趣向を凝らした戦闘システムと美しいビジュアルで紡がれる”波及する意志のRPG”『リアリティ×マインズ』
俗に言う「TSF(TransSexual Ficition)」、異性への性転換を題材にしたフィクションの様式の一つである「入れ替わり」は、古くは児童文学から映画、漫画、アニメなど、エンターテインメント界隈においては根強い人気を誇る。
何故、この題材の人気は衰えないのか。それは異性の身体と生活習慣に対する戸惑い、その立場になることで見えてくる新たな世界など、登場人物達がいかなる反応を示すのかという興味と期待を抱かせる要素にあると思われる。また、入れ替わりを引き起こした真相を突き止める展開など、謎解きやサスペンスを楽しめる側面を持つのも大きいかもしれない。
今回紹介する『リアリティ×マインズ』も「入れ替わり」を題材にした、PC(Windows)向け中編ロールプレイングゲーム(RPG)だ。『Elemental Field』シリーズ、『覚醒男女』など、これまでにもRPGツクールVX Ace製のRPG作品を多く輩出してきた露木佑太郎氏が制作(※本作では『RPGツクールMV』が用いられている)。2018年11月16日より、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」にて公開されている。
個性的な戦闘システムを特徴としたストーリー主導型RPG
舞台となるのは「シエルカント・アース」と呼ばれる世界。王都「シエルカント」では、毎年決まった時期に新人兵士の採用試験を実施しているが、兵士でも倒すのに苦労する魔物が増加している関係で、志願者は減少傾向にあった。
そんな王都の兵士になるべく、親友のユーディルと共に剣術を磨く男、アストレイク。いつものように近く森で特訓に励む二人だったが、そこに一人の少女が現れ、いわれなき襲撃を受ける。
突然の事態に対処できず、意識を失ってしまうアストレイク。
しばらくして目をさますと……
なんと、先ほど自らを襲撃した少女の姿になっていた。
どうやら、何かの衝撃で人格が入れ替わってしまったらしい。
では、アストレイク本人の中には……と、襲撃を受けた場所へと戻ると、間もなく王都の兵士たちが現れ、投獄されてしまう。この少女こと「シルヴァーナ」は昨今、ある村を無差別に焼き払う事件を起こしたことで指名手配されていたのだ。
そして投獄の後、処刑が決定される。アストレイクはこの状況から脱するべく、兵士たちに嘆願する形で昨今、凶暴化している魔物を討伐する任務へと赴き、行方をくらました元の身体と、そこに宿ったとされるシルヴァーナを捜すことになる。
少し、序盤のネタバレを含ませていただいたが、あらすじはこのような形だ。
本編は章仕立ての構成で展開。オープニングに当たる一章を除き、拠点に当たる「シエルカント城」で装備、アイテムの調達・管理などをして、「任務」と称されるストーリーイベントを受領して舞台となる場所へと赴き、遂行を目指す。
戦闘はマップ上の敵シンボルに接触すると発生。仕組みとしてはコマンド選択型の王道スタイルとなる。しかしながら、細かい部分に独特な味付けが施されている。
まず第一に成長周り。本作には経験値、レベルの概念が存在しない。代わりに「SP」なるポイント、「強化石」と言ったアイテムを用いて「スキル」を習得し、ステータスの強化を図っていく。
スキル習得はメニュー画面の同名称の項目にて実施。全5つのカテゴリがあり、それぞれ習得したいスキルを選んで決めていく。ツリー方式で並んでいるので、一つ取るごとにその次に続くスキルが解禁され、さらなる強化を図れるようになる。
このスキル習得に必要な「SP」は、基本的に戦闘、マップ内の宝箱を開けることで入手できる。ただ、戦闘の場合は勝利するのではなく、「連携」を四回発生させねばならない。
連携は文字通りの合わせ技で、二つ目の特徴。戦闘コマンドの「救済」、「特技」いずれかのスキルを仲間に合わせて繋げて出すと発生。追加の攻撃、回復などを繰り出せるのだ。
▲ボス戦では、勝利後にボーナスSPも手に入る。
これを四回発生させれば、戦闘終了後に「SP」が得られる。また、本作は雑魚敵の耐久力、攻撃力が気持ち高めに設定されている関係で、戦闘の早期決着、並びに態勢の安定には連携をどれほど発生できるかにかかってくる。
特に回復絡みの連携は極めて重要。というのも、本作には回復アイテムが存在しない。関連スキルはあるが、フィールドマップ上で使うコマンドは用意されていない。ゆえに戦闘中に
実施する形になるのだ。それもあって、迅速に回復したい場合は連携を発生させ、敵の攻撃による被害を受けても致命傷にならないところまで数値を上げなければならない。
そのため、状況を見据えたコマンドの選択が結果を左右する。とは言え、回復に関してはダンジョン内に全回復ポイントも置かれている。さらに戦闘難易度も選べるので、ストーリーだけを楽しみたいプレイヤーへの配慮も整っている。(※ちなみに全回復ポイントは最も簡単な「イージー」なら無限に使える。「ノーマル」以降は1回限り)
ただ、一筋縄ではいかないバランスであることは大体、想像できるだろう。この他にもキャラクターごとの武器・防具は固定されていて、装備は補助効果を与えるアクセサリー以外切り替え不能(※ゲームが進むと武器・防具の強化システムが解禁)、序盤限定で主人公の体力が尽きた後、他のメンバーを「憑依」させてパワーアップ状態で復帰できるシステムがあるなど、個性的な試みが満載。
