カナヲ『虚毒ノ夢』完成版公開:SMILE GAME BUILDERで楽しむゲーム制作 第6回
※本記事は、1月7日より開始した「SMILE GAME BUILDER」制作実演の連載です。
フリーゲーム作者による「SMILE GAME BUILDER」制作実演連載が開始 完成作はダウンロードして遊べる!
Qpic『スーパーフックガール外伝』 制作連載 1/ 2 / 3 / 完成作品ダウンロード
カナヲ『虚毒ノ夢』制作連載 1 / 2
カナヲです。ついに『虚毒ノ夢』も完成をむかえることができました。今回の記事では、ゲーム制作終盤のブラッシュアップ作業やバランス調整を中心にまとめていきます。
今回は『虚毒ノ夢』のリリースも同時に行っていますので、ゲームを遊んだ後にあとがき的に見てもいいし、先に記事を見て、内容を踏まえながらゲームを観察するのもいいかと思います。『虚毒ノ夢』本体は、記事末尾のリンクからダウンロードできます!
今作は、2015年公開の探索ホラーADV『虚白ノ夢』の数年後の世界を舞台としたホラーADVです。ただし物語の理解に前作の知識はほとんど必要なく、主要な登場人物はいずれも新規キャラとなっており、 前作に触れていなくても今作単体で楽しめるようになっています。
「記憶」という要素がカギになるアドベンチャー
このゲームでは、記憶障害のせいで記憶が一日しか保てない主人公の未散(ミチル)が、3LDKの部屋に同居する兄の目を盗みながら記憶のかけらを探し、隠された真実に迫っていきます。ゲームの舞台はこの部屋のみで、SMILE GAME BUILDERならではの主観視点を最大限に活かした構造になっています。
ミチルは基本的に日々を自由に過ごすことができます。一日は朝、昼、夕の3フェーズに分かれていますが、どの時間帯もやれることは変わりません。家の中を歩き、探索し、自分の記憶の空白期間を埋めるようななにかを探すことになるでしょう。しかしもちろん、なんのアテもなく探索するわけではありません。家の中には、あきらかに兄のユウが目を光らせている場所やものが存在します。
とはいえ、ユウも四六時中ミチルを監視しているわけではありません。トイレに入っているとき、シャワーを浴びているとき、バルコニーで休憩しているとき……。ユウの目を盗む機会は必ずあります。
ミチルは一日の出来事をノートに文字として記すことで、明日に記憶を引き継ぎます。日々のささいな手がかりも、数が集まれば確かな違和感と謎を浮き彫りにすることでしょう。その時こそ、ミチルは夢の中でかつての記憶を回想することになるのです。
あやしいものを探し、うまく調べ、ノートに残し、夢を見る。この繰り返しの果てに、きっと隠された真実があるはずです。
本作に仕込んだ「面白さ」とは?
