この前例なき戦術と脳内処理を問う戦闘で勝利をつかめ!革新的”リズム戦闘”ゲーム『メトロノームファイト』
正直に申して……一通り遊び終えた後、途方に暮れた。
↑こんな具合に。
これ、システム解説だけで記事の9割が埋まるのでは……。
いや、そもそも解説できるのか?
それにかなり人を選びそうだぞ、このゲーム……。
かと言って、黙って放置もできず。
ということで、半ば意地でこの『メトロノームファイト』を取り上げる。
脳味噌大パニック確実!?革新的リズム戦闘ゲーム
『メトロノームファイト』は「第14回WOLF RPGエディターコンテスト(ウディコン)」にて、総合順位3位、斬新さ部門1位に輝いた作品である。作者は3文字で敵を殺すRPGこと『ベビーシッター2XXX』(紹介記事)の二六千里氏。
この時点で『ベビーシッター2XXX』の経験者、もしくは記事を読んだことのある人は察したかもしれない。「そういうことか……!」と。
そういうことです。そうなのです。
なので『ベビーシッター2XXX』の画像を先ほど用いました。
またしても、奇抜なシステムを特徴とするゲームをお作りになられたのです。
その名も”マルチタスク・リズム戦闘ゲーム”。
もしくは”脳内大パニックゲーム”とも言う。
その内容を順を追って紹介していこう。
まず本編はステージクリア形式で進む。エピソードごとのマップに配置されたステージ(戦闘)を攻略していくという流れだ。
戦闘は基本、個々に設定された「メイン条件」を達成すればクリアとなる。エピソード全体の場合は、最後の方に設けられたボス戦に勝利できればクリアで、次のエピソードへと移って、再び用意されたステージごとに戦闘を攻略していく形だ。
なお、戦闘には「Main」「Quest」の2種類があるのだが、エンディングを目指すに当たってクリア必須なのは「Main」。「Quest」は任意のため、無視できる。本作には「Main」と「Quest」、合計80もの戦闘が用意されているのだが、比率は大体「3:7」で、「Main」中心に進めればあまり時間がかからない規模となっている。
ただし、無視しすぎるとプレイヤーこと主人公「クラウゼ」の成長が遅れる。本作では成長要素もあり、「Main」と「Quest」の条件達成で手に入る「スター(ボーナススター)」が一定量に達するとレベルアップ。体力の最大値が増えたり、新たな技を覚えるなどして強くなるのだ。実は、あえて無視してもクリア可能な救済措置があるのだが(後述)、基本的には適度に攻略しつつ進めていくのが(事実上の)正攻法となっている。
さて、いよいよ本題たる戦闘システムの紹介である。
正直、非常に長くなることをご容赦いただきたい。
端的に言えば、リズムゲームだ。だが、その仕組みは”かなり”変わっている。
戦闘画面では、中央上半分に譜面が表示。この譜面には赤と青で色分けされた「小節」があり、その上を「■」のアイコンが曲のリズム(およびテンポ)に乗って左から右へと流れていく。この動きに合わせてプレイヤーはリズムを取る形になる。
だが、リズムを取るのは■が青の小節に入った時。赤の小節は敵がリズムを取る場所のため、プレイヤーは干渉できない。つまるところ、青がプレイヤーのターン、赤が敵のターン。RPGの行動順序を小節の色で示しているのである。
そして、リズムを取る際にはキーボードの方向キー、ゲームパッドのABXYボタン(※Xboxコントローラの場合)を任意で押す形になる。