表向きこそストーリー主導型らしく、気軽に遊べそうな雰囲気だが、その実はシステムに凝った作り。いい意味で意表を突く内容になっている。
戦闘システムも関係する、「意志」を題材にした芯の通ったストーリー
例によって、本作の魅力は戦闘システム。「連携」を意識した手を打ちつつ、パーティメンバーの体力に応じて攻守を切り替えるなど、コマンド選択型の取っ付きやすさと戦略を練る面白さが絶妙に絡み合ったバランスが光る。
特に「連携」は多く発生させることがSP獲得に繋がるので、自然に色んな組み合わせと連続発生を狙いたくなる。戦闘が長引くほど、多くのSPを獲得できるチャンスになるのも、経験値やレベルと言った当たり前の要素がないからこそできた、粘りに粘って、それ相応の恩恵を得る快感と面白さに満ちている。
何より、ストーリーを構成する要素の一つにもなっているのが秀逸。実はこの戦闘システム、ちょっとした”仕掛け”があり、終盤のストーリーに思わぬ形で関わってくるのだ。
詳細は件の場面を見てのお楽しみだが、戦術性を売りとするシステムで完結させようとしなかった、作者のこだわりを思い知らされること間違いなし。何気ない要素でプレイヤーの意表を突く卓越したセンスにも唸らされるはずだ。
ストーリー本編もタイトルに冠された「意志」を題材とした一貫性のある内容と、先の読めない展開の数々が強い印象を残す。特に主人公のアストレイクは、手配中の少女になってしまったがあまり、多くの受難に見舞われる。
また、イベント中には選択肢が表示され、時に彼の感情を逆なでするものを選んでは葛藤する様子もたびたび描かれる。しかし、例え厳しい状況に陥り、負の感情が湧きあがろうとも、彼は自分なりの意志を示して行動していく。それによって、次第に彼を敵視していた兵士からの信頼を勝ち得、時にコンプレックスを持っていた仲間を成長させるきっかけを与えることになる展開の数々には、なかなか心打たれるものがある。
そして、やがて訪れる行方知らずとなっていた本来の身体との対面。それ以降は一連の出来事を引き起こした犯人を巡る展開へと切り替わっていくのだが、そこにも「意志」を題材にした意外な展開が待っている。
中編ということで、エンディングまでは4~5時間程度と短めだが、終始、ブレのないテーマ性とこの設定あってこその展開の数々で唸らせるストーリーに完成されている。特に戦闘システムも絡む終盤の展開は、思わず唸る内容になっているので必見。本作が「波及する意志のRPG」を謳っている理由がよく分かるはずだ。
また、本編の前日壇に当たるサブエピソード、エンディング後の主人公とヒロインが元の身体に戻った後のエピソードが用意されているのも大きな見所。特にエンディング後はそれ以外にも多くのイベントが用意されていて、もっと登場人物達の掛け合いを楽しみたいという欲求に応えてくれる。メインのみならず、サブ側も用意して世界観を掘り下げる。そんなサービス精神旺盛な要素も完備しているのにも驚かされるところである。
ストーリー派もシステム派もフォローする力作
ここまでのスクリーンショットを見れば明らかだが、グラフィック、キャラクターデザイン(イラスト)、インターフェース周りの美しさも本作の魅力。イベントでは一枚絵(スチル)もよく挟まれるほか、戦闘においては「連携」などを発動させた際に掛け声ボイスとカットインも挿入されるなど、演出面も凝っている(※いずれもオプションでOFF設定に変更可能)。特に入れ替わりの設定が強く反映された主人公、ヒロインのボイスは要チェックである。
全体的に高い完成度を誇る本作だが、戦闘システムに関してはスキルを駆使した戦いになりがちゆえ、通常攻撃を実施する「攻撃」コマンドが空気、ストーリーも主導型の体裁を取っている関係で、マップ探索の面白さは控え目という難点がある。本編外のサブイベントも時限式のものが多く、一度取り漏らしたら回収できなくなるシビアさがタマにキズだ。ただ、ヒント機能、引継ぎ有りの周回システムが実装されている。さらに全体のボリュームが控えめなので、やり直しがそれほど苦にならないのはせめてもの救いである。
少し癖もあるが、意欲的な戦闘システムと一貫性のあるストーリーで楽しませてくれる本作。ストーリーだけを楽しむことにも対応した作りなので、見た目に惹かれただけの理由でプレイしても十分、期待に応えてくれること間違いなしの力作だ。システム派のプレイヤーにも見所満載、遊び応え申し分無しの仕上がりなのでぜひ。
やっと完成しました。こんな感じの本が5月までに作れたら褒めてください pic.twitter.com/NaKEiqjoY4
— 露木佑太郎 (@tsuyuki_tk) 2019年2月6日
最後に余談ながら、今後は本作のキャラクターイラストなどをまとめた画集の販売が計画されている模様。5月中の完成を目指しているとのことなので、興味のある方は作者・露木佑太郎氏のTwitterを要チェック!
[基本情報]
タイトル:『リアリティ×マインズ』
制作者: 露木佑太郎
クリア時間: 4~5時間(※エンディング後含む:7~9時間)
難易度:初級~上級者向け
対応OS: PC(Windows)
価格: 無料
ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/18915