【デジゲー博2023】ヒロインもモブも立ち絵がとっても変なことになっている『立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー』その制作経緯をサークル代表に直撃した
過去の「デジゲー博」もそうだったが、本年度も会場にはテキストを読み進めながらストーリーを楽しむことにフォーカスしたアドベンチャーゲーム(ノベルゲーム)の新作が多数出展されていた。
ただ……これは「デジゲー博」に限った話ではないが、このようなイベントで、その種のゲームをアピールするのは結構大変な印象が前々からある。アクション、シューティング、パズルといった他のジャンルと異なり、体験(遊び)のキモが”ストーリーを読む”ことゆえ、来場者には地味なものと捉えられやすい側面があるためだ。
逆に前述の3つのジャンルはそれぞれ、体験のキモが鮮明なだけあって関心を呼びやすい。
実のところ本年度、会場を巡っている最中にその難しさを漏らす出展者の声を耳に挟むことがあり、「確かに難しそうだよな……」と思った次第だ。ただ、逆にそれを踏まえ、グラフィックや演出といった表現面で挑戦している作品も決して少なくはない。
そんな本年度に出展されていた作品の中で、思わず「ん?」と自然に興味を持ってしまうノベルゲームがあった。
その名も『立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー ~あるいはオリジナリティの無い卒業までの日々~』である。
モブを含む全員が変なポーズで登場する衝撃の恋愛アドベンチャー
作品の特徴はタイトルを読んでのごとくである。
登場キャラクターたちの立ち絵が”とても変なことになっている”というものだ。
厳密には登場キャラクター、ヒロイン全員が奇妙なポーズを取っている感じである。両手を上に付き出して飛び上がっていたり、着地を決めたかのような構えをしていたり、某奇妙な冒険の登場キャラクターのような決めの姿勢を取っていたり。そんなキャラクターたちと学校生活を送りながら、卒業までの日々を送っていく。
どうしてそんなポーズをしているのか、一切ツッコミもせずに。
「……なんで?」となるのも無理はない、大変異様な光景が画面いっぱいに展開されるノベルゲームになっている。そもそも、誰ひとりとして、まともに立っているキャラクターが居ない。モブキャラクターでさえ!おかげで自然に興味を持ってしまう。筆者もその異様さに釣られるがままに試遊してしまった感じである。もうこの時点で発想の勝利としか言い様がない。
肝心の中身も基本はテキストを読み進めながらストーリーを追っていく、正統派のノベルゲームだが、立ち絵の奇妙さとそれにマッチした愉快な会話劇によって、ニヤニヤしながら進めていきたくなる面白さがある。会話の流れに応じてキャラクターのポーズが変わるため、「このまま進めたら、どんなポーズをするんだ?」と、関心を誘う仕掛けも凝らされていてズルい(誉め言葉)。台詞のテキストも長すぎず短すぎずで、読みやすさに気を遣っているのを感じられる仕上がりだ。
また、選択肢を選んだ際に生じる会話劇の差分が凄い。選択肢はごく一部を除いて、ストーリーの分岐には影響しないようになっているのだが、その仕組みを踏まえてか、差分を多く用意しているのだ。そのため、大筋のストーリーは共通でもプレイヤーごとに全く違った過程が生まれる仕組みになっている。ちなみに大体、3~4つの選択肢が現れるようになっている(この数の分だけ、差分が用意されている)。
肝心の会話劇もギャグ全開なのだが、筆者の場合はどういう訳かちょっと……なんというか……”エ”的な要素が含まれる会話劇が起きてしまった。幸い、直接的な描写はなかったので事なきは得たが。逆に筆者の前にプレイしていた来場者の方のプレイでは全く違った展開が起きていたので、本当にプレイヤーそれぞれのストーリーが生まれる作りになっているようだ。相応に差分を用意するのが大変そうとも感じてしまったが。
