「王道」からの魅力的な逸脱 レトロ風フリーゲームRPG『ぼくは勇者じゃないよ』
今回は、フリーゲームRPG『ぼくは勇者じゃないよ』を紹介する。第4回WOLF RPGエディター コンテストにて全72作品中物語部門4位・総合10位を獲得した本作はファミコン~スーパーファミコン初期のゲーム、特に『ドラゴンクエスト』シリーズを彷彿させるレトロな雰囲気が魅力的なRPGだが、もちろんそれだけではない。王道を装いながらも、その実「勇者とは何か?」という問いかけをしているかのような、一筋縄ではいかないストーリーテリングの巧みさもまた本作の大きな特徴だ。早速紹介していきたい。
見た目は勇者、中身は子供。悲劇を経て「転生」した少年の物語。
主人公は、平凡な集落「タコタ村」で平凡な暮らしを営んでいる平凡な少年・トコ。友人から「ノロマ」とからかわれたり、女友達との仲を囃されたり、冴えない扱いを受けている彼の誕生日前日から、物語は始まる。
トコの誕生日は、年に一度の村祭りの日でもある。両親は、彼が10歳を迎えるこの日のために村一番の長老「ジェヌばあさん」から預かっていた「あおいたま」をプレゼントする。
存命ながら、今では口がきけなくなってしまった「ジェヌばあさん」。言葉の真意は確かめられずじまいだ。
ところが誕生日当日、事件が起こる。凶暴化した魔物たちが大挙してタコタ村に攻め込んで来たのだ。狙われる謂れなど何もないはずのつつましい僻村で、牧歌的な暮らしを営んでいた無防備な人々には応戦の手立てがなく、村はたちまち蹂躙されてしまう。
何かを探しているらしい魔物たち。村人たちは、皆殺しにされてしまう。
襲撃から逃れようと駆け出した先で、トコは見知らぬ男と出くわす。
「勇者」の肩書きを持つその男・カーライズは、魔物を討伐しにやって来たのだった。
死を覚悟した魔物の捨身の攻撃により、トコとカーライズは瀕死の重傷を負ってしまう。
撃退した魔物の、死に際の攻撃により死に瀕してしまうカーライズ。そしてトコ。
ふたりの命が今にも絶えようという時、カーライズは最後の手段に出る。
それは魂を別の身体に乗り移らせる「イコンカイキ」という秘法で死にゆく彼の身体に死にゆくトコの魂を宿し、せめて「勇者」の「身体」だけでも生きながらえさせようというものだった。
カーライズの魂を、トコの身体に乗り移らせる事もできた。だが、それでは「勇者」の身体が朽ちてしまう。苦肉の策だった。
こうしてなにもわからないまま、突然トコは「勇者」として生き、「魔王オブジズ」討伐の旅に出なければならなくなってしまう。
素性を知られると、「イコンカイキ」の効力は失われてしまう。今や魂だけの存在であるトコにとって、それは死を意味する。誰にも真相を話す事は出来ない。
組み合わせは自由! 個性豊かな仲間キャラクターたち
戦闘システムは、往年のRPGプレイヤーには恐らく最も馴染み深いターン制コマンド選択バトルが採用されており、「ドラゴンクエスト」シリーズを彷彿させるものとなっている。居酒屋に行けばパーティメンバーは自由に入れ替え可能なので、物理攻撃力の高い戦士、攻撃魔法に長けた魔法使い、補助・回復魔法を扱う神官など様々な職業の仲間たちからプレイヤーは適宜選抜し、好みの組み合わせ・戦法を編み出す事ができる。
キャラクターによって、戦闘コマンドは異なる。状況に応じた使い分けが必要だ。
各所で出会う、個性豊かな仲間キャラクターたち。中には「隠しキャラ」的な存在も。
魔物を倒すと、経験値・お金と共に必ず手に入る「まこんのかけら」。集めた数に応じて貴重なアイテムと交換できる。
また、本作はレベルが上りやすい設計となっているため、待機メンバーや、遅れて加入したメンバーも何戦かをこなせばすぐに成長し、足手まといになる事はほとんどない。そのため能力だけでなく、好みを重視したキャラクター選びも可能となっているのだ。
そして、魔王討伐だけで飽き足らないプレイヤーのためには、さらに強力な魔物との戦闘も用意されている。戦闘はそこそこにじっくりシナリオを味わいたいプレイヤー、一瞬も気の抜けないスリリングな戦闘を楽しみたいプレイヤー、両者共に満足のいく仕上がりだと言えるだろう。
「ぼくは勇者じゃないよ」。その言葉の真の意味とは……?
「ぼくは勇者じゃないよ」。
この言葉を口にする事は、トコ=カーライズに取って死を意味する。先述の通りひとたび正体が知られてしまえば秘法「イコンカイキ」は効力を失い、カーライズの身体につなぎとめられていたトコの魂は解き放たれ消えてしまうからだ。
もどかしい葛藤を秘めながら、「勇者」として務めを全うしなければならない。
トコとして生きていた頃の故郷・タコタ村の跡地に、勇者・カーライズとして訪れる。何を思うのか……。
「RPG」というジャンルに馴染んできたプレイヤーにとって、「勇者」として振る舞う事は簡単だ。多かれ少なかれ、そこにはある種の「王道」が存在する。モンスターを倒してお金と経験値を稼ぎ、装備を買い揃え、村人に話しかけて情報を得、タンスや木箱を見つけたら何はなくとも調べ、頼まれるままに事件を解決し、「魔王」を倒し、「姫」を助け、……ほとんど自動化された工程をこなすように、型どおりの「勇者」である事には。
「王」に命じられ、「魔王」を倒す旅に出る。確かに、よく見かけるシーンだが……。
『ドラゴンクエストシリーズ』の主人公たちのように無口なトコは、基本的に言葉を発する事はない。突然両親・友人を失い、「勇者」として、自分自身ではない他人として生きなければならなくなった異常な境涯についての感傷や葛藤を口にする事がないのだ。しかし、注意深くプレイすれば、一見ありがちな魔王討伐譚のような物語の随所に、「型」どおりの勇者になりきれない彼の無言の戸惑いや、躊躇いを察する事ができるだろう。
そして、うまく「王道」的勇者になりきれないトコのように、「王道」を装っていた物語もまた、プレイヤーの想像を魅力的に裏切ってくれる。特に、たたみかけるような終盤の展開は必見だ。
かつて勇者カーライズの父・ホフマン、母・ラティアと共に魔王オブジズと戦った神官長・メディア。鋭い一言を突き付ける。
生前の「ジェヌばあさん」。何を伝えようとしていたのだろうか。
レノア姫が見つけた「きぼりのおまもり」。トコがトコとして存在した、唯一の証だ。
そもそも、「勇者」として生きるとはどういう事か。自分自身は無口に何も望まず、滅私奉公のごとく王に、姫に、あるいは市井の人々に望まれるがままにどこへでも出向き、危険に身をさらし、事件を解決し名声と責任を一手に背負い込む事だろうか。
他人に望まれるまま生きることを自ら望んだ男・カーライズに、「勇者」たる事を突然望まれた少年・トコ。彼自身は最後に、何を望むのか。
無言の葛藤の末、タイトル「ぼくは勇者じゃないよ」の真の意味にせまるラストシーンは必見なので、ぜひともプレイしてみて欲しい。
【基本情報】
タイトル:ぼくは勇者じゃないよ
作者:えんとつ様 (製作者様サイトはこちら)
クリア時間:4-5時間程度
対応OS:WinXP / Vista / 7 / 8
価格:無料
ダウンロードはこちらから
http://entotsu.sub.jp/game.html