押し寄せるジレンマ!悩みの種てんこ盛りの戦略育成SRPG『NSStrategy』
サファイアソフトより発売中のシミュレーションRPG(SRPG)制作ツール『SRPG Studio』。2015年の発売以降、同ツールを用いた多くのSRPG作品が作られ、注目を集めてきた。ツールの定型に沿った”正統派”、またの表現で”クラシック”なものが全体の比率としては高めだが、中には短編、同時ターン制などの変わったものも幾つか存在する。
そして、ここにもうひとつ、風変わりな1作が。
『NSStrategy』である。
優秀な兵士のため、育てて戦い、手放すSRPG
『NSStrategy』は2019年8月31日、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」で公開されたWindows PC用フリーゲームだ。作者は過去にも風変わりなシステムを採用したSRPG Studio製作品を制作・お披露目してきたwiz氏。
あるところに強大な帝国があり、周辺国との争いが絶え間なく続いていた。
それにより、前線の兵士は減少し、戦力不足の問題に直面。
この事態に帝国は、傭兵を雇う以外に占領地域から兵士を募ることを決定する。
早速、主人公(プレイヤー)はとある地域に司令として着任。
補佐役と共に、優秀な兵士を探し出す任務を開始するのだった。
このようなオープニングと共に始まる本作は、「戦略育成シミュレーションRPG」を謳う、独特なものになっている。ストーリー紹介の通りだが、本作でプレイヤーが成すべきことは「優秀な兵士の派遣」。前線に即戦力として投入できる優れた兵士を育成し、本国へと送ることに従事していくのだ。
兵士は戦闘マップ「クエスト」、もしくは編成画面の「インターミッション」でスカウトする形となる。本作はそれら2つのパートを交互にこなし、進めていく構成となっている。厳密には、「クエスト」の戦闘を通して兵士ことユニットを育成。「インターミッション」で派遣、という感じだ。なお、「インターミッション」でもスカウトできるとあるが、これは自軍の戦力が少ない時限定。ある程度、揃っている際は「クエスト」攻略時に限定される。
また、「インターミッション」では派遣以外に自軍の編成、装備品購入、クエストの選択・挑戦も行う形となる。
さらに派遣の際に選ぶ「コマンド・情報収集」では、新たなクエスト発見のための地方調査、本部からの資金援助などの指示・依頼も用意。それとは別の「施設」では、資金を投じることで兵舎、研究班など自軍の拠点強化も図れ、新たな装備を解禁したり、資金調達手段を開拓できる。時には、強化に沿って新しいイベントが発生したりも。まさに名前とは裏腹に今後の展開にも大きな影響を及ぼす、盛り沢山のパートになっている。
対し「クエスト」は戦闘マップということで、カーソルでユニットを選んで行動させ、敵へ攻撃を仕掛けたりしながら目標達成を目指す、SRPGお馴染みの内容だ。ただ、戦闘システム周りが非常に独特。まず確率の概念がない。
つまり、こちらからの攻撃も敵の反撃も、絶対に命中する。
さらに体力(HP)の値が半分未満になると、与えるダメージが半減。
高レベルでも、強力な武器を持っていても決定力が減少してしまう。
攻撃は「TEC」の値に応じて増加補正がかかるが、恩恵を得られるのは先に攻撃を仕掛けた側。それらの仕組みから明らかな通り、後攻側が不利。そして、反撃ダメージによっては、先制側でも決定力ダウンを招く恐れがある。
しかも、なんとビックリ体力回復の手段がない。微塵もない訳ではなく、「砦」などの施設に待機させることによる回復はある。逆に専用アイテム、その効果を与える装備類は一切ない。なので、ダメージを受けたら回復させる策はまるで打てない。
おまけにクエスト中受けたユニットのダメージは、クリア後にも引き継がれる。「インターミッション」に用意された「休息(回復)」を実施せず、次のクエストに挑めば、負傷した状態で始まってしまうのだ。
そんな状態で挑めば、どんなことになるのかはお察しの通り。
体力がゼロになってもユニットが永久ロストするペナルティこそないものの、こんな特徴も相まって、慎重な進軍が求められる。各ユニットが持つ武器も、特に弓や魔法と言った遠距離系の仕組みが奇抜。射程が標準で3、移動前にしか使えない特殊なタイプが存在するので、扱い方を把握せず運用すれば豪快な空振りを招く。
主人公の補佐となるパートナーが所持する「フォース」、ユニットに特殊効果を付与する必殺技の活用も重要だ。
なんだか戦略シミュレーションの色が強そう、と思ったかもしれないが、実際、そんな感じの作りだ。ユニットの育成に象徴されるRPG要素もあるが、それ以上にシミュレーション要素が強い。
自軍への被害を最小限に抑えた進軍、拠点の強化、資金管理、そしてクエストクリアに応じて発生する新兵のスカウト。あらゆる面で、考えなければならないゲームになっているのだ。
まさに「戦略育成シミュレーションRPG」である。
手放す恐怖と期日が演出する、圧倒的なジレンマ
本作の魅力は、個々の要素によって演出される強烈なジレンマだ。
特に「フェイズ」と「兵士派遣」の二つがそれを際立たせる。
先のシステム解説では省いたが、本作には「フェイズ」なる概念がある。別の言葉で例えるなら「日数」だ。基本的に「インターミッション」で各種コマンドを実行したり、「クエスト」で1~3ターン経過するとフェイズが1つ消費される。
これが何を意味するのか。実はプレイヤーに課せられる「兵士派遣」は、規定のフェイズ以内に遂行しなければならない。その規定フェイズは「100」。ここまで達してしまうと、自動的にゲームクリアになる。
もし、その時点で「兵士派遣」が遂行されていない場合は?
