理不尽な出来事を乗り越え誕生した、脳がかき乱される野心的STG『Dimension Drive』
クラウドファンディングサイト「kickstarter(キックスターター)」はインディーゲーム制作者の間でも活用され、これまでに数多くのプロジェクトが立案されては資金調達に成功し、革新的で時に懐かしさも秘めた色とりどりのゲームが誕生してきた。
だが、光あるところ影あり。その裏には資金調達に失敗し、見果てぬ夢に終わったプロジェクトも数多く存在する。今回紹介する『Dimension Drive』も実はその一つである。だが、その失敗に至るまでの過程は「kickstarter」史上、類を見ないほど理不尽なものだった。
オランダのインディーディベロッパー「2Awesome Studio」によって立案された本作は、3万ユーロを目標額に2015年4月14日より資金調達を開始した。しかし集まりは芳しくなく、最終日までに集まったのは約2万3000ユーロ。状況から推測して失敗に終わる可能性は濃厚と思われた。しかし、まさかの事態が起きた。終了30分前、7000ユーロを支援する、救世主に等しいユーザーが現れたのだ。そのユーザーの支援もあって、プロジェクトは寸での所で成功。まさに「ウルトラC」の大逆転劇となり、ディベロッパーが夢見たゲームの制作が始まった……かに思われたのだが。
なんと最終日に実施された7000ユーロの支援は悪意のある人間によって行われた詐欺。支援されたはずの7000ユーロは1ユーロも支払われていないことがkickstarter運営スタッフの調査で判明し、成功と思われたプロジェクトは一転、失敗となってしまったのである。資金調達成功に沸き立っていたディベロッパーのメンバー達はこの予想だにしない事態を告げられ、天国から地獄へ急転直下。実現すると思われたゲームは見果てぬ夢になってしまったのだった。
あまりにも理不尽、鬼畜の所業としか言い様がない事態。
ただ、さすがにこれには「kickstarter」側も動き、プロジェクトの再実施を提案。他の支援者達の声も後押しとなって後日、プロジェクトが始動した。その結果、目標額3万ユーロを上回る3万6,996ユーロの調達に成功。一時期、闇に葬られた本作は華麗なる復活を遂げ、2017年にゲーム配信プラットフォーム「Steam」でPC向け早期アクセス版をリリース。アップデートによる改良を重ねていき、同年12月に製品版リリースを達成したのであった。
成功体験ばかりが取り沙汰にされる「kickstarter」だが、本作のような例は稀だ。何にしても、救われて良かったと思うばかりである。なお、2018年7月26日にはNintendo Switch、PlayStation 4、2018年9月4日にはXbox Oneのコンシューマ兼日本語版もリリースされ、PC版も日本語対応アップデートが行われた。ローカライズは架け橋ゲームズが担当している。
脳と目がかき乱される、衝撃の左右二分割シューティングゲーム
そんな本作の内容は縦スクロールで展開する、ステージクリア型シューティングゲーム。自機「マンティコア」を操縦し、迫り来る敵をショットで撃退し、宇宙制服を目論む「アシャジュル帝国」の軍勢に立ち向かっていくというものだ。
最大の特色は二分割された画面構成。上記スクリーンショットの通り、本作は画面が左右に二分割されている。自機ことマンティコアはゲームスタート時に左側に表示、右側にはその影(ピンク色の光点)が映し出されるようになっている。
プレイヤーが操作するのは実体が表示されている側だ。こちらで画面上部などから襲い掛かってくる敵を迎え撃っていく。反対側にも敵は登場するが、影なので攻撃は不可能。更に接触してもダメージは受けない。ただ、実体側と連動して動く。
これが何を意味するのかというと、影と実体は移し変えることができる。マンティコアには本作のタイトルにもなっている「ディメンションドライブ」という次元転移(スイッチ)機能が備わっており、反対側の影が表示された場所に実体を移動させ、戦いの場を切り替えることができるのだ。
この特殊能力を駆使して二つの画面を行き来し、難局を乗り越えていく。これこそが本作の醍醐味にして特色。左右両方の画面に目を向けながら、状況に応じて自機を右に左にと移動させる、プレイヤー自身の視野の広さが試される、珍しいシューティングゲームになっている。
視野の広さが要求されるだけあって、始めて間もない頃はとにかく混乱する。大半のプレイヤーは脳をかき乱されるかのような筆舌に尽くしがたい違和感に襲われることになるだろう。
移動が嫌だから片側の画面だけに留まり続けたい、という欲求にも応えてくれない。ステージを進めていくと、どうしても障害物との正面衝突が確約された場面に出くわす。本作ではダメージ制が採用されているため、敵の攻撃を一発被弾してもやられることは無いので、だったら耐久力で押し切ればいい!……と考えてしまうが、残念ながら壁や隕石、大型の敵を構成する破壊不可能なパーツなどに接触すれば問答無用で大破。移動せねば塵確定の非情なる設定になっている。
極め付けに通常攻撃のショットは有限。発射する度に画面上部に表示されたエネルギーが減っていき、全てが尽きると攻撃できなくなってしまう。
▲一発も撃てない!
