「 Oculus VR 」の創業者パルマー・ラッキー氏はなぜ日本の開発者に魅了されたのか? ― Unite Japan 2014 レポート
Unityの開発者向けイベント「Unite Japan 2014」では、これからのゲームを変える存在として、仮想現実(バーチャル・リアリティ、VR)にも大きな注目が集まった。
基調講演では、Unity Technologies社のデイビッド・ヘルガーソンCEOから、「次に何が来るかを常に見据えなければならない。そして、その一つがVRだ」という振りがあった後に、Oculus Riftを開発しているOculus VR社の創業者パルマー・ラッキー氏が講演を行った。
仮想現実(VR)の未来に確信を持っているラッキー氏
「ソードアート・オンライン」、「攻殻機動隊」、「.hack」が大好きという若き21歳の創業者は、VRの未来について目を輝かせながら熱く語った。
「ゲーム業界はハードウェアの限界に挑戦してきた。しかし、今やゲーム機やPCの進化速度は遅くなってきた。VRは全く違う」とラッキー氏は語る。
VRはこれまでの進化とは違う。既存のゲームのVRへの焼き直しではなく、VRを前提にしたゲームを作ることが不可欠だ。あらゆるものをシミュレートし、体験できるものになればVRは革命的な存在になるだろう。
VRの実現がゲームを変え、他の業界を、そして世界を変えていく、そんなビジョンを共有したのだ。Oculus Riftだけではなく、ソニーのProject Morpheusの登場すらもVRを盛り上げるきっかけとして言及し、VRの実現へのひたむきな想いをプレゼンする姿は非常に印象的だった。
そして、この基調講演の場で、Oculus Rift DK2の日本向けの出荷を最優先にすること、そして日本オフィスを開設することを名言した。
日本におけるOculus Riftへの関心の高まりへの期待
発表の背景には、日本におけるVRへの突出した関心の高まりと、Oculusのソフトを開発する日本の開発者たちのバックアップをしたいという強い想いがあった。
Unityのデイビッド・ヘルガーソン氏とのメディア合同インタビューの中でラッキー氏は、日本からの注文が非常に多いことを明らかにした。
日本の関心は非常に高い。Kickstarter直後のは8000個のうち日本向けは300個程度だった。そこから日本はどんどんと注文が増え続けて、初期型の注文を振り返ると、最終的には(75000個中)3000~5000個が日本向けだった。日本ではOculusの開発に向けて大きなコミュニティができている。7月に出荷予定のDK2(Development kit 2)も予約時点で既に20000〜25000個中3000個程度が日本の注文になっていて、関心が急速に高まっていることが伺える。
当初は全体の3%程度だった日本向けの注文が、最終的に5〜7%になり、現在では10%を超えていることは数値から見ても、関心の高さが伺えるだろう。
ソフトの開発状況についても、こう語った。
他の国に比べ開発者がしっかりと使ってくれている印象がある。出てきているデモの数も、日本は相対的に多い。既にプレゼンスのある(オフィスをおいて力を入れている)国から出てくるものよりも、ユニークな発想のものが多く、クオリティが高いものが出てきている。出荷数に比べて、開発の成果であるソフトの数が日本は明らかに多い。かなり期待できるということだ。アメリカやヨーロッパの方がずっと多く出荷しているが、恐らく多くの人がプレイ用に使っているのではないか。こういった事情があり、DK2を最も有効に使ってくれるのは日本だと思っているので、早めの出荷をお約束した。開発者との繋がりを強くするためにも、プレゼンスがない状況を早く改善したい。
日本の開発者との接点とラッキー氏が夢中になったソフトたち
日本に対する期待が非常に大きい様子が伺えるが、ラッキー氏の期待は、こうした出荷数やソフトの公開状況といった客観的な情報だけによるものではない。日本の開発者、そしてソフトとの接点にある。
Uniteの前日、日本のOculus開発者コミュニティの集まりをラッキー氏は電撃的に訪問した。筆者も偶然その場に居合わせたが、その場の興奮は最高潮に達していた。
ラッキー氏も日本の開発者と交流し、その熱気を肌で感じたはずだ。また、彼らの開発した創意工夫にあふれる多様なソフトを一つ一つ体験したことが、日本へのサポートを強めたいという気持ちに大きく影響したのではないだろうか。
実際にUnite後、彼はOculus開発者のコミュニティで興奮した様子で日本の開発者たちのことを投稿している。
palmerluckey comments on CV1 to have at least 90hz refresh rate, 100 degree FOV OLED display(原文)
Oculus Rift創業者Palmer Luckey氏がUnite Japan 2014後に日本について語ったコメント(私家訳) | 福嶋 美絵子(はらぺこ翻訳者) | note(日本語私家訳)
Unite当日もデモ会場には、Oculusを体験できるソフトが展示され、ラッキー氏は夢中になって体験して楽しんでいた。
どんなソフトがラッキー氏を虜にしたのか紹介していこう。
Hashilus
乗馬が体験できるソフト。開発者の間では、魔改造JOBAマシンとも呼ばれている。その所以はJOBAという室内フィットネス用マシンとPCをつなぎ、本当に馬に乗っているかのような感覚を味わえるからだ。
目の前に広がるのは草原や森林。
ゆらゆらと体を揺らされる感覚、大音響で流れるパカラッ、パカラッという馬の蹄の音、サーキュレーターで正面から感じる風、そして裏から噴射されたファブリーズが醸し出す仄かな草原の香り。
その体験は馬に乗っているという感覚以外何物でもない。
体験した来場者からも、多くの感想が寄せられていたが、ラッキー氏も気に入って何度も挑戦し、Oculus VRのオフィスにJOBAを置こうと意気込んでいた。