この方向キーを指すアイコンには色の異なる音符が設定されている。(キーボード操作時の場合になるが)上が青音符、左が赤音符、右が緑音符、そして下が白音符だ。これらは技の種類を指し、青はガード(防御)、赤はアタック(攻撃)、緑はプッシュ(妨害)、白はリズム補助およびシャッフルと、どの方向キーを押してリズムを取り終えたかで発動される技が変化するのだ。
また、技を発動させるには曲のリズムに合わせることはもちろん、小節の拍子分リズムを取る必要がある。小節が4拍子なら4回、2拍子なら2回リズムを取るといった感じだ。そして、技の効果はリズムを取っている際に何回、色に対応する方向キーを押したかで変化。
アタック(赤)を例にするなら、4回取れば4ダメージ分の攻撃、3回取れば3ダメージ分の攻撃となる。そして、3回に限らず、2回も1回も必ず小節の拍子分、リズムを取らなければならない。4拍子のうちの3回押せばそれでいいのではなく、4拍子ならちゃんと4回押さないといけないのだ。具体的には3回以下の場合はリズム補助を兼ねる白音符(下)を入れなければ意味がないのだ。逆にリズムを取らなかったり、他の色の音符を入れてしまうと技は発動せず失敗になってしまう。
さらに失敗に繋がるのが音符それぞれの回数だ。実は白以外の音符には回数制限があり、技の発動時、使った分だけ消費する。
4回なら4減り、3回なら3減るという感じである。そして、0になると技は出せなくなる。いくらリズムを合わせられたとしても、強制的に失敗となってしまうのだ。
減ってしまった音符を回復したい場合は、譜面に現れる「補充音符」を取る(※取る際には、拍子とリズムに沿って色に一致する方向キーを押す必要がある)、白(下)4回で発動する「シャッフル」で装填(リロード)すればいい。
ただ、後者は一度使うと12小節の間はクールダウンということで使用不能になる(色も灰色に変わる)。リズム補助に関しては、引き続き使用可能だ。
これ以外にも譜面には敵の行動を予告するアイコン、記号などが流れてくる。記号に関しては、位置に合わせてEnterキーを押すと「クラップ」、敵の赤小節をプレイヤーのものにして連続行動が可能に。そして、この「クラップ」のタイミングに敵の行動が重なる(次の小節に敵の攻撃が来ると予告されている)と「スタン」、敵の行動を封じる技へと発展する。
さらに曲には盛り上がり所に応じて「サビ」も設定されていて、ここで記号に合わせて「クラップ」を決めると、サビが終わるまでの間、全音符の使用回数が無限になるというボーナスタイムになる。
他にも次に敵の行動が来ることに合わせて「ガード」を発動させると「ジャストガード」になり、特殊な技を発動するに当たって消費する「SP」が貯まるといった様々な要素が存在するのだが、これ以上のことは割愛する。
とりあえず……大体お察しいただけただろうか。
「システム解説だけで記事の9割が埋まるんでは……。」という懸念の意味が。
本当に様々な要素と特殊なルールが設けられた、個性的という言葉すら生ぬるいものに仕上げられているのである。
端的に言えばリズムゲームなのだが、RPGのターンに近い概念、アクションゲームのような攻撃タイミングの計算、ストラテジーゲームのような音符(資源)の有効活用といった様々な特徴を持つのもあって、一口に言い表せない。ウディコンの斬新さ部門で1位を獲るのも納得する以外にない、刺激の強すぎるゲームに完成されているのだ。
まさに前例なき斬新さ。クセも凄い!
