聖人、禁忌、拷問、悪魔……長編探索RPG「Fanastasis」が描く、狂気と再誕の物語
これはフリーゲームの傑作か、あるいはプレイヤーをいとも簡単に地獄に叩き落とす悪夢か――
始まりは2019年末に配信されたベータ版。何気ない話題からふと手にとったそのゲームは、筆者をまたたく間に夢中にさせ、同時に背筋を凍りつかせた。異質と言える完成度とボリューム、そして全編を通して人間の底しれぬ狂気が描かれていたのだ。
今回紹介するフリーゲームは、長編探索RPG「Fanastasis」。抜け殻の魂である主人公が、ある小国を巡り記憶を取り戻す物語だ。製作者はもさもさ氏。2020年11月に待望の1.00がリリースされ、その全貌がついに披露された。50時間を超えるボリューム、広大なダンジョンに張り巡らされた隠し通路や謎解き、そして全エリアを通して展開された壮大な考察要素……何もかもが規格外の代物だった。
探索においてはかなりの高難易度とも言える本作だが、腕に覚えのあるゲーマーはぜひプレイしてもらいたい。そして、何重にも固く封印された“真実”へと辿り着いてほしい。
隠し通路、隠し扉、隠し宝箱……複雑に繋がったダンジョン
プレイヤーは主人公「アマタ(デフォルトネーム)」として、牢獄の間と呼ばれる部屋にて目を覚ます。そこにいた赤目の女「エメルダ」から、主人公はスピリット(魂)が具現化した存在で、肉体を得るためには自身の記憶を取り戻し、「復活の儀式」を行わなければ行けないのだと告げられる。プレイヤーはほとんど何も知らないままカノン王国を旅し、4つの記憶のオーブを探すこととなった。
本作はいわゆる「ネフェイスト(ネフェシエル・イストワール)」と呼ばれるジャンルのRPGだ。ネフェイスト系のRPGはダンジョン同士が複雑に繋がりあっており、謎解きや隠し通路などのマップギミックが多数配置されている。プレイヤーは自由に探索し、そこで見つけた情報の断片を元に世界観を考察していくのだ。市販のゲームで例えると、ダークソウルシリーズを2Dのターン制バトルRPGにしたものに近い。
ただし「Fanastasis」は、他のネフェイスト系のゲームと比較してもギミックの数が圧倒的に多い。ある森の1マップを見ても、モンスターが野営している裏を回り込んで宝箱を開ける、見えない通路を通る、地下を通る下水道に繋がるはしごが隠されていると多彩だ。しかもただ闇雲に隠されているのではなく、何らかの法則性があり、プレイヤーを上手く誘導している。立ち回り次第ではすべてのザコ敵から逃げることもできるが、もちろん戦いを挑んで勝つことも可能だ。
ゲーム中盤以降になると、世界はさらに広がる。魚人が隠れ住む湿地帯や巨人が岩を落としてくる崖、入り組んだ坑道、本が積み上がる古書院、恐ろしき看守が見張る牢獄。ひとつ終わってもまた別のダンジョンが絶え間なく繋がっており、探索のたびに驚きをもたらしてくれる。プレイヤーの探索ルートも自由で、オールダンジョンのオープンワールドゲームといっても差し支えないだろう。
人のいない、血塗られたカノン王国で
ダンジョンではたくさんの宝箱が見つかるが、点在するのはそれだけではない。それは、過去にカノン王国にいたとされる人々の“残留思念”だ。残留思念を調べると、大聖堂への巡礼者、工房の職人、王都脇に居を構える盗賊団など、人々がこの地で暮らしていたことが分かる。しかし……このカノン王国、不可解なことに肝心の人間にはほとんど会えないのだ。
旅の道中にはとにかく謎が多い。まっとうな人間が現在も王国に住んでいる様子がなく、「異種」と呼ばれる少数の種族か、完全に狂って魔物化した人間がいるだけ。マージ教会では「聖人」と呼ばれる者が信仰され、カノン王国の重要施設では「悪魔」と呼ばれる存在と取引をしているのが垣間見える。侵略の爪痕を残す「帝国」と呼ばれる国。至るところで見つかる幻覚剤。地下系のダンジョンには、地面を埋めるほどの骨の山。断片的な情報を集めるたびに、不穏な影がつきまとう。