このゲームは、なにかを調べるときに「今ここを調べてもユウに見つからないか?」「はやくしないとユウが戻ってくるかも……」と、兄のユウに見つかる緊張と恐怖……要するにドキドキがひとつのポイントです。それゆえに、システム上つねにユウの居場所を完全把握できるとは限りません。
もちろん、「今バルコニーにユウはいるか?」「今玄関にユウの靴はあるか?」など、個々の場所をクリアリングすることは可能ですし、すると有利になるのですが、あまり慎重になりすぎると探索を始める前に時間が足りなくなってしまうでしょう。
このゲームは戦略ゲームではなくホラーゲームなので、あまりシステマチックに戦略を立てることができないよう、言い換えればアバウトなプレイでもクリアできるよう意図的に調整しています。その一環でもありますが、たとえば『過ぎた時間を数字でカウントして画面に表示すれば、よりユウの現在地を予想しやすいんじゃないか』など、戦略的な方面のアイデアはすべてボツにしています。
難しいことは考えなくて大丈夫です。どうせユウに見つかってもゲームオーバーになるわけじゃないし、そこまで高度な動きは要求していないので、気楽に遊びましょう。え? 偶然なんとなくでクリアできちゃってモヤモヤする? 大丈夫です、きっとミチルはいつもそれくらいの気持ちです。
もちろんシステム面だけではなく、隠された真実をめぐるストーリー面にも力を入れています。家を探索するパートがゲームパート中心であるのに対し、夢の中で記憶を回想するパートではストーリーテリングを中心にしています。いつも主人公の主観視点で進むこのゲームですが、夢の中でなら自分の姿を客観的に見下ろしていてもおかしくないので、イベントシーンはカメラをぐりぐり動かして映像作品のような3Dならではの演出を盛り込んでいます。
ゲーム制作の「工夫点」を紹介
システム面で気をつけた点は、自由探索と導線の配分のバランスでしょうか。どういうことかというと、このゲームは自由に家を探索することがメイン要素のゲームなのですが、そうなると「次はあっちに行くと話が進むよ」「次はああするといいよ」といったゲームの誘導、すなわち導線をあまり露骨に配置できないのです。導線が少なすぎると「自由すぎて次なにすればいいのかわからない……」となり、導線が多すぎると「お使いしてるだけだコレ……」となってしまいます。
このゲームはさいわい、あまりマップが広くないので、まだ調べていない場所や明らかになにかありそうな場所が目立つのですが、それでもユウとの会話にさりげなく「〇〇は絶対しなくていいからな」とヒントを仕込んだり、安全地帯である自分の部屋で次にするべきことのヒントがもらえたりと工夫しています。
ただし、なにをすればいいかのヒントは多くとも、どうすればそれを完遂できるかはあなたの腕と度胸次第です。
ストーリー面で気をつけた点は、ミチルの特殊な境遇へのフォローです。『記憶が一日しか保てず、昨日あったことが思い出せない』というのはプレイヤーとは大きく異なる境遇であり、いまいちその感覚がつかめず、ミチルにあまり感情移入できません。なので、冒頭は最低限の説明で済ませつつ、ゲーム開始から少し経った頃に夢の中で『毎日見ているはずのこの景色はいつも初めて見る景色』『先日合った人の顔がわからない』『周りの人のことを想像で脳内補完している』などの感覚を、ゲームとしてプレイヤーにも追体験させています。
ただ別の点でひとつ反省点があるとすれば、キャラ同士の掛け合いの少なさです。じつは作品のテーマにも関係することなので難しいところなのですが、そういう小難しいこと以前に、キャラとキャラが喋って個性を見せるシーンは多ければ多いほどいいですよね。
制作を終えての感想
現在、主観視点のゲームを専門知識なく気軽に作れるツールは、僕が知るかぎりSMILE GAME BUILDERのみです。これまでのフリーゲームは2D画面のものがほとんどだったので、主観視点ならではの演出や表現もまだまだたくさんあると思います。
スマホでライトに遊べるアプリライクなゲームが主流になっていく一方、将来的にはVRなども含めた体験型・没入型のハイエンドなゲームもまた独自の盛り上がりの可能性を秘めていると思いますが、個人製作者に立ちふさがる『開発のハードルの高さ、制作体験のしづらさ』という大きな壁があるのもまた事実です。
SMILE GAME BUILDERはある意味、そういった方向性の開発における『最初の一歩』になり得るツールなのではないでしょうか。僕自身、これまでのゲーム制作とは一味違った調整が必要な場面が多く、いい勉強になりました。
初心者向けツールゆえの機能の少なさも一概に欠点とは言えず、むしろ『複雑な機能・作り込みとゲームの面白さは必ずしも比例しない』という基礎の上での工夫を誘発するギプスのようなものだと考えると納得感が大きいです。
興味を持った方はぜひ、SMILE GAME BUILDERに挑戦してみてはいかがでしょうか。取り扱いの簡単さは保証しますよ!
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カナヲさんによる『虚毒ノ夢』完成版はこちらからダウンロード!