もはや語るまでもなく、本作の魅力はこの戦闘システムに集約される。
さながらRPGのターン制、厳密にはアクティブタイムバトル(ATB)形式の戦闘システムをリズムゲームの枠組みへと置き換えたかのような作りが面白い。リズムゲームを遊んでいるようで、その種の戦闘に挑戦しているかのような斬新な手応えに満ちている。
何より、攻撃や防御などの行動を取るのに必要な音符に回数制限を設けていることが一筋縄ではいかない展開を作り出している。
防御に該当する青音符の例で例えるなら、4回リズムを取れば最大レベルのガードを張れる反面、音符の残りが4なら「補充音符」の取得、もしくは白音符による「シャッフル」(リロード)を実施しない限り、防御不能の状態に陥ってしまう。いずれも見込めないなら、当面は敵の攻撃が防げない状況になるのは確定だ。
そういった危機的な状況に陥らないよう、使う音符の数を絞ったり、他の音符による行動を取って体勢を維持し、戦い抜いていかなければならない。常に戦略と戦術の双方が要求されるような感じで、展開が安定するようなことがほとんどないのである。
基本的に状況の見極めが戦闘終了まで続く。
そして、考え続けなければならないからこそ、脳味噌もフル回転状態になる。極めつけと言わんばかりに、戦闘中は他のことに気を取られなくなるぐらいに集中してしまう。
集中の程度は人それぞれだが、実際に体験してみれば思い知らされるだろう。「集中しなければ、考えなければやられる!」と。それほど忙しい。そして、脳味噌に大きな負荷がかかる。人によっては文字通り「脳が震える!」状態にもなり得るぐらい、刺激的な展開が繰り広げられるのである。
作者の前作『ベビーシッター2XXX』もまた、脳味噌フル回転必至の戦闘システムが大きな売りであった。本作も方向性は全く異なれど、負けず劣らず……否、それ以上のものになっている。脳内大パニックという表現は断じて誇張ではない。
それどころか、リズムゲームにある程度慣れていたり、様々なRPGの戦闘システムを経験してきたプレイヤーさえ手こずるのは避けられない。
前述の解説の時点で、その特徴的過ぎる作りは嫌になるぐらい分かるかもしれないが、本編はもっと凄い。「なんかヤバい気がする……!」とゾワゾワしているのならば、もうこの辺りで記事を読むのは終えて本編に挑んでいただきたい。きっと、その心境通りの前代未聞の体験を味わうことになるはずだ。
システムに限らず、ステージごとの戦闘バリエーションの豊富さも特筆に値する。基本的にはリズムを取りつつ、敵を撃退していくのだが、対決する敵というのがこれまた個性派揃い。状態異常、行動制限などの2特殊技は序の口。本編がある程度進むと、大きな歌声を発して周囲にいる敵を見えなくしたり、特定のリズムを取らなければミス確定となるイベントを発生させるといった面子が出てくるのだ。
ステージにも、曲が終わり切るまでにクリア条件を達成するという制限を課した内容のものが後々に登場し、プレイヤーに的確な行動を要求してくる。本編が終盤に差し掛かると、その混迷具合は大きくなり、応用編にして総決算とも言える戦闘の連続に。
まさに「もう勘弁してくださいッ!」と悲鳴を挙げたくなるほどの個性付けが図られている。システム自体が斬新なだけで終わらせず、このシステムでどんなアイディアが実現可能になるかと、徹底的に考え抜いたその作り込みには驚かされること請け合い。
後述するが、演出的にも凝っており、そちらも含めて必見だ。特に歌声による妨害は楽曲も相まって、しばらく忘れられなくなってしまうだろう。
そして、これらの戦闘と楽曲がストーリー展開と見事に絡み合っているのにも注目。ボス戦はその最たる一例で、主人公クラウゼの置かれた状況に共鳴してしまうだろう。とりわけラスボス戦は最高に盛り上がる作りになっているので必見だ。
そんな具合に突き抜けた魅力を持っているのだが、その概略からも分かる通りクセは”もの凄い”。各種仕様を解説するチュートリアルは備わっているものの、それで自然に立ち回れるようになるかと言えば割と難しい。恐らく、大半のプレイヤーは始めて間もない頃から「なにがなんでなんなんだ……」と混乱状態に陥ってしまうだろう。
なぜ混乱状態になりやすいかは、システム的な特徴もあるが、チュートリアルの解説文に音楽用語が混じっているのも大きいように思う。
「オモテ拍」など、用語に聞きなれていない人なら「なにそれ?」となって、理解がそこで止まりやすい。また、赤音符の攻撃を例にするが、3以下のダメージを与える際、白音符によるリズム補助を1回加える必要がある。だが、チュートリアルでは4ダメージの例が紹介され、それ以下は紹介されない。なので、「じゃあ3回取ればいいのか」⇒「3回リズムを取る(白音符による4回目の補助なし)」⇒「ミス」⇒「なんで?」となる。こういった説明不足があるのも、混乱の要因になってしまっているように思える。
