全要素がスマホ向けにフルチューニングされた至高のアクション。それが『ケロブラスター』だ―『ケロブラスター』レビュー(ニカイドウレンジ)

インディーゲーム

声を大にして言いたい。「ケロブラスターはiPhoneでやれ!」と。

ケロブラスターはPC版とiPhone版でそれぞれ発売されている。PC版の方が大きい画面で遊べるし、ゲームパッド対応なので操作もやりやすい。快適さで言えばPC版の方が上だ。

しかしそれを踏まえた上で言わせて頂く。ケロブラスターはiPhoneでやれ!

なぜなら、ケロブラスターはもともとiPhone専用タイトルとして開発されていたため、スマホで遊ぶことを大前提として設計&チューニングされているからだ。なぜこんなグラフィックに? なぜこんな操作システムに? なぜこんなレベルデザインに? 筆者はiPhone版を触った瞬間全てを理解した。

だから、ケロブラスターの良さと作者の意図を本当の意味で知るためにもiPhone版でプレイすることを強くオススメしたい。(iPodTouchも可。iPadはオススメできないと公式Twitterアカウントで言われている)


というわけで、この記事ではiPhoneならではのチューニング、特に操作関連の要素に焦点を当てて解説させて頂く。

小さい画面にあわせたミニマム感

ケロブラスターは、同作者のフリーゲーム『洞窟物語』に比べると、グラフィックやストーリー、ゲームの奥深さなどが見劣りしているように感じる。そもそも趣味で作られたゲームと飯を食っていくために作られたゲームを比べること自体がナンセンスではあるが、ここはあえて比較することでケロブラスターに秘められた意図を探りたい。

まずグラフィック面。洞窟物語はスーパファミコンやメガドライブを彷彿とさせるドット絵だったが、ケロブラスターはファミコン…いやそれ以前のゲーム機を彷彿とさせる絵作りとなっている。ゲーム自体の解像度も非常に低い。

これは「iPhoneの画面サイズに合わせて」という理由だと推測した。画面が小さいため、情報量を減らして視認性を高めるためにこのようなタッチになったのだろう。実際非常に見やすく、目を近づけないと形がどうなってるのか分からない、などということは一切なかった。

進め方がややRPG的だった洞窟物語から単純なステージクリア型になり、ストーリー自体も非常にシンプルになった。この変化も携帯機のプレイスタイルに合わせてのことだと思われる。携帯機では空き時間に少しずつ進めるスタイルになりがちだが、ケロブラスターはそういったプレイでも物語の展開やゲームの進行状況が分からなくなることがない。

これらは筆者の推測ではある。ケロブラスター作者がそう意図したかは不明だが、実際iPhoneでやる分にはこれでしっくりと馴染むし、手抜きや妥協の臭いは一切感じない。

ボリュームに関しては…、欲を言えばアップデートでハードモードでも追加して欲しい…とは思う。

「仮想パッド=クソ」問題を見事に解消した操作システム

ケロブラスターの操作システムは洞窟物語と非常に近い。しかし、洞窟物語で可能だった操作がケロブラスターでは廃止されているものがいくつかある。

例えばショットを撃つ方向。洞窟物語では上下左右の4方向に撃つことができたが、ケロブラスターは左右と上の3方向にしかショットを打つことができない。それゆえ洞窟物語のファンにとっては物足りなさを感じるかもしれない。しかし、これはスマホ用ゲームとして非常に正しい判断だと思う。

他タイトルで仮想ゲームパッドを触ったことがある人なら説明不要だと思うが、仮想パッドは非常に操作しづらい。十字キーやアナログレバーなどは中心点の位置が分からなくなり意図しない方向に動いてしまうことが多い。ボタンも複数種類を押し分けようとするとミスが多発する。

仮想パッドは操作しづらい。でも昔ながらのアクションゲームには仮想パッドが必要不可欠。ではどうやって解決するか?

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まず、ゲーム機における「上キー」「下キー」を取り払った。移動操作は左と右だけ。だからここまで大きいボタンにできるし、操作がシンプルになるから操作ミスも大幅に減る。

ショット操作がフリックになっているのも非常に考えられている。旧来のジャンプ&ショットの2ボタン方式だったら空中でショットを撃つために2つのボタンを頻繁に押し分ける必要が出てくる。このゲームは一度方向を指定すれば打ちっ放しになるので、プレイヤーの右手はジャンプボタンのみに集中できる。

下方向へのショットができなくなったのも、タッチ操作では困難だと判断されたからだろう。下へのショットは空中で行う操作だ「ジャンプ → 下に撃つ → 着地 → 横撃ちに戻す」という操作を素早く行う必要があるため、誤操作の危険性が非常に高い。