最初はよく分からなかった情報群は、ゲームが進んでいくうちにその全容を明らかにする。これらは思わせぶりな情報などではない。すべてが巨大なジグソーパズルのピースであり、このカノンの地で何があったのかの明確な“答え”が見えてくるのだ。どうして人がいないのか、主人公やエメルダは何者なのか、手に入る魔石の正体は何か、ありとあらゆるものがひとつに繋がる。そして、カノン王国がいかに狂気に満ちた国であるのかが理解できてしまうのだ。
このゲームを紹介するにあたり、欠かせないダンジョンをひとつ紹介しよう。カノン王国の地下奥地に広がる「カノンの柩(ひつぎ)」だ。表向きは罪人を収容する施設なのだが、やっていることがエグい。魔法で足が遅くなる通路に番犬や火炎放射器を配置し、罪人を歩かせてはそれを更生のためと謳っているのだ。監獄には気が狂った罪人たちの思念に満ちており、明らかに常軌を逸している。さらに地下にはさらなる拷問が待ち構えている。
もしこれだけなら、ただのホラー系の演出と思えるかもしれない。しかし例外に漏れることなく、この拷問にも明確な意味があり、その理由が最深部で明らかとなる。すべてが悪夢であり、すべてが地獄。ここに辿り着いた頃には、プレイヤーは真相を求められずにはいられなくなるだろう。
厳しい戦いを支えてくれる存在たち
旅に立ちはだかる壁は強大ではあるが、プレイヤーには一緒に戦ってくれる仲間がいる。彼らもまたすでに死んでいるスピリットだが、さまざまなスキルで戦陣に立ち向かってくれるのだ。
戦闘はオーソドックスなターン制バトル。仲間も個性的で、味方を強化して戦う海賊船長のカザッフ、炎の術を操る死刑執行人のアイーシャ、味方の盾となる鉱山労働者のバクホリ、2度コマンド入力が行える武器試し斬り職人のリーサなどがいる。彼らにもそれぞれ背景があり、生い立ちから最期までの物語を垣間見ることができる。
戦いでは装備も重要だ。各地の宝箱では多種多様な武器や防具が手に入り、それらを組み合わせて強敵に挑む。道具や貴重品も合わせるとアイテムは1,000種類にも登り、ひとつひとつのフレーバーテキストも世界観に沿っている。集める楽しさもひとしおだ。
狂気の物語の果てに、あなたは何を見出す?
さて、ここまで本作の凄まじさを紹介してきたが、実はベータ版の時点で正式なエンディングがあったにもかかわらず、1.00以降には第二部と呼べるほどのボリュームの追加シナリオが用意された。シナリオは本編で語り尽くせなかった神話の域に触れており、しかも広大な雪原や竜を奉る神殿など、ダンジョンの規模はどんどん巨大化。狂気の沙汰である。
とはいえ、ここまで作り込まれると万人向けではないことも確かだろう。いわゆるシナリオ主導型のRPGではないので、プレイヤーにもゲームを攻略する力や情報の整理が求められる。どこに行くべきか迷うことも多く、特に魔法鍵のかかった扉探しは大変だ。ゲーム中に気になったものは本作のスクリーンショット機能で残しておくのをオススメする。また、大きなマップがあるツクールVX Ace製ゲームの弱点として、処理が重くなる場合があることは留意しておこう。
――いかがだろうか?もし狂気に魅せられたのなら、ぜひプレイしてほしい。ただし、この旅路に後悔するか、あるいは何かを見出せるは、あなた次第である。最後にゲーム中のあるセリフで、この文章を締めよう。
「・・・だが、その先で何を見ようとも・・・我々は責を負うことはない。・・・深入りしないことだな。知ることが、必ずしも良いとは限らない。敢えて知らぬことも、選択のひとつだ」
[基本情報]
タイトル:『Fanastasis』
作者:もさもさ
クリア時間:50~70時間(第一部 30時間~)
対応OS:Windows
価格:無料
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/21044