『Downwell』のアクションに込められた複数のファンクションについて考える
『Downwell』発売から既に一か月以上の時が経った。運営型のゲームに比べて売り切り型のゲームはどうしても継続的には話題が続かない。しかし、売り切り型ゲームのいいところはサクッと始められてサクッと終わらせることが出来るところだ。そんな風にゲームを遊びたいという需要は常に一定以上あるものだと僕は考えているので、多少時間が経ったのだとしても繰り返し繰り返し話題にしていくことには少なからず意味があるものだとも思っている。というわけで、もぐらゲームスでは2度目の登場となる『Downwell』の話をしたい。
『Downwell』の操作性
『Downwell』をやっていてまず気づくことは、飛んだり跳ねたり、弾を撃ったり、敵を踏んだり、というアクションゲームの要素がふんだんに盛り込まれたゲームをスマートフォンで遊ぶということに何の違和感も感じない―すなわち、操作上の不都合を特に感じていないということだ。よくよく考えてみるとこれはすごいことである。ほんの数年前までは、スマートフォンで無理やりな形で導入されたバーチャルパッドで、明らかに物理キーでやった方が遊びやすいであろうことが想像がつくゲームを、半ばあきらめるような形で遊んでいたことがウソみたいである。
スマートフォンで本格的なアクションなんて不可能、その常識を覆したタイトルとして思い浮かぶタイトルと言えば、『ケロブラスター』ではないだろうか。このゲームの何が素晴らしかったかと言えば、「移動しながらの攻撃」を全く無理のない操作で可能にしていたことである。移動、特にジャンプには特定のタイミングでのボタン入力が必須であるが、「ジャンプ」と「攻撃」の両方を行うためには普通に考えれば2つのボタン操作が必要だ。しかし、この2つ同時のボタン操作が物理キーの無いスマートフォンでは非常に難しいのである。左右の移動や、ジャンプのみであればどうにかなる。『Thomas was alone』や『vvvvvv』のような他のタイトルをプレイしてみても左右移動とジャンプ(『vvvvvv』は厳密には重力転換だけど)なら、スマートフォンでも特に問題なくプレイすることは可能なのだ。
『ケロブラスター』は攻撃方法に「レバー入力方式」という変わった操作を導入することで、その問題を解決した。特定の方向にレバーを入力すれば、その方向にはずっと弾が出っ放しになるという操作方法は、移動と照準の操作を別系統にするFPS的操作系の2D解釈とでもいうべきユニークなものだ。この発明と、非常に丁寧に仕上げられたレベルデザインが合わさることで、『ケロブラスター』は普通のアクションゲームがスマートフォンで作成可能であるということを証明した。良く出来た普通のアクションゲームという評価は『ケロブラスター』が如何に画期的なゲームであったかを裏付ける最大限の賛辞だろう。
『Downwell』における工夫
では同様にスマートフォンで問題無く普通に遊べてしまう『Downwell』はどのような形で攻撃と移動を両立させたのか?そこには2つのポイントがある。一つはこのゲームの最大の特徴の一つ、「ガンブーツ」の発明だろう。左右移動とジャンプボタンだけならスマートフォンでも問題無く操作出来るのであれば、ジャンプボタンとショットボタンを一つのボタンにまとめてしまえばいいという、一つのボタンに複数のアクションを込めた素晴らしい発想である。もう一つのポイントは「ガンブーツ」でショットする以前に「踏む」という行為を攻撃手段として採用したことだ。
これら2つの移動と攻撃を一体化させた工夫は、主にプレイヤーキャラクターの「下方向」へ向けての攻撃を可能にする工夫である。だから『Downwell』はそれらの機能を活かすために下へ下へという方向に突き進む「下スクロール」方式を採用している。この割り切りもまた素晴らしい。(下スクロールありきでガンブーツを採用したようにも思えるけど)
しかし、『Downwell』が本当に素晴らしいのはここからだ。移動と攻撃の一体化、それが最大限活きるシチュエーションの提供、それだけではこのゲームは終わらない、更に一つ、重要な要素がこのゲームにはある。その要素とは何か。
「落下」である。
『Downwell』はボタン操作が不要な「落下」をメインの移動手段に据えた。「落下」という観点から「ガンブーツ」を評価すると、さらにもう一つの機能も見えてくる。「ガンブーツ」は移動手段であり、攻撃手段であり、減速手段でもあるのだ。これら一つのアクションの複数のファンクションをまとめる身体デザインは実に合理的で、美しい。
特に「落下」にかなり速い移動速度を与えていることで、ガンブーツの「減速」機能が大きな意味を持ってくることは、特筆すべき点だろう。これによって、ゲームをプレイするユーザーごとにプレイ時間の幅、プレイスタイルの幅、難易度の幅を持たせることに成功している。だからこのゲームは一回死ぬだけでゲーム冒頭からやり直しというなかなかに過酷な仕様にも関わらず、ついついプレイしてしまう中毒性を持っているのである。
移動、攻撃、落下という3つの機能がスマートフォンで快適に操作可能な左右移動とジャンプというアクションの中に見事に収納されきっているのが『Downwell』である。このゲームのアクションが多彩に見えるのは、一つのアクションに複数のファンクションを込めることで、インプットのシンプルさに対して必然的にアウトプットが多彩になるからである。おそらくスマートフォンという物理キーが基本的に存在しない非常に制限があるデバイスでの発売が前提だったからこそ生まれたゲームデザインだろう。スマートフォンというデバイス、インディゲームシーンの興隆という2つの要素が交差することで、2Dのアクションゲームが再び誕生し、進化していくという、「二周目の時代」を迎えているのかもしれない。それは単なる縮小再生産などではない、非常に豊かな実りをともなう「二周目」だ。『Downwell』や今回紹介した一連のゲームを遊んでいるとそのようなことを考える。
[基本情報]
タイトル 『Downwell』
制作者 もっぴん
クリア時間 腕次第
対応OS iOS/Android/Steam
価格
iOS版:360円
Android版:近日配信(価格不明)
Steam版:298円