JOBA Hashilus をプレイするPalmer さん https://t.co/yXQWOl0LSk
— GOROman (@GOROman) April 7, 2014
感想を聞いた時には、「実際の乗馬は、(速く走らせると)もっと激しくてしがみつかなきゃいけないけど、これはとても心地良いね、最高だよ」と満面の笑みで語ってくれた。
Unite開幕当初は初期型のOculusで展示されていたが、開発者数名が夕方頃からOculus VRのブースにあった最新型のDK2との接続を開始し、無事に完成。
2日目は、解像度が高く、頭の動きを的確に捉える、よりリアルな乗馬体験が可能になった。
このHashilus、まさに日本人開発者のアイデアを結集させた作品といっても過言ではない。
MikuMikuSoine
ニコニコ動画などでも話題になった、初音ミクと添い寝できるソフト。
最初は会場になかったのだが、ラッキー氏にぜひ体験してもらおうということで会場の椅子を並べて即席の添い寝体験コーナーが作られた。
しっかり添い寝。
初音ミクが大好きというラッキー氏にとって、まさに夢のような時間だったのかもしれない。
Hiyoshi Jump
慶應義塾大学の日吉キャンパスで、クアッドコプターと呼ばれるラジコン飛行機にGoProという小型カメラを6つ搭載し、全方位を撮影。Oculusをつけて実際にジャンプするとOculusに内蔵されている加速度センサーがその動作に反応して、街を見下ろせるくらい空高く飛ぶ体験ができる。
ラッキー氏は1日目にこのソフトを体験し、2日目のUnity仮面氏によるこのアプリの解説のセッションを聴きに来ており、「これを応用したら、ヒーローのように屋上から屋上へ飛び移れるようになるかな!」と期待に胸を膨らませていた。
なお、このソフトはOculus Shareからダウンロード可能だ。
Hiyoshi Jump | Apps | Oculus VR Share (Beta)
MikuMikuAkushu
初音ミクと握手ができるソフト。
Novint Falconというゲームセンターでのゲーム用に開発されたデバイスに3Dプリンターで手の形を作って被せた手と握手をすると、仮想現実の中でミクさんと握手ができるソフトだ。
手をグッと引っ張ると、ミクさんが引っ張り返してくる。なんとも人間味溢れる反応が返ってくるのだ。
デモ会場なので周りに人はいるのだが、ミクさんと2人だけの世界にいるかのような気分になってしまう。
ジャーナリストの新清士さんがその体験を克明に書いている。
Oculusとミクさんとの、あと30センチをどうにかして…… | 新清士の「デジタルと人が夢見る力」 – コミニー[Cominy] / ブログ
PLAY GIRLS
株式会社イリュージョンの展示では、「PLAY GIRLS」というソフトの体験ができた。
このソフト、なんとAV女優の波多野結衣さんを3Dスキャンし、VRの世界でモデリングして再現してしまったのだ。展示用ということもあり、「水着をつけた仮の姿」(開発者談)ではあったが、Oculusを被ると手の届くくらい目の前にセクシー女優がいるという衝撃はかなりのものだ。
こちらの展示も2日目にはKinect2とつなげることでパワーアップ。頭の動きに対応したため、下から覗きこんだりすることができるようになった。また、手を振ると手を振り返してくれるようになった。
手を振る筆者。
担当者も言っていたが、DK2で試すのが待ち遠しい。
公式サイト
PLAY GIRLS -プレイガールズ-
Perlious Dimension、MODERN TAXI DRIVER
この2作品については、BitSummitでも既に一度取り上げているため簡単に紹介するに留めたい。Perlious DimensionはLEAP MOTIONも使えるド派手なスペース・シューティングゲーム、MODERN TAXI DRIVERはゾンビを目的地まで届けるカーアクションだ。
日本で開発されているOculus Rift対応のゲームはこれだ!―BitSummitで注目を集めたゲームたち – もぐらゲームス
VRの時代の幕開け
これだけ見てきても、どれも一癖も二癖もある特徴のあるソフトばかりだ。また、PCとコントローラー以外にも様々なデバイスを組み合わせながら、Oculusの没入感を最大限活かしたVR体験ができないか模索していることがよく分かるのではないだろうか。
筆者が取材で聞いたところ、ラッキー氏が気に入っているVRのコンテンツとして(初音ミクはもちろんだが)「Dumpy going elephant」をあげていた。ゾウになって頭を動かして、鼻で街をメチャクチャちゃくちゃに破壊するゲームだ。
Dumpy: Going Elephants – Oculus Rift VR Jam Game …
まさにこのゲームもVRだからこそ体験できるコンテンツと言える。
彼の目には、日本のソフトが、彼が期待する「既存のゲームの焼き直しではないVRのために作られたコンテンツ」に最も近いものとして映っているのだろう。
日本人の開発者(顔出しNGとのことでアイコンを使っている)とUnity-chanと写真を撮るラッキー氏。非常に気さくな好青年だ
前回のUnityの記事でも取り上げた、Uniteのセッション「主婦でも出来るUnity」では、主婦氏が3ヶ月でVRのゲームを作った事例が紹介された。講演者の近藤”Goroman”義仁氏は最後に、VRのパーソナル化が進み、個人がVRアプリを簡単に作れるようになった、と語ってセッションを締めくくった。
日本ではこれからもVRへの関心が高まり、さらに多くの人がVRのアプリを作るようになっていくだろう。デモ会場でラッキー氏を囲む日本の開発者たちを見ながら、VRという新たな時代の幕開けを感じさせられた2日間だった。
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