他にヒロインたちもどうしてもポーズに目が行ってしまうが、性格的にも分かりやすい個性付けが図られており、強く印象に残る。とりわけ「大阪言葉(おおさか ことは)」は、「笑」のアクセサリーを付けたその見た目もあり、脳裏に焼き付いてしまうほどだ。他の羽撃(はばたき)きらり、観月橋小桃の2人と違って、彼女はポーズが1種類しかなかったことも多少影響している。どうやら制作途上ゆえ、彼女に限ってまだ1種類しか作られていないらしい。また、ポーズは2~3種類ではなく、それ以上が用意されるとのことだ。それもまた、差分を用意するのが大変そうと感じてしまうところである。(実際大変らしい……)
今回、出展されていた体験版には「ギャグパート体験版」と付けられていたが、基本的には全編ギャグであるとのこと。そして筆者が体験した範囲内では、ヒロイン以外はほぼシルエットで表現される形になるらしい。ただし前述の通り、シルエットでも変なポーズをしているため、存在感は申し分なしである。
タイトルからしてインパクト重視、ネタ勝負の感じだが、中身を見てみると意欲的な試みやこだわりも見られる作品。この奇妙(すぎる)特徴に惹かれる人はもちろん、ネタゲーや恋愛アドベンチャーゲーム好きにも注目の新作だ。
インパクト絶大な本作の制作経緯をサークル代表に直撃
そんな本作を制作しているのは、爽やかゲーム制作サークル「ななにのん」。その代表で、本作『立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー』ではシナリオを担当しているのが伏見のヒナタはんさんだ。
実は当もぐらゲームスで先日、紹介記事を掲載したミステリーサウンドノベル『えっ!俺以外みんな犯人!? ~半人館の殺人~』(紹介記事)の作者さんである。
これまでは個人で短編ミステリーからバカゲーまで、様々なフリーゲームを手がけてきたが、今回はサークルを結成しての制作で、有料タイトルとしての配信になるという。また、ジャンルもこれまでの流れから打って変わり、恋愛アドベンチャーゲームになる。
今回、サークルを結成してのゲーム制作を決意した背景、恋愛アドベンチャーゲームを選んだ経緯はなんだったのか。そして、この立ち絵が変というコンセプトはどこから来たのか。伏見のヒナタはんさんご本人に直撃した。
――まず自己紹介と、これまで制作されてきたゲームの簡単な紹介をお願いします。
伏見のヒナタはんさん:
サークル「ななにのん」代表の怪しいゲーム制作犯「伏見のヒナタはん」と申します。主にノベルゲームを製作してまして、代表作は『えっ、いや・・・俺は犯人じゃないです!!』を始めとする犯人シリーズです。
このシリーズは、「プレイヤーに気軽に無責任に推理してほしい」「ミステリーを読みたいけど何も考えたくない方向け」をコンセプトに制作したミステリー"風"のノベルゲームとなります。
――今回は個人ではなく、サークルを結成しての新作とのことですが、結成の経緯はどのようなものだったのでしょうか。
伏見のヒナタはんさん:
上記シリーズ含め、これまでいくつかゲーム製作を行ってきましたが、新作『立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー』製作にあたり、イラスト担当の「にしき丸」と二人でサークル「ななにのん」を結成しました。犯人シリーズが一段落した後、次の作品ではビジュアル面に力を入れたいと考え、元々知り合いだったにしき丸に声を掛けたのが経緯です。
なお、現在にしき丸は、「イラスト担当」では無く、キャラクターの変なポーズを振り付けているポジションと言う意味で「キャラクター振り付け担当」と名乗っています(笑)
――恋愛アドベンチャーゲームに挑むことを決意したのはどんな経緯から……?
伏見のヒナタはんさん:
恋愛アドベンチャーゲームは好きなジャンルの一つだったので、いつか作りたいと思っていました。ただ、私はイラストが描けないのと、誰か他をまき込むほど自分のゲームに実績がなかったので、断念していました。
そうしてゲーム制作を続けてきたところ、ありがたいことにシナリオについては良い評価を頂けるようになったので、「今回複数名ですごいの作ってみよう!」と意気込み、サークルの結成を決意しました。
――タイトルにも冠されている変な立ち絵ですが、これはどんなきっかけから浮かんだアイディアだったのでしょうか。また、この立ち絵は攻略対象のヒロインひとり当たりにどれぐらいのパターンを用意することを想定されているのですか?