システムが斬新な分、チュートリアルの構成が困難であることは察せる。ただ、全体的にシステムを完全理解し、音楽関連の知識があるという視点でまとめられているのは筆者個人としては気になってしまった。
また、このチュートリアルを経た後、テンポの早い楽曲のステージを本番として用意するのもいささか不親切。慣れるまで時間を要するからこそ、序盤に関してはじっくり教え込む構成にしてくれればと思った次第だ。
他に本作には敵に攻撃を仕掛ける際、WASDキー(※ゲームパッド、Xboxコントローラの場合はコントロールスティック、もしくは十字キー)でターゲットを切り替える必要があるのだが、これも完全マニュアル仕様で、慣れないうちは非常に混乱しやすい。ある意味、各種仕様の中で群を抜いて混乱を招く存在である。最終的には「赤小節の時に切り替え操作をすればいい」と慣れて動かせるようになるのだが、そうなるまで人によっては嫌悪感を抱いてしまうかもしれない。
とにかく、本作をスムーズに遊べるようになるまでは結構な時間を要す。とりあえず、これから本作を遊んでみるという人へは「無理してリズムを取ろうとしないで!」と伝えておきたい。別に青小節に■が来たら、必ずリズムを取らなければならないみたいなルールはない。なので、できそうな時にリズムを取ることを意識するのがお薦めだ。
また、赤音符による攻撃を始め、3以下のダメージを与える攻撃や防御をする際には白音符でリズム補助を加える、シャッフル後に灰色になってもリズム補助自体はずっと使えるということも覚えておけば、少しは理解に必要な時間を短縮できるはずだ。
もし、『クリプト・オブ・ネクロダンサー』(紹介記事)のプレイ経験およびクリア経験があるなら、それを活かすのもひとつの手だろう。ゲームシステムはまるで違うが、テクニックを習得する過程は結構『ネクロダンサー』に近い。
筆者も『ネクロダンサー』を遊んだ時に思い知らされた「無理してリズムを取ろうとしない」を心がけたことで、最後までやり切れたのでおススメしたいところだ。
この戦いを通し、マルチタスクなセンスを自らの手に!?
ちなみに『ネクロダンサー』と言えば、実は本作のストーリーもそれに若干近かったりする。生ける屍ことゾンビを題材にしているからだ。新型化学兵器により、多くの死者がゾンビと化し、大恐慌を起こしたという俗に「ポストアポカリプス」な世界観となっている。
ただ、作風は明るい。さらに主人公のクラウゼを始め、登場キャラクターたちがあまりにも個性的。イベントでも躍動感あふれる立ち絵、勢いのある会話で大いに盛り上げてくれる。そして、このような世界観特有のシリアスな展開もばっちり。前述でも触れたが、特にラスボス戦はシステム、楽曲ともガッチリ連動した唯一無二のものになっているので、ぜひ確かめていただきたいところだ。
戦闘時における、バリエーション豊かなキャラクターのグラフィックもまた然り。
そのほか、ボリュームもクリア必須のステージに限れば大体4~10時間、全てのクリアを目指すならば20時間以上と盛り沢山。
また、どうしてもゲームを最後まで遊びきりたい(ストーリーを観終えたい)プレイヤーのために「アンデッドオプション」なる無敵モードも用意されている。「アンデッドオプション」は、システムに慣れるための練習機能としても応用できる一面もあるので、慣れない始めのうちはこれをONにして、色々なステージを巡ってみるのも一興だ。これで幾つかのステージを体験すれば、比較的早く特徴を把握できる……かどうかは個人差があるので念のため。
非常に長くなってしまったが……とにかく斬新であり、クセの凄いゲームであることは大体伝えられただろうか。無敵モードが用意されているとはいえ、リズム感が問われるため、リズムゲームが苦手な人には厳しい一面もある。逆にリズムゲームが好きな人はもちろん、斬新なゲームを求めている人には声を大にしてお薦めできる。
慣れるまでは大変だが、それを乗り越えた先には色々試したくなってしまう面白さとマルチタスクなセンスが身に着く……かもしれない革新的な力作。
この前代未聞な生ける屍たちとの戦いにレッツ・メトロノームファイトだ!
[基本情報]
タイトル:『メトロノームファイト』
作者:二六千里
クリア時間:10~20時間(※クリア必須ステージのみ:4~10時間)
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
◇ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/28887