『LIMBO』のplaydead新作『INSIDE』レビュー 生命があまりにも軽い世界の果てに、少年が見たものは
2010年に『LIMBO』がリリースされて以来、白黒の影絵グラフィックで描かれた残虐な冒険は強烈な印象を与えてきた。全世界で300万本以上売り上げたこともさることながら、後のインディーゲームシーンでも未だにフォロワーは出続けている。
今でも『LIMBO』の影響下にある作品が溢れている6年後の現在、制作したplaydeadの新作『INSIDE』は『LIMBO』から一体どう変わり、どんなアプローチによって作られたのだろうか?
アートスタイルで語られる緻密なストーリー
ゲームをスタートすると、まず少年が森の中で駆ける。この冒頭のシークエンスこそ『LIMBO』を想起させるが、次の瞬間から全く別物であることがわかる。少し進むと森の奥から自動車の光が木々の合間を縫うように差し込む。車から降りた男たちが何かを探しはじめる。反射的に少年は身を屈める。おそらく彼らは自分を探しているのだ。
そう、『INSIDE』では、冒頭から結末までまったくの言葉を使わずに、アートのみでストーリーを構築している。『LIMBO』と比べると基本的な操作方法もほとんど変わらないのだが、根本のアートスタイルが異なることで全く別の印象に変わっている。特に現代のゲームデザインの手法として重要となっている「環境ストーリーテリング」( Environmental Storytelling)という手法を生かしている。これはステージの演出に加え、ステージに残された状況から背景をプレイヤーに想像させることで物語を伝える手法である。
影絵で構成された『LIMBO』では、2Dプラットフォーマーのお約束とも言うべき「ジャンプして障害物を飛び越える」要素や「敵を全て死を際立たせる象徴的なものとして描く」といったことまでで、ストーリーラインはそこまではっきりとしたものではなかった。残りライフや所持アイテム、クリアまでの残り時間と言ったゲームとしてわかりやすいユーザーインターフェースを徹底して排除し、そのアートスタイルに特化することでゲームオーバーはただのプレイヤーのミスを意味せず、寒々しい死を意識させることに成功していた。
ところが『INSIDE』では、『LIMBO』よりも具体的な世界観やストーリーラインが与えられたことで死の意味が全く変わってくる。特に生々しい人物の動きや光と影の演出を前に、まるで別のジャンル見ているかのような気分にさえなった。
まるで前衛演劇やコンテンポラリーダンスのような感覚
『INSIDE』のアートのハイライトとなっているのは、暗闇の中にスポットライトのように差し込む光である。先述した、一切の言葉を使わず、アートだけで物語る環境ストーリーテリングとも相まってか、それはまるで舞台のようであり、時にはコンテンポラリーダンスのようですらある。
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特にパズルのハイライトとなる、ヘッドギアを装着して無気力な人間を操るシークエンスの不気味な触感は、モーションアニメーションが生々しいことも相まってそのままコンテンポラリーダンスを観ているかのようだった。
コンテンポラリーダンスはまったくの言葉を使わず、身体の動作だけで物語やテーマを表現する。時には演劇のような演出さえも行う。だから明確なストーリーの説明は無い。振付や演出によってはある種の不気味さを観客に残していく。
ダンスと言えばリズミカルな躍動感や生命力という表現の典型的なイメージがあると思うが、コンテンポラリーダンスはそこを主にしていない。厳格な規律で縛りあげたクラシックバレエへの批判や代案のような形でジャンルが生まれたのもあるのか、バレエ的な動作から新たな表現を生み出す試みだった。なのでこうまで肉体を動かす表現であるにもかかわらず、その表現では躍動や生命を意味せず、死や退廃をイメージさせる振付も少なくはない。
『INSIDE』も言葉を使わず、この舞台劇のような表現と厳格な規律に縛られている世界観に加え、生々しいアニメーションによるアクションを特化することで、2Dプラットフォーマーのゲームプレイのミスや、相手を倒して先に進むことに付いて回る死のイメージを『LIMBO』から大幅に変えている。その変化は、とてもではないが後味の悪いものだ。
生命は物と同じ
結果、死の後味の悪さは同ジャンルと比較しても並ぶものは無いほどに際立つ。この世界において、命はまるでゴミクズと同じくらいの扱いなのがわかっていくからだ。プレイヤーの操る少年は猟犬に喉を食い破られるし、機械に身体を千切られ内臓をばら撒きながら静かに絶命していく。
ゴミのように扱うのはプレイヤーとて例外ではない。先に進むために生命を物と同じように扱う。豚は踏み台として使うし、高所から落ちる時に死骸をクッションのようもする。ヘッドギアを装着して無気力となった人間たちを操る。かくして先に進んでいくごとに、何度も命を無機質に扱っていく。
後味の悪い死を常にプレイヤーに背負わせ、緊張感を持たせるレベルデザインの手腕も目を見張る。少年が猟犬に追われるとき、警備員に追われるとき、サーチライトに照らされるとき、そのほとんどが逃げ切れるか逃げ切らないかギリギリのところで競り合うようにデザインされている。ゲームプレイ中、ごみのように死にたくないあまり生き延びようとするだろう。だが先に進むほどに出会うのは気が滅入るような無気力と化した人間たちと、そんなふうに生命を無力にしていく組織の全容が見えてくるばかりでまるで生きた心地がしない。
生命がごみのように扱われたり、またはごみのように扱いながらたどり着く結末は壮絶である。ここにたどり着くまでにこの世界と、プレイヤーの両者が扱ってきた生命が暴走するかのような禍々しいラストだ。それはここまでの陰鬱さを吹き飛ばすような生き生きとしたものでも、無情な死のいずれでもない。この結末に至るまでに無残に扱ってきた生命そのものをプレイヤーはコントローラーを通して最後に触れ続けるだろう。
[基本情報]
タイトル 『INSIDE』(公式サイトはこちらから)
クリア時間 3~4時間
対応OS PC/xbox one
価格 PC版 1980円
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