伏見のヒナタはんさん:
宣伝媒体をパッと見た際に、目に留まりそうなゲーム画面を作りたくて思いついたアイディアです。
ゲームに登場するヒロインは、よくよく見ると現実ではあまり取らないポーズをしていることが稀にあると思うのですが、それを思いっきり"変"に振り切ったら面白いのでは無いかと思いました。
立ち絵のポーズは、攻略対象1人あたり5種類を目標に制作しています。もちろん全てに表情差分があります。(にしき丸が死にそうになりながら描き続けています(笑))
――大変そうなのが容易に想像できます、お疲れ様です……(笑)。変な立ち絵のほかにも、選択肢ごとにまったく違ったやり取りが展開されるシステムがありますが、これも固有のパターンを多数用意しているのでしょうか?
伏見のヒナタはんさん:
はい、選択肢ごとに全て別のパターンを準備しています。
このシステム自体は、伏見のヒナタはんとして制作した過去作で導入していたシステムです。発案の経緯ですが、私はキャラの好感度やゲームオーバーにどう影響するか分からない選択肢がずっと苦手だと感じていまして。RPGをやっていて、ダンジョンの分かれ道で選ばなかった道に宝箱が無かったのかずっと気になるどころか夢にまで見るタイプなんです。
なら、好感度にもゲームオーバーにも影響しない選択肢にして、それをプレイヤーにも最初に明言しておこうという考えに至りました。一方で、ゲームに影響しないと明言されている選択肢はプレイヤーにとって刺激が少なく、退屈なゲームになるであろうことも分かっていたので、それなら全部の選択肢をまったく別のギャグシーンに結び付けるのはどうかと考えました。
――今回の体験版の一部で登場した男性の先生はシルエットながら、ポーズはヒロインたち同様に変になっていましたが、モブ関係もそうした変なポーズにする方向に?
伏見のヒナタはんさん:
モブキャラはシルエットではありますが、ちゃんと(?)変なポーズで登場します。モブ毎にポーズが異なっており、攻略ヒロインと組み合わせることで、プレイヤーが次から次へと異様なゲーム画面に直面するような構成にしています。
モブ単体でもギャグシナリオに耐えられるよう個性的なキャラ付けをしていて、選択肢によって絡んでくるキャラが異なったりします。
――有料タイトルとしての販売を予定されているとのことですが、いつ頃を想定されているのでしょうか。差し支えなければ、想定しているボリューム、価格もお聞きできればと思います。
伏見のヒナタはんさん:
2024年リリース予定で、価格は未定です。
また、2024年のいつになるかは目途が経っていない状況です。ボリュームは、攻略キャラ3名+隠しキャラ1名分のシナリオになります。1ルートは2時間程度になる見込みですが、まだ製作途中ですので増減すると思います。
――最後に「デジゲー博2023」で体験版を遊んでいただいた方々や本作に興味を抱いている方々へのメッセージをお願いします。
伏見のヒナタはんさん:
『立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー』絶賛制作中です!
ビジュアル面でも、シナリオ面でも、プレイヤーの期待を良い意味で裏切れるよう、日々小ネタを作り込んでいます!期待して待っていただけると嬉しいです。
――完成を楽しみにしております!お忙しいところ、ありがとうございました!
前述したように、”伏見のヒナタはん”さんは当もぐらゲームスで紹介した『半人館の殺人』以外にも、さまざまなフリーゲームを公開している。会場で本作を体験し、そのユニークな作風に関心を持った方は発売を待つ間にプレイしてみてはいかがだろうか。
▼伏見のヒナタはん(作品ページ:ふりーむ!)
https://www.freem.ne.jp/brand/11653
▼伏見のヒナタはん(作品ページ:ノベルゲームコレクション)
https://novelgame.jp/users/profile/28012
また、本作は2023年内にお試し版の配信をフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」で予定しているとのこと。「デジゲー博」に参加できなかった、当日試遊できなかった方で、興味があればお試しいただきたい。
[作品情報]
タイトル:『立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー ~あるいはオリジナリティの無い卒業までの日々~』
作者:ななにのん(シナリオ:伏見のヒナタはん、キャラクター振り付け:にしき丸)
対応プラットフォーム:Windows
価格:未定
◇作品情報リンク(note)
https://note.com/fushimi_han