

何よりこの手のトラップ、実は見落としも結構出るようになっていて、それらがクリア後のやり込み要素になっているのが面白い。

そもそも、まだ見ぬゲームオーバーを求めて、ジェイドを犠牲に捧げまくるのだ。前代未聞にもホドがある。ある種、人の心がないとも言えるそのゲームオーバー探しは、本作ならではの独自性もあるので、興味があれば挑戦してみてほしい。余計にジェイドへの愛着が湧くというか、本作全体に漂う“人の心のなさ”が強い印象を残すだろう。

とは言え、ゲームオーバーにならないとストーリーの全容が明らかにならない時点で、既に(作風的な)鬼畜な感じが滲み出ているのだが。その特色を踏まえれば本作、色んな意味で随一の凄惨さを秘めた探索アドベンチャーゲームと言えるのかもしれない。

ちなみに確認できたゲームオーバーは、メニュー欄にある「実績」から随時、確認可能である。そして、意外にその総数は多い。加えて、その1つひとつに固有のイベントを用意している点で、いかにこの点に力を入れた作品なのかが分かるだろう。

雰囲気重視、かつ昔懐かしい表現を用いた演出も見所の残酷で切ない“死神の物語”

本編のボリュームも大きい。メインストーリーを追うだけでも4~5時間以上、実績ことゲームオーバーによる回想イベントの全確認を含めながらだと、10時間ギリギリに届くほどの規模になっている。加えて、分岐イベントも用意されているので、全パターンを確認しようとした時も結構な長さになり得る。

ただ、エンディングは1種類なので、全部の分岐パターンを確認する必要はない。あくまでもストーリーの理解を深めるための要素に過ぎないので、選ばなかったルートに興味がなければスルーしてしまっても問題はない。ただ、すべてを把握すれば、メインキャラクターであるジェイドと少年などについて深く知れるので、時間が許すのであれば、チェックしてみていただきたいところだ。

ほかに本作はメニュー画面を除き、キャラクターの立ち絵はなく、マップ上のキャラクターの動作で節々のイベントやストーリーを描くという、昔のゲームを思わせる手法が採用されている。それもあって、見た目はやや地味。だが、実際はキャラクターが細かく動いたり、派手なエフェクトが挿入されるなど、手の込んだ演出がされた仕上がりになっている。

演出に関しては、音楽周りも光る。基本的に無音で、時々環境音が流れるという舞台となる屋敷の不気味さを際立たせる手法が取られている。おかげでトラップに引っかかった時はその効果音が前面に出ることもあって、かなりドキッとさせられる。

逆に言えば、その種の演出が苦手な人には割と堪えるものになっているので注意が必要。ただ、あえてその辺りを強調させるのを狙ってなのか、音楽を抑え込む工夫をしているところには、制作チームのこだわりを感じさせられるところである。

総じて独自の工夫とこだわりが光る仕上がりの本作だが、違和感を抱かせる部分もある。特にリトライ機能と回想スキップ機能。これがなぜかデフォルトでは「OFF」になっているのだ。正直、どちらも「ON」がデフォルトで良かったように思う。特に前者はONでないと、初回プレイ時において大きなストレスになりやすい。OFFはやり込み目的の選択肢とするのが適切ではなかったのだろうか。

また、本作の舞台となる屋敷は暗闇に覆われていて、手持ちのライトで照らした状態で進めていく形になるのだが、若干、暗すぎて視認性が悪くなっている部分も散見される。特に中盤以降に出てくる地下施設は、もう少し明るめにしても良かったのではと感じた次第だ。

そういった惜しいと感じる箇所があるものの、ゲームオーバー前提のストーリーの作りとその内容は面白く、探索周りも変化に富んだパズルにトラップ、そしてイベントで楽しませてくれる。色んな意味でイレギュラーな試みが異彩を放つ本作。心臓がドキッとする要素が多いので、苦手な人には注意が必要だが、それを覚悟の上で体験してみる価値がある意欲作だ。さあ、ゲームオーバーを体験しながらストーリーを解き明かそう。

[基本情報]
タイトル:『Chronicle of Grim Reapers』
作者:TEAM海の藻屑
クリア時間:4時間~5時間
対応プラットフォーム:Windows、macOS、ブラウザ
価格(税込):無料

◇ダウンロード・プレイはこちら
・ふりーむ!(ダウンロード版)
https://www.freem.ne.jp/win/game/28319

・ふりーむ!(ブラウザ版)
https://www.freem.ne.jp/win/game/26779

・BOOTH(macOS版)
https://booth.pm/ja/items/6248881

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

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