基本的に敵を倒す度に落とすエネルギーアイテムを取れば回復はできるが、敵が一体も出てこない場面ではそんなこと、できるはずがなく。では、どうするのかと言ったら、ディメンションドライブすればよい。そうすれば、エネルギーは瞬く間に回復する。こう言った攻撃周りにも本作は制約を敷いていて、片側の世界に留まりたいプレイヤーの欲求を通さなくしている。まさに特異なシステムを活かすなりの徹底した作り込みが成されているのだ。
ゲームが進むと自機ができるアクションも増える。障害物をすり抜けたり、向いている方向を逆にし、後方から迫り来る敵を迎撃したりと、どれもこれも離れ業ばかり。
一つ一つのステージを攻略していく流れはシューティングゲームの王道に準じているが、ゲームデザインはご覧の有様で、ありとあらゆるプレイヤーの脳味噌をかき乱し、視野を広くして状況を見渡すことを要求する。普通じゃない見た目をしているなりの稀有なテクニックが要求される作りで、全てにおいて唯一無二。前例のない攻略が試される内容になっているのである。
とことん力押しを封じ込めるステージと仕掛けの数々
ステージも普通の作りをしていない。そもそも、二つの画面に目をやりながら敵を迎撃していく時点で普通じゃないのだが、自機の方向を変えると言った、追加アクション(アップグレード)の活用を促す場面が同要素の解禁に応じて増えていくレベルデザインが施されているので、見た目以上に起伏が激しい。それらのアクション解禁と関連した、探索型アクションゲームを彷彿とさせる、クリア済みステージで通過できなかったルートが通れるようになる仕掛けも盛り込まれているほど。いい意味でも悪い意味でも、プレイヤーを翻弄させる内容にまとめられている。
各ステージ最後に用意されたボス戦もまた然り。両方の画面に現れ、異なる弾幕を展開したり、右に左と動き回るので、それぞれの違いを見切って自機を動かし、回避行動を取っていかなければ即座に撃ち落とされる。舞台となる惑星の締めを飾る大型ボスも、接触すれば一発で撃墜される破壊不能なパーツを展開するタイプが多いので、接触しないよう立ち回っていかなければならない。
ステージによってはボス戦ではなく、障害物を潜り抜けながらゴールを目指すイベントが発生することも。このイベントは高速スクロールで展開し、行く手を阻む壁を回避するべく、連続でディメンションドライブしていくことが求められる。瞬間的に判断して次元移動し、危険を潜り抜けていく。そのスリルと難しさがどれほどのものなのかは想像に難くないはず。
二つの画面を捉えて動くだけでも大変なのに、ステージもボスもプレイヤーに一切甘えることをせず。そして、力押しという安直な選択肢すらも潰す。その執念にも似たこだわりの数々には、制作者の執念を実感させられること請け合い。徹底した調整が行われているのだ。
ここまで苛烈だと、非常にハードルの高いゲームに思えてしまうのも無理はないが、ちゃんと難易度選択機能も搭載。優しい難易度であれば、自機の耐久力が自動で回復するシステムが備わるので、安全行動を取りながらの戦術で乗り越えていけるようになっている。
とは言え、障害物に接触すれば問答無用で撃墜されるのは全難易度共通。
気軽に挑もうとすれば地獄を見るだろう。
視界をこじ開け、脳を落ち着かせ、凶悪な侵略者どもを討て!
他にステージでは、一つ一つでしっかりとストーリーが展開されるのも特徴。ただ、ステージ本編では開始前、クリア後以外で会話イベントは発生しない措置が取られているに加え、いずれのイベントも短くなりすぎず、長くなりすぎずのボリュームと、テンポを乱さないように配慮した内容にまとめられている。もちろん、スキップも可能だ。
そして、肝心のストーリーも王道の侵略者撃退を目指すものだが、主人公のジャックリーン・タイウッド(ジャック)を始めとする登場人物達、舞台となる惑星の世界観と言った設定が詰められた、気合の入った作りになっている。一枚絵を交えたデモシーンも豊富。キャラクターデザインもアメリカンコミックを意識した作風になっていて、ストーリー全体に力強さを与えている。日本語にも対応していて、架け橋ゲームズが監修しているだけあって、翻訳具合も盤石だ。
他に操作性もボタン配置、レスポンスともに良好。ボリュームもステージ総数12以上と充実しているほか、「データキューブ」と呼ばれる隠されたアイテムを探し出すと言ったやり込み要素も充実。ローカル限定だが、二人同時プレイが可能なのも見所だ。
特徴的な画面構成もあって、プレイするに至って相応の覚悟が求められる作品であることは否定しない。正直、普通の縦スクロールシューティングゲーム以上にハードルの高い作品である。
だが、ゲームプレイはとても新鮮なものになっているのに加え、ステージの構成もこのシステムだからこそできたアイディアが豊富に詰め込まれている。
まさに普通の縦スクロールシューティングに飽きたプレイヤーほど遊んでみて頂きたい一本。文字通りに脳をかき乱しては、プレイヤーを翻弄させる野心作だ。一度は悪意ある人間の手で見果てぬ夢となるも、華麗なる復活を遂げたシューティングゲームの深淵をのぞき込んでみよう。のぞき込んで全てを体験し終えた時、あなたの視界はより広がっているかもしれない。肉体的な意味で。
[基本情報]
タイトル: 『Dimension Drive』
制作者:2Awesome Studio(※日本語ローカライズ:架け橋ゲームズ)
クリア時間: 2~3時間(※実績コンプリートを除く)
難易度:中級~上級者向け
対応OS: PC(Windows、Mac、Linux)、Nintendo Switch、PlayStation 4、Xbox One
価格: ¥1280、¥1404(※Xbox One版)
購入はこちらから
※PC(Windows、Mac、Linux)版
※Nintendo Switch版
https://ec.nintendo.com/JP/ja/titles/70010000000432
※PlayStation 4版
https://store.playstation.com/ja-jp/product/UP4830-CUSA12364_00-JPPS400000000001
※Xbox One版
https://www.microsoft.com/ja-jp/p/dimension-drive/bx6t2l66t497