『MECHA Ritz』弾幕STGは現代アートになりうるか?フリゲで始めるSTG:第4回
フリーゲームを遊びながらSTGの楽しさを学ぶ本連載。今回は新作フリゲの『MECHA Ritz』を紹介したい。前回の『弾幕シミュレーション296』は(CAVE系)弾幕系STGの練習ソフトであったが、本作も同じく弾幕STG。その弾幕と敵の物量たるやかなりのもので、原始的な緊張と破壊の欲求に満ちている。
弾幕という表現
弾幕といえば、有名な東方ProjectやCAVE系STGを思い浮かべる人も多いだろう。またニコニコ動画のコメントなんかも弾幕と呼ばれる。そのわかりやすいビジュアルでSTGをプレイしない人にも知られているこの言葉。今回は改めて弾幕について考えてみたい。
当然ながら弾幕は敵弾である。弾で以上に避けなければいけない。これはSTGとしての当然の帰結だ。しかしながら、弾幕には避ける必要がない弾が多く含まれている。自機が画面下にいようが、火蜂はふぐ刺しをバラまき、緋蜂は洗濯機を回し、フランちゃんはレーヴァテインを振り回す。彼らが本当に「最終鬼畜兵器」であるならば、超高速の自機狙い弾やレーザーを発射すれば良いはずだ。
ではなぜ弾幕があるのか。それは寂しいからだ。自機を適度に痛めつけたい。だけど画面が寂しい。じゃあ、その周りにも弾を足そう。ゴッホが自画像の周りに浮世絵を散りばめたのと同様に、弾幕STGの作り手は心の空白を弾幕で埋めていく。もちろん、絵画と同じで主題を完全に潰してしまわない程度に。
ではそんな弾幕の本質は何だろうか?高難易度?派手さ?鬼畜性?過剰さ?どれも一理あると思うが、本稿ではあえて大胆に言い切ってしまおう。弾幕とはアートだ。アート。Art。そう、芸術。
要するに弾幕とはそれ自身が思想を表現する媒体なのだ。世界観やキャラクター、ストーリーなどを弾の形で伝える。もちろん、それは弾である以上、ゲームプレイに大きく関わる。だが、難易度の上昇は他の手段でも実現可能。難易度といった問題はむしろ二の次で、重要なのは演出であり、表現であり、思想であり、芸術なのだ。そう、つまりアートなのだ!
過剰さという表現
長々と弾幕について語ったが、本作『MECHA Ritz』は基本的にはシンプルなゲームだ。操作はショットとボムの基本2つ。ショットを長押しすると、特殊な攻撃に変化する。1ボタンでショットとレーザーを打ち分けるCAVE系弾幕STGと同じスタイルだ。自機は最初は1種類だが、ゲームの進行と共にアンロック。どの機体もかなり高性能。さらにボムアイテムと被弾を防ぐシールドが大量に手に入るため初心者でも安心だ。押し寄せる敵機を圧倒的な火力でゴリゴリ破壊していくのは爽快そのもの。
最大の特徴はボス数。ステージ数は5つと並だが、登場するボスはなんと20体以上!中ボスを含めると1ステージに平均5体のボスが次から次へと登場する。ただし中ボスの耐久力は少なめで、頻繁に手に入るボムを使えば速攻も可能。結果、かなりのハイテンポでゲームが進行していく。弾幕STGというジャンル自体、過剰性への欲求が強いが、本作の展開の速さはぶっ飛んでいる。ラーメン二郎で大盛りを早食いしているような感じだ。
しかもボスは「スタバ」、「コメダ」、「ドトール」といったどこかで聞いたような名前。訳の分からないテロップと共に登場して激しい弾幕をお見舞いする。ステージの幕間では、天才少女の野望が語られるが、かわいいキャラクター画像は不気味に色褪せている。おおよそフリーゲームでしか許されないシュールな世界。過剰なボスに過剰なボム、チープなサウンドとビジュアル。そして弾幕の嵐。
とはいえ、本作がオーソドックスな弾幕STGには変わりはない。プレイしていない人には、少々奇妙な弾幕ゲーにしか見えないし、ラーメン二郎にいくら肉と脂をましてもラーメン二郎には変わりはない。根幹となるゲームデザインに変化がない以上、新しさなどはないのではないか?そう思う人がいてもおかしくはない。
幕間で語られるストーリー。独特のイラストと荒唐無稽な世界観はフリーゲームならではこそ。
いや、そうではないのだ。ピラミッドが巨大であることよって輝くように、本作はこのボスの多さ、弾幕の濃さ、設定の意味不明さによってこそ輝く。そもそも過剰であること、それ自体も表現なのだ。避ける必要の弾、ゲームに関わりようのない設定。ゲームプレイという側面から見れば意味のない要素かもしれない。しかしビデオゲームという表現はそれらも含んでいるべきだ。
ゲームランクという調味料
では本作にはゲームプレイを向上させる特別な要素はないのだろうか。実は存在する。それはゲームランクの調整だ。
ゲームランクとは、もしくは単にランクとは、アーケード系のSTGに実装されている動的な難易度調整システムのこと。ワンコインで何回も楽しく遊ばせるためには、難しすぎてもダメ、簡単すぎてもダメ。そのため、多くのSTGにはランクと呼ばれる難易度のパラメータがゲーム中に変化する。残機を失ったり、ボムを使ったりすると、ランクは下がり、ハイスコアを維持したり、ミスせずボスを倒したりするとランクは上がる。このランクに応じて難易度が変化、敵弾が速くなったり、弾幕が多くなったりする。結果としてプレイヤーの技量がゲームの内容にフィードバックするわけだ。
本作ではスコアアイテムの取得やボスの速攻撃破でランクが上昇、スクロールスピードの上昇や撃ち返し弾の発生といった難易度上昇を招く。基本的にランク上昇はハイスコア要素に絡むため、クリアするだけなら比較的低いランクでプレイが可能。さらに低ランク時は敵弾のほとんどが途中で消滅。見た目には激しい弾幕だが、そのほとんどは避ける必要がないのだ。
しかも本作のランクは0から100というかなり細かい設定だ。最低ランクではほとんど避ける必要がない弾幕でも最高ランクでは鬼畜的スピードで迫ってくる。ランクによる難易度の差は大きめに設定されているため、プレイヤーの力量に応じてゲームの内容はダイナミックに変化。その調整の仕上がりたるやフリーゲームの中でも最高レベルのものだ。
過剰ともいうべき弾幕とボスラッシュ、ネジの外れた音楽とビジュアル、そして世界観。これら突飛な具材をテンコ盛りに盛り込みながらも、本作がただの闇鍋にはならず、調和した料理になっているのはこのランク調整の緻密さに起因する。ちなみにサウンドやグラフィックスの粗さは、本作がもともとセガサターン用STG製作ツール『デザエモン2』で作られた作品であるためだろう。それを考慮すれば、作者の平凡氏が一人で制作した本作のサウンドやグラフィックスの作り込みはかなりのものだ。単なる個性的なゲームで終わらせることができない、弾幕STGによるひとつの自己表現として成立しているのではないだろうか。
[基本情報]
タイトル Mecha Ritz
制作者 平凡(HEY)
クリア時間 3時間(真エンドクリア)
動作環境 win
価格 無料 (配布先はこちら)