そんな大変な操作を無理してまでやらなくていい、というのは非常にありがたいことだ。もちろんその代わりとして下方向に強い武器がちゃんと用意されているのでまったく問題はないし、武器の個性を生むことにも繋がっている。

このように操作を可能な限り削ってシンプルにすることで、仮想パッドと物理コントローラーの格差を極限まで減らすことに成功しているのだ。

操作の脆弱性を絶対に突かないゲームデザイン

スマホに最適化され、非常に操作しやすいケロブラスターの仮想パッド。だがそれでもやはりタッチゆえの限界はある。頻繁なショット方向の切り替えやジャンプしながらのショット操作は難しい。素早い操作に向いていないし、操作ミスもしやすい。

ケロブラスターは、そのあたりの「仮想パッドのチューニングでは解決できない問題」をゲームデザインで解決している。

例えば敵キャラクター。射撃方向を固定するこのゲームで、プレイヤーの周囲をぐるぐる回りながら攻撃してくる敵がいたらどうか。おそらくショット方向を頻繁に切り替えする必要があってイライラする事この上ないはずだ。しかしこのゲームにはそのようなイジワルな敵は一切出てこない。

また、このゲームに出てくる敵キャラクターのほとんどは「こちらが攻撃するまでは何もしてこない」という性質を持っている。それ以外の敵も、攻撃を当てるまではゆったりとした動きになっていたりなど、基本的に受け身姿勢となっている。

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↑青い花のような敵。こいつはここまで近付いても何もしてこない。しかし攻撃すると怒って炎を吐いてくる。

さらに言えば、このゲームは制限時間や強制スクロールの場面などもない(ごく一部トラップに追われる場面はあるが、起動タイミングは任意で、難易度も低い)。つまりこのゲームは基本的に「自分のペース」で進められるように作られているということだ。ボタンを押したつもりが押せてなかったとしても、ショットの切り替えにモタついていても、急かされることなく待っていてくれる。

そもそも、ケロブラスターは「操作技術」「動体視力」「反射神経」などがほとんど必要のないゲームとしてチューニングされている。一見激しい攻撃をしてくるボスであっても、適切な武器選択と有利な位置取りさえできれば難しい操作なく倒せるはずだ。

仮想パッドを限界まで最適化。その上でまだ操作性に難があるならば、難しい操作をしなくて良いようにゲームデザインの面でも配慮をする。それが、ケロブラスターが提示した仮想ゲームパッド問題に対する答えなのだ。

「仮想パッド」なのに「快適」 スマホではそれが最高の贅沢

アクションゲームの醍醐味といえばやはり「キャラクターを自由自在に動かす」ことではないだろうか。可能であれば移動も攻撃も、全てのアクションを自分でやりたい。そうは思わないだろうか。

しかし、スマホゲームではそれが「贅沢」だとされてしまった。全ての操作を自分でやりたいと願えば扱いづらい仮想ゲームパッドを突きつけられ、それが嫌だと拒めばキャラクターが半自動で勝手に動くゲームばかりを渡される。全部自分で動かしたい。でも快適な操作性も欲しい。少なくともスマホの世界ではそれが叶わぬ夢とされていた。

そんなスマホゲームの鬼門に真っ向勝負を挑み、本来は両立し得ない問題を、丁寧な「配慮」の積み重ねによって見事解決。家庭用ゲームでしかできなかった贅沢をスマホで実現した。それが『ケロブラスター』なのだ。

ケロブラスターはこの記事で散々語った通り、制作者の配慮のタマモノ。それに気付かぬまま洞窟物語と比較して短絡的な結論を出すのは簡単だ。しかし今回のこの記事で作者の配慮を少しでも感じ取って頂けたはずだ。もし気が向いたなら、その配慮を自分の目と指で味わってから、改めて結論を出してほしい。

筆者が書いたケロブラスター関連記事:
『ケロブラスター』の世界設定と物語を自分なりに解釈してみた

洞窟物語作者の新作『ケロブラスター』を遊んで気付いたこと – Togetterまとめ

[タイトル]
Kero Blaster

[ソフトウェアタイプ]
シェアウェア
windows 720円
iOS版 500円

[対応OS等]
Windows,iOS

日本語版、英語版

[ダウンロード]
PC版

Playism

iOS版

[制作者」
開発室Pixel

[プレイ時間]
2~3時間

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  • ニカイドウレンジ(@R_Nikaido

    Twitterでゲームのこと語ってたら人生が変わった人。Twitterやってただけで文章力と思考力が身について、Twitterやってただけでライターやゲーム制作の仕事を頂きました。個人でゲームも作ってます。詳しいプロフィールや活動内容はプロフィールサイト