大体ご想像の通り、任務失敗という名のバッドエンド確定。
再びゲームの最初からやり直すことになる。
なので、よりよい結末を迎えるなら、100フェイズ以内に優秀な兵士を派遣する任務を成し遂げなければならない。これが面白く、そしてプレイヤーを強烈に悩ませる。
中でも「20フェイズごとに行われる本部からの評価」、「20フェイズごとに変わる本部のリクエスト」の二つがそれに拍車をかける。厄介なのが後者だ。兵士派遣は、単に強いユニットを送ればいい訳ではない。リクエストに沿ったユニットを派遣しないと、よい評価を貰えないのだ。もちろん、それなりの人数を、である。
しかも、リクエストの内容が高め。それなりに手塩にかけて育てないと到達困難な、高ステータスのユニットを要求してくる。もちろん、そこまでやるには「クエスト」で戦闘をこなし、強化しなければならない。
だが、クエストで時間をかけすぎれば、フェイズを消費してしまう。ならば速攻クリアを仕掛け、フェイズを節約する……となれば、今度はユニットが育たない。
ユニットも自身より低いレベルの敵と戦わせれば、経験値も減る。おまけにクエスト中にダメージを受ければ、回復の必要が生じる。そのためにフェイズも犠牲にしなければならない。砦などの施設で回復させた場合もまた然り。
何より辛いのが、兵士派遣は主力を手放す行為であることだ。エース級にまで育てたユニットを削り、こちらの戦力を落とさねばならない。当然、手放せばクエスト攻略の難易度は上がる。フェイズも消費しやすくなる。だが、任務遂行のためには手放すことが必至。そのまま大人しく従うか、今後のために保持するか、もしくは別の手を考えるか。
もう、思わず「ぬわーっ!!」と頭を抱え、悲鳴をあげたくなるほど、悩ませる要素が満載なのだ。それもあって、計画通り事が進んだ時の快感は非常に大きい。それに意外と打開策の幅は広い。特にリクエストは「要求以外のユニットを送っちゃダメ」という決まりではないので、大体近いユニットを送ることによるフォローは(若干ながら)効くのだ。派遣に関しても、主力を失うとは言え、所持していた武器や装備類は残る。また、新たなユニットをスカウトする、補強機会も度々起きる。
色々厳しい決まりはあるが、知恵を絞れば道は開ける。そんな様々なジレンマを抱え、最良の結果を目指すのが面白く、時間を忘れて熱中する圧倒的な中毒性を演出するのだ。制約下でベストを尽くす遊びこそ、シミュレーションゲームの醍醐味と豪語する人ならば、間違いなく刺さる作り。特にジレンマを作り出す各種システム、制約の絡み合いが絶妙なので、最初から最後まで頭が休まる暇のない、至福のひと時を味わえるはずだ。
また、1周に要する時間の短さも特筆に値する。大体2~3時間ほどだ。じっくり考えながら進めれば倍に膨れ上がるが、10時間を超えることはほぼない。なので、バッドエンドに終わっても再挑戦しやすい。
何より、周回を重ねるにつれ、戦略が最適化されていくのが痛快。
上達の快感を堪能しながら進めていける。
仮に任務達成でクリアできたとしても、パートナーを変更して再挑戦するさらなる楽しみがある。パートナーは3人居て、それぞれ使える「フォース」が異なるので、特に「クエスト」での展開に差が出る。会話イベントもそれぞれのキャラに応じた内容に変化するので、その違いを楽しんでみるのも一興だ。
なお、ゲーム中でも説明があるが、初プレイ時は回復のフォースを持つ「グラナ」がおすすめだ。残る2人は慣れてきたら選んでみるのがいいだろう。「でも、(見た目としては)こっちが好みなんだよなぁ……」と思うのなら、欲に従うもよし。
安心してください、バチは当たりませんよ。
試されるのは、全てを見越した戦略
ジレンマのことに焦点を当てたが、クエスト(マップ)攻略も面白い。特に戦闘システムの特異さもあって、他のSRPGとは異なる進軍が要求されるのは刺激的だ。戦略シミュレーション的なバランスにまとまっているのも独特の味わい深さがある。
育成も戦闘をこなす以外に「コア」と呼ばれる装備アイテムで補強したり、本部評価のタイミングで得られる「ポイント」を消費して得られる「メダリオン」なるアイテムで一気にレベルを引き上げるなど、選択の幅が広くて極め甲斐がある。スカウトもどんなユニットが選べるかはランダム。ユニット自体は完全固定で、自動生成される訳ではないが、周回プレイ時、使い慣れたユニットが選択肢に現れた時は、つい小さくガッツポーズしてしまう喜びがある。まさに一期一会ゆえの醍醐味だ。
残りフェイズが可視化されている一方、クエストはされておらず進捗が分かりにくい、ストーリー性は皆無、移動前使用可能な武器の存在に関する説明が不足しているなど、粗も若干ある。特に残りクエストに関しては、あと僅かになったタイミングで表示するような仕組みにして欲しかったところだ。また、よい評価を目指すとなれば結構、ギリギリになるのも人によっては心臓に嫌な負担を与えるかもしれない。
とは言え、全体としては制約下で最善を尽くす面白さを極めに極めた1本とも言える出来。SRPGとしてもユニークな試みが満載の意欲作に仕上がっている。一風変わったものを遊びたい、脳味噌フル回転の戦略性満点のシミュレーションを欲しているのなら、ぜひ遊んでみて欲しい傑作だ。最善の策を講じ、優秀な兵士を育て、派遣して任務を遂行しよう。
試されるのは、己の戦略と適度な節約術だ!
[基本情報]
タイトル:『NSStrategy』
制作者: wiz
クリア時間: 2~8時間(※1周)
対応OS: Windows
価格: 無料
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/20968